そうして私と彼の高校生活は…   作:桜チップス

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先生に呼ばれて入ってきた彼、比企谷八幡は挙動不審で落ち着かない様子だった。

身長は、おそらく男性の平均はあるのに猫背なせいか、少し低く見える。

髪はちょっと長めで、てっぺんからアホ毛がひょっこりと生えてきており、何より特徴的なのはその眼だった。

まるで何か悪いものに取り憑かれたような、淀んだ眼をしていた。

他の生徒達からも最初とは違った雰囲気のざわめきが聞こえてくる。

 

「うわーなんか暗そうなやつだなー」

「顔は…まぁまぁだね」

「でもあの目が…」

「ゾンビみたいじゃね?」

 

などと各々勝手な評価をつけ、女子は数人が目に見えて落胆している。

確かに見た目は暗い感じではあるが、自分で勝手につけた評価を他人に話すことに何の意味があるのだろうか。

まだ会話すらしていないのに、ほとんどの人が見た目だけで判断し、すでにこのクラスの中で彼がどういう人間なのか構成されつつある。

結局のところほとんどの人が外見で判断していることなのだろう。

別に考え方は人それぞれではあるが、私はそれだけで人を判断するのは浅はかだと思うし、なんだか少し寂しい気持ちになる。

いつもの如くボーッと考え事にふけっていると彼は教壇の前に立ち自己紹介を始めた。

 

「比企谷八幡です。よ、よろしくお願いしましゅ」

 

あっ、噛んだ。

たしかに、初対面のクラスメイトの前でいきなり挨拶するのだから緊張するのも無理はない。

彼は緊張と羞恥にまみれた顔でコソコソと指定された席につく。

その後、放課後になっても彼に話しかける人はいなかった。

 

半月ほど経った日、この時期になるとある程度のグループが固まってくる。

大人しい人が集まるグループ。

部活動で仲良くなったグループ。

共通した趣味を持つグループ。

そして、見た目が派手で常にクラスの中心にいる明るい(正直少しうるさい)グループなど様々だ。

ちなみに私はというと微妙な立ち位置になってしまい、見た目が派手で…もううるさいグループでいいや。うるさいグループと大人しいグループの中間あたりにいる。

基本的には大人しいグループの子たちが、なぜか私の席の周辺に集まり談笑を始めるのだが、たちまちうるさいグループの子が私の席に集まると、大人しいグループの子たちは蜘蛛の子の様に散ってゆく。

最近はこんな感じのことが多くあり、早くもこのクラスでの力関係が現れてきている。

そして、両方のグループも共通して言えることが、ほとんどの割合で私の苦手分野である恋愛に関する会話をしたがることである。

 

「優希ちゃんはさー、やっぱ誰か狙ったりしてる人とかいたりするんでしょ?」

 

狙ってるって…私はスナイパーじゃない。

まぁ言っていることは理解しているが。

 

「気になる人はいないかな。まだ入学してから3ヶ月程度だし。」

「でもさでもさ、やっぱある程度はどんな人間か分かるわけじゃん。ちょっとくらいいいなって思う人はいたりしないの?」

 

別にこの学校でそこまで深い話をしたこともないし、この短期間で人のことが分かるほど私は聡いほうではない。

 

「今は恋愛よりもこうやって友達と話してるほうが楽しいし、勉強も大変だから。」

 

たしか、彼女は前も同じ質問をしてきて全く同じ答えで返した記憶がある。

分かってる。彼女たちは心配なのだ。自分の好きな男子が私の気になっている男子と同じなのではないかと。

この手の質問は中学のときから100回以上もされた。

そして、同じ答えを返しても彼女たちその場だけ安心し、何日か後にまた同じ質問を繰り返す。

勘弁してほしい。

ため息を吐きたい気持ちを堪えていると、ふと少し離れた席から男子の声が耳に入ってきた。

 

「うわ、ちょい比企谷見てみ。また本読みながらニヤついてるよ。」

「いつ見てもキモいよなーあいつ。」

「そりゃ誰も近寄らねーからボッチだわな。」

 

そういえば、彼だけは入学してどこのグループにも所属していない。

おそらく部活にも入っていない様子だし、そもそも誰かと会話をしている姿すら見たことない。

彼のほうから積極的に会話をするところも、グループに入ろうとするところも見たことがないため、1人でいることが好きなのだろうか。

私も1人でいることは好きだが、さすがにこの学校という社会でずっと1人でいることは寂しいと感じるだろう。

だから苦手な恋愛話でも嫌な顔せず笑顔で会話するよう努めている。

彼は、1人でいることが平気なのだろうか…

 

休み時間の終了間際、クラスメイトが廊下から大声で私の名前を呼んできた。

 

「夕舞さーん!E組の伊藤君が呼んでるよー!」

 

…嫌な予感がする。

私は席を立ち、ゆっくりと廊下に足を進めると、そこには少し前に下校中話かけてきた男子が私を待ち構えていた。

確かバスケ部の人だっけ?周りの女子がキャーキャー騒いでいるので、それなりに有名な人なのだろう。

 

「夕舞さん、今日の昼休みにちょっと話あるんだけどいいかな?」

 

爽やかな笑みを浮かべて伊藤君が誘ってきたが、私は一瞬だけ断ってしまおうかと考えた。

しかし、中学のときの経験則で、ここで断ったら更に面倒くさい事になると学んでいた私は無表情で答えた。

 

「…うん、わかった。」

 

なんて可愛くない返事なんだろう。

だが、そんな私の無愛想な態度にも伊藤君は終始笑顔だ。

 

「ありがとう!じゃあ昼休みに迎えにくるから!」

 

そう言って、キラキラした眩しい笑顔を振りまきながら去っていった。

あぁ、嫌な予感しかしない…

バックれてやろうかとアホなこと考えていると、案の定クラスメイトに拘束され尋問に近い質問責めが昼休みになるまで続いた。

 

そして無情にも昼休みはあっという間にきてしまった。

友人たちは興奮した様子で私の周りに集まってくる。

 

「ついに昼休みになっちゃったねー!」

「どうするの⁉︎やっぱいつもみたいに断っちゃうの⁉︎」

「えぇーもったいない!伊藤君かっこよくて人気あるのに」

「葉山君ほどじゃないけど爽やかで優しいし!」

 

爽やかではあるが伊藤君のこと全然知らないし…てか葉山ってだれ?

 

「いやいや、まだ告白って決まったわけではないし」

「いやいや、間違いなく告白でしょ!」

 

熱くなったクラスメイトたちに囲まれてウンザリしているところで、今回の騒動の原因がおなじみの笑顔で迎えに来た。

 

「お待たせ、それじゃ行こっか」

 

周りから、頑張ってね!などと応援の言葉が投げかけられる。

思うところは多々あるが、とりあえず笑顔で行ってきます、と意味もなく言ってみた。

 

伊藤君の後をついて行くとそこはあまり人気のない場所でテニスコートが近くにある、海風の気持ちいい場所だった。

へー、こんな場所あったんだ。今度1人で来てみようかな。

そうひとりごちていると、近くのベンチにクラスメイトの男子が1人、昼食をとっていた。

あれは…比企谷君?

そっか。彼はいつもここで昼食をとってるんだ。

いいな…

私もゆっくりここでお昼を過ごしたいな。

なんて、これから起こるであろうことに対して思考を逃避させているところに、その起こるであろうことが唐突に始まってしまった。

 

「夕舞さん、気づいているとは思うけど、僕は君のことを初めて見たときから気になってたんだ。そして、この前の下校のときに勇気を出して声をかけて一緒に帰っているうちに好きになってしまった。」

 

ちょッ!

あなたの後ろに比企谷君がいるのに気づいてないの?

やっぱり聞こえているみたいだし。

しかも目が合っちゃった…

向こうもすごく申し訳なさそうだ。

なんかごめんね…

 

「お願いします!僕と付き合ってください!」

「へっ?えっとー…」

 

ヤバい、またボーッてしてて途中から聞いてなかった…

この癖どうにかしないと。

その前に、まずは返事しないと!

一度、深く深呼吸して間をとった。

 

「…ごめんね。伊藤君とは付き合えない。というより、今は誰とも付き合う気はないんだ。」

「…そっか。じゃあこれからも友達として普通に話とかしてくれるかな?」

 

友達?いつの間に?

そんな疑問が湧き出てきたが、無理やり飲み込んだ。

 

「うん。もちろんだよ。」

 

上手く笑顔で言えたかな?

伊藤君は落胆の表情をチラつかせながらも、去り際はいつもの眩しい笑顔に戻っていた。

 

「それじゃ、わざわざありがとね!これから友達としてよろしく!」

 

だからいつの間に友達に…

まぁいいか。クラスも違うし、会うことはあまりないだろう。

あっ、そういえば比企谷君は?

さっきまでいたところに視線を戻すともうそこに彼の姿はなかった。

なんか強引に追い出したみたいで悪いことしたな…

つい先ほど始まったテニス部の自主練をしばらく眺めてから教室に戻った。




駄文ではありますが読んでくれた方、ありがとうございます!
指摘等ありましたら遠慮なくして下さい。
次からはやっと八幡と優希の絡みが始まります。

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