そうして私と彼の高校生活は…   作:桜チップス

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お気に入りとUAがテンパるくらいすごいことに…
もう感謝の言葉しか出ないです(涙)
ありがとうございます!


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「ごちそうさまでした。」

 

私と桃花が自分たちのお弁当を半分ほど食べたところで、彼は私の作ったお弁当を残すことなく、全て食べ終えた。

 

「お、お粗末さまでした。」

 

どうしよう…めちゃくちゃ嬉しい。

自分の作ったものを美味しいと言って全部食べてもらえることがこんなに嬉しいなんて思っていなかった。

自然とニヤけそうになる表情を無理やり引っ込めて、平静を装った。

が、黒い尻尾を生やした親友が、私のちょっとした表情の変化を見逃さなかった。

 

「んー?優希ちゃん、ほっぺたの辺りがピクピクしてない?」

「……。」

「痛っ!わ、わかったから無表情で腕つねらないで!ごめんってば!」

 

親友のおかげでここまでこれたのはいいけど、やはり油断ならない。

力技で小さな悪魔を撃退したのはいいが、隣では彼が不思議そうにこっちを見ている。

そして、今の空気に若干気まずさを感じつつも彼は、お弁当箱を渡した時と中身がない以外同じ状態で返してきた。

 

「あー、弁当ほんとに美味かった。ありがとな。」

「よかった。口に合わなかったらどうしようかと思ってたから。」

「特に卵焼きとか、俺好みでめちゃくちゃ美味かったぞ。」

「実は卵焼きが1番不安だったから、すごいホッとしたよ。」

「さすが、自信あるって言ってただけあるな。」

「え?あっ!もちろんだよ!」

 

危ない。忘れてた…

それはそうと…

彼とは何回か話したけど、いつも私が謝っているか、言い合いをしているかで、こうやって普通な感じの会話をするのは初めてではないか?

まるで、桃花といるときみたいに楽しい。

彼といると少し緊張する半面、落ち着いている自分もいる。

矛盾してるのはわかってる。相変わらず鼓動だって落ち着いていない。

でも、他のクラスメイトとの会話みたいに、変に気を遣ったりしないから気持ちがすごく楽なんだ。

自分でもわかる。

彼の前での私は、完全に素の私だ。

…ちょっと見栄を張ったりしたけど。

 

「それじゃ、そろそろ戻るわ。」

「あっ…」

 

彼はベンチから腰を上げると教室に帰るのか、そのまま校舎裏を後にしようとしていた。

待って。

もっとお話したい。この楽しい時間をまだ終わらせたくない。

でも、彼を引き止める理由もないし、会話も思いつかない。

でも、私はこれからお弁当を作ってくると言ったから、明日もここで会えるはず。

でも…

仕方ない。今日は諦めようと、彼の背中を見送ろうとしたが、隣の親友がそれを許さなかった。

 

「ちょっち待ちなって!まだ時間あるんだから、ゆっくりしていきなさいな♪」

 

桃花は立ち上がると、前を通り過ぎようとする彼の手首を掴んで無理やり止めた。

 

「えっ?だって俺がいたら邪魔でしょ。」

「そんなことないって。むしろもっとお話したいなーって思ってるくらいだし…優希が。」

「…わたし⁉︎」

 

いきなりのキラーパスに戸惑う私。

 

「そ、それはまぁ、その…うん…」

「もう!はっきり言えばいーのにー。」

「とにかく!君も早く座りなよ!あと、桃花は早く手を離してあげないと座れないでしょ!」

「お、おう。」

「あっ!ごめんね優希ちゃーん♪」

 

ニヤニヤしながら手を離した桃花と解放された彼はベンチに座りなおした。

そして桃花は私の耳元で、

 

「…妬いちゃった?」

「っ…‼︎」

 

そう囁かれた私は、一気に顔が熱くなった。

 

「なっ…なっ!」

「冗談だよ♪」

「なぁ?やっぱ俺、いらなくね?」

「あはは、ごめんごめん。こっちの話だから。」

 

ほんとに桃花は!

今度は私がベンチから立ち上がって逃げたくなったよ。

これ以上この小悪魔が変なこと言ったら全力でこの場所から祓ってやろうと決意した。

 

 

 

 

「比企谷くんはさー、なんでいつも1人で食べてんのー?」

 

私と桃花もお弁当を食べ終えて、持ってきていたお茶を飲んでいるときに桃花の唐突な質問。

その質問って結構デリケートなことなんじゃ…

 

「そりゃ、友達いないからな。」

「そうなの?おもしろいのに。」

「そう思ってんのは藤堂だけだろ。まぁ最初から2ヶ月間、学校にいなかったからな。」

「事故にあったって聞いたけど?」

「まぁな。」

「そっかー。友達作り真っ盛りの時期にいなかったのは痛いねー。」

「いや、どっちにしろ友達できなかっただろ。」

「どして?」

「俺に合う奴なんかいるとは思わないし、別に欲しいとも思わないからな。」

「あはは!捻くれてるねー!」

 

す、すごい…

私がやっとのことで普通に会話ができるようになったのに、桃花は今日初めて会話してここまで話せるなんて…

こういうところはやっぱり尊敬できるし、同時に羨ましいとも思う。

私も桃花みたいだったら、もっとまともな出会い方をしてたのかな…

 

「じゃあ優希がこの学校での友達第1号なんだねー。」

「はっ?」

「へっ?」

 

ちょっ、桃花⁉︎

 

「待て。なんでそうなるんだ。」

「そ、そうだよ!いきなり過ぎるよ!」

「なんで?一緒にお昼ご飯食べてお話してさ、どっからどう見ても友達でしょ。」

「でも、お互いのことなんてほとんど知らないし…」

「俺が夕舞や藤堂みたいなリア充組と合うとは思わないんだけど…」

「友達なんかそんなもんだって。別にお互いのことなんかあまり知らなくたって、趣味とか性格が合わなくたってそれが友達になれないって条件にはなんないよ。ましてや2人は何回か会ってるし、話聞く限りではけっこう本音で話してるみたいだからもう完全に友達じゃない?」

「それは…」

「別に恋人になるわけじゃないんだからさー。2人とも深く考えすぎ!それとも2人は友達の過程をぶっ飛ばしていきなり恋人になりたいのかなー?」

「「なっ…‼︎」」

 

いきなりの桃花の爆弾発言にフリーズする2人。

 

「あれ?冗談に決まってるじゃんかー!2人とも顔真っ赤にしちゃってさー。まさかぁ、ほんとに思ってたり…ぐえ!」

 

隣の小悪魔…いや、悪魔にこれ以上しゃべらせないよう、その細い首を締め上げた。

 

 

 

 

 

「天国のおばあちゃんが川の向こう側から手を振ってたよ…」

「ごめん…」

 

赤を通り過ぎて青くなっていく親友の顔に気づいて我に返った私は、もう恥ずかしすぎてずっと下を向いて顔を手で覆っている。

 

「いやー、今回は私もからかいすぎちゃったからさー。」

「怖ぇ…」

 

彼は、もう何回目かわからない私であって私じゃない行動にすっかり怯えているようだ。

 

「優希は普段、こんなんじゃないんだけどねー。中学から見てるけど、こんな優希は初めてかも。」

「じゃあ俺はさっき、夕舞の本性を目の当たりにしちゃったってことかよ…」

「でも言い方を良くすると、素の優希が見れたってことだからねー。私以外に見せるって激レアだよ!ラッキーだねー♪」

「殺されかけたのにラッキーとか言えるそのメンタルがすげーわ。」

「ほら優希、そろそろ顔上げなよ。」

 

顔をブンブン振って必死に抵抗する。

 

「わかった。それじゃ比企谷くん。私はそろそろ教室に戻るから優希のことよろしくね♪」

「だ、だめ!」

「やっと顔上げたねー。」

「うー…」

 

今日の桃花はほんとに意地悪だ。

彼の顔がまともに見れないよ…

 

「よし!もうすぐお昼休みも終わりそうだし、今日はこの辺で解散としますか!」

 

腕時計を見ると、いつの間にかもうすぐお昼休み終了のチャイムが鳴る時間になっていた。

 

「それじゃ、明日は私いないからさ。2人で仲良く食べてね♪」

「待って!どうして⁉︎」

「えっ?明日も来んの?」

 

1人でなんて絶対に無理だよ‼︎

 

「私だって付き合いってもんがありますからねー。桃花はこれから比企谷くんのお弁当作るって約束してたんでしょ?」

「そんな…」

「いや、今日だけで充分だから。夕舞も無理して作ることないぞ。」

「違うよ!無理なんかしてないよ!ただ…」

 

2人きりとかどうすればいいのか分からないだけ。

 

「ダイジョブだって!優希は料理の練習したいから、お礼も兼ねて食べてもらって感想が欲しいんだもんね。」

「う、うん!だから…これからも私の練習に付き合ってほしいの。君なら率直な感想とか言ってくれそうだし。」

「それなら別に俺じゃなくてもよくないか?それこそ藤堂とか…」

「私は愛しのマミーが毎日、愛情を込めて作ってくれてるからねー。ほら、比企谷くんなら毎日パンみたいだし、丁度いいじゃん。」

「なら他のクラスメイト達は…」

「比企谷くん甘いなー。優希の手作り弁当がどれほどの価値があるのか知らないでしょ?男女問わず人気者の優希ちゃんが他のクラスメイトにあげたらその子が自慢してみんな欲しがっちゃうでしょ。そうなると面倒だから、お昼休みに1人で食べてるぼっちの比企谷くんが都合いいんだよー♪」

「ぼっちのっていらなくない?確かにぼっちだけど…」

「お、お願い!感想も思ったことをそのまま言ってくれたらいいからさ。もちろん無理やり付き合わせるんだから、お弁当代なんていらない。」

 

彼の前に立って深々と頭を下げた。

せっかくここまで桃花がお膳立てしてくれたんだ。

私がここで頑張らないと意味がない。

彼のことをもっとよく知るためにも。

しばらくの無言のあと、彼は最後まで何かに迷っているようだったが、ようやく口を開いた。

 

「…ひとつ、条件がある。」

「…なに?」

「弁当代だけはちゃんと払わせてくれ。いくら練習っていう名目があるとはいえ、タダだと施しを受けてるみたいで嫌だからな。」

「でも「それが駄目ならこの話は無しだ。これはおれのプライドに関わることだからな。譲れないぞ。」…わかった。」

 

そう言われると、こっちもこれ以上は言えない。

桃花は満足そうに私と彼のやりとりを眺めていた。

 

「うんうん、話はまとまったみたいだね。それじゃ、そろそろ時間もヤバいから帰ろっか。」

 

桃花のひと言で私たちは荷物をまとめて校舎裏をあとにしようとした。

 

「夕舞。」

「へっ?」

 

まさか彼からいきなり呼ばれるとは思わなかったから、少し間の抜けた返事をして後ろに振り向いた。

 

「その…弁当、明日からよろしく頼む。」

「…!う、うん。こちらこそよろしくね!

 

彼の普段の捻くれぶっきらぼうな態度とは一変しての、稀に出る素直な態度に私の心臓がまたしても跳ね上がる。

びっくりするから急にこういう態度になるのはやめてほしい。今日1日で寿命がかなり縮んだような気がするよ…

後ろでは桃花が、あれは強烈だなーとか、天然たらしかー、とかよく分からないことを言っている。

とにかく、今のこの顔は誰にもみられたくないため、私は下を向いたまま桃花の横を早足で通り過ぎて教室に戻った。

 




今回もお付き合いいただきありがとうございます!
実は…知り合いに優希の絵を描いてもらえるかもしれません!
本当にありがたい…
忙しい人なのでいつになるかわかりませんが、いずれ載せようと思っていますので!!

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