東方神殺伝~八雲紫の師~   作:十六夜やと

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コラボ回後編です。
次回からは本編の日常回ですね。

それでは、ごゆっくりどうぞっ!


下話 神殺と記憶喪失

記憶喪失とは。

 

一時的に思い出すことのできない『短期記憶障害』の例として挙げられるのが、主に記憶喪失と呼ばれている。記憶喪失は記銘障害とも呼ばれるそうだ。

 

そもそも記憶とは何なのか?

過去の経験を頭のなかに残しておいて,場合に応じてそれらを思い起したり使用したりする過程,またはその機能を包括的に示す語として『記憶』という言葉は使われる。

記憶とは『記銘』『保持』『想起』の3段階から成り立つとされており、『記銘』の機能で物事を覚え込み、『保持』の機能で維持し、『想起』の機能によって思い出すことができるとされている。

 

記憶喪失となる原因として代表的なのが、交通事故による外傷性の場合や脳梗塞のような内因性による場合で、高次脳機能障害による場合もある。加えて、うつ病や統合失調症などの心因性である場合もある。要するに外的衝撃や精神病で記憶を一時的に失うというわけだ。

 

すまんね、難しい単語ばっか並べて。

俺やアホ共は難しい言葉を多用したり、変な言い回しが好きなのだ。

 

まぁ、本による知識だから実際になったことはないので、記憶喪失について自慢げに語れることはないのが、何とも言えなく心苦しい。

なってみたいとも思わないが。

 

 

さて、どこぞの馬鹿のせいで、俺は『並行世界の幻想郷』でセカンドライフを楽しんでいる記憶喪失の少年と弾幕ごっこをすることになった。あのマイペース野郎覚えとけよ。

その少年は記憶喪失で、並行世界の幻想郷に来る前のことを憶えていないらしい。

思い出そうとしても頭が痛くなるとか。

 

 

冒頭で難しい言葉を並べていた俺だが、その少年の記憶喪失は俺が本で学んだ『外的要因・内的要因』に当てはまらないのではないか?と勘が告げている。どうも聞いてみた限りだと、何やら科学的根拠に基づく作用で記憶を失ったとは思えないのだ。

俺は医者でも精神科医でもないから少年の記憶喪失を何とかすることもできないし、『戦士』の化身で治る可能性もあるが使おうとも思わない。何が起こるか分からんしな。

 

 

そんなことをしなくても。

 

 

いつかは思い出すだろ。大切な記憶なら、な。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫苑

 

「いつか未来殺す」

「いきなり物騒なこと言うね、紫苑は」

 

博霊神社の敷地にて、俺と紅は向かい合って立っていた。

紅は自分の武器である銃を二丁構えていたが……相当な実力者であることが見てわかる。よほど銃の扱いに手慣れているのだろう。

だからと言って、帝王の妖力宿した村正を抜くわけにもいかず、俺は柔軟体操を淡々とこなしていた。

 

俺は境内の縁側に腰掛けて観戦している未来に、ありったけの感謝を込めて殺人予告を送ってあげた。

未来も嬉しいだろう。否は認めん。

 

「スペルカードは3枚まで、飛行禁止、武器の使用あり――今回の弾幕ごっこの暫定ルールだけど……なんか異論はあるか?」

「弾幕ごっこ? 俺は本気(・・)のお前と戦ってみたい。なんか武器とか使わないのか?」

「いや、本気って……下手すれば死ぬぞ?」

 

そう忠告してみたが、紅は面白そうに笑うだけだった。

その笑みは――外の世界で知り合った奴等に似ていた。壊神や土御門の姐さん、幻想郷なら幽香辺りだろうか? あのバトルジャンキー共の瞳にそっくり。

 

「んなこと気にしなくていいぜ。――俺は負けねぇ」

「……こういう奴等はなに言っても無駄だからなぁ」

 

俺は仕方なしに『鬼刀・帝』を抜いた。

 

 

「さあ、戦闘開始だ。最高のショーを始めよう!」

「んじゃ、とりあえず――喜劇(ころしあい)と洒落込みますか」

 

 

いきなり紅が挨拶代わりにと銃を撃ってきた。

俺は『駱駝』の化身を発動させつつ、その銃弾を刀で受け流す。

 

第4の化身『駱駝』の効果は『反射神経・瞬間的治癒力の上昇』。神話におて駱駝は割りと登場し、移動手段や戦争の戦術としても利用されるほど、アジアやアフリカでは重宝された動物である。

ちなみに瞬間的治癒力の上昇は、負った傷をある程度なら瞬間的に塞ぐ能力で、『雄羊』みたいな欠損まで治せる訳じゃない。

 

今の俺はスロー再生のような世界にいる感覚だから、鉛の銃弾程度では俺を捉えることはできない……はず。

周囲の化け物連中には効果が薄いし、確証が持てないんだよね。

 

俺は銃弾を跳ね返した直後、流れるように紅の懐に入り袈裟斬りを放つ。しかし、それを紅は跳躍して回避し、3メートルほど脚力だけで飛んで後退する。

俺はその人間離れした身体能力に呆れるばかり。

 

「なんつー脚力だよ……。人間か?」

「そっちこそ弾丸が見えてるように弾いただろ?」

 

お互い人間離れしてると言いたいのか?

少なくとも俺は人間だぞ。ただ、能力で強化してるだけだ。

 

それから近接戦闘へと発展。

相手は銃で刀の攻撃を防ぎながら、隙があると銃弾を放ってくる。俺も負けじと銃弾をかわしつつ、胴体や避けにくい足を狙って斬撃を繰り出す。一瞬でも気を抜けば致命的。

 

 

「占術『魔術師の赤(マジシャンズレッド)!』」

「ちょっ!? 防壁『難攻不落の大要塞』!」

 

 

焔が俺にまとわりついてきて、咄嗟に防御用のスペルカードを発動させた。至近距離からの攻撃スペカほど危険視しないといけないものはないと、この間霊夢が言ってた。

その崩れた隙を逃さない紅。

銃弾を刀を握っている右腕を狙って命中させた。

 

 

 

「――っつ!?」

 

 

 

傷は瞬時に治るが、うっかり落としそうになった刀を左手でキャッチし、体を捻って紅の胴体を浅く薙ぐ。

 

 

 

「っと!?」

 

 

 

俺は二撃目を警戒して『風』で後方まで転移する。

 

「この化け物め……」

「そっちの能力もチートだろ?」

 

俺と紅は一呼吸置いて、またぶつかり合う。

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 未来

 

弾幕ごっこって何だっけ?

そう思わせるようなぶつかり合いを観戦中。

 

「よくもまぁ、紅の動きについていけるな……」

「紫苑は本気じゃないからね」

「アレが?」

 

信ちゃんは驚いているが、今までの紫苑を見てきた僕にとっては当然の結果だった。

 

「だって――紫苑は『白馬』や『猪』、『山羊』の化身を使ってないからね」

「どういう意味だ?」

攻撃特化の化身(・・・・・・・)を一切使用していないってことさ。あれらの化身は人間相手に使えるものじゃないから、紫苑は意図的に制限しているよ」

 

挙げた3つの化身は僕たちにはよく使用していた化身でもある。

僕たちとの戦闘は殺す気で(・・・・)戦わないと死んじゃうから、なんの躊躇いもなく『白馬』とか撃ち込んできたなー。

 

「勝利の神様の能力、か。俺は神様なんて信じていないけど」

「信じるも信じないも君次第さ。少なくとも『自分に好都合な神様』なんてのは、どこを探してもいないとは思うけど。紫苑だって神様なんざ信じてはいない」

「………」

 

信ちゃんは紅っちの攻撃を防ぐ紫苑を眺めていた。

 

「紫苑も大変だったんだな……」

「大変じゃない人生を送っていない奴なんていないさ。差こそはあれど、誰だって苦労してるし挫折もしてる。紫苑も――君も」

「あんたは紅と戦って勝てるか?」

今の紅っち(・・・・・)なら楽勝かな」

 

 

 

そう、今は。

 

 

 

紅っちの心が流れ込んでくるけれど、まるで『あの頃の記憶と技があれば勝てる』と言いたげな表情をしている。ここまでない記憶(・・・・)に絶対的な信頼をしている人間も珍しい。

けど――見てみたいもんだね。あの『すべての障害を打ち破ってきた勝利神』を敗北させるほどの力なんてものが存在するのなら。

 

紅っちが記憶を取り戻した姿。

 

うーん、ぜひとも遊んでみたい(ころしあいたい)

 

 

 

 

「占術『暗青の月(ダークブルームーン)!』」

「千刀『宝物庫』!」

 

 

 

 

「……どうやら決着がついたようだね」

「そうだな」

 

 

   ♦♦♦

 

 

side 紫苑

 

「あー、負けた負けた!」

「お前本気出してなかっただろ?」

 

己のスペルカードや銃を放り投げ清々しいほどに敗北宣言をする紅に、俺はスペルカードをポケットにねじ込みつつ目を細めながらツッコむ。

どこからどう見ても――コイツは手加減をしていた。

 

俺の問いに紅は笑うだけだった。

 

「あんたも本気じゃなかっただろ。お互い様さ」

「何のために戦ったのか分かったもんじゃねーな」

「だな!」

 

コイツ本当に元気だな。

嫌いじゃないけどよ。

 

そんな感じで俺も笑っていると、どこからともなくスキマが開いて紫が現れる。紅もあっちではお馴染みの光景なのか、特に驚く様子もなかった。

 

「紫、見つかったか?」

「はい、彼らの世界線ですよね?」

「そそ。よくやったな」

 

誉められて嬉しそうにする紫に、紅は引きつった笑みを浮かべるだけだった。さすがにこの光景は見慣れないか。

 

「紫苑がBBAの師匠って本当だったのかよ」

 

 

 

ブチッ!

 

 

 

なんか聞こえてはいけない単語と音が聞こえた気がするけど、恐らく幻聴のはずだ。そうだと言って。

 

まぁ、年齢4桁の紫は人間から見れば老婆かもしれない。

俺としては『綺麗なお姉さん』でも十分通るだろうし、妖怪から見れば若いだろ? 俺の感性だから紅に押し付けることはできないが、少なくとも紫は若いよ。

俺にとってのBBAは西条のクソババアだけで結構だ。

 

「とりあえず紫はスキマで信と紅を送ってあげて。お前がヒビ入れた地面は未来が直すからさ」

「Why?」

「わ、分かりました」

 

アホ面晒してる未来を無視して、こっちに来た信と紅に大きめのタッパーを渡した。中には昨日霊夢から死守したカレーの残りである。

 

「これは?」

「土産だとでも思っといてくれ。せっかく並行世界の幻想郷に来たんだし、手ぶらで帰るのも惜しいだろ?」

「そっか、有り難く頂いとくぜ」

 

素直に受けとる信と紅。

紫が人間が二人入れる程のスキマを開き、並行世界の幻想郷に住む少年たちを誘う。

 

 

「じゃあな、世話になった」

「いいってことよ。元気でな」

「今度会ったら紅っち勝負しよ?」

「望むところだ!」

 

 

もう会うこともないだろう。

それでも――なぜか『さよなら』は言えなかった。

 

 

 

 

こうして――二人の少年はもとの世界に戻った。

 

 

   ♦♦♦

 

 

「あ、早苗。おかえり」

「帰っていたんですか!?」

 

神社に戻ってきた少女は、少年の姿に驚いていた。

昨日帰ってこなかっただけに、少女は心配していたのだ。

 

「早苗~。早くしないとカレーなくなるよ?」

「凄く美味だな」

 

居間でカレーを食す二柱。

 

「諏訪子様、神奈子様、そのカレーは?」

「信が持ってきてくれたのさ」

 

少女は少年に問う。

 

「貴方が作ったのですか?」

「いや、これは――」

 

少年は少女に笑みを浮かべながら答えた。

 

 

 

 

「――勝利神が作ったカレーだよ」

 

 

 

 




紫苑「コラボお疲れ様」
信「なかなかに楽しかったよ」
未来「また来てね。今度は大人数で歓迎するよ」
紅「うちの幻想郷も良いところだぜ?」
紫苑「それもアリかもな」


霊夢「……なんかカレー食べたりないわね」
アリス「3皿は食べてたわよね!?」
霊夢「なんか数食分なかったような……?」


四人「「「「( Д)゜゜」」」」

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