東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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手数で言うならば
詐欺師は最多とも言えよう


58話 ラブコメの波動

side 兼定

 

あのペテン師野郎が幻想入りしやがったか。

まぁ、そんなのは別にいいんだが、どうして人里を狙うような真似をしやがったのかねぇ。

 

いつもの如く、アイツの行動は意味不明だぜ。

 

俺様が人里の中央で地面に血文字を適当に描きながら悪態をついていると、遠くから大天使が走ってきた。

心配そうに走ってくる姿も美しく神々しい。全ての美を集結したような笑顔は俺様の心を明るく照らし、血文字を描くことがどうでもよくなるぐらいだ。

 

軽く死ねる。

 

「兼定!」

「慧音さん、外いると危ねェぜ?」

 

俺様がモチベの下がった感じで血文字と俺様を交互に見て、俺様の肩をつかんで揺さぶる。

少し怒ってる姿も可愛い。

 

「何してるんだ!?」

「人里に俺様の能力を分散させる術式を作ってる」

「え?」

 

昔紫苑のアホから教えてもらった『魔力がなくても使える魔術』の1つとして、能力の効果を低下させる代わりに広域に展開させる式を人里中心――覆えるように指定する。

血やら何やらセッティングが面倒だが。

 

慧音さんが来た現時点でほぼ完成し、あとは俺様の能力を使うだけ。

もったいない気もするが慧音さんから離れて――〔森羅万象を破壊する程度の能力〕を発動させ、人里全域を包む。

それをする理由が分からない慧音さんはかわいらしく首をかしげた。

 

「慧音さんも見ただろ? 今、幻想郷では龍慧のクソ野郎が引き起こした異変の真っ最中。これは人里に入ってくる幻影を問答無用で破壊するもンさ」

「……つまり、兼定は人里を守ってくれているのか?」

「わ、悪りぃかよ」

 

慧音さんを守るためというのが最重要事項だが、寺子屋のガキ共が被害にあわないようにするための処置でもある。

数か月前の俺様なら人里がどうなろうが知ったこっちゃねぇが、どうやら守る者が無意識のうちに増えちまったようだ。幻想郷で切裂き魔に腑抜けたなんて言えなくなったぜ。

そのくらい……俺様は人里に愛着を持っているらしい。

 

 

 

皮肉なもんだよなぁ。

殺人鬼が人を守るなんてよ。

 

 

 

「兼定は変わったな……」

「そりゃ環境変われば人も変わる」

「ありがとう」

 

……面と向かって感謝されんのは慣れてねぇ。

別に紫苑や未来にも感謝されることは多々あるが、それとは別感覚の気恥ずかしさを感じる俺様。というか女性に感謝されるということに慣れていない。

 

女とは基本的に関わらないようにしてるからな。

それは幻想郷でも健在――

 

「兼定さーん!」

「げ、鈴仙!?」

「その『げ』って何ですか!?」

 

同じく走ってきたのは元・月の民である兎の鈴仙。

この前の異変以来やたら俺様のところにやってくる面倒な女。

ついでに襲撃してきた月の民のリーダー……えーと、名前忘れた。金髪女が鈴仙と一緒に俺様と慧音さんの元へと集う。

 

鈴仙に前ほどの嫌悪感はないが、別の意味の苦手意識を最近感じるようになった。

金髪女は知らん。

 

「で、何の用だァ?」

「今お忙しいでしょうか?」

「人里に幻影が入ってこねェように細工をしただけだ。今から暇」

「今回の異変の対処が素早いわね。もしかして主犯に心当たりでもある?」

 

金髪女に言われて教えようか一瞬迷った。

コイツ等に教える義理はないにせよ、だからと言って龍慧に口止めされているわけでもないのも事実。とりあえず人里の防衛をしているコイツ等になら必要な情報かもしれない。

 

それ以前に慧音さんが知りたそうな顔をしている。

思考の天秤が一気に傾いた。

 

「……この異変は詐欺師の野郎の仕業だ」

「「詐欺師?」」

 

月組が首をかしげた。

 

「詐欺師……兼定の仲間の一人だな」

「戦闘能力に関しては神器に頼ってる逃げ足の速いカスだが、紫苑と同レベルに厄介な野郎でもある。未来やヴラドなら壊せるかもしれねェが、龍慧だけはなぜか壊せる気がしねェ」

「龍慧というのが詐欺師という男の名か?」

「霊龍慧、ってのが本名の竜神族だ」

 

ふむふむ、と納得する慧音さん。

 

得体の知れなさなら暗闇以上かもしれねぇアイツだが、まさか人里に危害を加えるような強硬に走るとは思わなかった。似非でも平和主義掲げてるからな。

何らかの考えがあるんだろうが。

 

「つか鈴仙。何の用で来た?」

「あ、寺子屋の先生方が兼定さんを探していましたよ?」

 

今日は休みのはずだが、何かあったのか?

俺様の教え子が幻影如きに後れを取るとは思えんし、もしかしたら人里の防衛に関する何かだろうか。

 

「めんどくせェ……」

「ほらほら、行きますよ!」

「ちょ、鈴仙! 腕に抱きつくなァ!」

「じゃあ、私もっと」

「き、金髪女も離せ!」

 

む、胸が当たってるだろうが!

コイツ等には羞恥心が存在しねぇのかよ!?

 

 

 

そんな茶番をしていると不穏な気配が。

慧音さんだった。

 

 

 

「……兼定、嬉しそうだな」

「ちょ、誤解だ慧音さん! 俺様は別に――」

「むー……」

 

頬を膨らまして拗ねている慧音さんも可愛らしいが、それを見て癒されている場面ではない。何とか誤解を解かないといけないのに鈴仙と金髪女が邪魔をする。

 

 

 

鈴仙も顔を赤くしてんじゃねぇよ!

 

 

 

慧音さんも誤解だと気づいてくれ!

 

 

 

つか周囲の人里民も見て和んでないで助けろよっ!?

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 龍慧

 

「む……?」

 

何やら人里方向からラブコメの波動が。

ラブコメは私の大好物の一つなので是非とも拝見したいのだが、今はそんなことを言っている状況ではないのは確定的。

 

そもそも人里は兼定が居るはず。

もしかして彼が――って、まさかそんなことはないでしょう。

兼定が恋をするとか彼を女性が取りあうなんて、それこそ天変地異が起こりますよ。幻想郷が次の瞬間には崩壊して消滅しますね。

 

「よそ見するなんて余裕ね!」

「……っと」

 

博麗の巫女の攻撃を回避しながら何か言おうとしましたが、タイミングを合わせるように庭師の斬撃が私の胴体に振り下ろされました。見事なまでに狙った連携プレーで、将来の可能性に心がお踊りますよ。

 

私――の幻影が庭師に切り裂かれますが、私本体は無傷。

 

違う場所に姿を現すと、今度は魔法使いが攻撃を放ってきます。確か……幻想郷で使用される『スペルカード』というものでしたか。『弾幕ごっこ』という、人間と妖怪の実力差を埋め合わせるために誕生したものでしたね。

壊神あたりなら鼻で笑いそうな発想ですが、私としては『如何に他者に魅せるか』を競うゲームは素晴らしいと思いますよ。美を競うなんて面白いじゃないですか!

しかも目的は『友を元に取り戻すため』という、燃えるシチュエーション。私も彼女たちの立場なら相手を絶対に倒しますし、個人的には私を打ち破って欲しいですね。

 

 

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

「これはこれは……」

 

 

 

弾ける光の花、と表現しましょうか。

何と美しく力強い花でしょう。潜入調査で彼女は活発的で負けず嫌いでひねくれ者。努力家で勉強家なのは知っていましたが、スペルカードというものは本人の性格が現れるのでしょうね。

 

実に興味深い。

 

しかし、これに当たったら痛そうです。

なら――

 

「『アイギス』――」

 

私の前に出現するのは鏡のように煌く大盾。

ギリシャ神話において主神ゼウスの所有物とも、ゼウスの娘である女神アテナに与えたものともされる伝説の防具。ありとあらゆる邪悪・災厄を払う魔除けの能力を持つとされているもので、ペルセウスの魔物メドゥーサの際にも使用された盾。

私の持つ神器の中でも圧倒的防御力を誇る防壁でもある。

 

もちろん、魔法使いのスペルカードも跳ね返す(・・・・)

 

「え――ちょ、マジ」

「何やってんのよ魔理沙!」

 

全て跳ね返された弾幕を、博麗の巫女が投げた札によって防がれて事なきを得る魔法使い。

ふむふむ、あの札は厄介ですな。

 

ちょっと試してみましょう。

 

私は虚空にアイギスを仕舞い、一本の剣を取り出した。

眩い光を放つ白銀の剣。

それに反応したのは庭師でした。

 

「霊夢さん!」

「分かって――っ!?」

 

札を私の前に置くことで私の剣を防ごうとしましたが、札を紙きれのように切り裂く私の剣。それは能力を使っている切裂き魔を彷彿させ、そのまま押し切ろうとしたところを庭師の剣に阻まれました。

確か……白楼剣でしたね。未来も称賛した名刀。

 

鍔迫り合いをしながら庭師が尋ねてきます。

 

「そ、その剣は」

「『クラウ・ソラス』という剣でしてね」

 

アイルランド語で『光の剣』あるいは『輝く剣』の意味を持つ、ケルト神話の剣王が所有していたとされる武器。呪文が刻んである魔剣は一度鞘から抜かれれば、その一撃から逃れられる者はいない不敗の剣だと伝えられていますね。

 

 

 

 

 

まぁ、この剣は切裂き魔の能力と同じですが。

 

 

 

 

 

とは言っても未来ほどの絶対性はありません。

このままでは庭師に抑えられている最中に博麗の巫女と魔法使いから襲撃を受けるでしょう。

 

庭師の剣を弾いた私はすぐさま武器を変更。

 

手に持つのは『グングニル』。

古ノルド語で『剣戟の響きの擬音』を意味する、北欧神話の戦争と死を司る神・オーディンの槍。必殺必中の威力を持つ投槍で、鋼の穂先にルーン文字の効果により魔力で貫けない鎧はなく、人の素たる『トネリコの木』が柄に使われ、どんな武器もこの槍を破壊不可とされている槍です。

これは投げたら戻ってくるので、昔手に入れた時に柄にもなくはしゃいで投げて、暗闇のラジコンヘリを粉砕して殺されかけたのは良き思い出。

 

目標は博麗の巫女。

投げた槍は一直線に巫女へと向かいますが一筋縄ではいかない模様。

 

魔法使いの弾幕を受けたグングニルは軌道を無理やり変えられて、博麗の巫女の横をすり抜けて私の元へ戻って来ました。

 

「どれだけ引き出しあるのよ……」

「自分の目で確かめてみてはどうでしょう?」

「紫苑みたいにやりいくい相手だぜ」

 

手数的には紫苑よりも上でしょう……いや、魔術にも手を染めてる彼なら、私の神器の手数よりはるかに多いですね。私の能力に直接的な殺傷能力はあまり(・・・)ありませんから。

 

虚空から取り出すのは愛用の神器『ケリュケイオン』。

ギリシャ神話のヘルメスが象徴の杖で、カドゥケウスとも言われる。

 

これは紫苑の『風』に似ていますな。

主に逃走用に使用します。

 

「まったく……紫苑さんの言った通り、厄介な相手だわ」

「彼も私と同じような戦い方をするじゃありませんか。私程度を倒せないならば――彼を倒すなんて夢物語ですよ、博麗の巫女」

「ふん、分かってるわよ!」

 

彼女等の瞳に諦めの色なし。

 

さぁ、どうやって私を攻略するんでしょうかね?

 

 

 

「はてさて……今は何章ぐらいでしょうか?」

 

 

 

 




紫苑「はい、謝罪のお時間です」
未来「まさかの投票行為は違反というね」
紫苑「作者の確認ミスでした。読者の皆様方には心よりお詫び申し上げますm(__)m」
未来「次からは気をつけようね」
紫苑「分かっとるわ」


紫苑「さて、話は変わるけどテスト期間なんだよ、今」
未来「今回は『投票行為による謝罪』があるから投稿したけど、現在作者は病気でグロッキーだよ」
紫苑「だから金土日に上げるかどうか分からん状況」
未来「元気になったら通常通りに投稿するよ。みんなごめんね」

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