東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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というわけで2回目のコラボ!
撃っち先生の作品「東方『平和を求める兵器』」との混章の後編でございます。
再度書きますが、撃っち先生の方のコラボ(前編)を先に読んでおくことをお勧めしますが……どうにか未読でも大丈夫なように書きます。


撃っち先生の作品 「東方『平和を求める兵器』」は↓から

https://novel.syosetu.org/88203/


混章 命と生き方の交錯~東方『平和を求める兵器』とのコラボ~
壱話 異次元の幻想郷


人としての定義とは何か?

 

二本足で歩いていればいい?

言語を解せればいい?

知能を持ち合わせればいい?

 

 

 

――生きていればいい?

 

 

 

どれも曖昧な定義かつ、要領を得ない話である。

まぁ、すごく分かりやすく説明するのならば『自分とは違う思考・外見をしていれば人間』とでも言うべきか。ただでさえ同じ人間なのに違う思考・外見というだけで排除しようとする種族だ。これほどの皮肉的な説明はないだろうよ。

 

俺――俺達は一人の少年と会った。

そいつは外見的にどうしようもなく人ではなく、手足が機械で形成された『人造人間』だった。

一般的な、ごく普通の人間から見たら『化け物』である。

 

 

 

その人造人間――少年は人であろうとした。

 

人という感情・存在・あり方に憧れ、そんなことは物理的に不可能なはずなのに、その少年は人であろうとした。

 

 

 

『化け物が人を真似ようと化け物に変わりはない』

人という愚かな種族は喚くだろう。

 

 

 

俺からして見れば――その少年の方がよっぽど人間らしかったがな。

 

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫苑

 

「師匠、少々お話があります」

 

紫が俺の家にやって来たのは夜のことだった。

リビングで茶を飲みPCで動画を見ていたときに、安心と信頼のスキマから紫が現れた。俺はそこに座るように指示して茶を淹れ出す。

 

とっくに夕食が終わっている時間帯に何の用だろうか?

夕食を終えた魔理沙とアリスはそれぞれの家へ帰り、弟子となった霊夢は二階の寝室で寝ることが多くなった。本人曰く『博霊神社に人は来ない』と涙声で宣った。

すっごい切実だったわ。

 

「おぅ、どうした」

「八雲剣……という少年を覚えておりますか?」

「そこまで記憶力は悪くない」

 

忘れるものか。

異次元の幻想郷に住む人造人間にして守護者。

『侵食と同化の妖怪』なんて危険因子を取り除くために、俺達の幻想郷にやって来た男。他にも魔帝ヴァルバトーゼという吸血鬼や、その娘エリザベート・バートリーという守護者も居たな。

 

そいつらがどうしたのだろうか?

 

「彼の住む幻想郷に私たちの世界の危険因子が入り込んだ……という情報を、幻想郷の神である奏様から頂きました」

「危険因子多いな、最近」

「そうじゃないとコラボであちら側に行く理由が作れないじゃないですか。あの伏線残されては尚更」

「メタいな」

 

紫のメタ発言は置いといて、こっちの世界の馬鹿がツルギに迷惑かけてんなら、俺としてはその馬鹿をシバかないといけないな。

あいつらには世話になったし。

 

「で、どんな奴なんだ?」

「奏様も詳しいことはわからなかったのですが……どうやら『外見が黒髪幼女でゴスロリを来た胡散臭い不老不死』だそうで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はぁ!?」」

 

俺とヴラドは声を揃えて叫んだ。

そんな特徴の馬鹿なんて、世界広しと言えども一人しか知らない。というか知りたくなかった。

 

「八雲紫よ、詳しく説明するのじゃ!」

「ヴラド様いつの間に……?」

「説明もクソもないだろ帝王。そんなキチガイを俺は一人しか知らんぞ。つか記憶から抹消したい」

 

 

 

事件の裏側に彼女あり。

 

 

 

人類最悪の大悪党。

 

 

 

とりあえず会ったらまず殺せ。

 

 

 

「あの西条のクソババアがっ……!!」

 

あの俺たちの街に甚大な被害をいくつも作りだした諸悪の根源たるババアは、異次元にすら迷惑をかける存在だったようだ。

泣きたい。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫苑

 

情報収集とは大事なものである。

俺の化身『戦士』は特に情報量によって神力の消費量が全然違うため、俺は昔から情報というものを追い求めて生きてきた。というか求めないと死んでしまう環境下にあったため、無理やり身に着けた癖とでもいうべきか。

 

話を戻して異次元の幻想郷に訪れた俺とヴラド。

つまりツルギ達の幻想郷である。

 

未来は妖夢を鍛え上げていくのに忙しく、今回は同行を拒否した。あの人にものを教えることが苦手な未来が、妖夢に剣の指導をしているのは新鮮だった。

けど、妖夢も未来も何かにとりつかれてるように鍛えてるのはなぜだろうか? 最近じゃ霊夢も無理をしているように見えるし。

 

兼定は西条の名前を出した瞬間に逃げ出した。

案の定、とでも言ったほうがいいだろう。あいつは西条のババアが死ぬほど苦手だしね。

 

 

 

さて、ツルギの幻想郷について。

この幻想郷は八雲紫というスキマ妖怪と杏弦奏(きょうげんかなで)という『祝福の妖怪』によって作られたらしい。

こっちでの八雲一家はツルギの家族である。

 

 

 

……これだけしか情報がない。

こんな状況で未踏の地である場所を散策できるかって。

本当ならば紫(こっちver)が来るつもりだったらしいが、俺とヴラドに任せれば大抵のことは何とかなるので断念させてもらった。

 

「――おっちゃん、お茶頼むわ」

「儂も同じものを所望する」

「あいよー」

 

そんなわけで人里である程度の情報を集めながら、一休みしている俺とヴラド。

 

「まさかツルギの幻想郷でも紅霧の異変が起こってたなんてなー」

「どの次元にいても、儂の孫は元気だということじゃな」

「ここじゃお前の孫じゃないけどな」

 

分かっておるわ、と笑うじーさん。

 

小耳にはさんだ情報ではあるが、フランの姿も確認されていたので、ツルギの幻想郷の小さな暴れん坊も救われたということだ。そのことを聞いたヴラドの表情は穏やかなものだったよ。

俺が手を差し伸べなくても救われる世界。

なんと素晴らしい場所か。

 

「世界ってのは案外、自分が動かなくても勝手に救われるのかもしれないな」

「じゃが儂らの幻想郷のフランドールは主がいなければ救われなかったと思うぞ? そう都合よく事が運ぶほど世界は簡単にはできておらぬ」

「……難儀なもんだよ、まったく」

 

素晴らしい場所と言えば、ツルギが幻想郷に来る前はSFチックな外の世界で『兵器として』生きていたとか言ってたな。今でも戦争をしている紛争世界だとか。

相変わらず同族殺し大好きな種族だね、人間ってのは。

その被害者であるツルギが人間であろうとした理由がいまいち理解できないのは俺だけかな? 俺は未来のように心が読めないから分からないけど。

 

「あぁ、茶が美味い。そうじゃ、紅魔館には行かぬのか?」

「行ってみるのも悪くはないな。もしかしたら何かババアの情報を掴んでる可能性もあるし、博麗神社や八雲さん家、杏弦奏の場所も訪れたほうがいいかも。――でもさ、じーさん。もう目を逸らさずに現実を見るのも誇り高い吸血鬼として当たり前のことだと思うんだ」

「? 儂は主の言いたいことが分からぬわ」

「『分かりたくない』の間違いだろ? ほら――」

 

俺は右手の人差し指を茶屋前の店――油揚げ屋に向ける。

そこには。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい! いらっしゃい! お、そこの綺麗なお嬢さん、油揚げはいかがかな?」

 

 

 

 

 

渋い顔の若そうな青年の油揚げ屋がめっちゃ繁盛していた。

 

「………」

「お前の同族だろ?」

「わしあんなへんなのしらない」

「嫌悪感丸出しな気持ちもわからんでもないが声くらいかけてやれよ。というか言葉くらい漢字変換しろや」

 

とりあえず何とも言えない顔をしているヴラドを写メしながら笑う俺。

イラストレーターとして活躍していたじーさんと大して変わらなくね?と思うのは自分だけだろうか。吸血鬼でも油揚げは売るし萌え絵は描くし……彼らの誇り高いの基準は良くわからない今日この頃。

俺みたいな人間には理解できない領域の感性かもしれない。

んな感性知りたくもないけどさ。

 

あそこで油揚げ売ってる面白青年の話をしよう。

彼の名前はヴァルバトーゼ。7000年の時を生きる『魔帝』の異名を持つ最強の吸血鬼だ。

なんか1000年前にヴラドと戦って勝利した規格外の妖怪で、ヴラドが己を『最高』と称して『最強』と言わない理由の原因がこの吸血鬼だとか。俺なんか彼の足元にも及ばないだろう。異論は認めん。

同族殺しによって力をつけた、ある意味妖怪ぶっ殺して強制的に格を上げた紫や幽香に似たようなタイプで、同族にめっちゃ甘いヴラドにとっては府の感情を抱いても仕方のない相手でもある。俺たちの幻想郷に来た時に溝が少し埋まった気がしなくもないが、そう簡単に1000年の確執は埋められないのだろう。

 

さっさと行こうぜー、えー、的な男子中学生みたいな会話をしていると、何か見たことあるような2人がこちらに歩いてくるのが見えた。

 

一人は俺たちの幻想郷でも見たことのある方。

九つの尻尾を持つ傾国の美女。俺の認識としては『料理以外のことを何故かしてくれる美人のお姉さん』な、八雲紫の式神。

もしかしなくても八雲藍である。

 

そしてもう一人は機械仕掛けの腕と足を持つ男。

『0と1を行使する程度の能力』と『力を纏わせる程度の能力』なんて俺たちの街でもなかなか見ないチート能力を持ち、今は『幻想郷の守護者』と呼ばれる少年。

俺の友人といっても過言ではない。切裂き魔や壊神、横のじーさんみたいな歪で奇怪な親友関係ではなく。

 

「――お、お前! 紫苑か!?」

「お邪魔してるぜ」

 

買い物の帰りだったのだろう。

紳士らしく荷物を藍さんに持たせずにツルギは全ての食材を持っていた。

 

「どうしてここに?」

「少し込み入った事情があって、幻想郷(あっち)の紫に頼んで幻想郷(こっち)に足を運んだ。分かりやすく言えば――俺と帝王が首を突っ込むレベルの問題が幻想郷(こっち)で起きてるってことさ」

「――っ!? そうか……」

 

この言葉だけでツルギは把握してくれたようだ。

聡い友人は好きだぜ。

 

「ツルギ様、この方々は……?」

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前は夜刀神紫苑。こことは違う異次元の幻想郷から来た普通の人間だ。そんでこのじーさんはヴラド・ツェペシュ、普通の吸血鬼の幽霊だよ」

「普通とは失礼な」

「どこが普通の人間だよ!?」

 

どこからどう見ても普通の非力な人間だろう?

俺にはツルギのツッコミが理解できない。

 

「……ツルギ様が語ってくれた外来人が、この方々ですか?」

「そう。俺の友人だ」

「確か夜刀神紫苑殿は……『神殺』と呼ばれる4人の中でも規格外の力を持った勝利神と聞きましたが」

「百聞は一見に如かず、そんな危ない人間には見えないよな?」

「………」

「え、えぇ……」

 

藍さんは戸惑いながらも肯定する。

そして複雑な表情をしているツルギは無視。

 

「ところでさ、ちょっと聞きたいことがあるんだわ。時間大丈夫か?」

「幻想郷で大変なことが起きてるんだろ? とりあえず俺たちの家に来てくれ。俺も聞きたいことが山ほどあるし、ここで話すには物騒かもしれない」

 

そんなこんなで、俺は異次元の幻想郷の八雲一家に足を運ぶのだった。

 

 

この再会が吉と出るか凶と出るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで逃げては誇り高き吸血鬼に恥! ――おい、ヴァルバトーゼぇぇぇぇぇ!!」

「――おぉ、ヴラドではないか!」

 

 

 

 




紫苑「来ちゃった☆」
剣「そんな気軽に言われても……」
紫苑「俺だって未来と兼定連れて来たかったわ。あのババア絡みとか泣ける……」
剣「そんなに危ない奴なのか?」
紫苑「危なくて近づきたくない奴だぜ」
剣「また騒がしくなりそうだな……」

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