東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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油断大敵、慢心注意
隙を見せたら殺られるぜ?


44話 弱者の戦い方

side 紫苑

 

俺は鬼という種族が苦手だ。

能力がなくとも腕力がキチガイで、コイツらは『駱駝』と『雄牛』の同時使用でないと対処できない。つまり化身の同時使用が難しい俺にとって、鬼と戦う=寿命を削るという計算式が成り立つ。

 

しかも強い人間との喧嘩を好む鬼は、俺にことあるごとに喧嘩を吹っ掛けてくるので、寿命減少の5年分はコイツらのせいである。

 

こういうのは兼定の分野なんだけどな。

 

「伊吹萃香!」

「お、幻想郷の賢者じゃないか」

 

さっきからいたのに紫の発言で存在を認識する萃香。

なんだろう、この小生意気なガキ。

 

「私の師に喧嘩を吹っ掛けるのは止めてちょうだい」

「へぇ……まさかスキマ妖怪の師匠か。こりゃあ面白い喧嘩ができそうだね! ワクワクしてくるよ!」

「コイツ人の話聞かねーな」

 

そういえば鬼って人の話聞かない種族だったわ。俺は要塞以外の鬼と会話のキャッチボールしたことないし、どちらかと言えば会話の砲丸投げに近い。

 

呆れていると遠くで会話してた霊夢達が駆け寄ってくる。

そしてクレーターのできた境内に唖然とする博霊の巫女。後でヴラドに修復させよう。

 

「な、何てことしてくれたのよ!」

「細かいことはいいじゃないか。少し境内が壊れただけだろう?」

 

少しとは何か。

この壊れ具合で『少し』は俺の街でしか通用せんぞ。

 

「外野がうるさいけど始めよう」

「わ、私が相手になるわ! 人間と戦いたいのなら私でもいいでしょ!?」

「あんたじゃ弱くて話にならない。その男じゃないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今なんつった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の変化に紫が一早く気付いて怯え始め、ヴラドがフランを抱きしめる。近くにいた魔理沙なんか俺の変化に腰を抜かして尻餅をつく。

俺は首を傾げてポキリと鳴らした。

 

「見たところによると博霊の巫女よりも、そこの夜刀神紫苑の方が強いさ。妖怪退治の専門家が平和ボケした外来人より弱いなんて、私からしたら笑いもんだよ」

「そ、それは……」

「そこの男は除くとして、私達『鬼』に人間風情が勝てるわけがないだろ? そこの魔女も吸血鬼も覚えておきな。鬼にとってあんた等は有象無象に過ぎない」

 

確かに鬼は強い。

この場で要塞のことを知っている俺と帝王は嫌というほど知っているだろう。未来の斬撃を生身で受けて無傷だった奴を、俺は暗闇と要塞以外に知らない。

それほどまでに、鬼というのは強ければ人間はおろか妖怪の中でもトップクラスの実力を持つ種族なのだ。まぁ、それに実力に比例してプライドが高かったのだが。

 

 

 

プライド云々に関しては、要塞は本当に謙虚……というか律儀で真面目なアホだった。街では要塞のような奴から死んでいったが、実力があるからこそあの性格で生きてこられたんだと思う。

よく喧嘩を吹っ掛けてくる暑苦しい奴ではあったが、俺と戦う度に寿命を減らしていると知った当日、俺の家まで来て土下座までした。

 

 

『すまない! もう一度だけ、最後でいいから喧嘩してくれ!』

 

 

暗闇が『君話聞いてた?』と呆れていたが、あの喧嘩した以来、要塞が俺と勝負を仕掛けてきたことは一度もなかった。

つか自分の前で俺に限界突破することを禁止した。

しかも同胞に呼び掛けて俺に勝負を仕掛けることを全面的に禁止し、破った者は例外なく叩き潰された。同じ仲間なのにボコボコにしていいのかよ、と俺は笑ったが、

 

 

『確かに同胞だ。しかし――1度決めた約束を破るのは、嘘をつくのと同罪だと私は思う。それに、君は僕の仲間だろう?』

 

 

この言葉を俺は生涯忘れることはない。

俺はツルギのような感覚の友人を挙げるとしたら、間違いなく要塞の名前を出すだろう。

アイツは――他種族にも敬意を払い、どうしようもなく優しかった。

 

 

 

だからだろうか。

 

 

 

伊吹萃香の他者を見下す態度が。

 

 

 

非常に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それに外来人、まず幻想郷に来たのなら私に挨拶しに来なよ。いくら力を持っていても、あんたは人げ――」

「鬼? 笑わせんな」

「――っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腹立つ(・・・)

 

俺の殺気に何を感じたのか分からない。

それでも、萃香は目を見開いて言葉を失う。

 

「よくもまぁ、そこまで他種族を見下せるもんだ。腕力と繋がりだけしか取り柄のない脳筋種族が、虚勢を張るしか自分の力を誇示できねーのかよ。はっ」

「ふ、ふざ」

「『ふざけんな?』そりゃこっちの台詞だぜ。俺と喧嘩する? 身の程を知れよガキ」

 

俺は唖然としている霊夢に話しかけた。

 

「霊夢」

「は、はい!?」

「師匠として命令だ。そのガキを倒せ(・・・・・・・)

「了解しました!」

 

なんか雰囲気おかしいなーって思いつつ、俺は嗤いながら萃香を見下ろす。身長差的に。

 

「霊夢を倒したら俺が喧嘩――いや、遊んで(ころしあって)やる。お前は一度、自分の実力を知れ」

「……の、望むところだ!」

 

ふう、これで霊夢が勝てば俺が戦わなくて済む。

今の霊夢なら萃香に勝てるだろうし、俺はこんなプライドの塊みたいなガキのために寿命使いたくない。霊夢を馬鹿にされたのも苛立つわ。

個人的な感性なのは承知の上だが……こんな奴に要塞(おに)のイメージを崩してほしくないのだ。

 

 

 

 

 

――萃香に寿命使うくらいなら、要塞と戦いたいよ。まったく。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

side 萃香

 

私は今、当代の博麗の巫女と向かい合ってる。

 

この巫女は『スペルカードルール』なんて子供の遊びを幻想郷に流行らせた、才能だけはある人間としか認識していなかった。だから喧嘩する気にもならなかったのだが……。

 

横目で不機嫌そうな男を一瞥した。

 

強そうな外来人だけかと思っていたが、あれは強いの比じゃなかったことを身体で理解した。いや、理解させられた。

今まで出会ったことのある外来人は戦闘知識のない、鬼にとってはとるに足らない奴らだと私は考えていた。しかし、夜刀神紫苑という男は『鬼ですら畏怖する殺気』を放ってきたのだ。あんなの平和ボケした外の人間が出せるようなシロモノじゃない。

 

「準備はいいかい?」

「――えぇ、大丈夫よ」

 

さっさと終わらせて夜刀神と喧嘩しよう。

そう思って博麗の巫女と向き合って――思わず感嘆の声を上げる。

 

博麗の巫女の瞳は鬼と戦うとは思えないほど、冷徹な眼差しであった。

鬼特有の燃え上がるように植えた瞳ではなく、人間が畏怖するときに見られる怯えた瞳でもなく、どんな攻撃が来ようとも対処してみせるといった覚悟の目。なるほど、これが不思議な外来人に弟子入りした当代の博麗の巫女か。

 

 

 

面白い。

 

 

 

私は拳を構えると博麗の巫女が瞬きをした瞬間に懐へと入り、挨拶代わりに身体めがけて打撃を放つ。

 

人間には致命的な一撃。

 

 

 

「こりゃあ驚いた」

「ふん、紫苑さんの『大鴉』に比べたら遅いわ」

 

 

 

それは巫女の瞬時に展開した札によって阻まれた。

結界にヒビは入っているものの、一回限りの使用を目的として作られたのか、打撃は私の思ったほど巫女の結界にダメージは与えられなかったようだ。挨拶代わりとは言ったが手加減はしていない。

 

巫女はどこからか取り出した数百枚の札を地面にばら撒いた。

 

何のために奇行に走ったのか分からないけど、警戒して私は〔密と疎を操る程度の能力〕で姿を霧散させる。これは物質から精神に至るまでいろいろなものを(あつ)めたり(うと)めたりすることができる能力で、宴会を定期的に行ったものもこの能力のせいだ。

 

「さぁ、これなら捕まえられない!」

「………」

 

霧が立ち込め博麗の巫女の周囲を包む。

この状態の私はあらゆる物理攻撃を受け付けないし、スペルカードなんてしろものも通用しない。〔密と疎を操る程度の能力〕こそ、私が鬼の中でも『四天王』たらしめる要因。

 

博麗の巫女、どうする!?

 

その答えは、

 

 

 

 

 

「……だから?」

 

 

 

 

 

地面にばら撒いた札が一気に起動すると同時に、博麗の巫女を中心とした大きな術式が作動する。何百もの札が紐状に連なり、地面の五芒星が輝きだす。

本能的に覚った。

これはマズいと。

 

 

 

 

 

「神技『八方鬼縛陣・改』!!」

 

 

 

 

 

バチバチと地面の五芒星と紐状の札が雷を纏う。

巫女と霧の周囲を蒼い雷が迸り、私の霧に直接攻撃してくる。

霧の状態を貫通してくる!?

 

「な、んだと……!」

 

この結界内で霧になっているのはマズイ。

私は能力を解除して後方に飛ぶ。

そして地面に足をつけた瞬間――地面が爆発する。しかも爆発から札が大量に飛び出し、私の身体に張り付いてくる。

 

そして、札から妖力が……吸い取られ……。

 

「……当代の博霊の巫女は小細工が得意なようだね。正々堂々と勝負する気概はないのかい?」

「『俺達人間は弱者であり、力では妖怪に敵わない。だから、妖怪は力をつける代わりに、人間は知恵を研ぎ澄ます』。そういうことよ。妖怪と真っ向勝負するなんて愚の骨頂だわ」

 

その妖怪と真っ向勝負できる紫苑さんが異常なんだけどね……と付け加える巫女。

なるほど、確かに合理的だ。

今まで卑怯な手で勝とうとしていた人間……特に陰陽師のくだらない言い訳よりは遥かにマシな言い分。妖怪は力、人間は知恵、か。面白い理屈だな。

 

私は札を剥がして能力で拳を拡大し、巫女に連打を浴びせる。

巫女は札を次々と出して猛攻を受け止め、さらには隙を見ては弾幕で私の動きを止めようとする。

 

いつの間にか私は笑っていた。

 

「あははは!! 私の望んだような喧嘩じゃないけど、ここまで私と互角に戦える人間は初めてだよ! さぁ、私の動きについてこられるか!?」

「――っ! そんな連打、紫苑さんの化身に比べたら……!」

 

夜刀神はこれ以上の力を持っているのか!

ぜひとも戦ってみたいね!

 

「あんたの戦いを見て、ますます夜刀神紫苑と戦いたくなった」

「嫌ッス」

「だから――少し本気を出すよ」

「私は……負けられない!」

 

外野から幻聴が聞こえた気がするけど無視する。幻聴だし。

 

私は己の妖力を高める。

網目上に地面が陥没し、周囲から『これが鬼の妖力かー』『霊夢は大丈夫なのかしら?』『儂の仕事が増えるんですけど』などの畏怖が混じった声が上が……なんか少ないな。

 

それに対応して博霊の巫女の霊力も上がる。

さらに札を何百枚も展開して、周囲を包囲

 

 

 

「ちょ、多すぎないか!?」

「これでも少ない方よ」

 

 

 

博霊の巫女は静かに微笑んだ。

その姿に、背筋が凍る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、喜劇(ゲーム)と洒落込みましょう?」

 

 

 

 




紫苑「俺楽だなー」
萃香「私が悪者みたいじゃないか!」
紫苑「この回は『霊夢が現状、どれぐらいになってるのか』だからなぁ」
萃香「博麗の巫女、誰かに影響されすぎじゃないか?」
紫苑「ソンナコトナイ」


紫苑「だった、スピンオフ作品の話してなかったか」
紫「このまま日常回を続けていると本編終わりそうにないので、ストーリーにあまり関係のないサイドストーリーは別の作品で投稿するようになりました」
紫苑「『東方神殺伝~つかの間の休息~』に投稿してるから、よければ見てくれると嬉しいよ」

↓「『東方神殺伝~つかの間の休息~』
https://novel.syosetu.org/91156/

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