アレシアのドム高機動試作機がヒートランサーをバックパックに懸架する。
(片腕しか使えない以上、大型格闘武装を使えば関節への負担が大きくなるだろうな・・・)
そう考えつつ、口では全く別の事を言った。
「あ~、片腕持ってかれちゃったよ、ハハハ」
まるで冗談でも言うような口調。
一方、頭部を破壊されたフリージアのジム・コマンドライトアーマーも、前が見えなくてどうしようも無いらしい。
コクピットを開ければ見えないことは無いが、生身を外に晒すのは非常に危険な行為だ。かといって闇雲にビームサーベルを振り回した所で当たりはしないだろう。
「また遊んでね!次はもっと君を壊してあげる♪」
そう言ってフリージアは基地の方へと退いていった。
「チッ・・・」
アレシアが舌打ちして、MMP-80マシンガンを手に取った。
「隊長の方を援護に行こう・・・」
左腕を失ったドム高機動試作機は、ホバーによる砂煙を立てながら移動を始めた。
セリエズ機がビームサーベルを目の前にかざし、振り下ろされたビームサーベルを受ける。ビームの刃が離れ、再び振り下ろされる。それをまた間一髪で防ぐセリエズ機。
セリエズは今、防戦一方だった。
「失望したな、楽しめると思ったのに。一年前、星の屑の時のほうが強かったぞ!」
グレモリーですら気付く程、セリエズの機体の動きは鈍くなっていた。
その動きを遠目で見たアレシアも、違和感を感じた。
(隊長の機体の動きが鈍い・・・慣れない機体で上手く戦えないのか、それとも・・・二人のうちどちらかに何かあったのか・・・?)
だが、すぐに考えを切り替えた。
「ネガティブ思考はダメだ、ダメだ、ダメだ!」
何より焦りを感じているのはセリエズ自身だった。
(これ以上コクピットへの負担を減らしきれない・・・!)
ホバー機なら、負担、衝撃を減らしつつ戦えると思っていた。だが、相手が悪かったのも事実だ。蹴りを食らったときは正直冷や汗が出た。
最小限の動きでかわし切ることが出来るほど甘い相手では無い事は、4年前から知っていたのだ。だが、今はユイが居る。それが、彼の動きを鈍らせる結果になった。
脚部が溶断され、機体がその場に転びそうになる。そのまま振り下ろされるビームサーベルを、ブーストをわずかに吹かせて機体の位置をずらす事でギリギリの所で避けた。
負担をかけてユイを殺すか、ユイと一緒にグレモリーに殺されるかの二択。だが、セリエズは、粘れる限り粘るという、ある意味無謀な選択をした。
もう一度振り下ろされたビームサーベルを、動けなくなった機体の腕だけを動かして防ぐ。
その内、陸戦型ガンダムが飛び離れた。
陸戦型ガンダムが居た地点に、MMP-80マシンガンの弾丸が、地面にいくつもの弾痕を穿ち砂煙を上げた。
助けに来たアレシアが言った。
「隊長、やられっぱなんて似合わないですよ!」
「ユイが重傷で、負担を掛けられないんだ!すまないアレシア!」
セリエズの返答から、自分の悪い予想が当たっていた事に驚きを感じつつ、陸戦型ガンダムと対峙する。
だが・・・
「もういい、こう舐められてはつまらん。何があったか知らんが全力の貴様と戦えなければ何の愉しみにもならない。次会う時、全力で無ければ俺を馬鹿にしていると判断して殺すぞ」
と言い置いて、グレモリーの陸戦型ガンダムが真上にブーストする。
そのまま、回収艇と共に行ってしまった。
「全力出して戦える状況じゃねぇんだよ!無茶言うなクソ!」
と、コクピットのコンソールを叩きながらセリエズが叫んだ。相手を舐めて掛かっていると勘違いされたことが屈辱なのだろう。
セリエズは、壊れた装甲強化型ジムを降り、ユイを抱きながら、アレシア機のコクピットに乗って基地へと向かった。
ガンスが、セリエズ、ユイ回収の報告を受け、「撤退信号を上げろ」と言った。
「了解」
シェイドが撤退信号を上げた。
「撤退信号・・・ってことは隊長とユイは回収できたのか?」
リーシュが、眩い光を放つそれを見ながら言った。
「獲物がよそ見すんじゃねぇ!」
ハイドレインジャが180mmキャノンを撃つ。
撤退信号に一瞬意識を取られたリーシュの反応が遅れ、腰のサイドアーマーに直撃を受ける。
だが、通信画面のハイドレインジャが突如叫んだ。
「何故です隊長!?狩りはまだ・・・・・・はい、はい・・・了解、帰還します」
通信画面で聞く限り、彼もまた退けと言われたのであろう。
ザク・デザートタイプのサガンが、ドム・トローペンのフィラクが、ドワッジのワズリが、グフカスタムのリジェイスが、撤退信号を見て動きを止める。
セリエズ、ユイの回収によって、戦闘は終了した。