そして、これから感想はなるべく早く返事をお返ししたいと思いますのでご容赦ください。
またやってしまった…
どうしてこうなってしまうのだろう。
顔から火が出るほど恥ずかしい思いをして数分後。
桃花の策略に見事ハマってしまった私たちは今、少し距離を置いてベンチに座っている。
「……」
「……」
時間にしておそらく1分程度だと思うが、感覚的にもう10分くらい経ったのではないかと思えるほどの気まずく長い沈黙が私たちを襲う。
彼の方に視線を向けると、とても居心地が悪そうに視線を動かしたり指をいじったりしている。
私がまたもや痴態を晒した後、彼はそそくさと私の横を通り過ぎて帰ろうとしたがその瞬間、勢いよく彼の腕を掴んで引き止めてしまった。
話があるからと言い、強引にベンチに座らせたまではよかった(のか?)が、なにせいきなりのことだったため、話したいことがまとまっていなかった。そして、お互い言葉が出てくることなく、今の状況に至るわけである。
どうやら私は、イレギュラーにとてつもなく弱いということを今日、初めて知った。とりあえずなにか話さなくては…
頭の中をフル回転させて、話す内容をまとめようとするが、そこで私の視線と彼の視線がぶつかってしまう。
「…!」
首がもげるのではないかと思うほどの勢いで反対方向を向いてしまう私。何をやっているんだ私は…
落ち着け…
彼には前にも恥ずかしいところを見られたではないか。
今更どうということはないはずだ。
もう大丈夫だ。
意を決して彼に体を向け、話しかけようと息を吸い込んだ、が…
「…なぁ?」
「ふぇ?」
先に沈黙を破ってきたのは彼だった。出鼻をくじかれた私は、肺に空気を溜めたまま返事をしたため、とてつもなく間抜けな返事になる。
…落ち着け。
熱くなった心と顔をクールダウンさせ、冷静な対応を心がける。
「…なに?」
よし。若干声が上ずっている気もするが、概ねいつも通りだ。
「…話があるんじゃなかったっけ?」
彼はすごく何かを言いたそうな顔をしていたがそれを引っ込めて、早く本題に入るよう促してきた。
そうだ。親友の策略とはいえ折角くれたチャンスだ。
長く息を吐いて気持ちを仕切り直し、彼の目をまっすぐに見た。
「…うん。この前のことをもう一度あやまりたいのと、お礼を言いたかったんだ。」
そう。私は何よりもまず、彼にもう一度あやまりたかった。
彼には全て正直に話そうと思う。
たとえ…彼から嫌われることになっても…
「この前のことって、本のことか?あれはイジメじゃなかったって分かったし、もう終わったことだから別にいいって言っただろ。」
「君はそう言ってくれるけど、無断で本を持って行ったのも事実だし、そのことで君にイジメが始まってしまったんじゃないかって思わせたのもまた事実なんだよ。結果がどうであれ、そうなったのは間違いなく私のせいだよ。」
「……」
「それに…あのときの君の言葉は、私を気遣ってのことか、単純に面倒くさくて早く終わらせたかったからなのか、それとも真実なのか分からない。でも…」
一度言葉を区切り、深く息を吸ってお腹に力を入れた。
「私は、君の言葉に甘えてしまった私自身が許せなかった。すごく腹が立ったし、なにより…悲しかった。だから、私は君に許してほしくて謝ってるわけじゃなくて、ただケジメをつけるためにあやまっているだけかもしれない。
本当に…ごめんなさい。
それと、私のこんな下らない自己満足の話に付き合ってくれて…ありがとう。」
言ってしまった…
今度こそ彼は私を許さないだろう。
なにせ、私は彼の気づかいを踏みにじったのだ。
それでも、理由は分からないけど、私は本音で彼に全てを話したかった。いや、本音で話さなければいけないと思ったんだ。
…嫌われただろうな。
そう思った瞬間、まるで心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
胸が苦しい…
彼のこれから発せられるであろう言葉が怖い。
ヤバい…脚が震え、頭がクラクラしてきた。
人から嫌われるのは中学のときに体験している。仲良く話していた友人からの突然の拒絶。あの時の深い悲しみは忘れたくても忘れられない。
(私が黒川くんのこと好きだってこと夕舞さん知ってたよね⁉︎)
(ち、違う…私はなにも…)
(何もしてないのに黒川くんが告白するわけないでしょ。)
(三好さんかわいそう…)
(サイッテー…)
突如、あの時の出来事がフラッシュバックする。
ダメだ…
息が苦しくなって呼吸が荒くなる。
高校に入ってから一度もなかったのに…
「お、おい!」
久々の過呼吸の苦しさに、私はその場に膝をついた。
「落ち着いたか?」
「うん…」
それから30分後、どうにか呼吸が落ち着き、私は彼が買ってきてくれた水を飲みながら気持ちも落ち着かせていた。
「…対応、慣れてたね。」
「あー、前にこま…妹がな。よく過呼吸になってたから自然とな。」
「そっか…」
そして、またしばらくの無言。
これ以上、彼に迷惑はかけられない。
腰掛けていたベンチから立ち上がり、彼に頭を下げた。
「本当にごめんなさい。君には迷惑をかけっぱなしだね。もちろん私に言いたいことはいっぱいあると思う。」
「そうだな。」
胸がズキリと痛む。
「だから、今から君の言いたいこと、全部聞くよ。」
「待て。ついさっき過呼吸になったばかりだろ。今日はもう帰って後日にでも…」
「ダメなの‼︎今日を逃したら、私はこれから毎日、君から逃げてしまうかもしれない。」
「……」
「だから、お願い…今、話して…」
「…分かった。」
彼は何から話そうか迷っているのか、しばらく沈黙が流れた。
あの日から、高校に入って強くなると決意したのに、結局のところ私は何も変わっていない。
でも、ここで彼の言葉を全て受け止めることができれば、少しは強くなれるのかな。
私は再度、どんな結果になろうとも全て受け入れることを決意して、彼を真っ直ぐにみた。
そして彼は何を話すか決まったようで、こちらに向いてゆっくりと話し始めた。
「じゃあ、お前が最初に謝ってきたことだが…」
「…うん。」
「そんなんさ、当たり前のことじゃね?」
「うん……え?」
一瞬、何を言われたか分からなかった。当たり前?そんな…
「そんなわけ「まぁ最後まで聞け。」…はい。」
「謝るって行為はその人に許してもらいたい、反省してますって意味が一般的だろ。でもそれじゃ半分なんだよ。じゃあもう半分はなんだ?」
「…私と同じってこと?」
「そうだ。謝ったという事実が自分の中に欲しいだけなんだよ。たとえ相手がまだ怒ってても謝ったけど許してくれなかったって事実があれば多少は諦めがつくだろ。それにお前の言うケジメってのもつく。」
「違う!みんながみんなそうじゃないよ!私だけかも知れない。」
「そんなこと言ってたらキリがないだろ。それでも謝りたいってんなら教会にでも行って神父にでも聞いてもらってくれ。それに…」
「……?」
「自分だけかも知れないとか言ってるけどな、俺だってそうだ。」
「……!」
「むしろ俺が謝る理由なんか半分どころか9割以上が自己満のためだぞ。」
そう言って胸を張る彼。
…参ったな。
これ以上こっちが何を言っても無駄だ。何を言い返しても勝てる気がしないや。
言ってることはどうかと思うが、それでもウソかホントか分からない彼の言葉に甘えてしまう。
なにより…俺だってそうだ、といってくれたとき、本当に嬉しかったんだ。
あんなにも彼に甘えた自分に憤りを感じ、悲しい思いをしたのに、今は安心してしまっている自分に、私って単純だなっと考えてる自身に少し呆れる。
本当に…
「ほんと…君は捻くれ者だね。」
「…お前もな。」
「…そうだね。」
そう言って私は空を見上げた。夕陽が空を夕焼け色に染め上げていた。私は小さい頃に母と今日みたいな綺麗な夕焼け空のなか、手を繋いで家に帰った時のことを思い出していた。
あのときみたいに心があたたかい…
ドクン…
気づけば私は彼の左手に自分の右手を重ねようとしていた。
(…‼︎)
その事実を知るや否や、急いで右手を身体の前に引き戻し、左手で右手の甲をさすった。
なに?今の…私は今、何をしようとしていた?
勝手に動いた身体にパニックになりながら、私は必死に落ち着かせようと胸に手を当てて軽く深呼吸をした。
「おい?大丈夫か?」
彼は私の浅い深呼吸を過呼吸と勘違いしたのか、慌てて私の前に膝立ちで座る。
「ち、違うから!もう大丈夫だから!」
「いや、でもお前顔も赤いし、少し苦しそうじゃねえか。」
「ほんと大丈夫だから!顔が赤いのは夕陽のせいだから!」
「そ、そうか。」
「だから離れて!」
「…そうですよね。俺みたいなキモい奴が急に近づいたりしたら悪化しちゃいますもんね…」
彼は濁った目を更に濁らせながら、こちらに聞こえないような声でブツブツと何かを言いながらカバンを手を取った。
「そんじゃ、もう帰るわ。今度こそ、この話はこれで終わりだからな。」
「あっ…」
そうだ。この話が終わってしまえば彼との接点はなくなってしまう。教室では話しかけるなと彼から釘を刺されているため、これから先、彼とはなんの関係もないただのクラスメイトとしてなんの絡みもなく、3年を過ごすことになるだろう。
イヤだ。
もっと彼と話したい…
もっと彼を知りたい…
「待って!」
「…?」
「えっと、その…」
またもや話す内容がまとまっていないにもかかわらず、呼び止めてしまった。
えっと…そうだ!
「その…お、お詫び!そう!君には散々迷惑かけたからさ、お詫びになにかさせてよ!」
「いや、いらないから。強いていうなら、早く帰らせて。」
「そうじゃなくて!なにかして欲しいこととかないかな?できる限りのことならなんでもするから!」
「な、なんでも…だと…」
瞬間、彼の目がすごい勢いで腐った気がした。
「え?いや、それは…ちょっと…」
「まだなにも言ってないんだけど…」
「目が全てを語ってたよ。」
「目だけで俺の考えてること全部分かっちゃうとかエスパーかよ。てか、ドン引きしながら自分の身体を腕で隠すのやめてね。通報されちゃうから。」
「そんなことはいいからさ!」
「そんなことで片付けられちゃったよ。」
「例えばさ、す、好きなものとかないの?食べ物とかさ。」
なぜかこの質問には少し勇気がいった。そして、彼の返答に少し緊張している自分もいた。
「マッ缶。」
「へっ?」
「だから、マッ缶だ。千葉県民のソウルドリンク。」
かなり予想外の答えが返ってきた。マッ缶ってまさか…
「あの黄色い缶コーヒーの吐き気がするくらい甘いやつ?」
「よし、お前とは朝までとことん話し合う必要があるみたいだな。」
まさか、本当にあの暴力的に甘いコーヒーのことだったのか…
一度だけ、桃花のを一口もらったことがあるが、あれは衝撃的だった。あまりの甘さに一瞬、練乳を直飲みしたのかと勘違いしたほどだ。
そして、彼の冗談(?)とはいえ話し合うと聞いて少し嬉しく思ってしまった自分が情けない…
「はぁ、とにかく詫びなんていらねーから。じゃあな。」
帰ってしまう!どうすれば…
黄色い缶コーヒー。そういえば昼休み彼は飲んでいたな。パンと一緒に…パン?
そういえばいつもパンのような…
そうだ‼︎
「そ、それじゃあさ…明日からお弁当作ってくるよ!」
「…は?」
この時の私はとにかく彼との繋がりが欲しくて必死になりすぎた結果
…完全に暴走していた。
「お昼はいつもパンだよね?」
「いや、確かにそうだけど…」
「よし!じゃあ明日から作ってくるからパンは買ったらダメだよ!」
「待て待て待て!話を勝手に「大丈夫!味も少しは自信あるし、栄養だって考えて作るからさ!」あ、それはありがたい…じゃなくて!」
「明日のお昼休みは私もここに来るからその時に渡すよ!」
「おい!」
「それじゃ、また明日!」
私は早口でまくしたてて言いたいことを言いきるとそのまま走ってこの場を去った。
後ろからは彼がまだなにか言っていたが、聞こえないフリをした。
だって、こうまで強引にいかないとまた彼に言いくるめられそうだったから…
校舎を出ると、夕陽はすでに半分ほど隠れていた。
今日の出来事を思い出そうとするが、色々とありすぎて頭の中がごちゃごちゃしている。
しかしひとつだけ、はっきりと思い出せることがある…
それは、無意識に彼の左手に右手を伸ばしたときのあのあたたかい気持ち。
途端に自分でもわかるくらい顔が熱くなり、胸が苦しくなる。
本当になんだろ?
確か中学のときも、桃花のことを知りたい、話したいと思った。今回もたぶん、彼と友達になりたいと思っているのだろう。
でも、この胸を締め付けられる感じはなんだろう?桃花のときはこんなのなかったのに…
結局、家に帰ってからもずっと考えてみたが、初めての経験である優希に答えなど出るはずもなかった。
ちなみにその日の夜、強引に彼の弁当を作ると言い張る、必死になりすぎていた自分を思い出して、枕に顔を埋めて悶えていたのはまた別の話。
八幡…難しいです。
うまく八幡の心情が書ける皆様がとても羨ましいです。
努力します。