東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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勝利の神はアイツだけとは限らない


59話 剣を携えて

side 霊夢

 

 

 

詐欺師。

 

 

 

切裂き魔・壊神・帝王と名を連ねる歴戦の『異名』にして、紫苑さんが言う『俺達』に含まれる名でもある。

 

修行をしている際、紫苑さんは彼――霊龍慧をこう評した。

 

『アイツは能力を殆ど使わない』

『……どういうこと?』

『龍慧が俺達……と言うか、俺以外のメンバーと同一視される要因は、龍慧が持つ神器を自由自在に操るって点が大半だな』

『??』

 

竜神という種族は『神器』を扱うことに秀でているらしく、特に彼はほぼ全ての神器を自由自在に使用できる、と。あと、街では『トリックスター』と言われると同時に『大泥棒』なんて異名までついているとか。どこの魔理沙よ。

そもそも神が己のために創造した物を扱うことなど、ましてや所有者を『選ぶ』神器を使うなんて不可能に近い。だからこそ――彼は特別なのだろう。

 

まぁ、それを言うなら『天叢雲剣』所有者の紫苑さんにも言えることなのだけど。

 

『そもそも〔万物を欺く程度の能力〕は未来や兼定みたいに戦闘特化の能力じゃないのさ。……まぁ、やろうと思えばヴラドの神話生物よりも凶悪な幻影を呼び出せるし、フランの分身技みたいな真似もできるけどね』

『つまり、その詐欺師は神器に頼った戦い方をするの?』

『そそ。でも、比較的平和主義者だから、アレが戦闘に参加する機会が少ないんだよなぁ。さて、じゃあアイツの弱点とかなんだけど……』

『それ教えていい情報なの!?』

 

そう簡単に仲間の弱点なんて教えていいものなのか。

質問に紫苑さんは笑顔で返す。

 

『確かにアイツは仲間だよ。ただ――龍慧が霊夢達を仲間として見るかどうかまでは分からない。最悪、殺しに来るかもしれん』

『え』

『そんなもんだよ、俺達の認識は。殺し殺される関係なんだから、もちろん敵味方の区別をつけようと考える。だからといって殺伐としてる訳じゃないから、本当に不思議な場所だったぜ』

『………』

『俺は――お前等に死んで欲しくないんだ』

 

まぁ、霊夢達がアイツと会うかどうかもわからないけどね、と頬をかきながら笑ったのは今でも鮮明に思い出せる。

紫苑さんがこのような状況を想定していたのかまでは私も分からないが、もしそうなら……彼は人間じゃない。

だからこそ、私は感謝している。

 

一端龍慧さんと距離を置いた私たちは小声で会話。

 

「魔理沙、妖夢。時間稼いで。詐欺師との戦闘を長引かせるのは愚策だわ」

「何か考えが?」

「切り札を使う」

「夢想転生か!?」

 

かつて私の切り札であった『妖怪とか関係なく全てを消し去るスペルカード』の夢想転生。それを魔理沙は指摘しているのだろうが、私は首を横に振った。

あれの改良は未完成だし、九頭竜さんに切り裂かれて、獅子王さんに破壊されたスペルカードが彼に効くとは思えない。

 

「発動に時間がかかる新スペカよ」

「……分かりました」

「妖夢が中心、魔理沙が援護。彼は神器の複数使用できないし、同じ神器を短期間に何回も使えないわ」

「霊夢それ早く言えよ!」

 

言う時間なかったじゃないの……。

それに彼の神器所有数は3桁を越える。それ全てが戦闘用のは限らないから、幾ばくか安心だけどね。

 

それでも龍慧さんは強敵だが、彼はこの戦闘を遊んでいるように感じる。もし彼が本気を出せば――あの暴走した獅子王さんとも渡り合える存在となる。

本当にこれをゲームだと思っているんだ。

けど――勝たなくちゃいけない。

負けられない。アリスのためにも。

 

私は妖夢と魔理沙が龍慧さんと交戦しているのを確認した後、懐からタロット柄(・・・・・)のスペルカードを取り出す。

いつもの私のお札の形をしたスペルカードとは違う、剣の描かれたカード。

 

「まさか……こんな早期に使うなんてね」

 

これはヴラドさんの助言によって作ったスペルカード。

紫苑さん以外との模擬戦において、初めて有用性を見せた私の切り札だと言っても過言ではない。紫からは『スペルカードの威力としては最高峰』と言わしめるほどの出来となった。まだまだ完全とは言い難いけれど、それでも突破口にはなるだろう。

 

これを見た九頭竜さんは、

 

『……君、とりあえず巫女だよね?』

 

引きつった笑みを浮かべた。

獅子王さんは、

 

『はァ!? テメェ、それ分野違ェだろ!?』

 

頭を抱えていた。

 

私はスペルカードに霊力を加える。

 

 

 

 

 

対・紫苑さん用のスペルカードに。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 妖夢

 

お師匠様から事前情報は貰っていたが……やはり百聞は一見に如かず、ということか。

 

詐欺師さんが取り出した新たな武器は『天羽々斬(あめのはばきり)』と呼ばれる大太刀。須佐之男命が八岐大蛇を切り裂くときに使用した武器だということは私でも知っている。まさか実在したとは。

 

剣の技術ではお師匠様よりは格下。

彼の剣になれているからこそ、目の前に居る敵――龍慧さんの剣技に対応できると感じた。彼の剣は美しいが実践的ではなく、少し前の自分を見ているようだった。

 

楼観剣を利き手で攻撃し、白楼剣を逆手に構えて攻撃を受け流すスタイルの戦闘に、龍慧さんは面白おかしそうに笑った。

 

「ふむふむ、両方同時に攻撃に使わないのですか」

「……お師匠様曰く、二刀流は防御型の剣技であると」

 

二刀流というものには問題が多すぎるとお師匠様は語った。

 

まず剣を両手で持つ相手に挑むとき、相当握力が無いと簡単に弾かれるという点。加えて、小太刀で相手の剣を受ける事自体が危険。

常人なら刀を二本を持って自由に操ること自体不可能であるし、私も半霊でなければ無理だっただろう。お師匠様でさえも二刀流を使ったことはほとんどないといっていた。紫苑さんが『雄牛』の化身状態で乱戦時に使っていたと聞いたことぐらいか?

 

『こうやって刀をクロスさせてガーっと防御するのが二刀流の特徴であって強みでもあるのさ。それが出来なければ鈍以下になる。二刀流なら他に……こう……ガーっとしてわーっとしてガーンってする感じかな?』

『………』

 

後半部分の説明は良くわからなかった。

実演しているのだろうが、ただでさえ片手で超高速の剣戟を繰り出すお師匠様が白楼剣と楼観剣を目にもとまらぬ速さでブン回しているのだ。

どう理解しろと?

そして当時隣で見ていた霊夢さんが『……えっと、うん。紫苑さんの高速移動と同じかな?』と呟いていたことに戦慄を覚えたことも記憶に残っている。

 

もし攻撃重視の二刀流を使うならば、相手の攻撃を片腕で抑えこむ・逸らす技術と筋力があって初めて意味を成すとお師匠様はアドバイスしてくれた。そんな筋力があるなら1本を両手で握った方が圧倒的に強いとも言っていたが。

 

「それ長刀を両手で持った方がいいんじゃないですか?」

「それを貴方に言われる筋合いはありません!」

 

地面を蹴りあげた私は龍慧さんとのすれ違いざまに彼の頬を浅く切る。

 

「!? なるほど、貴方の武器は『速さ』ですか……」

 

驚愕の表情を浮かべる龍慧さん。

この時、初めて彼がニヤニヤした胡散臭い笑みを崩したと思われる。

 

 

 

 

 

突発的な速さなら誰にも負けない!

 

 

 

 

 

そして――絶好の機会を逃す彼女ではない。

 

 

 

 

 

「恋符『マスタースパーク』!!」

 

私が死角となっていたので、後ろにいた魔理沙さんの攻撃も予測できないはず!

 

とは思っていない。

 

奇襲にも冷静に対応する龍慧さんは、剣を捨てて大きな鏡を展開させた。

そして見た目から推測できるように、魔理沙さんのマスタースパークを跳ね返し、私はお師匠様を真似て白楼剣でビームを切裂いた(・・・・)

霊力を刀に纏わせればできると言っていたが、実践は初めて。平気を装っているが内心は心臓ドキドキである。少し泣きそうである。

 

「面白くなって来ましたね! さぁ、これからですよ!」

 

 

 

 

 

「――もう終わりよ」

 

 

 

 

 

スペルカードの準備を終えたのか、私は霊夢さんの方を向いて――愕然とした。

魔理沙さんも声にならないかのように驚いている。

 

「………」

 

一番衝撃を受けているのは目の前の敵だが。

言葉にならない、とはこのことだろう。

 

霊夢さんはゆっくりと飛びながら龍慧さんの方向へ進める。何者も寄せ付けない〔空を飛ぶ程度の能力〕を体現したような、凛とした風格を纏う博霊の巫女。淡い光を身に宿らせ、神々しさを放つ。

彼女は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――降臨『必勝之剣』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手に光輝く剣を携えた姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「霊夢……その剣――」

「違う」

 

魔理沙さんの発言を途中で否定したのは龍慧さん。

目を大きく見開き、ぶつぶつと情報を整理するように輝く霊夢さんの剣を見つめる。

 

「違う、あれは紫苑の剣ではないのは明らか。しかし、同等の力を感じる。勝利……いや、でも日本神話で勝利を司る軍神は……刀ではあるが……まさか!?」

「そう、これは『神降ろし』よ」

 

霊夢さんは細身の剣を払った。

光の淡い粉が飛び散る。

 

「そして私が降ろした神の名は――北欧神話の神・フレイ。正確に言えば彼の『勝利の剣』を借りただけなんだけどね」

「………」

 

巫女が外国の神を降ろす。

さすがの詐欺師と呼ばれる男も予測できなかったと言うことか? 恐らく、それを見越した霊夢さんのスペルカードなのだろう。

 

恐らくだがあれは紫苑さんと戦うために作ったスペカかもしれない。

『まさか巫女が外国の神を降ろすはずがない』という、紫苑さんの知識を欺くために。

少しでも勝つ可能性を上げるために。

 

「これは想定できたかしら? 詐欺師さん」

「………」

 

龍慧さんの前に立つ霊夢さん。

しかし、彼は動こうとせず剣を見てい――

 

 

 

 

 

「あははははははははははははははははははっっっっ!!!!?????」

 

 

 

 

 

心の底から、本当に心の底から響く声に、正気を失ったのかと錯覚した。

あの紳士的な詐欺師に相応しくない笑い。

……狂ったように笑い出す?

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど! いやはや、本当に貴女方は面白いですよ! 巫女とあろう者が外来の神の力を借りるとは!? 切裂き魔達が期待するわけですよ、本当に!」

 

 

 

 

 

いきなり立ち上がって新たな剣を取り出す龍慧さん。

……どのくらいの神器があるのか。

 

「さぁ、終章(エピローグ)と参りましょうか! 夜刀神紫苑の弟子・博霊霊夢!」

「何で貴方々はテンション高いのよ……」

「何を言っているのです? 私……いや、私達は基本的にテンション高いですよ。なんて言ったって、物凄く楽しいですから。加えて私は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詐欺師ですから、ね?」

 

 

 

 




紫苑「はい、テスト終わって投稿となる」
魔理沙「やっとだぜ!」
紫苑「というわけで作者も夏休み」
魔理沙「そうなのか?」
紫苑「単位やばいけどな」
魔理沙「(´・ω・`)」

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