東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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コラボ2話です。
ちょっと今後の予測がつかないかなー……。

あと本編に大きく関わる内容も含んでますw


弐話 兵器

side 紫苑

 

夜刀神紫苑、17歳独身。

彼女いない歴も17年。

 

 

 

 

 

「ツルギ様、はい、あーん……」

「ちょ、藍! 私が先に――」

「ね、姉さん! 紫苑が見てるだろ!?」

 

 

 

 

 

これ何の拷問ですか?

 

 

 

 

 

八雲家にお邪魔している俺は夕食もご馳走になっているわけだが……よく見知った顔の二人がツルギにカップル定番の『あーん』をさせようとしている図を見せつけられている状況。

これは俺に対する当て付けか何かだろうか?

 

いや、別に彼女が欲しいわけじゃないから、この光景に嫉妬しているわけではない。問題は『尋常じゃないほど場違いな自分が物凄く気まずい』という点である。完全に部外者ポジ。

俺はリア充の光景を揚げ出し豆腐を食べながら苦笑いしている。じーさんは紅魔館の方に行ったし、救いは隣で油揚げ料理を美味しそうに食べている橙ぐらいだ。

 

「……橙ちゃん、いつもこんな感じなの?」

「?? そうですよ?」

「そっかー……」

 

日常風景なら仕方ない。

俺は耐えるとしよう。

 

「し、紫苑! そういえばお前はどうしてこっちに来たんだ? まさか『侵食と同化の妖怪』が何かやらかしたのか?」

「そんなわけないだろ。あの妖怪は俺が完膚なきまでに殺した。……ツルギには俺の住んでた街のことを少し話しただろ? あれに関係することだ」

「紫苑殿の世界が関係?」

 

藍さんが首をかしげる。

 

「杏弦奏という妖怪の情報らしいんだが……」

「奏が?」

「うん、俺らの街にいた奴――西条摩可(さいじょうまか)という人類最悪の化物が、こっちの幻想郷に入り込んできたらしい。どこにいるのかは知らないけど」

「その西条摩可ってのはどんな奴なんだ?」

 

どんな奴、か。

 

俺は視線を中に踊らせる。

その姿に訝しむ3人。

 

「悪意の塊のような奴……諸悪の根元……なんかしっくりこないな。西条のババアは言葉に説明するのが難しい奴なんだよ。黒髪のゴスロリ着た幼女って外見なら簡単に伝えられるけど」

「そんなに酷いのか」

「俺の両親を『余興に最適だから』って理由で、間接的に殺した奴だぜ? 自分以外の生命を玩具みたいにしか思わない奴さ」

「「「――っ!?」」」

 

驚く要素あったっけ?

俺には3人が驚いてる原因が分からない。

 

「その、何かごめん……」

「何か謝られるようなことされたか?」

「だって……お前の両親はその西条って奴に殺されたんだろ? そんな大切なこと気軽に聞いて」

「あぁ、そこまで気にしてねーよ。両親とは言っても義理だし、西条のババアの行動なら仕方ない(・・・・)からさ」

 

幻想郷に来る前に紫に「俺の両親や血縁が~」なんて話したが、あれは大半が嘘である。血の繋がってる人間を俺は知らないし、血の繋がりだけが全てじゃない。

 

そう考えると俺はツルギと一緒だな。

 

「あと西条相手に「言葉で語り合う」なんてもんは不可能だから止めとけよ。アイツは北欧神話のトリックスター並みに引っ掻き回すことが好きな奴だからな。ほら、性悪説って知ってるだろ? あながち人間ってそうなんじゃないかなって思うくらいに、あのババアの心は歪みきってるぜ」

「……用心しとく」

「それがベスト。アイツなんかに関わってみろ。大切なものを根こそぎ奪われていくぞ?」

 

性悪説とは、紀元前3世紀頃の中国の思想家荀子が唱えた、人間の本性に対する主張。「人の性は悪なり、その善なるものは偽なり」――つまり『人間の本質は悪である』ってことだ。

暗闇から聞いた話だと、あのババアは生まれたときから狂っていたとか。同情なんて絶対にしないけど。

 

あれは大切なものを奪いすぎた。

 

楽に死ねるとは本人も思ってないだろ。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫苑

 

俺は八雲家にあるベランダから自然豊かな風景を眺めていた。

深夜も頂点を回ったところで、恐らく家の中で起きているのは俺だけであろう。

 

――いや、もう一人いるか。

 

「夜刀神紫苑、よね?」

 

振り返るとそこには金髪の美女がいた。

俺の弟子とは似て非なるもの。

 

「紫……さん、か。起こしちまったか?」

「呼び捨てで構わないわ。あちらの幻想郷では私は貴方の弟子なのでしょう?」

「今は血の繋がらない赤の他人だけどな。いや、俺の友人の家族か? どちらにしても俺とお前は初対面で、互いが『知らない奴』であることに変わらない」

 

ツルギが俺たちの幻想郷にいた紫をどう思ったかは知らんが、俺は少なくともここの紫を弟子と重ねるつもりは一切ない。

俺は所詮ここでは異分子だ。

 

 

 

 

 

「なぁ、そうだろう――杏弦奏?」

「なんだ、気づいてたのね」

 

 

 

 

 

ふと空間が歪んで現れたのは白のワンピースに白色のショートヘアー。何より目を引くのは真紅に輝く瞳と、体にまとわせる妖力。

 

「……お前が俺たちを呼び寄せた祝福の妖怪ってわけか」

「ふふ、会うのは初めましてよね? 常勝不敗の軍神さん」

「俺たちが侵食と同化の妖怪を殺してる時、遠くから覗いていた分際が初めましてとは随分と皮肉的なもんだな。あと俺は常勝不敗じゃねーよ」

 

いきなり現れた妖怪と、それを睨みつける人間。

超展開に八雲紫は言葉を失っていた。

 

まぁ、そんなことはどうでもいいが。

 

「それで? 俺とヴラド――いや、()をここに呼び寄せた理由は何だ?」

「もちろん人類最悪の化物を倒してもらうためよ」

「……多くは語らずってか? まず俺の弟子に情報を提供した時点でおかしいと思った。はっきり言って西条のババア程度ならツルギとヴァルバトーゼだけで十分勝てるはずだ。なのに異世界から俺たちを呼び寄せたのはなぜだ? 次に情報量が少ないと思ったわ。まるで――『俺たちがこっちの幻想郷の誰かと交流する事を望んでいるように』な。最後に俺とヴラドを引き離したこと。ヴラドも勘づいてたけど誘導しただろ? お前の考えが分からなかったから乗ってやったが――」

 

俺は虚空から出現させた妖刀を目前の妖怪の首に突き付けた。

叢雲はあっちの紫に預けているから使えないが、ヴラドの妖力が健在の妖刀なら祝福の妖怪といえどもタダでは済まされない。

 

祝福の妖怪にだけ伝わるように殺気を開放し、それを受けた彼女は余裕の笑みを浮かべつつも冷や汗をかいていた。

俺は声色を低くして問う。

 

 

 

「俺は知らない奴を全面的に信じるほどお人よしじゃないぜ? そういう奴から死んでいく世界で生きてきたんだ。単刀直入に聞こう――お前が俺を呼び寄せた理由は何だ?」

 

 

 

数秒の沈黙の後、この空気に耐えられなくなった杏弦が両手を上げた。

 

「勘が鋭い子だなって思ってたけど……まさか最初の段階で気づいてたなんてね。分かったわ。全部話すからその刀を仕舞って頂戴」

「………」

 

渋々俺は刀を消した。

 

「このまま信用されてないのは嫌だから、最初に言っておくけど危害を加えるつもりはなかったわ」

「そりゃ殺気がなかったからな。あったら殺してる」

「……私が貴方と話したかったのよ」

 

杏弦はため息をつきながらベランダの柵に腰掛ける。

紫もホッとしたのか策に体重を預けていた。

 

「俺と話?」

「……貴方はツルギの出生についてどう思うのかを知りたかったのよ。外の世界――戦争の絶えない世界で、ツルギが本当の兵器として生きていたことを」

「……詳しく聞こうか」

 

それは初耳だった。

相当戦闘慣れしてるのは戦って分かったことだし、外の世界が物騒なものだったのは小耳に挟んだ。しかし――アイツが兵器として使われていたのは聞いたことがない。

 

そして――杏弦奏は話した。

 

 

 

ツルギが兵器として作られたことを。

 

 

 

紫が境界を曲げたことで感情が芽生えたことを。

 

 

 

能力を使うたびに寿命をすり減らすことを。

 

 

 

幻想郷の守護者として追加の生を与えられたことを。

 

 

 

俺は杏弦の話を瞳を閉じながら静かに聞いていた。

ツルギの出生をダイジェストで語り終えると、祝福の妖怪は感想を求めるように真紅の瞳をこちらに向けた。紫も紫紺の瞳を俺に移していた。

俺は目を開けて言葉を紡ぐ。

 

「九頭竜未来・獅子王兼定・ヴラド・ツェペシュなら口をそろえて同じようなことを言うと思うよ。『たとえ歪んだ仮初の生を与えられたとしても、今という時間をどう生きるかが大切だ』とな。少なくとも俺はそう思うぜ」

「………」

「俺はツルギの出生を聞いて思ったことは一つ。『だから?』ってな。俺は今まで生きていた経緯に必要性は見いだせないし、過去がどうだろうと今のツルギは兵器じゃねーのは確かだろ。紫の家族で、幻想郷の守護者で――俺の友人だ」

 

人を殺すための道具だからなんだというのだ?

 

俺だって数え切れないほど手を血に染めた。

切裂き魔だって何百人を切り裂いた。

壊神だって狂ったように人体を物理的に壊した。

帝王だってヴァンパイアハンターや妖怪を喰らった。

 

歪な環境で生きても。

歪な生を与えられても。

 

俺たちが今を生きていることに変わりはない。

 

「お前が俺の感想を知りたかった理由はあえて問わない」

「確かに、貴方たちとツルギは似ているのかもしれないわね」

「それはツルギに失礼だぜ? アイツは人間であろうと頑張ってるのに、俺ならまだしも化物集団と一緒にされたら報われないわ」

 

つか変わろうとしてるだけ――前進してるだけマシ。

俺たちなんて停滞してるだけ。

 

「あ、そうだ。俺は紫に聞きたいことがある」

「な、何かしら!?」

 

いきなり話題を振られて戸惑う紫。

どこの紫も変わらんねー。

 

 

 

「ツルギを大切に想ってるか?」

「えぇ」

「……ならいい」

 

 

 

即答だった。脊髄反射ともいえる速度で返してきたわ。

それだけこの世界の紫はツルギのことを大切に想っているのだろう。

 

それが聞けただけで十分。

アイツは――救われている。

 

その光景を見ていた杏弦は面白そうに笑った。

どこか悲しみを含んで。

 

「本当に、貴方はツルギと似ているわ」

「そーかい」

「自分の命に無関心であるところ、自分のことよりも他人を傷つけられることに耐えられないところ、女性の好意に気付きにくい鈍感野郎なところ――」

「最後のは違うだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――自分の能力が寿命を削ること、とか?」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は大きく目を開いた。

驚きを隠せない、とはこのことじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、貴方」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あと5年も生きられないのでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




紫苑「ばれちゃってたかー」
奏「軽っ!?」
紫苑「それよりリア充のイチャイチャ空間がきつかったデス」
奏「あ、あれねー……」
紫苑「羨ましい気持ちはあるかな(´・ω・`)」
奏「貴方も同じことできる環境でしょうがΣ(゜Д゜)」

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