東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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歪で怪奇な物語は動き出す


39話 計画

side 兼定

 

あの隻腕の剣王に会ったのは人里に居た時のことだった。

相変わらずヘラヘラ笑いながら、見たことのない銀髪の女と一緒に歩いている姿。

 

『――よォ、久しぶりだなァ』

『壊神じゃん。無事来れたの?』

『ッたりめェだろ。つか、その銀髪誰だ?』

『こ、魂魄妖夢です』

 

緊張したような面持ちで自己紹介をする銀髪。

美少女の部類に入るだろうが……慧音さんのほうが数億倍可愛い。

 

『その気楽そうなアホ面、幻想郷なンていう生ぬるい世界で磨きがかかったようだなァ。今のお前なら3秒でぶっ壊せそうだぜ』

『………』

『あはは、そっちこそ寺子屋の先生に惚れちゃってるって噂を聞いたけどさ』

『ァ? 慧音さんのことか?』

『……え、マジ?』

 

自分から話題を振ってきたくせに、ガチで驚いてる表情をしやがる。

銀髪も不機嫌そうな顔をしているが、俺様には関係ねぇ。

切裂き魔の愛用していたデカい剣も持っていねぇみたいだし、今のコイツなら壊せそうな気がするが……まぁ、その程度で壊せんなら今頃コイツはいねぇか。

呆れた視線を向けていると、切裂き魔は思いついたように俺に伝える。

 

『あ、そうだ。明日辺りに白玉楼来てよ』

『……いきなりすぎて訳分かンねェ。なンで俺様がテメェの都合のために動かねェと行けねェんだよ。白玉楼ってどこだ?』

『後で教えるよ。――あれ(・・)に必要なことさ』

『………』

 

やや強引に白玉楼に行くことになった。

自分に利益がないことや楽しくねぇことはしたくないが、あの切裂き魔が『あれに必要なこと』とほざきやがったから、面倒だが行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死者が集う冥界。

 

 

そこに不老不死の呪いを持つ俺様が来るってのも皮肉なもんだ。

下手な三文小説よりも傑作だな。

 

 

クソ長ぇ階段を適当に登り切ると、何やら大勢の生き物が闊歩していた。

それも見知った顔以外は女という最悪な空間。

今すぐ帰りてぇ。慧音さんの天使みたいな笑顔見てぇ。

 

女どもは俺様を見て三者三様の反応を見せるが、それを露骨に無視して切裂き魔と――1年前に死滅した帝王らしきものの元へ向かう。

 

「お、ちゃんと来たねー。えらいえらい」

「かかかっ、いつぞやの殺人鬼ではないか。久方ぶりじゃな」

「帝王……かァ?」

「儂ほどの吸血鬼を見間違えるほど、貴様の目は節穴になってしまったのかのぅ?」

「あ? 殺んのかァ?」

 

相変わらずのクソっぷりを発揮する帝王の挑発に乗ろうとしたが、赤い巫女服着た女に仲裁される。霊力は街にいた連中に引けも取らないような奴だが、俺様なら瞬殺できるような雑魚。手や足に包帯を巻いているあたり、どっかの雑魚妖怪に出もやられたのか?

目障りだから睨みつけてやったが、一瞬だけ怯えたものの正面から俺様を見てくる。

根性だけはありますってか?

 

「そこまでにして。ヴラドさんも」

「かかかっ、ここは博麗霊夢に免じて見逃してやろう」

「それはこっちのセリフだ吸血鬼。つかテメェが人の名前を覚えるなンて珍しいな」

「紫苑の弟子の名を忘れるはずがなかろうて」

「……あの神殺の弟子だと?」

 

そうなると赤白女の印象が変わってくる。

あの軍神が育成途中ってなら、コイツは多少見どころのある奴ってことか。そういえば神殺から2人の弟子の話を聞いたことがあるが……この赤白とは違うらしい。

 

「せいぜい紫苑の顔に泥塗らねェことだな」

「分かってるわ」

「というか兼定も寺子屋で先生やってるじゃん。なに教えてるか想像もつかないけど、弟子に似たようなものでしょ?」

 

あぁ、あれか。

慧音さんに紹介されて始めてみたが、案外ガキにものを教えるのは楽しいということが発覚した。小せぇガキなんて煩いだけの集まりだと思っていたが……神殺が弟子をとる理由が少しわかる。

 

「俺様はガキに実技と数学教えてるぜ」

「ほぅ、壊神は理系というやつであったか」

「実技ってなんなの?」

「護身用の技ってやつだな」

 

まぁ、と言葉を続ける。

 

 

 

 

「中級妖怪を軽くあしらえるレベルには成長させるつもりだけどなァ」

「それ護身用じゃないわよ!?」

 

 

 

 

 

赤白がツッコんでくるが、せっかく教えてるガキ共が雑魚妖怪に殺されるのは後味がわりぃ。

特にあの水色の馬鹿みたいな妖精は素質あるな。

一対一で俺様でも反応しきれない蹴りをかましてくる辺り、育てれば大妖怪もぶっ壊せる妖精になるはずだ。

 

あの⑨の蹴りに思わず笑みが溢れる。

そしてここにいない奴のことを思い出す。

 

「そういやァ紫苑は来てねェのか?」

「バイトに行ってるから大丈夫だよ。これは紫苑には絶対に聞かせられない話だから、念入りに隠蔽しないと」

「女多くね?」

「その霊っちと、このみょんが僕たちの計画(・・・・・・)の要になるってわけだからさ。あの計画は女性の方が達成しやすいと思うからね」

 

そこの赤白と銀髪が要?

俺は声をあげて笑った。

他の奴等が怪訝な表情をしているが、切裂き魔の言葉に吹き出さないわけがなかった。

俺様たちですら成し得なかった計画を、俺様たちより格下の赤白と銀髪が達成させると? 切裂き魔の表情を見た感じは真剣なんだろうが、笑いこけないだけマシ。

 

帝王はこうなることが分かっていたのか、呆れるように首を振っていた。

 

「そろそろソイツを紹介してくれないか?」

「あ、そうだったね。みんなー、集まってー」

 

どこからどう見ても魔法使いのコスプレにしか見えない白黒の女に促されて、切裂き魔は周囲にいる女どもを集結させようとする。

マジで勘弁してくれ。

 

「まずは自己紹介からしないとね」

「なら私からだぜ! 私は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ!」

「私はアリス・マガートロイド、人形遣いよ」

「「人形? 爆発すんの?」」

「貴方たち外来人は人形=爆発するものって認識なの!?」

 

え、だって人形って爆発四散して凶悪なウィルスまき散らすバイオ兵器だろ? あの西条のクソババアもそんな感じで使ってたし、そもそも人形遣いは頭のおかしいキチガイ集団の呼称。俺様たちの間では常識である。

この金髪の女もキチガイなんだなと脳内の危険生命体リストに追加してると、切裂き魔が驚きの事実を口にしやがった。

 

 

 

 

 

「驚いたことに――アリっちの人形は爆発しないんだよ」

「なん……じゃと!? ならば何のために人形を遣う!?」

「さ、さすが幻想郷……人形に爆発以外の殺戮方法があるなンてなァ……!」

「どうして……どうして貴方たちは人形を爆発物以外の視点で見ないの……?」

 

 

 

 

 

金髪は涙を流しているが……末恐ろしい女だ。

これだから女や人形遣いには近づきたくねぇんだよ。

 

「貴方が壊神ね。私は風見幽香よ」

「紫苑の弟子その2じゃな」

「……あァ、似てるな」

 

次に紹介した女――風見幽香の佇まいに俺と帝王は納得する。

この微笑みながら威圧を放つ姿、戦闘をしているときの神殺にそっくりだ。だが――どこか他人とは思えない。

神殺は「紫よりは戦闘好き」とだけ語っていたが、確かにその一言で緑髪の女の説明は完了するだろうよ。

 

そして――俺様は金髪の二人に視線を移す。

あのデカい尻尾の奴は知らんが、隣の傘さした扇持ってる女は名前だけ知っている。

 

「んで、テメェが八雲紫か」

「初めまして、とでも言うべきかしら?」

「胡散臭ェ……と言いてェところだが、詐欺師よりは数百倍マシだな。あァ、テメェも紫苑の弟子だわ」

「そっちが八雲藍じゃな。この間の茶は上手かったぞ」

「……ありがとうございます」

 

この帝王に頭を下げている女は――もしかして九尾か?

 

「はい、最近は紫苑殿のお世話をさせていただいております」

「……よりにもよって九尾か。よくもまァ紫苑が九尾が近くにいることに耐えられるなァ」

「……すみません」

「ふン。テメェが謝ることじゃねェだろうが」

 

神殺も懲りないぜ。

あれほどの事件を体験しておきながら、それでも九尾を近くに置くアイツはもはや病気じゃねぇかと疑ってしまう。

 

九尾を端から見る限り、神殺に危害を加えそうなやつには見えない。

外見で判断できるほど世界は優しくねぇが。

 

俺様みたいに危険なやつが危険な外見してる方が珍しいってもんだ。

 

「そして冥界の管理人――」

「西行寺幽々子だな。……そういやァ今思い出した、そこの銀髪は魂魄妖忌の血縁か」

「なんじゃ、知っておったのか」

「よろしくね、ヴラドさんに兼定さん」

 

桃髪の女はにこやかに微笑んだ。

昔、神殺が炭酸飲料水飲んでるときに一度だけ聞いたことのある名前が、西行寺幽々子と魂魄妖忌だった。

義理とはいえ神殺の妹だ。

 

 

 

……妹、か。

 

 

 

そういやァ、赤白と同じように巫女の妹が俺様にもいたな。

会うこともねぇだろうが、あんな外聞ばっか気にする家にいるだろうし、歪んだ女に育つんじゃねぇかな。

俺様には関係のないことだが。

 

切裂き魔は軽く咳払いをすると、今度は俺様と帝王の方を見る。

 

「二人も自己紹介」

「かかっ、儂の名はヴラド・ツェペシュ。吸血鬼の王にして、貴様等は『帝王』の名で知っておるだろうよ。以後見知り置くがいい」

「……獅子王兼定。好きに呼べ」

 

別に覚えてもらう必要もない。

 

「さて、今回は僕がみんなを呼んだんだけど――ゆかりんは僕が言いたいことはわかってるんじゃないかな?」

「……はい」

 

少しの間があって、八雲紫は答えた。

 

「単刀直入に言わせてもらうけど、ヴラドは別として僕と兼定が幻想郷に来たのは目的がある。それは――幻想郷に逃げた(・・・)紫苑を追ってきたからさ」

「逃げてきた? 紫苑さんは紫との約束で幻想郷に来たんでしょ?」

「うん、霊っちの言う通り。紫苑は逃げた訳じゃない。『逃げてきた』は僕たちの当て付けに過ぎないよ」

 

俺様はため息をつく。

切裂き魔は昔から単刀直入とか言いながら、言いたいことを遠回しに伝わりにくく言う癖がある。

 

「そして――僕たちの計画に君たちも協力してほしいんだ。特に霊っちとみょんには頑張ってくれないと、計画が破綻しちゃうからね」

「……計画?」

「俺様たちが2年前から企み、結局達成できず、もう達成することの出来ねェもンさ」

 

 

 

2年前に暗闇から言い渡され。

 

 

 

言葉と物理で説得し。

 

 

 

結局――あの馬鹿は折れなかった。

 

 

 

「……それを私たちに話すのはなぜ?」

「もう時間がないんだよ……」

 

切裂き魔は珍しく俯く。

ヴラドも女共から目をそらす。

俺様も――そんな表情をしてんのかもしんねぇな。

 

最初に顔をあげた切裂き魔は、赤白と銀髪に改めて向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いがあるんだ、魂魄妖夢、博霊霊夢」

「な、何ですか!?」

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫苑を……夜刀神紫苑を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ぶっ殺して」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




霊夢「どうして紅魔館組は来なかったの?」
未来「ヴラド見たら気絶しちゃう方がいるでしょ」
全員「「「「「あー」」」」」
兼定「お子様吸血鬼か」

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