鎮守府の食堂で働く   作:アルティメットサンダー信雄

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鬼ごっこ

 

 

目の前に古鷹さん、俺は日向さんのお腹を触ってる。うん、終わったなこれ。

 

「ん?古鷹」

 

大量の汗を流してる俺とは裏腹に、日向さんは呑気な声を出した。

 

「………失礼しました」

 

無言でドアを閉める古鷹さん。

 

「待った!ちょっと待った!違うから!やましいことなんて何もしてないから!」

 

慌ててあとを追おうとしたが、日向さんを放っておくわけにもいかない。

まぁ、鎮守府にばら撒かれたらちゃんと真実を話せば良いか。

 

「よし、もう大丈夫だな」

 

「ほんとすみません……」

 

「いや、私の鍛え方が足りなかったようだ。この程度で痛がるとはな」

 

おい、脳筋の考え方やめい。

 

「私はこの後は部屋で鍛えるが、福島さんはどうするんだ?」

 

「あー……まぁ、一応食堂戻って様子見ます」

 

「そうか。では、またな」

 

「はい」

 

軽く挨拶だけして俺と日向さんは別れた。

食堂は予想通りというか何というか、何人か姿は見えるものの、飯が食いたいとかそういうのは見えなかった。

 

「あ、福島さん!」

 

元気良く声を掛けてきたのは、金髪ボクっ娘の皐月だ。後ろには文月と睦月がいる。

 

「どしたん?」

 

「遊ぼう!」

 

それは「拷問させて?」の間違いではないだろうか。どうせ古鷹さんから聞いた日向さんのお腹ナデナデ事件の事聞きたいんだろ?上等だよ。

 

「いいけど……」

 

「じゃ、グラウンドで遊ぼう!」

 

……なんでグラウンド?そんなハードな拷問をする気か?

 

「鬼ごっこしよう!」

 

鬼ごっこ?もしかして、拷問じゃない?

 

「いいけど……俺足遅いよ?長距離は早かったけど50メートル走は7秒92くらいだったし」

 

「いいからいいから!」

 

いや何も良くないんだけど。

 

「ふふ♪福島さんと鬼ごっこにゃしぃ」

 

「ふなっしー?」

 

「言ってないです♪」

 

なんでこの子はツッコミの時も楽しそうな声出すんだろうか。

 

「じゃ、俺鬼やってやるから。とりあえず全員逃げろ」

 

「「「おー!」」」

 

こいつら元気だなー。さて、やりますか。あんまやりたかないけど。

 

 

1

 

 

うん。疲れました。流石艦娘というか、ガキでも艦娘というか、こいつら速ぇ。この前の島風程ではないが、俺に小学生の時に鍛え上げた鬼ごっこスキルがなかったら缶蹴りの鬼状態になってた。缶蹴りの鬼は無限ループ、異論は認めない。

もうすぐ晩飯の時間、汗だくのままでは不衛生なので、俺はシャワーを浴びてから厨房に向かった。

さて、作るか。今日は何にしようか。食堂らしく、一度でも良いからラーメンを作ってみたいものだ。

そんな事を考えながら歩いてると、食堂の前でバッタリと古鷹さんとエンカウント。

 

「あっ……」

 

「…………」

 

………気不味い。こういう時は戦略的撤退に限る。俺は軽く会釈してさっさと厨房に向かおうとした。

 

「あ、あのっ……」

 

フルタカがこえをかけてきた!にげられない!

 

「は、はい……」

 

さっきの日向さんの事で口止め料を要求されるようなら、コンビニに連れてった後で、とりあえず厨房で手首を切ろう。トマトソースを作る手間が省けそうだからね。

 

「さ、さっきの医務室のことなんですけど……」

 

「そうだ、ヘヴンに行こう」

 

「ち、違います!別に口止め料が欲しいとかではなくて……!」

 

「へ?」

 

「そ、その……何かあったんですか?って……」

 

「………あー。まぁ、色々」

 

「色々って……」

 

「二人で剣道やって俺が胴外してお腹に湿布貼ってあげただけですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」

 

お腹、柔らかかったなぁ。いや、デヴって意味じゃなくて、女性特有の柔らかさ?ヤベェ、今の俺超キモい。

 

「そう、ですか……良かった」

 

ホッと息を吐く古鷹さん。えっ、ちょっ、何その反応。この人、もしかして俺のこと……、

 

「提督に報告した方が良かったか、迷ってましたから」

 

2秒前の自分にそげぶ。恥ずかしさで顔が真っ赤です。

 

「でも、あまり女性の体に触れるのは良くありませんよ。今回は仕方ないにしても、今後は気を付けて下さいね」

 

「………はい。すみません」

 

でも柔らかかった。……ん?待てよ?あれ俺、もう少し上の方で脇の下に打ってれば胴着を脱がせてオッパイを目の前で見ながら湿布を貼ることができたんじゃ……。

 

「福島さん?顔がゲスいですよ?」

 

ニコッと微笑む古鷹さんが怖い。何この子、読心術でも持ってんの?

 

「それで、あの……もう一つ聞いてもいいですか?」

 

「?」

 

もう一つ?俺なんかやらかしたっけ?

 

「そ、その……なんでズボンだけ落ちてたのかなーって……」

 

顔を赤くして俯きながら言う古鷹さん。

 

「ああ、あれは……」

 

開いた口が途中で止まった。古鷹さんの名誉のために言わないほうが良いか?

寝ぼけてたとはいえ、ズボンを離さなかったなんて知ったら普通は恥ずかしいだろう。しかし、なんと言い訳すれば……。

 

「邪魔だったからです」

 

「ええっ?」

 

言葉選びを間違えました。

 

「あ、えっと……自分の部屋と勘違いしてシャワー浴びようとして、その場で脱いじゃったんですけど、古鷹さんの部屋であることを思い出して、慌てて自室に戻ってズボンを忘れちゃった……みたいな?」

 

キョトンとした顔をする古鷹さん。………厳しいか?

すると、クスッと古鷹さんは微笑んだ。

 

「……優しいんですね」

 

「へ?今なんて?」

 

「いえ、そういうことでしたか。では、失礼します」

 

古鷹さんはやけに機嫌良さそうに戻って行った。

その態度に、若干釈然としないながらも、俺は厨房に向かった。

 

「………あっ、遅刻じゃん」

 

怒られた。

 

 


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