翌日、目を覚ますと目の前には古鷹さんの寝顔があった。
…………えっ、あれ?なんで?おかしい。何で?昨日のことを思い出せ。缶二本しか飲んでないだろ俺、そんなに酔ってないはずだ。
……あ、そうか。つまみを作って二人で食ってる間に寝ちまったんだ。だから間違いは起こってない、それは確実だ。けど問題は、この体勢だよな。男女二人で寝てるという時点でアウト。ていうか俺朝飯の準備あるからいかないといけないんだけど……。間宮さんに「次はない」って言われてるんですけど……。
仕方ない、脱出する。俺は腹の上で寝てる猫を起こさずに脱出することができるほど器用な男だ。この程度、朝飯前……。
「んっ……」
逃げようとすると、古鷹さんから寝息が漏れた。てか、よく見たらこの人俺の服の袖ガッツリ掴んでるんですけど……。
……なんか、この人、てか今更だけど浴衣で寝るってすごいな……。こう、襟の辺りがはだけて、胸の谷間がチラッと……はいぃ!そこまでぇ!今はそんな場合じゃないよね!てかそれ以上は間違いになるしやめようね、俺!
いやしかし、真面目な話どうしよう。間宮さんに殺される。弁明すると社会的に殺される。
よし、脱ごう!いや変な意味じゃなくて、掴まれてるのは裾だけ何だから、こう、良い感じに服だけ脱いで脱出すればいい。幸いというか何というか、俺は今着てる服の下にもう一枚着てるし、大丈夫だろ。
「…………ふぅ」
よし、やってやる!まずは掴まれてない方の袖を抜いて……、
「んっ……ふわあぁ……」
起きんの早過ぎんだろ。どういうことだってばよ。
「お、おはようございます……」
「んー……」
あ、ダメだこの子。寝起き5分間はぼーっとしてて使い物にならないパターンだ。
ヤバイ、遅刻まであと4分。こうなったら多少強引でも抜け出すしかない。
「ふ、古鷹さん……すいません、」
無理矢理、と言うほどではないが、半ば強引に服を引っ張って脱出した。よし、このまま逃げられるッ!
「んー」
そう思った俺のズボンに手をかける古鷹さん。既に走り出していた俺は盛大にすっ転んだ。
「オブッ!ふ、古鷹さん……!」
おい!引っ張るな!ケツ出ちゃうから!やめて!パンツ見られるくらい何とも思わないけどやめて!
あーわかったわかった!ズボンくらいくれてやるよチクショウ!俺はズボンを脱ぎ捨てて一度自室に戻った。
1
結局、間に合わなかった。だが、全速力で来たのが認められたのか、然程怒られることはなかった。
全員分の朝飯を作り、後は全員が来るのを待つだけだ。
「あの、間宮さん」
「はい?」
「ちょっとシャワー浴びてきても大丈夫ですかね。昨日、色々あって、お風呂は入れなくて……」
「どうぞ。でも皆さんが来る前に戻って来て下さいね」
「ういっす」
さて、走ろう。
2
俺がシャワーを浴びて戻って来ると、ちょうど食堂の前で提督と会った。
「あっ」
「おはよう。福島くん」
「どうも」
「遅くね?朝飯は?」
「さっき作りました。まだみんな来るまで時間ありそうだったのでシャワー浴びてきたんです」
「あーなるほど」
そんな話をしながら食堂に入ると、中はすでに艦娘が集まっていた。
「暁ちゃん、先に食べてちゃダメなのです!」
「い、良いじゃない。お腹すいたんだもん!」
「朝は……眠い……」
「姉さん、起きて下さい……」
「あ、足柄お姉ちゃん……もう司令官さん来るからお化粧は……」
「寝坊して忘れてたんだから仕方ないじゃない!」
………うちの鎮守府の姉は姉としての意識がないのか。ちなみに、足柄とかいうのは昨日建造されたらしい。
「……みんな。おはよう」
提督が挨拶すると、全員が挨拶する。みんな朝から元気だなぁ……。
「福島さんもおはよー!」
「おう」
島風に挨拶され、軽く会釈する。すると、古鷹さんと目が合った。ちょっと顔を赤くして背けるのやめてくれませんかね。
暁やら電やらが「隣にきてー!」と提督を引っ張り回す。この短い間であの人は駆逐艦にフラグでも立てたのか、と思ったが、まぁ小さい子が懐いてるだけだと思い直し、ロリコン認定はやめておいた。
「福島さんっ」
俺も名前を呼ばれた。島風だった。
「どしたん?」
「隣、来てー」
「あー……」
そうか、姉妹艦いないのか。大きくなりつつあるこの鎮守府では、今や姉妹艦が増えつつある中、島風だけは絶対増えない。
「あいよ」
俺は島風の隣の空いた席に座った。目の前には俺がさっき作った朝飯がある。
「じゃ、いただきまーす」
提督が言うと、全員が続いた。朝飯は納豆に白米にタコ様ウィンナーに簡単なサラダ。昨日の晩飯の残りが使えれば楽なんだけど、赤城さんという残飯掃除機がいる以上は無理だ。
「ねぇ、福島さん」
横から島風が納豆のカップを持って聞いてきた。
「なにこれ?寄生虫の卵?」
ああ、そうか。納豆はまだ出したことなかった。にしても寄生虫の卵はひどい言い草じゃないですかね島風さん。
「納豆。大豆だ」
「ふぅーん……」
「この茶色い奴の上にタレと辛子を掛けて、箸で白いネバネバで納豆が見えなくなるまで掻き混ぜる」
言いながら、俺は手を高速で動かした。
「は、はやーい……」
「そしたら、白米にブチまけれて、一緒に食えば良い。外見はアレけど美味いよ」
「ほんとに?」
「ああ、納豆を食わず嫌いしてるアホは人生の12割を損してるといっても過言ではない」
「すごいね!じゃあ私も食べる!」
あれ?島風さんツッコミなしとですか?
「12割って……振り切ってんじゃないの」
隣にいた叢雲がツッコんでくれた。
「叢雲……お前良い奴だな……」
「は、はぁ⁉︎何よ急に……!」
「照れんなよ。顔赤いぞ」
「んなっ……⁉︎て、照れてないわよ!あんたに褒められたって照れる要素ないじゃない!」
「でも顔赤いよ?叢雲ちゃん」
「吹雪!あんたは黙ってなさい!」
よし、決めた。叢雲はこれからずっといじり倒そう。ここまでからかい甲斐がある奴は初めてだ。
3
飯の時間が終わり、俺は間宮さんと皿洗いをする。
「ごちそうさまでしたー!」
元気良く那珂さんが挨拶して流しに食器を出す。その後に川内、神通、古鷹さん、赤城さんと並んでいる。
しかし、古鷹さんの部屋に置いてきたズボン、いつ回収しようかなー。古鷹さん、うちで今三番目に練度高いらしいから演習や出撃では外されないだろうし……。まぁ、夜で良いか。
そんな事を思いながら洗い物をしてると、古鷹さんが食器を流しに出した。
「あの、福島さん……」
「はい?」
「こ、これ………」
顔を赤くしながら古鷹さんが俺に渡して来たのは、俺のズボンだった。