「大気圏突入まであと5分!」
ユイが叫ぶ。
「くそっ・・・振り切れない!」
コムサイと最新のMSでは動きが違いすぎる。
さすがエースと言うべきか、セリエズはギリギリの回避を続けているが、大気圏まで保つかどうかは五分五分といった所だった。
「ムサイの反応途絶・・・!」
ユイが苦い顔で呟く。セリエズも小さく舌打ちした。
コムサイを分離させたムサイは、コムサイの大気圏突入後に宙域を離脱する予定だった。だが、大気圏突入前のこの時間帯は、突入するコムサイを護衛する予定だったため宙域に留まっていたのだ。
「こっちを追ってる3機以外にも別動隊がいるって事か・・・」
セリエズのその声に呼応するように、新たな敵機と思わしき機影が、コムサイの船外カメラにちらりと映った。
「射撃の数から特定、新たな敵機は4機!合計7機になったわ!」
ユイの声に、苛立ちが混ざっている。
セリエズが、腹を括って言った。
「リーシュを操縦席に呼んでくれ・・・!」
コムサイには2機のMSが搭載できる。
現在コムサイには、セリエズの部下のリーシュとアレシアの機体が搭載され、その二人もコムサイに乗船していた。
「リーシュ、隊長が呼んでる。すぐ来て」
ユイが二人に告げる。
少しして、操縦席の後部のドアが開いた。
「隊長・・・どうしたんですか?」
次々に来る、ビームや実弾がすぐ側をかすめる衝撃の中、リーシュは少し寝ぼけた声で言った。
「おまっ・・・寝てたのかよ・・・」
セリエズもさすがに呆れる。だが、すぐに本題に入った。
「操縦を代わってくれ。俺が、お前の機体で出て囮を引き受ける」
セリエズの言葉を理解したリーシュが、すぐに寝ぼけた顔からパイロットの顔に変わる。軍人ならではの切り替えの速さだった。
「隊長、俺の機体、無事に返してくださいよ」
それは、言い換えれば「生きて返ってきてくれ」という意味でもあった。
その思いを受け取ったセリエズが微笑する。そして、衝撃に揺らされながら、操縦席を後にした。
「セリエズ・シュテイン。ザクⅡF2型。出撃する!」
ティターンズの部隊は、コムサイのハッチが開くのを見て少し驚いたが、すぐに余裕の態度になった
「最後の無駄な抵抗を・・・」
一人が笑いながら呟く。
「大気圏突入直前に・・・その上MS一機とは・・・」
そう言って。小さく笑いなが照準を向けた。
他の6機も同じようにする。
コムサイから出撃したザクⅡF2型に、7機のMSのビームとマシンガンが同時に発射された。
「甘い」
セリエズは呟き、ブースターを吹かせて真上へと飛び上がった。
セリエズの機体の真下を、火線が通り抜ける。
「ザクマシンガン後期型、残弾5・・・シュツルム・ファウストが1発、グレネードが1つ、ヒートホーク1つ・・・星の屑以来まともな補給を受けてないからな・・・」
そう言いつつ、AMBACをフルに生かして射撃をかわしていく。
「まずは一機を・・・!」
一番左端、最も近い位置にいた、黒いジムカスタムに向けて、セリエズはブースターを吹かせた。当然ジムカスタムも、ジムライフルを連射してくる。
「さすが優秀な兵を集めているだけの事はある・・・!」
正確に射撃をしてくるジムカスタムの攻撃を、軽く機体を捻るようにしてかわす。
ザクⅡF2型が、ジムカスタムの正面へと接近した。
ジムカスタムが型どおりの動きで、ビームサーベルを構えるが遅かった。
セリエズは、ジムカスタムのコクピットにザクマシンガン後期型を突き付け、一発撃ち込んでいた。
「があっ!」
パイロットの断末魔が聞こえる。マシンガンを突きつけたときに接触回線が開いたのだ。
破壊したジムカスタムを、他の6機の攻撃を盾にするように構え、そちらへと蹴り飛ばす。
他の6機が慌ててその機体に撃ち込み、結果としてジムカスタムは爆発した。
「次・・・!」
爆炎の中から飛び出すF2型。
爆炎に最も近い、2機目のジムカスタムが、慌ててライフルを構える。
その頭部に、ザクマシンガンを一発撃ち込み破壊する。そうして真後ろに回り込み、後ろからジムカスタムの腕を押さえて、向きを変える。
正面が見えないジムカスタムは、滅茶苦茶にジムライフルを撃つが、セリエズによって向きを変えられたジムカスタムは、その正面にいた味方の一機を撃ち落としてしまう。
「バカッ、やめ・・・!」
と言う声が、押さえ込んだジムカスタムの回線で聞こえてくる。
撃破されたジムスナイパーⅡの声のようだった。
それを聞いて、自分が何をしたのか分かったジムカスタムが射撃を止める。
「俺は・・・」
そう呟いたジムカスタムのコクピットに、ザクマシンガンの残る3発を撃ち込んだ。
ジムライフルをジムカスタムの手から奪い、爆発する前に離れる。ジムカスタムの爆炎を背に、セリエズは残る4機へと突っ込んだ。