肩に銃弾を受けたユイが、後ろに回りこんでいた敵兵を睨み付ける。
痛みに鈍る頭で、即座にユイは思考を巡らせた。今の攻撃でアサルトライフルは床に落ちた。だが、腰に拳銃を携帯している。
相手がもう一発撃ってくる前に、無事だった左手で素早く相手の手首を撃ち抜いた。
苦痛の声が上がり、銃が床に落ちて無機質な音を立てる。
ユイは、素早く拳銃を腰にしまい、ナイフに持ちかえると、彼の首に深々と突き刺した。
大量の出血により、ユイの全身に返り血が付く。
(周りは敵だらけ・・・痛みを感じてるヒマなんて・・・!)
ユイは条件反射で振り返りつつ、新たにコンテナの陰に飛び込んできた人影にナイフを投げつける。致命傷にはならなかったようで、数歩よろめいた後再び向かってきたが、先ほど腰にしまった拳銃を再び取り出し、正確に頭部を撃ち抜いた。
倒れた敵から投げたナイフを引き抜くと同時に、周囲の状況を確認する。
コンテナの周りが数人に包囲されているのを確認すると、今度は自ら飛び出し、拳銃で攻撃を仕掛ける。
不意を突かれた一人の目玉に銃弾が着弾する。もう一人、コンテナの側にいた相手のこめかみをナイフの柄で強打する。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
残りの兵がこちらに銃を構える。
今のユイは満身創痍、そして四面楚歌の状況だった。
「メインエンジン、起動・・・メインモニター、たぶん異常なし。サブモニターの起動は・・・これか」
装甲強化型ジムのコクピットにたどり着いたセリエズは、慣れない連邦系のコクピットに悪戦苦闘しながら機体を起動させていた。
セリエズがサブモニターをいじると、機体データが表示された。
「全身にリアクティブ・アーマー、あとは・・・ホバー機能搭載か、ドムのパクリじゃねぇか、連邦め・・・」
そう言いつつ、サブモニターに懐から出したメモリを差し込む。
それと同時にキーボードを何かのリズムを奏でるように叩き始めた。
「OSはジオン系の物をベースに、自分に合うよう少しいじってと・・・操縦は、これなら行ける」
しばらくキーボードを叩いていたセリエズは、やがて顔を上げた。
不敵な笑みを浮かべ、セリエズは愉しげな声で言葉を紡いだ。
「これで行ける・・・セリエズ・シュテイン、装甲強化型ジム、出る!」
ユイの体を銃弾がかすめる。
全身の激しい痛みを感じながら、ユイがナイフで一人の腕を突き刺す。
同時に、背後から振り下ろされたスタンガンをかわし、銃を構える。
だが、スタンガンが本命と見せかけたフェイクだった。
ユイが蹴りを食らい、小さな体が吹き飛んだ。
立ち上がろうとした瞬間、銃口を突きつけられる。
「・・・!」
死。そんな考えがユイの頭をよぎった瞬間だった。
ユイに銃口を突きつけた兵は踏み潰された。そう、「踏み潰された」のだ、人間より遥かに大きいモノによって。
「何が・・・?」
『それ』は、ユイに攻撃しようとしていた連邦兵全てを蹂躙した。歩兵では到底敵わない圧倒的な力。モビルスーツ。
ユイは朦朧とした意識の底に、そんな事を感じる。
やがて、巨大な手がユイの前に差し出される。そこに見慣れた姿がある事に安心感を覚える。
「セリ・・・エズ・・・」
「ユイ、乗って!」
「でも・・・体が動かせない・・・」
蓄積し続けたダメージが、ユイの体の自由を奪っている。セリエズはそれを見て取ると、ユイに歩み寄って抱き上げた。
セリエズはそのままコクピットに乗り込み、ユイを補助席に丁寧に座らせた。
「ごめん、MSを操縦するから・・・補助席で我慢して」
ユイからの答えは返ってこない。
満身創痍のユイを乗せた、セリエズの装甲強化型ジムが倉庫を突き破って外へ出る。
北アメリカアリゾナ州、ソノラ砂漠の戦闘は、ヴァイス・トート隊救出作戦から、より激しさを増していった。