東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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詐欺師無双


玖話 詐欺師の本気

side 霊夢(紫苑のほう)

 

自分の知らない幻想郷。

見慣れた風景が新鮮に感じ、行き交う人々をここまで気遣ったことなど今までないだろう。

 

本来ならば私はここに存在してはいけないんだ。

にも関わらず――こうやって人里の外を歩いている。

 

「どうした、霊夢。さっきから黙ってて」

 

気遣うように私の顔を覗き込んだのは紫苑さん。

今の今まで私と手を組んで歩いていた彼は、組んでいない手で私の頭をポンポンと軽くたたきながら問う。フード越しではあるが、紫苑さんの暖かな手の感触が伝わってくる。

 

その行動に私は妙な安心感を得た。

正直、こうやって『私が博麗霊夢であると知られてはいけない』という緊張感は大きく、紫苑さんの手を握っていないと落ち着かない。

 

その事を知ってか知らずか、紫苑さんは獅子王さんに尋ねる。

 

「おい、ツルギの場所は分かるか?」

「知るわけけねェだろ。八雲紫のところじゃねェの?」

「やっぱそうだよなぁ。てか俺、紫ん家知らないんだけど」

「「は?」」

 

思わず獅子王さんと被った。

紫苑さんが弟子である紫の家を知らないことと、紫が家の場所を教えていないことへの驚きだった。予想外も予想外。

 

紫苑さん曰く、紫の家を聞いたところ『え、へ!? いやいや! ま、まだ片付いてないのでっ! 汚いのでっ!』と断られたそうだ。補足だが、藍にこの事を説明したら『……紫様の家ですか? えぇ、紫様の部屋は控え目に言ってゴミ屋敷です』とのこと。

どんだけ乙女なのよ、アイツ。

加えて、どんだけ整理整頓できないのよ、アイツ。

私も紫の家を知らないが……まさか自分の家が汚いからだろうか?

 

その話を聞いた獅子王さんは表情を引きつらせながら笑う。

 

「マジか……紫ン家汚ねェのかよ」

「紫って意外と面倒臭がりなのよね」

「……まァ、主夫的な紫苑とは相性いいんじゃねェの」

 

思わず吹いてしまった。

確かにお似合いではある。

 

「けど紫の家知らないんじゃ……これからどーするよ?」

「虱潰しに探すしかねェか」

 

面倒臭そうなオーラを二人が流していると、

 

 

 

 

 

「—―あれ? 紫苑と兼定?」

 

 

 

 

 

歩いてきたのは幻想郷にそぐわない、ドレスを纏う少女。

黒く美しい黒髪を靡かせ、どこか狂気を感じさせる雰囲気を醸し出す。

 

「よォ、劇薬女じゃねェか。元気してっかァ?」

「その劇薬女って何!?」

 

獅子王さんが知っているということは、もしかしたら紫苑さんも知っているのかしら?

私は小声で聞く。

 

「えっと……誰?」

「エリザベート・バートリーって言う……なんて説明したらいいのか。まぁ、ココで知り合った友人の吸血鬼とでも紹介しとこうかな」

「なんか獅子王さんに似た雰囲気を感じるんだけど」

「あながち間違いじゃないぜ」

 

獅子王さんよりも内に狂気を秘めている。

そのような印象を持つ素王女とでも表現するべきか。

 

紫苑さん達は口をそろえて、獅子王さんは幻想郷に来て丸くなったと言っていたので、彼の狂気がどれ程のものだったのかは定かではないが、少なくとも今の彼は彼女よりはマシだと思った。

エリザベートさんに失礼かもしれないが。

 

獅子王さんはエリザベートさんをからかった後、真剣な面持ちで彼女に問う。

 

 

 

「話は変わるがァ……テメェ、紫苑の腕を切り裂いたらしいな?」

「「え!?」」

 

 

 

私とエリザベートさんの声が重なる。

『そんな話聞いてない』『なんでそのことを知っているのか?』の『え!?』である。

 

「兼定」

「別にそのことを責めているわけじゃねェ。未来の野郎なんて紫苑の両手を笑いながら切り落としたことだってあるし、片手なんざ騒ぎ立てる理由にならねェよ。俺様が聞きたいのは――」

 

視線を鋭くした獅子王さんが声のトーンを落として嗤う。

 

 

 

 

 

「テメェがどうやって紫苑の腕を切り落としたって話だァ」

「そ、それは……」

 

 

 

 

 

蛇に睨まれた蛙。その表現が今の状況にふさわしい。

鋭利な刃物よりもずっと鋭い獅子王さんの瞳に、エリザベートさんは答えられずにいた。

 

気まずい雰囲気を破ったのは案の定、

 

「そこまでにしとけ、今話すことじゃねーだろ」

「……ふん」

 

獅子王さんの頭にチョップした紫苑さんだった。

余談だが、紫苑さんは『雄牛』の化身を使っていたらしく、獅子王さんの足元が少し地面にめり込んでいた。注意するのに腕力を強化する意味が分からない。

 

注意という名の暴力を振るった紫苑さんは、目の前の女性に頭を下げる。

 

「すまんな、兼定が迷惑をかけた」

「い、いえ……本当のことだし」

 

腕を切り裂かれたというのは……あの九頭竜さんと同じようなノリなのだろうか?

幻想郷でも異常なはずの言葉を何の違和感もなく受け入れている私を、彼等に毒されすぎたわねーっと他人事のように溜息をつく。

 

「俺達、ツルギを探しているんだけど……どこにいるか知らないか?」

「ツルギは確か、博麗神社に居たわよ」

「「「………」」」

「ちょ、どうして黙るの?」

 

まさか別世界の博麗の巫女が近くにいるとは思わないだろう。

紫苑さんは数分間くらい黙って考えた後、その場所に行くことを決めた。

 

私ももちろんついていくので、確認を取るまで正体を明かさないことをきつく言われた。私だって無暗に騒ぎを起こしたくはない。

 

 

 

これが吉と出るか凶と出るか……。

 

 

  ♦♦♦

 

 

side 龍慧

 

「メザロア様、宇宙最強の名は伊達じゃないということですね。私なんかでは太刀打ちできない相手だと知りましたよ」

「心にもないことを」

 

ホントのことなんですけどね……と肩をすくめる私。

さすがは魔神を称する者、ということでしょうか?『コスモスとカオスを顕現できる程度の能力』らしいですが、規格外すぎるでしょ。 

先ほどから掠っただけで軽く殺せるような攻撃を連発してくるとか、どこの土御門嬢でしょうかね。あの方は少々苦手なので、思い出しただけで苦笑い。

 

「私の攻撃を全て紙一重で避ける存在など、私は片手で数えるほどしか知らんぞ?」

「奇跡が立て続けに起こるとは珍しいものです」

「そうか」

 

納得したと思えば、今度は星一つを潰せるような砲撃を放とうとするメザロア様。

これはちょっと洒落にならない。

悪魔と妖怪のハーフにしては強すぎじゃありませんかね。

 

手持ちの神器を確認しても、あれだけの攻撃を防げるような神器などあるはずもなく、思わず額に手を当てて首を振ります。

 

「弱者にそれを使いますか?」

「弱者だと? 笑わせるな」

 

確信を持った言葉を投げかけるメザロア様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならば――この空間はどうして維持できる?」

「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは盲点でしたな。

彼女から集められる星崩しの一撃を持つ力。それだけの力が集まるということは、本来ならば空間でさえも維持できずに崩壊してしまう。

しかし、この星々輝く世界はメザロア様の力でさえも傷つけることはできない。

 

それはなぜなのか?

 

「我は大いに不服である」

「私が何か不手際でも?」

「汝が本気を出さないからだ。我の攻撃を避ける技術はあるのに……なぜ汝は本気を出そうとしない? この空間を作った時点で――我は異世界よりきた者の中で汝こそが危険と認識しているが?」

「………」

 

 

 

本気、ですか……。

 

 

 

果たして前に全力を使ったのは何年前でしょう。

 

私はメザロア様の言葉に――笑います。

 

「ふふふふっ」

「………」

「いやいや、これは失敬。決して貴女を笑ったわけではありません。お詫びと言っては何ですが、少し面白い話でもしましょうか」

 

星を飲み込む一撃を前に私は語ります。

 

「私の住んでいた街には3つのルールがありましてね」

「それは今話すことか?」

「もちろん。一つは『自分の身は自分で守ること』です。弱者が淘汰されるのは必然的なことですからね。もう一つが『街の建造物を極力破壊しないこと』です。やむをえない事情などは考慮されますが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後は――『決して本気を出さないこと』です」

「何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メザロア様は眉をひそめました。

 

「地球と言うのはぶっちゃけて言えば脆いんですよ、私達街の住人にとっては。中には星を丸ごと破壊できる者も存在します。しかし――私達は大地に立っていないと生きることができない」

「我は違うがな」

「そうでしょうね。本気を出せば地球にどのような影響が出るか分からない者がいるため、このようなルールが設けられたというわけです。大地が崩壊したら元も子もありませんし」

 

主に該当するのは暗闇を除く7名でしょうか。

 

「けれど――メザロア様が望むのならば本気を出させていただきましょう。ですが、一つだけ確認したいことがあります」

「言ってみるがいい」

 

私は虚空からクラウ・ソラスを取り出し、高々と掲げてみせます。

この構えは切裂き魔と名高い九頭竜未来の剣技と真似しているものであり、能力を使うときに見せるポーズでもあります。

 

隙が多く、能力以外では使わないと未来は明言しておりました。

 

 

 

「本当に、本当に本気を出してもよろしいので?」

「うむ」

「そうですか。ならば――」

 

私は――腕を銀色に輝かせる(・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に斬れぬものなど存在しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腕を振り下ろしました。

何かを感じ取ったメザロア様は紙一重で回避し、貯めていた力を文字通り跡形もなく(・・・・・)切断されて消えました。

 

「っ!? それは――」

「えぇ、〔全てを切り裂く程度の能力〕です。そしてこちらが」

 

私はメザロア様と同じように力を集結させます。

コスモとカオスに相当する、創造と破壊の力を。

 

「それは我の能力だぞ!?」

「えぇ、強力な能力ですので複写させて頂きました。本当にすごいですよね、コレ」

「複写だと……?」

 

私の能力の元ネタである知恵の神プロメテウス。

彼は人類に炎を与えた知恵の神であるとともに、ゼウスと知恵比べをするほどのトリックスターでもあります。

 

プロメテウスたるゆえの欺く神としての力。

その集大成こそが私の本気。

 

 

 

 

 

『目にした能力を問答無用で複写する能力』

 

 

 

 

 

この能力には複写できる数に限りはなく、今まで出会った者達の能力を使うことが出来る力。街では使ったことのない、規格外を通り越した規格外の能力。

企み、盗み、欺く――叡智の神の『権能』。

 

 

 

 

 

もちろん――紫苑やヴラド、兼定を始めとする実力者の能力も使えますよ。

まぁ、複写にも限度はありますが。

 

とりあえずメザロア様に対抗するために、ヴラドの能力で下級神レベルの神話生物を大量生産しつつ、紫苑の『戦士』を同時使用する。

 

「それほどの力を持ちながら汝はなぜ……?」

「地上で使えない切り札に、意味などありませんよ。ですが、ここは私の作った空間ですので思う存分楽しみましょうね?」

 

絶句するメザロア様に微笑みかけます。

 

 

 

 

 

「さぁ、メザロア様。貴女を楽しませるために――序章(プロローグ)を始めましょう」

 

 

 

 




剣「はぁ!?」
紫苑「見たことなかったけど……あれが龍慧の切り札かー」
兼定「なんか釈然としねェ」
剣「あれ勝てるの!?」
未来「まぁ、本気出せばそうなるよね。1000生きる竜神族なわけだし」
紫苑「使えない力なんて、持ってる意味ないけどな」
兼定「それな」

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