そうして私と彼の高校生活は…   作:桜チップス

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こちらの仕事等の都合で更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
絶対に完結させますので生暖かく見守ってください。

そして!
知り合いの方が優希の絵を描いてくれました‼︎
お忙しい中、本当にありがとうございます‼︎
皆さんも是非、見てください!


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翌日のお昼休み。

クラスメイトのお昼の誘いをやんわりと断った私は、若干緊張しつつも早足で校舎裏に向かうと、すでに彼はベンチに座ってコーヒーを飲んでいた。

私の到着に気づいた彼がこっちを向き、自然と目が合う。

 

「こ、こんにちは」

「お、おう」

 

心臓の鼓動がもう一段階、早くなる。

お互いぎこちない挨拶を交わして、私は彼から1人分離れたところに腰掛けた。

よし。

今日は最初から言い合いをすることはなかった。

割と自然な形で彼の隣にも座れたと思う。

あとはお弁当を食べながら普通に会話するだけだ。

会話も昨日の夜に考えたし、ある程度のシミュレーションもしてきた。

…おかげで少し寝不足だけど。

少し構えすぎではないかと思うけど、なにせ今日は2人きり。

頼りの桃花はいくら懇願しても、今日は他の友達と食べるからと言ってついてきてくれなかった。

なので、今日は私だけの力で彼と会話しなければいけないのだけれど、普段桃花以外とはあまりコミュニケーションをとらない私は、こっちから話題を振ることがほとんどない。もちろん、彼の方から話題を提供してくれることも期待できなさそうなので、やはり私から積極的に話しかけないと。

とりあえず…

 

「はい。今日のお弁当」

「あぁ、サンキュ」

 

今日もおばあちゃんに手伝ってもらったから味は大丈夫だと思うけど、やっぱり緊張するな。

彼は今日も卵焼きから箸を伸ばして口に入れる。

昨日と同じ過ちを繰り返さないよう、横目で彼の様子を伺った。

 

「おぉ!今日のもうまいぞ」

「あ、ありがと…」

 

…やっぱり嬉しいな。

にやけそうになる顔を引き締めて簡潔にお礼を言ったあと、私も彼と同じ内容のお弁当を広げて食べ始めた。

 

 

そして数分後…

私たちはまだ会話のひとつもないまま、お互い黙々とお弁当を食べていた。

彼の方をチラッと見ると、美味しそうにゴボウの肉巻きを食べてくれている。

確かに嬉しいのではあるが…

昨日のシミュレーションでは会話をしながら楽しくお弁当を食べて過ごしていたではないか。

これでは1人で食べているのとなんら変わらない。

会話…何か話題を!

 

「…えと、おいしい?」

「おう」

 

…会話終了。

違う!もっと他にいろいろと考えついたはずだ!

なんだったっけ?もともと彼と共通するものがあったからあれやこれやでこういう展開になってたっけ。

あっ…思い出した!

 

「そういえばさ、君はいつも休み時間に本を読んでるけど、本が好きなの?」

「んっ?あぁ、本は好きだな。休日とかも基本的に本を読んでるな」

「ほんと!私と一緒だ‼︎」

「お、おう。わかったから、ち、ちけーよ」

「あっ…ご、ごめん」

 

昨日もそうだが、どうも私は感情が昂ると、人との物理的な意味での距離感が曖昧になる傾向にあるらしい。

おかげで少しは落ち着いたと思われた私の心がまた熱を帯びていく。

せっかく共通の話題を見つけたのに、またもや沈黙。

私はお弁当のサケをお箸でほぐしながら気まずい沈黙に耐えていた。

 

「夕舞はさ…」

「へっ?」

 

と、彼が急に私の名前を呼ぶものだから、突然のことに対応することができず、なんとも間抜けな返事をしてしまった。

 

「さっき一緒って言ったけど、お前も読書好きなのか?」

 

…まさか、彼から話を振ってくれるとは思わなかった。

昨日のシミュレーションでも、彼から話しかけてくるパターンは想定していなかった。

絶対に無いとさえ思っていた程だ。

驚いて横を向くと、彼は少しだけ耳を赤くしながら一生懸命、お箸でサケをばらばらにしていた。

もしかして…

私の近い距離感に迷惑がってる訳じゃなくて、本当は照れている?

だとしたら、私だけじゃないんだって思うと、少し嬉しいかも。

あと、話しにくそうにしている私を気遣って話題を振ってくれたって考えるのは、少し自惚れすぎかな?

それにしても、お互い顔を赤くさせながらサケを一心不乱にばらばらにしてるって…

 

「クスッ」

「…なんだよ」

「ううん、なんでもないよ」

「女子になんの脈絡もなく笑われたら、男子ってすげー気になるからね。その日から三日三晩、心当たりとかいろいろ考えちゃったりして眠れないくらいだぞ」

「読書は小さい頃から大好きだよ」

「盛大にスルーされちゃったよ。泣いちゃうよ、おれ」

 

 

 

そのあと、お互い照れがなくなって緊張がほぐれてからは、本のことについていろいろな話をした。

いつから本が好きになったか。

初めて読んだ本はなんだったか。

好きな作家は誰なのか。

オススメの本は。

読んだことがある本や知ってる作家が被ってたら、それだけで私の心は大きく弾んだ。

 

「そういえば…」

「なんだ?」

「この前、私が君の机から勝手に持っていった本なんだけどさ、続きってあるの?」

「まさか…読んだのか?」

「うん。勝手ながら、全部。」

 

たまに書店で見かけるライトノベルと呼ばれる本は、今まで読んだことのないジャンルだったから、本好きの私としては少し興味があった。

そして、彼の本を読んでいると胸が熱くなる展開が多くあって、なかなか面白かったから続きがあったら読んでみたいと思っていたのだ。

が、隣ではなぜか彼がうずくまって頭を抱えている。

 

「えっと…どうしたの?」

「よりによってあの本を見られた挙句、全部読んじまうなんて…」

「で、でも面白かったよ」

「中の挿絵も見たんだろ?」

「それは、まぁ…うん」

「まさか高校でも黒歴史を作っちまうなんて…」

 

そう言って彼は大きなため息を吐いた。

内容は主人公が敵国から自分の国を守るために戦う単純なストーリーなのだが…

たまに、ヒロインの…その…胸やお尻を不慮の事故で触ってしまうことがあって、そのときの様子が絵で描写されている。

あれには少し驚いたけど、内容は純粋に面白いと思ったのだ。

 

「ほら、ワクワクしたりドキドキするシーンとか結構あって私は楽しめたよ!」

「…主人公が木の根に引っかかってヒロインに倒れこん」

「そこじゃない‼︎」

 

確かにいろんな意味でドキドキしたけど。

今度、私のことをどんな人だと思っているのか、問い質す必要があるみたいだ。

 

「とにかく!続きがあったら貸してもらえないかな?」

「…分かった。明日にでも袋に入れて持ってくるわ」

「ありがとう!でも、できれば来週のテストが終わってからの方がいいかな。あったら読んじゃうし」

「了解した」

 

彼から続きを借りるのは昨日の夜から決めていたが、いざ言うとなると何気に勇気がいった。

そして、彼の物を借りる…なぜかそれだけで少し緊張してしまう私がいた。

と、彼は携帯を見て時間を確認すると、お弁当を包み始めた。

 

「もう昼休みが終わるな」

「えっ?うそ、もうこんな時間」

「弁当、ご馳走さん」

「あっ、うん」

「…?」

 

私の体感時間ではまだ5分くらいしか経っていないというのに、腕時計を見るともう20分近く経っていた。

今日は金曜日だから、次に彼とお話できるのは3日後である。

自分でもびっくりするくらい落ち込んでいる声で返事をしていた。

 

「来週だけど、テスト終わったらさ…」

「うん」

「夕舞のオススメの本、貸してくれないか?」

「…!もちろんだよ‼︎」

 

さっきまでの落ち込んでいる私は彼の言葉でどこかへ吹っ飛んで、今は自分のオススメの本を読んでもらえる嬉しさでいっぱいだ。

私ってほんと単純だなー。

 

「それじゃ来週のテスト明けによろしく頼む」

「うん!」

「それじゃ俺は先に戻ってるぞ。今日も弁当ありがとな」

 

私に空の弁当箱を渡すと、ベンチから腰を上げてそのまま教室に戻っていった。

それにしても…

最近の私は本当におかしい。今まで、こんなにも感情を表に出すことがあっただろうか?

桃花と話すときですらこんなことはなかった。

それにこの感情は…

…やめよう。

これ以上考えても多分私1人じゃ答えは出ないだろう。

もうすぐテストだ。こんな浮ついた気持ちじゃ結果は散々になるだろう。

今はこの気持ちを置いといて、テストに集中しよう。

誰もいなくなったこの場で1人、気合を入れて校舎裏を後にした。




今回も読んでいただきありがとうございます‼︎
次話はおそらくですが、テストが終わって夏休みに入る前の話を書きたいと思っていますのでよろしくお願いします!

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