屋上に着くと、真夏の日差しがギラギラと私たちを容赦なく襲ってきた。
「あっ、暑い…」
「さすがに外で食べる人はいないかー。」
教室は冷房が効いているため、わざわざ外に出るような物好きは彼くらいだと思う。
屋上に向かう際、彼の席を確認してみたけど、いなかったから多分あの場所だろう。あそこは風が抜けて涼しいから、多少暑くても大丈夫かな。
私たちは日陰を見つけると、そこに腰を下ろしてお弁当を広げた。
「それじゃ、なにがあったのか全部話してごらん?」
彼女はお弁当に手をつけず、座り直して話を聞く体勢をとる。
しかし、全部か…
なにせ彼とのファーストコンタクトは、見事私の痴態をさらけ出す結果となった。あんなことをいくら親友とはいえ、他人に話すのはかなり気が引ける。
最初から私が恥ずかしくて言いづらそうにしていると桃花は、
「あっ、もちろん全部だからね。もしかしたらそこに優希の悩んでる事の答えがあるかもしれないからね。」
「…笑わない?」
「あったりまえじゃん!親友が真剣に悩んでるんだから、真剣に答えるのが筋ってもんでしょ!」
まっかせなさい‼︎と大きな胸をドンと叩いてニコッと笑う。
やはり桃花は頼りになる。
こういうかっこいいところは本当に尊敬する。いつか私も桃花みたいに強くなりたいな。そして胸も…
私は意を決して、彼女に事の顛末を全てを打ち明けた。
……前言撤回。今の桃花に対しては尊敬もなにもない。私は数分前に馬鹿正直に話した私を呪っていた。
桃花は私が話している最中も終始プルプルしてて、全てを打ち明けたと同時にお腹を抱えて大笑いしだした。
「笑わないって言ったのに!言ったのに‼︎」
「だっ、だって!まさか、そんなっ…ププッ…ゆっ、優希が…かわいすぎて!比企谷君も…サイッコー‼︎」
桃花はまだヒーッ!とか、お腹いたいー!とか言って笑い転げている。
とりあえずこの行き場のない感情を発散するために、桃花の好物をいくつか食べてやった。
ようやく笑いが収まってきたのか、ゴメンゴメン、と片手を上げて謝ると私の方に向き直り話し始める。
「いやいや、私の予想以上におも…楽しいことがあったみたいだねー。」
「全然楽しくないよ…しかも面白いも楽しいも大して変わらないから。」
桃花をジト目で睨むと彼女は、
「ゴメンゴメン。でもさ、優希ってこうやって感情を表に出せる相手って学校だと私以外いなかったじゃん?私だってここまで優希の表情を出すのに1年くらいかかったのに、比企谷君とは初めての会話で感情を剥き出しにして話したんだよね?それって初めての経験じゃない?」
「たぶん…」
「そっかー。優希の初めての相手の比企谷君…どんな人か気になっちゃうなー♪」
「他の言い方があるでしょ!」
「ね?比企谷って優希の印象的にどんな感じの人?」
桃花が目をキラキラさせて私に顔を近づけてくる。
ハァッ、とため息をつくと少し考える。
彼の印象か…一言で言うと、
「捻くれ者」
「へっ?」
「すごく捻くれててウソが下手くそで私の意見を聞いてくれない頑固者!」
彼の印象を一息で言いきると、彼女はまた大声で笑いだした。
「アッハハハハ‼︎まさか優希から捻くれ者って言われる人がいるなんて!」
「私だって自分が捻くれてるのは自覚してるよ!でも比企谷君はそれ以上なの!」
「わかったわかった!ハーッ、笑い疲れた。でもさ、ほんとにそれだけ?」
「なにが?」
「比企谷君の印象。他にあるんじゃない?」
彼女はなんでもお見通しだ。そしてちょっと怖い…
でも、確かにそんなことよりも、もっと強い印象が残っている。
それは…
「確かに…ぶっきらぼうだけど…ちょ、ちょっと優しかったりするところは…あるかなって…思ったりは…した…けど…」
彼は、私に落ち目がないよう下手なウソをついて私の心を軽くしてくれた。
それは、私が今まで貰ってきた優しさとは違う種類の優しさで、裏表がなく見返りを求めない純粋な優しさだと感じた。
なんでだろう…あのときのぶっきらぼうだけど暖かく、優しい彼を思い出すと、顔が熱く…
「ほーっ、へーっ。」
「…!!」
「なーるほどねー、そっかー。比企谷君はやさ「やっ、やっぱり日陰でも外は暑いね!」ハイハイ、ソーダネー。」
「くっ!彼の印象についてはもういいでしょ!他に聞きたいことあるから!」
「んー?なにかな?」
「比企谷君はなんで私を簡単に許してくれたと思う?普通そんな勝手な事されたら怒ると思うんだけど。」
私が彼の立場だったら、そう簡単には許せなかったと思う。
「うーん、彼が優希に惚れちゃってるとかは?」
「こんな勝手なことした私に好意を持つと思う?ありえないよ。」
「いやいや、わっかんないよー?私が比企谷君の立場だったらこんな黒髪セミロングの清楚系美少女がいきなり目の前に現れたら、お近づきになりたいなーって思っちゃうもん♪」
「桃花ってたまに意味のわからないこと言うよね?要するに一目惚れってこと?」
「そうそう♪」
「それは絶対にないと思う。だって彼、私が隣に座ったらすごく嫌そうな顔で教室に帰れって言ってきたから。」
なにより1番最初に私の間抜け面を見てるし、怯えさせちゃったし…
最悪と言っていい出会い方で一目惚れなんてまずありえないだろう。
「うーん、こればっかりは比企谷君に直接聞いたほうがいいかもねー。私たちじゃ彼の考えてることなんて分かるわけないし。」
桃花の言う通り、この前話したばかりの彼のことなど考えても答えなんて出るはずもない。
やはり直接彼に聞いたほうが早いだろう。
しかし…
「でも、確か教室では話しかけるなって言われてるんだっけ?」
「うん。だから直接聞くことはできないんだよね…」
もし彼の言った通り、私が話しかけることによって迷惑をかけることになってしまったなら、今度こそ私は許してくれないだろう。
そうなるのはもちろん嫌だ。彼に迷惑はかけたくない。でもやっぱり知りたいと思う気持ちもある。
どうしたらいいだろうと悩んでいると、突然桃花が、
「わかった!そこは私にまっかせなさーい!」
と私の肩を叩いて自信満々に声をあげた。
「まかせなさいって…どうするの?」
「そこはお楽しみってことでっ♪」
…嫌な予感しかしない。
彼女がこうやって張り切るときは大抵ロクなことにならない。中学のときも何度、彼女の無茶ぶりに付き合わされたことか…
「お願いだから、無茶だけはしないでね…」
「そんな心配しなくても大丈夫!中学のときみたいなバカなマネはしないからさ!」
やっぱり自覚はあったんだ…あっ、
「そういえば比企谷君に自覚がないって言われたんだけどどういう意味か分かる?」
「あぁ、話しかけるなって言われたときね。そこは私にもわかるなー。確かに優希は自覚が無さすぎる!」
「えっ⁉︎どういう意味?教えて⁉︎」
さすがは桃花。私がわからなかったことが話を聞いただけで一瞬で理解した。早速教えて貰おうとしたが、桃花は、
「ニヒヒッ、そこも比企谷君に教えてもらいな♪」
「なんで⁉︎いま教えてくれてもいいでしょ?」
「まぁまぁ、そこも私がなんとかしてあげるから我慢しなー。」
そう言って彼女はニヤニヤと私を見ている。
この表情をしているときもロクなこと考えてないと長年の付き合いで理解するが、彼女にこの件を一任した手前、私にはどうすることもできない。
そのあとも私が疑問に思ったことを幾つか質問(りあじゅうの事とか)した後、お昼休み終了間近、そういえばまだお弁当をほとんど食べていないことを思い出し、急いでかきこんだ。
「ああーーー!私の唐揚げと卵焼きがなーーい‼︎」
桃花の叫び声が真夏の空に響き渡った。
今回もお付き合いいただきありがとうございました!
オリキャラ2人って思ったより難しいですね。
でも書いてて楽しいです♪
次は八幡と優希の絡み第2段です。
次話もお付き合いしていただければ幸いです。