「は?」
「え?」
「ん?」
「へ?」
「い?」
「ろ?」
「は?」
「に?」
「と?」
「て?」
「と?」
その場にいた全員が声を漏らす。中盤から流れがおかしいがスルーした。
「バッカ………」
俺はおでこに手を当ててため息をついた。この人はバカなのかな、それとも危機感知能力がないのかな。良い表現をしても天然さんなのかな。
「あの、福島さん?」
「古鷹さん、上手く逃げてくださいね」
俺はそう言うと、厨房の奥に逃げて、フライパンなどの調理器具を洗い出した。
食堂の方から質問攻めにあってる古鷹さんの悲鳴が聞こえるけど聞こえなかったことにしよう。
1
洗い物が終わり、俺は昼飯の準備に移った。仕事を連続して行えば、質問に会う事もないという判断だ。
だが、それでも避けられない相手はいる。
「で、どういうことですか?あのズボン」
同じ職場の間宮さんだ。
「まぁ、色々あったんすよ」
「その色々を聞いてるんです」
あーダメだこれ。逃がさないパターンだよこれ。まぁ、話しても良いか。いかがわしいことは何もしてないしな。
「………昨日の夜、ちょっと俺はっちゃけてたんすよ」
「はい?」
「まぁ、それはいいとして……それを古鷹さんに見られてしまい、口止め料ってことで一緒にコンビニ言って酒買ったんです。その帰りに、古鷹さんが部屋で飲もうと言ったので一緒に飲んだんです。それで酔って俺寝ちゃって、朝起きたら古鷹さんが寝ぼけて俺のズボン掴んでたんで脱いで脱出して慌てて部屋戻ってズボン履いて厨房に言ったんです」
「なるほど……それで遅れたわけですね」
「まぁ、そういうことです」
本当は酔ってないが、まぁそのくらいの脚色は問題ないだろう。
「なんか、面白いことがあると思ったんですけどねぇ」
「いやありませんよ」
あってたまりますか。
「まぁ、そういう事なんで。今頃、古鷹さんがみんなに説明してくれてるでしょうし、何とかなりますよ」
「そこらへんは人任せなんですね……」
「仕方ないね」
洗い物を終えて、俺はグダッと椅子に座り込んだ。
2
13:00、真昼間。昼飯も終わり、俺はズボンを自室にしまった。
間宮さんは自分の茶屋へ行ってる。
「どっか見回るか……」
あまりにも暇なので、鎮守府内を見回ることにした。まだ、中を全部覚えてるわけではないので、こういう機会に出歩くしかない。
まずは工廠、艦娘を建造したり装備を開発したり、改造したり近代化改修したりする場所らしい。
続いて入渠ドッグ。艦娘を治すらしい。どう見ても風呂である。
それと演習場。砲撃戦演習だの、艦隊行動演習だの、雷撃戦演習だのをする場所らしい。空母用に弓道場がある。
「……お?」
どうやら、剣道場もあるようだ。そういえば、一部の艦娘は剣だの槍だのを持っているんだったな。
「ちょっと、覗くか……」
中学時代に剣道をやっていた身としては、少し気になるところである。
中に入ると、綺麗な板の間の道場だった。まだあまり剣を使う艦娘はいないんだな。
俺は近くの竹刀を拾って、軽く構えた。ふふふ、こう見えて俺、大会で一回だけ3位取ってるんだよね。
「む?君は?」
「うおっはぁ⁉︎」
背後から声が聞こえ、俺は慌てて飛び退いた。目の前には、この前建造された日向さんがいた。
「えっと……、どうも」
「君も剣を使うのか?」
「剣道部でしたからね」
「ほう……。意外だな」
「そうすか?………そうですね」
俺の身体は細い。もやしと言われてもおかしくないレベルで。
「しかし、そうなら都合が良いな」
「はい?」
「私と試合をしないか?」
何言ってんのこの人。
「他に相手がいなくて困っていたんだ。伊勢も着任していないようだしな」
「い、いやいやいや。俺じゃ練習相手になりませんって。ブランクもありますし」
「別に構わないさ。さぁ、早く」
まぁ、どうせここでごねても結局やる羽目になるし、いいか。
「でも、防具なくないすか?」
「大丈夫だ。向こうの部屋にあるから」
あんのかよ……。
「では、参ろうか」
そんなわけで、胴着に着替えて胴と胴タレを着け、軽く準備体操。各々で体を伸ばしてると、日向さんが声を掛けてきた。
「ところで、剣道をやっていたと言ってたが、どのくらいの腕だったんだ?」
「へ?あー……まぁ、普通ですかね。中学までしかやってなかったんで、とりあえず二段取って……あと大会で一回だけ3位取ったくらいですかね」
「ふむ、3位か。それは楽しみだな」
「いえいえ、ですからブランクが……」
「中学以来やってないのか?」
「軍の方でたまに」
俺の出小手に初見で反応できた奴は軍の先生含めていなかったね。まぁ二回目以降はあっさりと相小手面取られたんだけど。
ストレッチのついでに素振りもして、いよいよ面着け。
「まずは、切り返しからでいいですか?」
「分かった」
剣道で最もいらない、「上座の譲り合い」などはなく、俺がどうぞと言うと、あっさりと日向さんはあっさりと上座に立って、お互いに礼をして構えた。
切り返しを終え、基本打ちも何もなしに試合を始めた。
3
数分後、俺は涙目の日向さんのおへその少しした辺りをさすっていた。いや、股間じゃなくてね?
理由は、初っ端から出小手を見事に決めて、「やるな!」と、褒められて嬉しくて調子に乗ってできもしない返し胴打って外した結果である。
「あ、あの……すみません、ほんと……」
「いや、剣道やってる以上は仕方のないことだ……」
も、申し訳ないことをしてしまった……。本当に。
「あの、湿布貼りましょう?」
「………そうだな」
俺は日向さんに肩を貸して医務室へ。ちなみに医務室は入渠ドックでは治せない怪我や病気(インフルエンザなど)を治すためにある所だ。ちなみに提督や俺もここを使っている。
「あ、どうぞ。湿布です」
「すまない……」
「いや謝るのは俺の方ですよ……」
言いながら俺は後ろを向く。流石に生肌に湿布を貼るところを見るわけにはいかない。俺は別にその程度のことじゃ興奮もしないのだが、女性からすれば見られるのは嫌なことだろう。
「………? なぜそっちを向く?」
後ろから声が返ってきた。
「はい?」
「貼ってくれるんじゃないのか?」
「…………はい?」
今この人何つった?
「いや、だからてっきり貼ってくれるものだと思ったんだが……」
「えっ?俺に貼らせてくれるの?マジで?いいの?そんな事して?女性の生肌を触っても良いってこと?」
「心の声が出てるぞ」
あっ、ヤベッ!
「まぁ、私は気にしないがな。服を捲り上げていないといけないから私は貼りにくいんだ。貼ってくれ」
ま、マジでかッ‼︎
「やりましょう」
つい、即答しちまったじゃねぇか!俺は湿布を剥がし、服を捲り上げて腹を出してる日向さんに手を伸ばす。
落ち着けぇ、俺ぇ。日向さんのプロポーションは中々のものだけど耐えろ。理性を燃やせ。
「は、貼りますよ?」
「………早くしてくれ、改めて聞かれると少し恥ずかしい」
………なんだこの人。可愛すぎんだろ。
心臓の高鳴りを抑えつつ、俺は日向さんのお腹に湿布を端からくっ付ける。
「んっ……」
「何そのエロい声。い、痛かったですか?」
「心の声が出てるってば。いや、冷たかっただけだ……。続けてくれ」
言われて、俺は続きをする。端から空気の入らないようにゆっくりと湿布を貼っていく。そして、ようやく貼り終えた。
その直後、ガララッと医務室の扉が開いた。
「ふぅ……ようやく終わった……。まったく、みんなしつこいよ……二日酔いで気持ち悪いっていうのに……んっ?」
古鷹さんが入って来た。