アレシアが戦場に駆けつける、少し前・・・
カティスのワッパが基地へとたどり着く。
だが、ヴァイス・トート隊のメンバーを全員回収しなければ作戦は終わらないのだ。
「悪いけど、もう二人の回収が済むまで、ここで待機してて。悪いけど、基地の案内は後でいい?」
カティスが言う。
が・・・
「冗談じゃない、他ならぬ俺たちの隊長の脱出作戦なのに、俺たちをのけ者にするってのか!?」
「落ち着け、アレシア。だが、アレシアのいう事も一理あるだろうな」
アレシアとリーシュの抗議を受けて、カティスが顔をしかめた。
「あんた達ならそう言うと思ったけどね・・・、今から行ったって、間に合う確証は無いのよ!?」
カティスが言い返す。動きに合わせてショートカットの髪がひらひらと揺れた。
「戦力は不足しているんだろう。だったら増援は好ましいはずだ」
リーシュが言い募る。
カティスがため息を吐いた。
「もう勝手にして。空いてるMSは・・・さっき撃墜されたワッパに乗ってたパイロットのザク・キャノン。もう一機はドム高機動試作機。名称に関しては高速実験機とも言うけどね。あとはギガンだけど・・・さすがに使わないでしょ。で、格納庫はあっち側、あんた達とも顔なじみの整備兵がいるから、そっちに話を通しておいて。」
「了解、感謝する」「ありがとよ、カティス」
二人はそう言って格納庫に駆け出した。
その背中を見送って、カティスは目線を上げる。
そこには、ドム・トロピカルテストタイプの姿があった。
「まさか・・・ガイリッシュ?ガイリッシュ爺さんじゃねぇか!」
アレシアの驚いた声が格納庫に響く。
「おうよ、アレシア。元気にしとったか?ま、その様子じゃ元気そうだがな。リーシュも変わりないようで何よりじゃ」
整備長のベルスト・ガイリッシュは豪快に笑った。
「んで、ザク・キャノンとドム高機動試作機だな?今すぐ出せる状態になっておる、安心せい」
「さっすが爺さん、空き機体の整備にも余念が無いっすね!」
アレシアが調子に乗る。
「ま、アイツらが空き機体になったのには、事情があってな。使ってやれば前のパイロットも喜ぶだろうさ」
ガイリッシュの視線に、何かを感じた二人がしばし無言になる。
「そんなら、前のパイロットの無念を晴らす活躍をしてやんないとな!」
アレシアが、場を明るくしようと発言する。
「そうだな、その通りだ」
ガイリッシュのしわだらけの顔に、笑みが刻まれた。
そして・・・現在。
出来る限りの速さで駆けつけたアレシアが、ジム・コマンドライトアーマーと対峙する。
フィラクが驚きに目を見張る。
「あの機体・・・アブロン隊のドム高機動試作機!?しかし、アブロン隊は全滅したはずじゃ・・・」
同時に、通信画面から声が響く。
『その声・・・アレシア君!またボクと遊んでくれるんだね♪』
『ああ・・・遊んでやるぜ?何度でも付き合ってやるよ、お前が死ぬまでな!』
「アレシア・・・?ヴァイス・トート隊のメンバーのアレシア・ネイス軍曹では?」
サガンがフィラクに語りかける。
「そう・・・だな。」
180mmキャノン装備の陸戦型ジムの足元を、爆風と衝撃が揺らす。
ザク・キャノンの砲撃が足元に直撃したのだ。
「ふん、狩りの獲物は活きが良いほうが愉しいからな」
陸戦型ジムのパイロット、ハイドレインジャ・イドラゲアがにやりと笑って呟く。しかし、そんな彼に通信が入る。
「余裕の表情をしていられるのも今のうちだぞ、ハイドレインジャ」
「ほう、リーシュ・クリエルか。面白い。今日こそ貴様を狩ってやろう」
陸戦型ジムが180mmキャノンをリーシュの機体の方へ向け、撃つ。
それを・・・
ガインッ!
リーシュはキャノン砲で撃ち落した。
風向、重力の影響、お互いの弾速。全てを理解し、それを実行してのける離れ業。
「そうだ、そうだ、そうだ!獲物はそうでなきゃァァァ!」
ハイドレインジャが狂ったように叫ぶ。
「いつも通りの貴様で何よりだな」
リーシュが、腰に装着されたミサイルポッド『ビッグ・ガン』を撃ちながら応えた。
シィィッ!
空気が切り裂かれる音。
ドム高機動試作機のヒートランサーを、ジム・コマンドライトアーマーが綺麗にかわす。だが、かわした先を読んでアレシアがタックルを入れる。
フリージアは咄嗟に、両手を機体の前面に出しそれを防いだ。
しかし、衝撃までは殺しきれず、機体の足が砂の上を滑った。
「愉しいねぇ!最高の気分だよぉ、またアレシア君と遊べるなんてねぇっ!」
ジム・コマンドライトアーマーがビームサーベルを振る。しかし、ドム高機動試作機の回避の方が速かった。
お互い、接近し格闘を叩き込む隙をうかがい、しかし自らの隙を見せないようブーストで常に位置を変え続ける。
「今っ!」
「アハハハハハハハハっ!」
お互い、相手の機体に向かって突っ込んでいく。
ドム高機動試作機のヒートランサーの大質量の一撃は、姿勢を低くしたジム・コマンドライトアーマーの頭部を横薙ぎになぎ払った。
ジム・コマンドライトアーマーのビームサーベルの蜂のような一撃は、ドム高機動試作機の左腕を斬り落とした。
ゴゥ・・・ンという音と共に、ドム高機動試作機の左腕が砂漠の砂の上に落ちた。
大質量の前に弾け飛んだジム・コマンドライトアーマーの頭部は、少し離れた地面に、ひしゃげた姿で転がった。
ドム高機動試作機の全身のダクトから熱風が排熱される。
相打ちだった。