そうして私と彼の高校生活は…   作:桜チップス

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多くの方に読んでいただいて、更に感想までいただき、感無量です。
本当にありがとうございます!!


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午前5時。

けたたましい目覚ましの音に叩き起こされ、二度寝したい気持ちを振り払いながらベッドからモソモソと這い出た。

寝ぼけ眼のまま洗面所に向かって冷たい水で顔を洗い、両頬を手のひらで、パチン!と叩いて無理やり眠気を吹き飛ばし、気合を入れた。

 

「よしっ!」

 

今日はいつもより早く起きたのもあるが、昨日は特に寝つきが悪かったのもあり、まだ少しボーッとする。

いつもは夕飯のあと、お風呂に入って夜の日付が変わる少し前くらいまで勉強をしてそのまま睡眠をとるのが流れだが、昨日は勉強道具を広げるも、全然手をつけずただ机の上でボーッとしていた。

もう今日は早く寝ようと布団に入ったはいいが、それでも頭が思考を止めてくれない。

それどころか、自分の行動を思い返してベッドの中で怒ったり喜んだり悲しんだり恥ずかしんだりと、1人で百面相を繰り広げていたため結局、寝付いたのは日付が変わってからだった。

そのことを思い出して、何やってんだ私は、と気持ちが沈みかけたが再度気合を入れなおし、台所に向かった。

彼には昨日、味には自信あると大見得切ったのはいいが、お弁当を作るのは実は人生初だったりする。まぁなんとかなるだろうと軽い気持ちで考えていたが、いざ作るとなると少し不安になってきた。

あれ?

階段を降りたところで、台所の灯りがついていることに気づいた。

覗き込むとそこには、この前の誕生日に渡したエプロンを身につけて料理の支度をしている笑顔の祖母がいた。

 

「優希、おはよう。」

「おはよう。おばあちゃん、今日から私がお弁当作るって昨日言ったのに。」

 

私が物心ついたときにはもう両親はいなかった。祖父も私が生まれる前から亡くなっている。だから小さい時は周りから可哀想だとか、寂しいだろうとか、変に気を遣われていた。

だが、これまで自分を可哀想とか、両親がいなくて寂しいと思ったことは一度もない。これも全て、私を愛情を持って育ててくれた祖母のおかげだ。本当に感謝している。

 

「優希が作るところを見とかなきゃって思って。あと、最初だからせめて準備だけでもね。初めて作るお弁当が失敗するのはいやでしょ?」

「むー、確かにそうだけど…」

 

正直、かなりホッとした。

いつもは祖母が朝早くに起きてお弁当を作ってくれている。

私も手伝おうとは思っているんだけど…

朝は弱くて…

 

「それに、彼にも美味しいお弁当食べてほしいでしょ♪」

「へっ⁉︎いや、違うよ!と、友達にあげるの‼︎」

「あら、そうなの?てっきりいい人でもできたのかと思っちゃったわ。」

「なっ!そんなんじゃない!」

 

おばあちゃんはいきなり何を言ってるんだ。

彼はそんなんじゃない。そう、ただのお詫びだ。彼には散々迷惑かけちゃったし、謝罪すらも受け取ってくれないから、せめてこれくらいはしないと私のプライドが許せないからであって、だからそんなんじゃ…

瞬間、彼が私を心配そうに覗き込んできたときのことを鮮明に思い出す……

 

「あら?優希、顔が真っ赤よ。」

「…!」

「彼のことを思い出すのはいいけど、時間ないから早く作っちゃいましょ。」

「ち、違うって!」

「はいはい、じゃあまずは卵焼きからね。」

「うー…お願いします。」

 

初めて作ったお弁当はおばあちゃんの指導もあってうまく作れたと思う。というか、おばあちゃんがいなかったら卵焼きもまともに作れなかった。

今度、料理の本でも借りてこよう…

 

「お疲れ様。早く着替えてらっしゃい。もうそろそろ学校に行く時間じゃない?」

「ホントだ!すぐ準備してくる!」

 

部屋に戻って手早く準備を済ますと、先ほど作ったお弁当をカバンに詰めて出発する。

 

「おばあちゃんありがとね!いってきます!」

「気をつけていってらっしゃい。頑張ってね。」

 

最後の頑張ってねは、きっと勉強のことだろう…

そう、ただお弁当を渡すだけだ。

でも…あわよくばお話しとかして、少しでも仲良くなれたら…

そして、友達になれたらいいな。

少しだけ、期待に胸を膨らませながら、元気よく玄関を出た。

 

 

「夕舞さんおはよー!」

「おはよう。」

 

教室に着いた私は、クラスメイトと挨拶を交わしたあと自分の席についた。

直後、派手なグループが私の周りに集まった。

 

「優希ちゃんおはよ♪」

「うん、おはよう。」

 

その中のリーダー格である男子が人懐っこい笑顔で挨拶をしてきたから、私も笑顔で挨拶を返す。

 

「優希ちゃんさ、昨日の宿題やってきた?」

「うん。」

「お願いします!どうか見せて頂けませんか?」

「えっ?いいけど…合ってるかわかんないよ?」

「優希ちゃんならダイジョブだってー。コイツ等より全然信用できるし!」

「なんだよそれー、てか下心みえみえじゃん?」

「そうそう、他にも頭いいやついっぱいいるのに、ピンポイントで夕舞さんだもんな。」

「なっ!うるせーよ‼︎」

 

みんな朝から元気だなー。

苦笑いしながらカバンから昨日の宿題を取り出そうとしたのだが…

 

「あれ?なんで弁当2つもあんの?」

「…!」

 

しまった。まさか、カバンの中を見られるとは迂闊だった。

 

「えー!なんでなんで⁉︎」

「うそ?まじで!」

「誰にあげるのー⁉︎」

 

そして一瞬にしてクラスに広まった。

クラスメイトたちはほぼ全員、こちらに視線を向けている。

やはり、女子がお弁当を2つ持ってくるということはそういうことなのだと、思春期真っ盛りな高校生たちは思うだろう。

もちろん私はそれを否定する。

 

「違うよ。友達に作ってきたんだよ。食べてみたいって言うからその子の分も作ってきたんだ。」

「そうなの?友達って、藤堂さん?」

「う、うん。そうだよ。」

「なんだー!てっきり彼氏とかにあげるのかと思ったー。」

「ついに彼氏ができたのかと思っちゃったじゃーん。」

「ビックリしたー。」

 

とりあえず桃花には後から話合わせてもらうとして…

横目で彼の席を見ると、いつもの如くイヤホンをさして机に突っ伏していた。

よかった。なんとなく彼には聞かれたくなかったから。

なんとか騒ぎは大きくならず、そのまま終結してくれた。彼に渡すのは絶対バレないようにしようと固く誓ったところで、始業のチャイムか鳴った。

 

 

おかしい…

授業がひとつずつ終わるにつれて、私の心臓がより活発になっている。

現在3時間目の授業が終わりを迎えて休み時間。あとひとつ授業が終われば昼休みで、そのときにあの場所で彼にお弁当を渡して食べてもらう予定だが…

彼とまた2人きりになると考えただけで顔が熱くなって、呼吸が早くなる。どうやら、私はすごく緊張しているみたいだ。

想像しただけでこれなのだ。2人きりで会ったら…

ちらと彼の席を見ると、本を真剣に読んでいた。

瞬間、心臓が更に跳ね上がる。

2人きりなんて無理だ…心臓が爆発するんじゃないか。

私は昨日裏切った親友の元へ、なるべく平静を装って向かった。

 

 

「お願い!お昼休みになにも言わず私についてきて!」

「い、いきなりどしたのさ?」

「なにも聞かないで!お弁当だけ持って一緒にきて!」

 

場所は人気のない屋上に続く階段。私の様子を見るなり、桃花にすぐこの場所に連れてこられた。

たぶん私が冷静ではないことをすぐ察したのだろう。さすがは桃花。

そしていきなり本題をぶつけた。理由も話そうか考えたが…緊張するから一緒にきてなんて言いたくない。

 

「わかった!わかったからちょっち落ち着きなって。とりあえず優希が切羽詰まってるのは見て分かるからさ。」

「うん。」

「…りょーかい。理由は聞かないよ。とにかく一緒に行ってご飯食べればいーんでしょ?」

「ありがと!ほんと助かるよ!」

「ニヒヒッ、これで貸しふたつだねー♪」

「ふたつ?なんで?」

「忘れたとは言わさんぞー!昨日あんだけお膳立てしてあげたんだもん。これで貸しは「それは本気で言ってんのかな?」いやほんと勝手な真似してすみませんでした。」

「いや、でも結果的によかったからさ…うん、ありがとね。」

「やっぱりー!いやいや、どういたしま「でも貸しとは思わないから。」ですよねー。」

 

 

そのあと、少しだけ話をしてお互いまっすぐに教室に戻った。

よし、桃花がいてくれたら少しは緊張が和らぐ…かも。

あとはお昼休みを待つのみ。よし!

私は決戦(?)に備えて、小さく拳を握って気合いを入れた。




少しだけ優希の家庭事情を書いてみました。
次話は初の3人での絡みを書いていきます。
かなり楽しみです♪
今回も読んでいただきありがとうございました!

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