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お昼休み終了間際、お弁当を食べ終えた私たちはすぐさま教室に戻った。
すると、別れる際、桃花はこちらに振り向いて、
「そうそう、今日の放課後だけどさ。ちょっち一緒に行きたいとこあるから空けといてねー。少ししたら迎えにいくからさー。」
「えっ?ちょっ…」
また後でねー!と、こちらの返事を待たずに手を振ってそのまま走って行ってしまった。
ハァッ、ほんと強引なんだから。今日、何回目かわからないため息をついて、私は自分のクラスにまっすぐ戻った。
全ての授業が終了して放課後、私は桃花との強引な約束を果たすため、みんながいなくなったあとも机に座っていた。ただ待つのも暇なので今日の授業の復習をすることにしたが、準備をしている最中、私の席に人影ができた。
桃花かな?と思い見上げると、そこには数日前に私に告白してきた伊藤君の姿があった。
「やあ、夕舞さん。」
「こんにちは、伊藤君。」
彼は爽やかな笑みで挨拶を済ませると、そのまま私の対面の席に桃花同様、無許可で腰を下ろした。
「何してるの?」
「友達を待ってるんだけど、まだ来ないみたいだから勉強しようと思って…」
「じゃあその友達が来るまで僕の話に付き合ってよ。」
「えっ、うん。」
今日はクラスメイトが部活やら何かしらの用事があるやらで早々に教室から抜けたため、話しかけてくる人がいなかった。正直、桃花が来るまでに予習をある程度済ませておきたかった。だが、告白を断った手前、彼の提案を無下にすることはできなかった。
「夕舞さんってさ、休日はいつもなにして過ごしてるの?」
「大体は勉強をするか読者したりして過ごしてるかな。」
「へー、僕はあんまり本は読まないかな。ほら、部活が忙しいからさ、帰ったらすぐ寝ちゃうんだよね。」
「そうなんだ。」
「部活がない日は友達と遊びに行ったりするし、あんまり1人でいる事ないんだよね。おかげで勉強が進まないよ。自業自得なんだけどね。」
ハハハッ、と彼は笑っているが、どこが面白いのかさっぱりわからない。とりあえずこちらも笑顔を作るが、上手く笑えたかどうかわからない。
「そうだ、そろそろ夏休みに入るよね。夏休み中、一緒に勉強しない?」
「えっ?」
「と言っても、夕舞さんは成績いいから僕が一方的に教わる形になると思うけど。友達を助けるためだと思ってさ…お願いします!」
ここで友達ときたか…
ごめんなさい、という言葉が喉まで出かかったが、それを無理やり飲み込んだ。ここで断ったら彼はこの出来事を他の人に話すだろう。ただでさえ私に対してあまりいい感情を持っていない女子も少なくないのに、更に敵を増やす形になってしまう。誘いに乗ってもいい顔はされないが、この場合は断ったほうが多くの敵を作るということを経験上、私は知っていた。
私はただ平穏な高校生活を過ごしたいだけなのに、これ以上厄介ごとが増えるのはまっぴらごめんだ。
…いや、違う。
私は人に悪意を向けられるのが、ただ怖いだけなのだ。だから私はたとえ自分の苦手な話でも、クラスメイトたちの話にヘラヘラと愛想笑いで適当な返事をする。桃花はそんな私を優しい子と評してくれるが、それは間違いだ。
私はただ…
「夕舞さん?」
「…!ご、ごめんなさい!少し考え事をしてて…」
「全然いいよ。それに考え事してる夕舞さんも綺麗だったから見れてラッキーだよ。」
彼は恥ずかしげもなく歯の浮くようなセリフを口にした後、私は次の一言で一瞬、呼吸が止まった。
「あとさ…夕舞さんのこと…優希って呼んでいい?」
「…‼︎」
彼は今日1番の笑顔で私に問いかけてきたが、冷房の冷気がまだ残っているこの教室で、私は背中から汗を流していた。
(君のこと、優希って呼んでいい?)
過去の記憶が瞬時に蘇る。
私がなにも言えずにいることに彼が訝しんでいるとき、
「ゆ・う・き・ちゃん‼︎」
教室のドアから、場違いな明るく元気な声が聞こえてきた。目を向けると、そこには親友がニコニコしながらこちらに手を振っている姿があった。
「って、あららー?まさか私、お邪魔だったかなー?」
「いや、大丈夫。それじゃあ伊藤君、バイバイ。」
「…うん、また明日。」
私はカバンを持ち、伊藤君に上手く笑えたかわからない笑顔で挨拶をすると、すぐさま桃花の元に駆け寄った。そのまま教室を出て、廊下を少しの間、無言で歩く。
「…ごめんね。」
「ううん…ほんとはね、少し前から見てたんだ。伊藤君も彼なりに頑張っていると思ったからさ、邪魔するのはちょっと気が引けてね。もっと早く声かければよかったね。だから…ごめん。」
「違う!桃花は全然悪くない!もちろん伊藤君だって!全部私が…」
「はい!この話はしゅーりょー‼︎こっからは明るい話題オンリーだかんねー!もちろん破ったら罰ゲームだから♪」
桃花は明るい声でこの空気を払拭すると、鼻歌を歌いながら前を歩き始めた。
…敵わないなぁ。また桃花に救われちゃった。前を歩く彼女の小さな背中が大きく見える。
早く、桃花と肩を並べて歩きたいな。そして、今度は私が桃花が困ったときに助けるんだ!
そう心に固く誓い、周りに誰もいないか確認したあと、後ろから勢いよく桃花に抱きついた。
「そういえばさ、行きたいとこって言ってたけどどこなの?」
中学のときから一緒に出かけることは多々あり、いつもは桃花が私を連れ回していたのだが、今回は少し趣向が違った。
「実はさー、優希が比企谷君と話した場所が海風が心地よかったとか落ち着くとか言ってたからどんな場所か気になっちゃってねー。私も案内してよー。」
「えっ?全然いいけど…でもそんな楽しい場所じゃないよ?」
「いーんだって!優希が好きな場所がどんなとこか知りたいだけ♪」
桃花の答えに私の頬は自然と緩む。
そんなことなら喜んで案内するよ。
今の私はとても上機嫌だと自分でもわかるくらいで、今なら親友のお願い事をなんだって聞いてあげる気でさえいた。
私は珍しく終始笑顔で、彼女をあの場所に案内した。
校舎裏が近づくにつれ、テニス部の掛け声が近くなっていく。
もうすぐ到着だ。桃花とたわいもない話をしながらもうすぐ着く旨を伝えると、彼女はニコニコしながら、りょーかーい!と元気よく返事する。
ここの角を曲がればあの場所だ。あのときの彼とのやりとりを思い出して、屋上のときみたいになぜか顔が熱くなる。
私は小さく頭を振り、気持ちを落ち着かせてから角を曲がる。
「着いたよ。ここ…が……」
私はよく本で出てくる、絶句という言葉を今まさに体現しているのだと思う。
そこには…
心地よい海風に身を吹かれながら読書をしている比企谷君がいた。
彼は本に集中しているからか、それとも私の声がテニス部によって掻き消されたかはわからないが、まだ気づいている様子はない。
私はしばらく茫然としていたが、これが親友による策略だということに気づくまでそう時間はかからなかった。
勢いよく後ろを振り向くが、そこには最初から誰もいなかったと言わんばかりに、校舎の角と1本の木が申し訳なさそうに立っているだけだった。
パタン
後ろから、いつもの聞き慣れた本を閉じる音が聞こえたので恐る恐る振り返ると、そこにはしかめっ面をした彼が私を見ていた。
「…てか、なにしてんの?」
このときの私の顔は、たぶん熟れたトマトのように真っ赤になっていたと思う。
…なんで私は屋上での嫌な予感を忘れていたのだろう。
…なんで私は彼女のあの何か企んだときの顔を忘れていたのだろう。
突然、私の携帯がメールの受信を知らせる。
メールの送り主は藤堂桃花。
携帯が壊れるんじゃないかと思うくらいの勢いで内容を確認すると…
【あー!私ってば愛しのママンから買い物頼まれてるんだったーΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
ってことでお先に失礼しまーす^_−☆
追伸
お礼なんていらないからね!
親友の輝く笑顔……プライスレス…
愛しの大親友より♡】
「とーーかーーーー!!!」
気づけば私は愛しの大親友の名前を叫んでいた。
もちろん彼の存在を忘れて。
「あっ、あのー、」
「なに!?」
「ひっ!か、帰ってもよろしいでしょうきゃ?」
「……」
そこでようやく彼の存在を思い出した。
………しばしの静寂。
私は無言で彼に詰め寄った。
「忘れてくれる?」
「へっ?」
「忘れてくれる?」
2回目はそれはもう花が咲くほどの満面の笑みで彼にお願いした。
「ひっ、ひゃい!」
彼はとても元気のいい声で返事を返してくれた。
今回もお付き合いいただきありがとうございます!
なんだかオリキャラ2人がボケ担当になってきているような(汗)
…次回もよろしくお願いします!笑