機動戦士ガンダム0084 ―砲撃戦線―   作:リゼルC型

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第14話「鬼神たる存在」

装甲強化型ジムが、滑るように・・・いや、実際滑っているのだが、美しい動きで「ガンキャノンⅡ」に接近する。

ホバーの独特な機動を活かして接近し、ビームサーベルを一閃させる。

ガンキャノンⅡのビームキャノンが切り落とされ、砂漠の大地に落ち、ザシュウ、という音を立てた。

「くそ、キャノンが!」

そう言いつつ左手で、腰に装備したハンドグレネード、「ファイアナッツ」と呼ばれるそれを手にした。

セリエズは左足を軸に、スケートのようにぐるりと回転して回避。これもホバーだからこそ為せる技だろう。地面との摩擦が無いからこそ、スケートリンクの上に立つように動ける。地面に障害物の少ない砂漠という事もあるのだろうが。

ともかく、狙いが外れたグレネードは物理法則に従い、放物線を描いて地面に落ち、爆発した。

フィラクが、すかさず追撃を入れようとした、その時。

直上から、弾丸の雨が降り注ぐ。

フィラクのドム・トローペンと、セリエズの装甲強化型ジムが弾かれたように回避する。

フィラクは被弾せず、セリエズは数発被弾したものの、装甲強化型ジムを覆うリアクティブ・アーマーによってダメージは殆ど無し。

付近で戦闘していた、デザートタイプのサガンが、驚愕の表情で上を振り仰ぐ。

同時に空を見上げたフィラクと、セリエズが見たものは、弾倉が空になった100mmマシンガンを投げ捨て、ロケットランチャーに持ち変えながら、パラシュートでこちらに降下してくるMS。

片翼を血にそめた堕天使の紋章が描かれた機体。

陸戦型ガンダムの足が、砂漠の大地を踏みしめた。

 

着地の隙を、セリエズは見逃したりしなかった。

ビームサーベルを逆袈裟切りの軌道で振り降ろす。

だが、陸戦型ガンダムはそれをビームサーベルで受け止めた。

普通のパイロットなら、何故受け止められたのかと驚愕するだろう。

だが、セリエズには視えた。その瞬間が。

着地するより前から、攻撃が来る事を予想していたのであろう。

着地寸前、わずかに空中に浮いている状態で、脚部からビームサーベルを抜き、そのままセリエズの攻撃を受け止める瞬間を。

「このぉ・・・っ!」

セリエズがわずかに声を漏らす。

ビームサーベル同士が激突し、ビームを包むIフィールドの力場からプラズマがちらちらと姿を覗かせる。

「もう一人いることを忘れてはいないか」

そう言いつつフィラクが、陸戦型ガンダムの横方向から斬りかかる。

だが・・・

「甘い」

陸戦型ガンダムのパイロットの、わずかに笑いを含んだ声を、セリエズは確かに聞いた。

右手でセリエズと切り結んだまま、陸戦型ガンダムの脚部横のサーベルホルダーからビームサーベルが飛び出し、左手に握らせる。

出現したビームの刃は一閃し、ドム・トローペンのヒートサーベルをいとも容易く溶断し、弾き飛ばした。

本体に直撃を食らわなかったのは、彼が「天才」であったからこそだろう。

それほどまでに鋭い一撃だった。

「俺を・・・鍔迫り合いの最中のひと手間に、片手であしらったというのか・・・!?」

フィラクが驚くのも無理は無いだろう。だが、セリエズは理解していた。

先ほどの声。陸戦型ガンダムに刻まれた堕天使の紋章。

セリエズが叫ぶ。

「グラナートロート・ルシファー隊、隊長・・・グレモリー・ヴィネ・アンドロマリウス・グラシャラボラスか・・・!」

「その声・・・ヴァイス・トート隊、隊長の・・・セリエズ・シュテインだな・・・」

陸戦型ガンダムのパイロット、グレモリーは、喜悦を含んだ声で言う。

セリエズと戦えることが嬉しいとでもいう風に。実際、彼は喜んでいた。

かつての宿敵とまた、戦場で出会えた事に。

対照的にセリエズの声は憎しみを増していく。

「貴様とは・・・とことん縁が切れないな・・・」

怒りが全身を駆け巡り、体の芯が灼熱を宿すような感覚。

憎悪。復讐心。セリエズは、声を絞り出すようにして言った。

「貴様が・・・俺の家族も、友人も・・・全て奪った・・・!」

グレモリーが、ふん、と鼻を鳴らす。

「今の俺には関係の無い事だ」

鍔迫り合いの状態からお互い弾かれたように離れる。

距離を取った二機は、同時に目の前の敵へと突撃した。


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