装甲強化型ジムが、滑るように・・・いや、実際滑っているのだが、美しい動きで「ガンキャノンⅡ」に接近する。
ホバーの独特な機動を活かして接近し、ビームサーベルを一閃させる。
ガンキャノンⅡのビームキャノンが切り落とされ、砂漠の大地に落ち、ザシュウ、という音を立てた。
「くそ、キャノンが!」
そう言いつつ左手で、腰に装備したハンドグレネード、「ファイアナッツ」と呼ばれるそれを手にした。
セリエズは左足を軸に、スケートのようにぐるりと回転して回避。これもホバーだからこそ為せる技だろう。地面との摩擦が無いからこそ、スケートリンクの上に立つように動ける。地面に障害物の少ない砂漠という事もあるのだろうが。
ともかく、狙いが外れたグレネードは物理法則に従い、放物線を描いて地面に落ち、爆発した。
フィラクが、すかさず追撃を入れようとした、その時。
直上から、弾丸の雨が降り注ぐ。
フィラクのドム・トローペンと、セリエズの装甲強化型ジムが弾かれたように回避する。
フィラクは被弾せず、セリエズは数発被弾したものの、装甲強化型ジムを覆うリアクティブ・アーマーによってダメージは殆ど無し。
付近で戦闘していた、デザートタイプのサガンが、驚愕の表情で上を振り仰ぐ。
同時に空を見上げたフィラクと、セリエズが見たものは、弾倉が空になった100mmマシンガンを投げ捨て、ロケットランチャーに持ち変えながら、パラシュートでこちらに降下してくるMS。
片翼を血にそめた堕天使の紋章が描かれた機体。
陸戦型ガンダムの足が、砂漠の大地を踏みしめた。
着地の隙を、セリエズは見逃したりしなかった。
ビームサーベルを逆袈裟切りの軌道で振り降ろす。
だが、陸戦型ガンダムはそれをビームサーベルで受け止めた。
普通のパイロットなら、何故受け止められたのかと驚愕するだろう。
だが、セリエズには視えた。その瞬間が。
着地するより前から、攻撃が来る事を予想していたのであろう。
着地寸前、わずかに空中に浮いている状態で、脚部からビームサーベルを抜き、そのままセリエズの攻撃を受け止める瞬間を。
「このぉ・・・っ!」
セリエズがわずかに声を漏らす。
ビームサーベル同士が激突し、ビームを包むIフィールドの力場からプラズマがちらちらと姿を覗かせる。
「もう一人いることを忘れてはいないか」
そう言いつつフィラクが、陸戦型ガンダムの横方向から斬りかかる。
だが・・・
「甘い」
陸戦型ガンダムのパイロットの、わずかに笑いを含んだ声を、セリエズは確かに聞いた。
右手でセリエズと切り結んだまま、陸戦型ガンダムの脚部横のサーベルホルダーからビームサーベルが飛び出し、左手に握らせる。
出現したビームの刃は一閃し、ドム・トローペンのヒートサーベルをいとも容易く溶断し、弾き飛ばした。
本体に直撃を食らわなかったのは、彼が「天才」であったからこそだろう。
それほどまでに鋭い一撃だった。
「俺を・・・鍔迫り合いの最中のひと手間に、片手であしらったというのか・・・!?」
フィラクが驚くのも無理は無いだろう。だが、セリエズは理解していた。
先ほどの声。陸戦型ガンダムに刻まれた堕天使の紋章。
セリエズが叫ぶ。
「グラナートロート・ルシファー隊、隊長・・・グレモリー・ヴィネ・アンドロマリウス・グラシャラボラスか・・・!」
「その声・・・ヴァイス・トート隊、隊長の・・・セリエズ・シュテインだな・・・」
陸戦型ガンダムのパイロット、グレモリーは、喜悦を含んだ声で言う。
セリエズと戦えることが嬉しいとでもいう風に。実際、彼は喜んでいた。
かつての宿敵とまた、戦場で出会えた事に。
対照的にセリエズの声は憎しみを増していく。
「貴様とは・・・とことん縁が切れないな・・・」
怒りが全身を駆け巡り、体の芯が灼熱を宿すような感覚。
憎悪。復讐心。セリエズは、声を絞り出すようにして言った。
「貴様が・・・俺の家族も、友人も・・・全て奪った・・・!」
グレモリーが、ふん、と鼻を鳴らす。
「今の俺には関係の無い事だ」
鍔迫り合いの状態からお互い弾かれたように離れる。
距離を取った二機は、同時に目の前の敵へと突撃した。