東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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巫女同士の邂逅
竜神・魔神の結末


拾壱話 巫女と巫女 竜神と魔神

side 兼定

 

博麗神社に辿り着くと、そこにはツルギの他に博麗の巫女(あっちの)と白黒魔法使い、人形遣いが楽しそうにしゃべっていた。

ひとまずは劇薬女の言う通りだったってわけか。

 

それにしても相変わらず博麗神社はボロいなぁ。

どこの世界でも霊夢の神社は老朽化してんのかね。

そこで見つからないように細心の注意を払っている霊夢の方は、今は神社のボロさなんて気にしてないらしいが。

 

劇薬女は賽銭箱前で会話していたツルギに声をかけた。

 

「ツルギ~。お客さんよ!」

「客? ――って、えぇ!?」

 

俺様達の姿を見たツルギは目を見開いた。

特にその驚愕は紫苑の方を向いており、あんな別れ方をしたんだから仕方ねぇ。紫苑も気まずそうに苦笑いを浮かべている。

 

くくくっ、ざまぁ。

 

嘲笑いつつ俺様は視点を賽銭箱前にいる博麗の巫女に向ける。

そして首を傾げる。

 

 

 

コイツ弱くね?

 

 

 

霊力の凄まじさは健在なのだが、なぜか物足りなさを感じる。

違和感が拭えないが、よくよく考えたら隣にいる霊夢も最初は雑魚同然の存在だったのを思い出す。あー、出会った時のコイツに似ているのか。

思い返せば幻想郷の妖怪は俺様達の街ほどの強さはなく、元々のスペックが高い霊夢(こいつ)でも対応できていたな。『努力しなくてもそこそこ強い』往来の才能のおかげだが、打倒紫苑を掲げてる現在ではそんな力で満足できるような状況じゃねぇが。

 

今の霊夢も強くはなったが万全じゃねぇし、妖夢も未完成の状態。

せめて俺様達の領域に片足突っ込んでる(こっち側の)チルノ程の力をつけて欲しいところだ。

巷では⑨は妖怪の間で『畏怖・畏敬』の代名詞なんだぜ?

 

「紫苑達はどうしてこっちに……?」

「……察してくれ」

「……あぁ、何となくか」

 

おう、ツルギも分かってきたじゃねぇか。

呆れているように見えるツルギに、白黒魔法使いは俺様を指さして尋ねていた。

 

「ツルギ、コイツ誰なんだぜ?」

「えっと――」

「剣、自己紹介なら自分でできるぞ。初対面の人もいるし」

 

紫苑は佇まいを正すと3人――特に人形遣いに向かって名乗る。

 

「俺の名前は夜刀神紫苑、見ての通り普通の人間だ」

「「「「「普通?」」」」」

「一斉にツッコむのは止めようか」

 

いや、テメェが普通なわけねぇだろってのは全員の本音だろう?

今はまだ人間なのは百歩認めるとして、普通はさすがに無理があるんじゃね? この前その定型文のような自己紹介を聞いたヴラドが「ははは、ワロス」って爆笑してたぞ。

 

この世界の人形遣いは困ったように微笑みつつ紫苑と握手。

 

「紫苑さんね。私はアリス・マーガトロイドよ」

「………」

「し、紫苑さん?」

「いや、ごめん。なんか普通に名前を呼ばれるのが懐かしくて」

 

遠い目をしている紫苑に戸惑う人形遣い。

 

最近こっちの幻想郷の人形遣いを見ていて考えることがあるのだが、もしかして人形遣いって割と良い奴なんじゃないかと錯覚する事がある。まず慧音さんが「アリス殿は良き人だぞ」と言っていたうえに、俺様達に地味で細かい嫌がらせをすることもないからこその疑問だ。

けど西条のクソババアの例があるしな……。

 

っと、次は俺様の番か。

 

「……獅子王兼定だ」

「兼定、自己紹介ってのは名前名乗ればいいってもんじゃないぞ?」

「テメェも同じような感じだったじゃねェか」

 

そもそも俺様は女嫌いだぞ。設定の面影ないが。

主要キャラが女だらけの幻想郷で、その設定をどうやって生かせばいいんだよ。作者馬鹿なんじゃねぇの?

 

なんでこうなったと俺様が肩をすくめていると、ツルギの幻想郷の面子はフードを深く被った不審者(霊夢)に視線を移す。

注目の的となった霊夢は紫苑の後ろに隠れるような位置に移動する。

 

そんなんで隠れられるわけがないがな。

 

 

 

 

 

「そこの女の子は誰?」

「うちンとこの博麗の巫女だが?」

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

 

 

 

 

俺様のアッサリばらしていくスタイルに両陣営から驚きの声。

どうせ勘のいい博麗の巫女には看破されっだろ。

 

「おま、何さらっと言ってんだよ!?」

「わざわざ隠してたのに!」

 

呆気にとられるのはツルギ達。

特に博麗の巫女(ツルギ達の方)は目を点にしている。

 

「……え、それマズくないか? 姉さ――そっちの紫さんが許すとは思えないし」

「八雲紫が俺様の行動を邪魔できるわけがねェだろうが」

 

龍慧の野郎が霊夢の幻影を置いてきたから大丈夫なはず。

この前の異変のように一撃だけで沈むような紙装甲ではなく、現在の霊夢と同じ実力を持った幻影である。無駄に器用なんだよな、あの竜神。

 

見つかったところでスキマ妖怪が俺様達に敵うはずもねェけど。

 

 

 

「貴方達の幻想郷って相当カオスなのね……」

 

 

 

人形遣いの引きつった顔での感想。

 

そんなもんだろ、幻想郷なんて。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 龍慧

 

星々を砕く一撃を無効化する黄金の剣。

 

 

 

全てを切り裂く斬撃を破壊する赤い光。

 

 

 

大量に表れる異形の怪物の闘争。

 

「ははははははっっっ! 良いぞ良いぞ! これこそ戦い! 我の餓えを満たす猛者との闘争は久方ぶりだ!!」

「私もですよ!」

 

どれ程の時間が経過しましたでしょうか。

私はメザロア様に放とうとした太陽の一撃を召喚したところで、この場にふさわしくないアラーム音が鳴り響くと同時に動きを止めました。

メザロア様も訝しげに首を傾げます。

 

「なんだ、今の音は」

「おやおや、もうこんな時間ですか。楽しい一時というのは時間経過が早いですよね」

 

己の作った空間全体に響くような指鳴りと共に、召喚していた化物集団は忽然と姿を消します。

そして虚空からタイマーを取り出して止めます。

 

「今日はいい運動をすることが出来ました。メザロア様、お付き合いいただき誠にありがとうございます」

「我は満足しておらぬぞ? 血肉滾るような戦い、まだまだ続けようではないか!」

「それはそれで面白そうなのですが……どうやら幻想郷で宴会が開催されそうな雰囲気なんですよ」

 

闘争(ころしあい)も粋なものですが、なかなか味わえない別世界の幻想郷の宴会も楽しみたいんですよねぇ。というかラブコメの波動が私に行けと囁いております。

 

その回答に不服そうな表情のメザロア様。

悪魔というのは本当に戦うの好きですよね。

そのうち七つの玉を探すようなバトル漫画的展開とか起こりそうですよ。

 

これ以上戦う気がないのを悟ったメザロア様は大きく溜息をつきました。

彼女の性格ならば私にとどめを刺すことも考えましたが、面白い玩具を自ら壊そうとは思わなかったのでしょう。

 

「このような陳腐な場所で決着をつけようなど美しくもないでしょう?」

「陳腐だと?」

「えぇ。適当に作った空間だったので、そろそろ耐久ヤバいんです……」

 

事前に準備した空間ならばこんなことは起こらなかったのだが、ヴラドを仕留めようとしていた彼女を無理やり連れだしたこの空間は粗末で未完成な世界。

あと数時間もしないうちに崩れ去るでしょうね。

そのような空間で決着をつけようなど愚の骨頂です。

 

それ相応の戦いには。

それ相応の場所が必要。

 

「いやぁ、星すらも砕く一撃に耐える空間の制御とは難しいです」

「……ならば仕方あるまい」

「今度は彼等も一緒に遊ぼうではありませんか。これほどの実力を持つメザロア様ならば、特に未来や兼定などは喜ぶでしょう」

「……? 汝ほどの力を持つならば、あのような者等に勝てるのではないか?」

 

……確かにそう思うのも無理はありませんね。

 

ですがメザロア様。その結論は早計かと。

 

「メザロア様には仰いませんでしたか?私は――

 

 

 

 

 

――彼等の中では最も弱い、と」

 

 

 

 

 

「ほぅ……?」

「左腕で有象無象を問答無用に死を与える獅子王兼定――そして、大地の霊力を吸い上げて無限回復を行う九頭竜未来、純粋な吸血鬼の血を暴走させて古の神々すら凌駕するヴラド・ツェペシュ。そのような切り札を持つ彼等に勝てるはずがありませんよ」

 

私の複写は能力のみ。

彼等の種族としての本質や、イレギュラーな力などの能力を持つ彼等とは比べ物になりません。

 

……いや、私達の中で一番弱いのは紫苑ではないでしょうか?

どうあがいても『人間という種族』にある彼では、あの化物共に敵うはずがありませんから。本来ならば。

 

 

 

だからこそ――それを可能とする紫苑が一目置かれるのですが。

 

 

 

彼が人外になったらどうなるんでしょうかね。

ある意味怖いもの見たさがありますよ。

 

「未来と兼定……、この前会った異界人だろう? 最初は有象無象の一種かとは思ったが、そのような愉快な手札を持ってたのか」

「あははは……アレはなめてると痛い目に遭いますから」

 

空間を消し去り幻想郷に戻った私は彼女に一礼。

 

「また会いましょう、メザロア様。今度は皆で――それこそヴァルバトーゼ殿やエリザベート君、剣君も含めて楽しもうではありませんか」

「……汝は我々の計画を知っているだろう?」

 

未来がなんかそんなこと言ってましたね。

 

確かにあれが遂行されれば、私が今し方言ったことは実現不可能となります。

机上の空論と言い変えてもいいでしょう。

 

「えぇ、知っていますよ。ですが――私個人としては、貴女方の計画が崩れるところも見てみたいんですよ。そっちの結末の方が面白そうですしね」

「汝にとっては我々の計画も娯楽にすぎないと?」

「所詮は傍観者なので」

 

剣君はいい迷惑でしょうが。

暗躍せずとも進んでゆく劇というのは楽ですね。

 

「むしろ我から汝等の世界に赴きたいところだ」

「おぉ! それは名案ですね。要塞や土御門嬢も喜びますよ。貴女ならば私達の街でも十分に踊り狂うこともできましょう。暗闇という超えられない壁を見ることも己の成長につながりますし」

 

土御門嬢とは特に気が合いそうですよね。この方は。

 

最後に私は虚空から二本のワインを取り出し、メザロア様に献上します。

それに目の色を変えるメザロア様。

一目でこのワインの本質を理解するとは――さすが魔神ですねぇ。

 

「遊びに付き合っていただけた感謝の気持ちです。お納め下さいませ」

「我は生半可なワインでは満足せぬぞ?」

「おやおや、私の選んだワインが生半可であると?」

 

お互いにニヤリと笑みを浮かべつつ、メザロア様と私は別れました。

 

 

 

 

 

これは物語の裏側。

決して表では語られぬことのない物語。

 

 

 

 

 

それでも『あった』という事実に変わりはなく。

 

 

 

 

 

世界は愉快に回る。

 

 

 

 




ヴラド「出番寄越せ!」
ヴァル「上に同じ」
紫苑「次辺りじゃないか?」
兼定「紫苑の過去に触れてない件について」
紫苑「あまり長くなると撃っち先生に迷惑かけるからな。何とかしないと」
未来「投稿遅めなのも理由じゃないかな」
紫苑「今回のコラボはストーリー考えずにやってるから遅いんだってさ。ある程度構想が固まってる次章以降なら早くなるんじゃないかと」

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