東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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人形遣いは壊れ
博麗の巫女が動く


55話 心壊

side 紫苑

 

「し、紫苑! 霊夢! 来てくれ!」

 

血相変えて俺の家にやって来た魔理沙。

それは未来と妖夢と依姫が異変の情報を持ってきて二時間後のことだった。あれこれ対策や兼定、ヴラドへの連絡等を考えていると、リビングに足音鳴らして入ってきた。

 

珍しく息切れで肩を震わせながら、懇願するようにリビングに居た俺と霊夢に助けを求める。

それだけで『何かとんでもないことが起きた』と悟った俺は、とりあえず落ち着かせるために座らせた。

 

(なぜか居る)幽香が茶を淹れてる中、俺は魔理沙に詳細を求める。

 

「どうした、何が起こった?」

「あ、アリスの様子がおかしいんだ!」

「アリスが?」

 

未来の情報だと龍慧の野郎の仕業だってのは確信的で、『幻想郷に居ない者、亡くなった者の幻影が現れる異変』なのではないか?という結論となった。

未来達の後で俺の家に来てすぐ戻った妹紅の情報によると、人里での被害は少ないらしく、恐らく『幻影を破壊した』兼定のお陰だと推測できる。

 

そして幻影は『襲ってくる』らしいので、もしかしたらアリスは幻影に攻撃を受けたのかと思ったが、魔理沙の話によると違うらしい。

 

「なんというか……呼び掛けても返事しないんだ」

「……それって家に居ないんじゃない?」

「そんなわけないだろ、霊夢! 家に入ろうとしたら錯乱したように『来ないで』を繰り返すだけだし……どうなってるんだぜ!?」

「……紫苑」

「……あぁ」

 

未来は何かに気づいたのか暗い顔をする。

俺も同じような感じだ。

アリスの身に何が起きているのか、龍慧がアリスに何をやらかしたのか、何となくだが予測できたのだろう。

できれば当たってほしくないが。

 

「幽香、ちょっとアリスの家行ってくるわ」

「私も行く」

「お前は俺の家を守っておいてくれ。とりあえず『少年』の化身で守られてはいるが、幽香がいてくれたら安心して家を空けられる」

「そ、そう……」

 

正直、龍慧の幻影を見破る手段は非常に少ない。それほどまでにアイツの能力は完成されたものなのだ。

俺の『少年』、霊夢の勘、未来の覚りとしての能力、兼定の幻影破壊、ヴラドの『幻影を排除せよ』と命令を受けた神話生物ぐらいしか、対抗手段はほぼないと言っていいほどに見破りにくい。

 

ましてや龍慧の幻影は『質量』を持っている。

一撃当てれば消えるが、非常に厄介なのは確か。

 

その想いが通じたのか、幽香は快く引き受けてくれた。

 

「霊夢と魔理沙、あとアホついて来い」

「えぇ」

「了解だぜ!」

「アホちゃうわ」

 

 

 

 

 

ところ変わってアリス宅。

 

扉を叩いてみたところ、魔理沙からの前情報と同じく反応がない。気配を探ってみたら家の奥に魔力を感じた。

 

「入ってみようか」

 

未来を贄に先行させるような形で、俺達はアリスの家に入っていった。

 

部屋は廃墟のように荒れており、裁縫道具や家具が散乱していて生真面目な彼女の家とは到底思えない。

 

「シャンハーイ……」

「ホウラーイ……」

「上海と蓬莱は無事だったか!」

 

不安定に俺の周りを飛び回った西洋人形達は、おそらくアリスの寝室であろう場所に俺達を誘う。

女性の寝室に無断侵入に抵抗はあるが非常時だ。そのことを知ってか知らずか未来は遠慮なく扉を開けた。

 

そこには――

 

 

 

 

 

シーツで全身を包んでいるアリスが居た。

 

 

 

 

 

怯えている、という表現が正しいかのように光のない瞳が俺達を見つめている。

 

「アリ――」

 

 

 

 

 

「来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないで来ないでぇっ!!!」

 

 

 

 

 

「!?」

 

響き渡る拒絶の叫び。

霊夢は壊れた機械のように錯乱するアリスに呆然とした。

 

普段の彼女からは考えられない言動。

霊夢と魔理沙は不安そうに俺を見つめ、俺と未来は同時に舌打ちをした。

 

未来が今度は歩み寄ってみると、

 

 

 

 

 

「嫌ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

 

 

 

 

ダメだわ。

とても会話を試めそうな雰囲気ではない。

 

「ど、どうするのぜ?」

 

親友の変わり果てた姿を心配してか、魔理沙が俺に助けを求めてくる。しかし俺に会話のできない者をどう救えばいいというのだ?

 

「九頭竜さん、これは……」

「……ぶっちゃけ吐き気がしそう。アリスの心を読んでみたけど、ドロドロとした黒い何か(・・)に埋め尽くされていて、言い方悪くなるけど――ぶっ壊れてる」

「そんな……」

 

絶望的な状況。

俺は試しにすることではないが未来が叫ばれたときと同じところまで踏み込んでみる。

案の定、アリスの叫び声が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――聞こえてこない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

恐る恐る一歩一歩近づいてみるけれど、アリスは俺の顔を見つめたまま壊れた機械のように錯乱することも、ましてや拒絶の叫びを上げることもしない。

 

そのまま俺はアリスの側まで歩み寄って顔を覗き込む。

 

「アリス?」

「……あ……う……あ……」

「大丈夫……じゃねーのは知ってるけど、いったいどうした? もしかして変な男に――うわっ!?」

 

俺を認知したアリスがいきなり俺にダイブしてきた。

まさかの反応に俺はアリスと一緒に床に転がり込む。なんとかアリスが怪我しないように俺が下敷きとなっているが、彼女は俺の胸に顔を埋めたまま動こうとしない。

 

どういうことだ?

俺を含めた4人が疑問符を頭上に浮かべると、アリスはやっと文章になりそうな言葉を発する。

 

「どこ行ってたの……? 心配したんだから……!」

 

しかし……俺は嫌な予感が膨れ上がる。

 

「俺を待ってたのか?」

「当たり前よ! だって――」

 

顔を上げたアリスの表情を見て俺の背筋は凍った。

 

涙を流しながら笑い。

瞳に光がなく。

必死に俺の服にしがみついた彼女は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私達、親子(・・)でしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺のことを『父』と呼んだ。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 霊夢

 

「ぴーてぃーえすでぃー?」

「Post Traumatic Stress Disorderの略がPTSD。日本語読みで『心的外傷後ストレス障害』とも言う」

 

命の安全が脅かされるような出来事などによって、強い精神的衝撃を受けることが原因で起こるストレス障害のことをPTSDと言うらしい。

 

紫苑さんの言うことは素直に聞くアリスを連れて家に戻り、アリスをソファーベッドに寝かしつけた彼はそう結論付けた。

最初は嫉妬の嵐で幽香が怒りかけたが、状況説明をして何とか大人しくさせることに成功。眠っているアリスは紫苑さんの着物の裾を掴んで離さない。

その後スキマから紫が来てアリスの容態を見ているが……

 

リビングに集められた私達に紫苑さんは説明した。

 

「基本的には戦争とか虐待とかで起こる精神病なんだけどね。アリっちの今の状況がそれに当たるってこと。強い衝撃を受けて、現状に適応させようと精神が防衛行動を起こしている感じ? それの結果がアレってことだね」

「嘘、でしょ……?」

 

つまり……アリスは病気ってこと?

 

「――と、ここまでが現代医学的観点から見たアリスの状況。まぁ、PTSDよりも凶悪だが、アリスをこんな目に遭わせたのは詐欺師――霊龍慧の仕業と見て間違いない」

「詐欺師……って、確か紫苑さんの仲間の一人よね」

「霊夢には話したか」

 

齡1000歳を越える『竜神一族の生き残り』。

〔万物を欺く程度の能力〕という『質量のある幻影を作り出す』『自分とは違う姿に変える』などの多彩な変化をする男。

信じられないが紫の数百倍は胡散臭く、トリックスターにしてトラブルメーカーだったと紫苑さんは言っていた。

 

紫苑さんは紫に尋ねる。

 

「紫、やっぱダメか?」

「……すみません、どうやら私の能力では彼女の境界は弄れません。恐らくこの首輪が原因かと思われますが」

 

紫に言われて気づいたが、アリスの首には銀色の首輪が嵌められていた。紫苑さんの叢雲に近い強さの神力を感じる。

 

そこで妖夢の提案。

 

「それは詐欺師さんの能力で、アリスさんはおかしくなっているんですよね?」

「まぁ、そうなるな」

「紫苑さんの『戦士』やお師匠様の能力では解けないんですか?」

「それだ!」

 

一筋の光が見えて魔理沙は喜ぶ……が、紫苑さん達の申し訳なさそうな表情に落胆する。

 

「……まずはアリスの状況から説明しようか。詐欺師の〔万物を欺く程度の能力〕で、アリスはPTSDに近い精神状態だ。これは詐欺師が尋問や拷問とかで使用する『精神破壊』だと思う」

「精神、破壊」

「つまり衝撃的な幻覚で相手の精神をズタズタに破壊することだな。これが厄介で幻覚に掛けられたことすら気づかないから、大抵は廃人になっちまう」

 

紫苑さんは穏やかに眠るアリスの首輪を触る。

 

「そこのアホじゃ複雑で繊細な精神の壊れた部分のみを切断するなんて無理だし、俺は神力が足りないから難しい。それ以前にこの首輪がある限り『戦士』は効かん」

「それは何なの?」

「『ミトラスの契約』って首輪だな。ある代償を支払うことで、あらゆる能力の干渉を一切受け付けない神器」

 

ミトラスという名前で私は気づく。

紫苑さんの能力の起源となる神が仕えた契約神の名が『ミトラス』だったはず。だから紫苑さんの『戦士』の能力を受け付けないのか。

加えて契約神は上位の神。

 

九頭竜さんは拗ねたように笑う。

 

「詐欺師の幻覚は厄介だけどさ……何が面倒って、アイツは『宝物庫』って呼ばれるくらいに神器を所持してることだね。なんか蓬莱の姫様も似たような感じだったけど、古今東西の神器を集めて回るのが詐欺師だったからねぇ……」

「じゃ、じゃあ、アリスはずっとこのままなのか!?」

 

魔理沙とアリスは昔からの親友。

涙目の魔理沙が九頭竜さんに訴えると、彼はいきなり笑い出しながら魔理沙の頭をポンポンと叩く。

 

「いや、解決する方法はあるよ。しかも簡単に」

「そ、それは!?」

「詐欺師をシバく」

「だな」

 

紫苑さんは大きくため息をつきながら言う。

 

「アイツならアリスの状態を指一つ鳴らしただけで解除できるし、他にも方法があるけどコッチの方が手っ取り早い」

「それでもその詐欺師が解かなかったら?」

 

幽香の疑問はもっとも。

詐欺師が応じない可能性もある。

 

「……なんだろうな、詐欺師はこれをゲームだと思っている。異変なんてそんなもんだからね。『ゲーム』に関しては――アイツは負けたら素直に勝者の言うことは絶対に聞く。そういう奴だから」

「なら詐欺師って野郎をぶっ飛ばせばいいんだな!」

「俺はアリスから離れたら大変なことになるだろうし動けん。霊夢、魔理沙、頼んだ」

「任せて」

 

詐欺師を倒してアリスを元に戻す。

 

 

 

私と魔理沙は向かい合って頷いた。

 

 

 

 




紫苑「活動休止中なのに二話投稿」
霊夢「もしかしたら今後も話を投稿するかも」
紫苑「投稿ペースは下がってるけどな」
未来「アリスファンの皆さんごめんね」
紫苑「アンチ・ヘイトすれすれじゃないかって危惧」
未来「あれ基準が分かんない」

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