東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

62 / 86
化物の全力
出させた時点で終わりさ


51話 繰り返される過ち

side 兼定

 

「たかが人間一人に何――」

「さっさと死ね」

 

やけに偉そうな月の奴をの頭に左手で鷲掴みにする。

包帯を外した左腕――それは闇と同化して見えにくいほど黒く禍々しく変色していた。

 

『アンラ・マンユの左腕』。

神殺の能力と同じルーツを持つ神話において、触れるだけで対象者に『死』を与える邪神。本気を出す……つまり『その気』になるだけで、触れたものを片っ端からぶっ殺してくれる腕。

 

そんなもんに捕まれた月の奴の末路なんて決まってる。

月の奴は腕を外そうとしたが、コンマ一秒も経たぬうちに崩れ落ちて起き上がることはなかった。近寄ってくる月の連中は、指を鳴らして身体を粉々に打ち砕く。

月の連中に浮かぶ表情は畏怖・憎悪・嫌悪。

 

俺様は嗤いが止まらない。

 

「アハハはハ! 月の民なンてこンなもンかよォ! あァ!? もっと骨のある奴ァいねェのか!?」

 

 

 

畏怖に顔を歪めるものを破壊し。

 

 

 

憎悪の声を上げるものを左腕で掴み。

 

 

 

嫌悪で罵倒するものの首を折る。

 

 

 

襲いかかってくるものには容赦はしねぇ。

一度武器を俺様に向けたものには等しく死を与える。『武器をこちらに向けた』という事実が残る限り、奴等には俺様を殺す意思というものがあり、殺されても文句は言えねぇってこった。

かつてアイツはその理論に異議を唱えたが……知ったこっちゃねぇ。

理屈なんざ知らねぇ。殺るだけだぁ!

 

ぐちゃぐちゃと臓物が散らされた地面。

滴る血と肉片。

 

返り血を浴びた俺様の姿は、どう映ってるんだろうな?

 

っと、あの金髪が指揮官か?

試しに能力を使ってはみたが、なぜか効果がない。

周囲の雑魚を一掃しつつ、俺様は金髪と対峙する。

 

「テメェが指揮官か?」

「あら? 貴方は……不老不死ね」

「質問に答えられねェのか、月の連中はよォ」

「私が指揮官よ」

 

微笑みながら会釈する金髪女。

 

綿月豊姫(わたつきのとよひめ)と申しますわ」

「どうでもいい」

「貴方の名前を教えてくださらないかしら?」

「なンでテメェなンかに名前を教えねェといけねェんだ?」

「私が知りたいの」

 

知るかよ。

俺様はまた〔森羅万象を破壊する程度の能力〕を行使したが、金髪女は微笑んだまま扇ぐだけ。

 

「……やっぱり、貴方が攻撃してるのね」

「効いてねェけどな」

「私が受け流しているだけよ」

 

でも、と金髪女は指を見せた。

人差し指が欠けている。

 

「貴方どれくらい私に能力使ったの? 別のところへ受け流しているけど、さすがに捌ききれないわ」

「面倒だから早く死ね」

 

破壊できねぇのなら左腕を使うまで。

俺様が動くと金髪女は扇で薙ぐ。

嫌な予感がした。本能的に扇から送られてくる風を『破壊する』。

 

破壊したから風の効果はわからん。

しかし、金髪女の表情から判断するに、何らかの攻撃であったことには間違いねぇ。

 

「まさか浄化の風を防がれるなんてね。貴方、本当に地上の民?」

「ったりめェだろうが。俺様とテメェ等を一緒にすんじゃねェよ」

「……面倒な能力を持ってるのは確か。けど――

 

 

 

 

 

後ろががら空きよ?」

 

 

 

 

 

隠れていたは伏兵。

何らかの銃にも見えるが、俺様は不死身の身。

無視して金髪女を攻げ――

 

 

 

 

 

「だめぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!!!」

『だめぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!!!』

 

 

 

 

 

後ろから突き飛ばされる感覚。

かつて同じような感覚で、突き飛ばされたことがある気がする。俺様の行動を止めるためにアイツは叫びながら――

 

 

 

そう。

 

 

 

あれは。

 

 

 

確か。

 

 

 

「ウドンゲ!!」

 

叫び声に俺様の意識は戻る。

倒れた体を起こしてみると、そこには血の池に仰向けに倒れるクソ兎の姿があった。血の池が前から形成されていたのか知らんが、クソ兎は体を起こそうともしない。

 

なぜか金髪女も唖然としている。

俺様はクソ兎を起こした。

 

「……おい」

 

口から血を流すクソ兎が俺様に笑いかける。

 

なんだこれ。

手の震えが止まらねぇ。

どうしちまった?

 

「え……えへへ……無事、でしたか……」

「……なに勝手に死のうとしてンだよ」

「だって……あれは……不死を殺す、ため……ゲホッ!」

 

吐き出される血液。

 

震えた手が無意識にクソ兎の頬を撫でる。

その顔が――アイツと重なる。

 

「なンで庇った」

「だ……私は……兼定さんの……を、殺した……だから……」

「ンなの関係ねェだろ。俺様を庇う理由にはならねェ」

「私……逃げて……んです。月から。ずっと……逃げて……逃げて……それが、嫌で」

 

言葉にならないクソ兎の告白。定まらないクソ兎の視界。

視界がなぜかぼやけた。

 

「……でも、兼定……は……ずっと」

「もうしゃべンな」

「……だから……贖罪……果たせ」

「しゃべンなって言ってるだろうがぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」

 

自分でもこんなに叫ぶとは思わなかった。

叫んだ拍子に俺様とクソ兎の周囲の地面が陥没し、どす黒い稲妻が陥没した地面を穿つ。

 

「俺様を庇ったことが贖罪になる!? 戯言ぬかすのも大概にしろよクソ兎!! 俺様がいつ庇ってくれなんて言った!? テメェの命はどうなるんだよ!! ってか俺様はテメェを殺そうとした!! テメェにやりてぇことはなかったのかよ!? 償う方法は他になかったのかよ!? テメェはバカなんじゃねぇの!?」

「……やりた……い……こと……」

 

虚ろな目で、俺様の叫びの一部を繰り返す。

クソ兎の手が俺様の顔に伸びる。

 

「そうだよ!! やりてぇことだよ!!」

「やりたい……こと……私は……」

 

力なく笑うクソ兎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兼定さんと……仲直り……したかったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちる手。

閉じる瞳。

重なる――影。

 

「ふざ――」

 

俺様はクソうさ――鈴仙の体を揺する。

反応は――ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なァ、テメェ等」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言葉を紡ぐのが面倒だからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ねよ(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

粉砕する大地。

左腕から流れる黒い霧。

体が消滅していく月の兵士。

 

俺様は鈴仙を抱きかかえながら立ち上がった。

 

「――動くなよ、そこ」

「――っ!?」

 

金髪女の驚愕。

興味はないが。

 

 

 

 

 

俺様が殺人鬼と呼ばれた理由、知りてぇよな?

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫苑

 

「あー、こりゃすげーな」

「……何が、一体」

 

震度どのくらいかな。

『立っているのがやっと』とでも言うような揺れの大きさに、依姫は驚いて俺が懐かしむ。

 

「兼定がブチ切れたか。何がトリガーになったかは知らんが」

「貴方の仲間が起こしてると?」

「それ以外に兼定の神力が全力でぶちまけられる現象なんて、あの面倒臭がり屋のアイツの行動なんて知らねーよ。とりあえず正気は保ったままらしいけどさ」

 

もしアイツが見境なく能力と腕を介抱したら、敵味方問わず粒子となって消え失せるわ。残念なことに月からいらっしゃった軍隊の方々は、あの金髪の指揮官残して召されちゃったようだけど。

まるで――アイツが死んだときのような荒れようだな。

ふむ……俺が知ってる奴じゃなさそう、か?

 

もし紫とか幽々子とかが死んだら――まぁ、全員殺すとして。

うーん、誰かね?

 

「た、助けに――」

「おっと、ここからは通行止めだぜ?」

 

金髪の指揮官に走り出そうとした依姫に、俺は未来から返してもらった叢雲を突き付ける。

 

「……仲間の危機だぞ?」

「口調が変わったな。それが素か? 兼定のことだから暴れまわったら自然と元に戻るだろう。そのころに金髪の指揮官が生きてたらいいな。俺だったら無理だけどね」

 

俺を睨む依姫。

 

「私の能力は〔神霊の依代となる程度の能力〕――八百万の神を降ろす、人間の貴方には絶対に勝つことのできない能力だ。そこをどけ」

「絶対に勝てない、ねぇ……」

 

人生17年生きてきて不思議に思っていることがある。

『絶対に無理』『不可能』『勝てない』などの単語を耳にすると、なぜか身体が反発したように拒絶反応を起こすのだ。暗闇のときもそうだったし、とにかく『絶対的な勝利』を本能的に求めてしまう。

そんな感覚。

 

訳が分からないよ……というか俺にどうしろというのか。

もしかしたら俺は自分の能力を完全には掌握しきっていないのかもしれないよね。人間からどんどん遠ざかってる気もする。

まぁ、正攻法で依姫には勝てんだろう。八百万の神降ろすとか化物かよ。

 

「いいよ、さすがに俺も力量なんて弁えてるつもりだし」

「ならばそこを――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならさ、とりあえず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『少年』以外の全化身を同時使用しよっか」

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の身体が『少年』以外発動する。

意識? んなもん気合いで繋いでるわ。

 

依姫はおそらく何らかの神を呼び寄せようとしたのだろう。

しかし、俺は『白馬』『山羊』をフルパワーで依姫のいた場所に投下する。もちろん開けないはずの夜が、人工的に呼び出された太陽によって明るくなる。朝だよ。

容赦なく太陽の焔と司祭の雷が大地を光に染め上げ、もう妹紅が再就職不可能なくらいに竹林だった部分の土を焼き尽くす。

 

依姫は咄嗟に神降ろしを

 

「あ、天宇受売命(アメノウズメ)様!」

「その神様ね、知ってる(・・・・)

 

俺は依姫が名前を叫んだ次の瞬間には、『戦士』で黄金の剣を作り出して天宇受売命を切り裂いた。

『岩戸隠れ』や『天孫降臨』等いずれも重要な場面で登場する日本の女神、その知識を俺が知らないはずがないだろう?

 

太陽の焔に焼かれた依姫はどうにか生きている状態。

いや、まさか『白馬』受けて生き残ってるとかどこの要塞だよ。

 

依姫は新たな神を降ろしたようで、俺に刀を向ける。

 

天津甕星(アマツミカボシ)様! ど、どうか――」

「確か天津甕星は『悪しき神』『打倒すべき神』として語られ、特に日本書紀の第一書では武神の経津主神(フツヌシノカミ)武甕槌神(タケミカヅチノカミ)でも降せなかったって数少ない文章だったのに日本書紀内でも有名な存在だっけ?」

 

隕石のような攻撃を『大鴉』で瞬く間に移動し、一閃して無効化する俺。

黄金の剣は寿命無視すれば何回でも作り直せるからな。

 

絶望的な表情の依姫に罪悪感を覚える俺。

完全にか弱い女の子いじめてるクソ男の図である。こいつ等が月の軍勢の総指揮官じゃなかったら土下座しているところだ。幻想郷を滅ぼそうとしている敵なので関係ないけどさ。

 

「う……あ……」

「こっちだってノーリスクで戦ってるわけじゃないんだ」

 

俺は焼き鏝を直接当てられてるような痛みに耐えつつ、黄金の剣を依姫に向ける。

 

 

 

 

 

「足掻いて見せろ、月の民」

 

 

 

 




未来「はい、これをご覧くださーい」
霊夢・妖夢「「………」」
未来「ゆかりん達が落すの失敗したら、この状態の紫苑と戦うことになりまーす」
紫「私たちの責任重大!?」
幽々子「あ、あらあら……」
霊夢「紫、絶対落として」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。