東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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覚悟なき決断に何の意味がある?


36話 覚悟

side 紫苑

 

白玉楼の階段を歩く俺とアホと霊夢。

理由は簡単で、白玉楼で幽々の世話役・魂魄妖夢に呼び出されているからである。なんかとんでもないことが起きたとか言ってた。

 

「とんでもないこと、ねぇ?」

「私たちは何で歩いてるの?」

「レッツウォーキングだよ、霊っち。飛んでばかりで運動しないと、あらゆるところに肉がついちゃうからねぇ」

「うっ……」

 

もうちょっと未来はデリカシーを覚えた方がいいと思う。

マジで未来死ねばいいのに。

霊夢も別に太っているわけでもないし、そこまで自分の腹回りを気にする必要があるか? 男である俺には理解できない次元の物語かもしれないな。

 

そんな未来の死を切実に願っていると、いつのまにか白玉楼に辿り着いた。いつも通りの屋敷に、少し前はクソ桜と貶していた満開に咲く西行妖。

 

屋敷の縁側でお茶を飲む幽々、その横に座る妖夢がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか見たことある老害と一緒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……詐欺師の幻覚か?」

「……いや、あれは帝王だね」

 

一年前に高笑いしながら灰となって消えた、高慢かつ厳格な吸血鬼のそっくりさんが幽々と茶を嗜んでいた。

あの『歩くカリスマ』とか呼ばれていた吸血鬼の雰囲気を忠実に再現しており、アイツ特有の仕草などを完璧にマスターしている帝王のそっくりさん。

 

 

 

もし偽物なら問答無用で殺すし、本物なら『一年前の感動は何だったんだよ!』って憤慨しながら殺そう。

 

 

 

俺はそっくりさんに話しかけた。

 

「……おい、エセ帝王」

「――おぉ、紫苑ではないか。それに未来も。一年ぶりじゃのう……儂の名付けた『鬼刀・帝』は役立っておるか? というか儂は本物の帝王じゃぞ」

「ふむ、本物か。よし未来、殺すぞ」

「りょーかい」

「ちょ!? 待たぬか小僧共!」

 

俺の容赦ない妖刀や未来のコンバットナイフの斬撃も、この吸血鬼は両手の人差し指と中指で挟んで止めやがった。未来も本気じゃないから、〔全てを切り裂く程度の能力〕は使わない。

 

うん、コイツは本物だ。

『死んだ人間にも会えるんじゃないか?』という春雪異変のときのフラグを見事に回収してくる辺り、本当に幻想郷は全てを受け入れてくれるんだなーっと実感する。ヴラドのじーさんも、外の世界で死んだときとまったく変わらない様子で存在している。

 

「紫苑さん、嬉しそう」

「んなわけねーだろ」

 

と霊夢に返してみたものの、本音は凄く嬉しい。

 

「じーさん、お前はどうやって生き返ったんだ?」

「そこのお主の義妹と同じじゃよ。今の儂は幽霊みたいなものじゃ。全盛期の妖力と能力を宿した、最高の吸血鬼の成れの果て。生き返ったわけではない」

「成れの果ての意味をもう一度調べて来い。全盛期のお前って対冥府神前の力を持ってる幽霊ってことだろ?」

 

要するに『全盛期のヴラドの幽霊』ってことか。

 

 

――ふざけんな。吸血鬼の特性残した能力持ちの幽霊とか、どうやって殺せばいいんだよ。もう死んどるわ。

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 霊夢

 

帝王……確か紫苑さんの親友の1人だったわね。

最高にして厳格な吸血鬼。2000年以上を生きる、もはや伝説と呼んでも差し支えない妖怪の王。

 

紫苑さんとの会話で時々出てくるけど、まさか幽霊となって復活しているとは思わなかった。紫はこのことを知っているのだろうか?

 

「そうじゃ、お主はレミリアとフランドールには会ったかの?」

「その二人なら幻想郷にいるぜ。お前の遺言通りにフランドールは救えたと思うし、伝言もちゃんと伝えといた」

「それは良かった」

 

紫苑さんとの会話で穏やかな笑みを浮かべるヴラドさん。高慢とかカリスマ(笑)とか、紫苑さんと未来さんは呼んでいたけれど、物凄く優しそうなお爺ちゃんって印象だ。ただ座って居るだけなのに、溢れるカリスマ性は異常だと思ったが。

外見は青年だけど。

 

「ならば儂はレミリアし会いに行こうかの」

「おいバカ止めろクソ蝙蝠。お前は俺等といいスカーレット姉妹といい、感動をブチ壊さないと気が済まないのか?」

「そのうちバレるじゃろ」

 

私もレミリアからヴラドさんの話を聞いたけど。

もし紅魔館の主が幽霊となったヴラドさんに会ったら、レミリアは色んな意味で涙を流すと断言できる。

 

「で、妖夢。貴女は私たちをヴラドさんに会わせるために呼んだの?」

「いえ、それだけではないのですが……」

 

妖夢の視線は紫苑さんやヴラドさんと会話している未来さんに注がれていた。

 

「未来さん」

「どうしたの?」

 

振り返った未来さんに合わせて、妖夢は2振りの刀を地面に置いて――土下座をした。

見事なまでの五体投地。

 

 

 

 

 

「私を弟子にして下さい!」

「え、嫌だ」

 

 

 

 

 

即答だった。

見事なまでの反射に、妖夢は思わず顔を上げた。

未来さんは幽々子の横でお茶を飲みながら、妖夢の土下座している姿を見ながら説明する。

 

「僕は弟子を取るのは趣味じゃないからね。昔から人にものを教えるってのが苦手でさ、紫苑に剣を教えた時も『お前が何言ってんのかさっぱりわかんねー。日本語OK?』って言われたくらいだし、みょんの剣術指南は難しいかな」

 

天才ゆえに教えることが難しいということか。

私も魔理沙に言われたことがある。

天才だからといってそれを上手く相手に教えられるとも限らない。むしろ天才は自分の感覚(・・)で教えようとするから、教えられている方は理解できないし、教えてる方も教えている相手が何が分からないのかも分からない。

未来さんの剣術もその例に漏れないのだろう。

 

天才にもかかわらず紫や幽香に分かりやすく教えた紫苑さんが珍しいのだ。

彼はどこまでハイスペックなのだろうか?

 

「そ、そこを何とか――」

「――小娘よ」

 

いきなり心臓を掴まれる感覚。

声の主は――茶を飲みながら妖夢を睨みつけるヴラドさんだった。

 

「半霊の分際で……分を弁えよ」

「――っ!?」

「博麗の巫女、貴様も紫苑に教えを乞うつもりだったと聞いたぞ」

「え、マジで?」

「っ!」

 

驚いた顔で私を見る紫苑さんだったけれど、私と妖夢は殺気(・・)を放つヴラドさんから目を離すことが出来なかった。

さっきの穏やかな雰囲気とは打って変わり、高慢な吸血鬼の王の名にふさわしい貫禄を持ち、私と妖夢を埤下する。座って居て私との視線は同じはずなのに、強制的に私たちが下であることを思い知らされる感覚だ。

声すら発することが出来ない。

吐き気すら込み上げてくる始末。

 

 

 

「冥界の管理者から話を聞いておったが……嘆かわしい。実に嘆かわしい。貴様らは――夜刀神紫苑という神殺と九頭竜未来という切裂き魔を過小評価しておるのではないか? 西行妖と戦った時のこやつらが本気を出していた(・・・・・・・・)錯覚(・・)しておるのなら、片腹が痛いわ」

 

 

 

私たちは反論することが出来ない。

 

 

 

「まず切裂き魔が西行妖との戦いで放った『僕の切り裂く能力でも繋がりを切れないほど強くなってる』という言葉。これの真意は『切り裂くことは可能だけど、その場合だと斬撃の余波で冥界の管理人が消滅する』じゃぞ? 未来は儂らの住んでおった街でも五本の指に入る実力者。この意味が分かるか? 本気を出せば大陸すら切断できる(・・・・・・・・・)ほどの力を持った者という意味じゃ。断言しておく。こやつに斬れないものなど存在せん」

 

 

 

妖夢は顔を背ける。

未来さんは笑いながら否定しない。

 

 

 

「そして――博麗の巫女。夜刀神紫苑は己を『普通の人間』と称しているじゃろうが、まさか言葉をそのまま受け止めているわけではなかろうな? 紫苑は自ら語らぬだろうから教えてやる。この男は儂らの街でも最強中の最強、生命というものが『畏れ』というものを抱いた瞬間に誕生した最古の妖怪――創造神と同一視される存在に唯一傷をつけた(・・・・・)男じゃ。夜刀神紫苑の異名となる『神殺』は『創造神すらも屠る可能性がある者』ということで、人間という身にもかかわらず一目置かれた存在だからじゃぞ」

「俺を強キャラ設定するのやめてくれない?」

 

 

 

私は驚愕する。

紫苑さんは抗議するも否定しない。

 

 

 

「なぜ紫苑と未来が幻想郷で本気を出さぬのか。儂らが本気を出したら幻想卿が消えるから(・・・・・・・・・)じゃ。身の程も知らぬ貴様らが師事するなど論外」

「だからどうしたのよ!」

 

 

 

私はたまらず大声を出した。

その言葉にヴラドさん以外の者が目を見開く。

 

「確かに紫苑さんたちの実力を誤解してたわ。それでも――私は強くなりたい。紫苑さんの隣に立つなんて言わない。私は! 紫苑さんに少しでも近づけるくらいに強くなりたいの!」

 

それが私の本心だった。

ヴラドさんの話を聞いて、紫苑さんという存在がどれほどのものかを見誤ってたのは確か。創造神と同一視される存在と戦うなんて私には理解することもできない。

けど――私の気持ちは変わらない。

 

「――私もです。未来さんの実力を私程度が図ることなど烏滸がましいとは思いますが、祖父から残された二振りの刀を守るためにも――私は未来さんから教えを請いたい」

 

妖夢も同じ気持ちだった。

ヴラドさんが目を細める。

 

「人間と半霊が儂らと同じ土俵に立つと?」

「「えぇ」」

合格だ(・・・)

 

 

 

 

 

……は?

 

 

 

 

 

殺気が嘘かのように霧散し、そこには高笑いをする吸血鬼の幽霊の姿があった。

 

「かかかっ、儂に貴様らが神殺と切裂き魔に弟子入りすることを拒む権利があるはずがなかろう! どれ程の覚悟があるのかを見極めるつもりじゃったが……まさか儂の殺気に耐えるとはな。惜しみない賛辞を送ろうではないか」

 

ヴラドさんは穏やかに微笑んだ。

 

「博麗霊夢、魂魄妖夢。儂が認めた(・・・・・)貴様らの名を覚えておこう。いつか儂らと横に並び立つ日、楽しみに待っておるからな」

 

あぁ、試されていたのか。

けれど……悪い気が全くしなかった。

これが――『吸血鬼の王』と呼ばれた存在。

 

ヴラドさんは微笑みを崩して、意地の悪そうな笑みで紫苑さんと未来さんを見る。

 

「さて――ここまで盛り上げておいて、弟子入りを認めぬのはどうなんじゃろうなぁ?」

「……あぁ、このクッソイラつく嗤い、帝王だわ。間違いねぇ」

「さすがにここで断ったら、僕たち悪者だよね」

 

紫苑さんは呆れるように首を振った。

未来さんは苦笑いを浮かべながら頭を掻く。

幽々子は終始一徹微笑みながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私と妖夢は弟子入りを果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




紫苑「ヴラドって紫や幽香のこと認めてるの?」
ヴラド「儂に決定権がないと言っとるじゃろ」
紫苑「今回の弟子入り9割お前のせいだけどな」
霊夢「私は感謝してるけどね」

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