ある日。俺は鎮守府にある弓道場にいた。空母が赤城さんしかいないので、あまり使われることはないらしいが、俺は少し興味ある。
何故なら、アベンジャーズを見て以来、ホークアイがかっこ良くてたまらないからだ。 というか、アメコミにハマり、とりあえずアベンジャーズ1、2、アイアンマン1、2、アメイジングスパイダーマン1を見たのだが、まぁー面白かった。ちなみに次はアイアンマン3を見る予定だ。
何となく弓道場を見回ってると、弓が落ちてるのが見えた。練習用だろうか。少なくとも艤装のものではないだろう。
「よし、やってみよう!」
いいよね!どーせ暇だし!と、いうわけで弓を持ち、矢をその辺から取ってきて構えた。あの的はロキだ。と、いうことはこの矢はボタンを押せば起爆する。
「………」
ギリリッと矢を引いて放った。矢は3メートル先で落ちた。あー、今ので多分ロマノフ死んだな。申し訳ないことをした。
「ふふ、何してるんですか?」
「アハギャハッ⁉︎」
背後から突然声をかけられ、変な声を出してしまった……。赤城さんがニコニコと微笑んでこっちを見ていた。
「あ、赤城さん……見てたんですか?」
「ええ。お上手ですね」
「この矢ってけい動脈くらいは切れますよね?」
「やめて下さい」
矢の先端を自分の首に当ててみると、止められてしまった。いやだって恥ずかしいもの。死にたくはなるでしょうこれ。
「弓、好きなんですか?」
「いや別に普通です」
「それでは何故?」
言えない。アベンジャーズに影響されたなんて口が裂けても言えません。
「い、いや暇だったんで……」
「よろしかったら教えましょうか?」
「いや、いいです」
やめてください。そこまでしてやりたいわけじゃないし、何より貴方のような成人女性とマンツーマンとか心臓がもたない。的より先にこっちが射抜かれる。
「そうですか」
「それより、赤城さんは何でここに?」
「鍛錬です。今日は非番ですが、慢心は出来ませんからね」
ふーん、真面目な人だ。こんな人が昨日のバイキング全部喰らい尽くしてたんだよなぁ……。ギャップって怖い。
「じゃあ見学してて良いですか?」
「ふふ、どうぞ」
赤城さんの練習を俺は後ろで眺めた。
1
数時間後、目を覚ました。目を覚ました、ということは俺はいつの間にか寝ていたようだ。
気になるのは、頭の下が柔らかいことだ。
「ふふ、お目覚めですか?」
「って、赤城さ……⁉︎」
膝枕されていたようだ。ちょっとこの年で膝枕は恥ずかしいのでやめて下さいよ……。
「おはようございます」
「お、おはようございます……」
起き上がって、よだれがついてないか口元を袖で拭いた。
「大丈夫ですよ。綺麗な寝顔でした」
「それどういう意味ですか……」
なんか恥ずかしいんですけど……。
「それよりいいんですか?」
「は?何が?」
「もう18:00ですよ?夕食の準備とか……」
「えっ?」
ポケットからスマホを取り出して時間を確認すると、18:03と表示されていた。あ、ヤバい。これはヤバい。
「すみません!」
「美味しいご飯、待ってますからね」
俺は慌てて弓道場を出た。
2
間宮さんに怒られた。「次はありませんからね?」の笑顔がものすごく迫力があって、思わず土下座しそうになったまである。その後、怒られた直後で気まずいながらも晩飯を作った。
で、夕食を終え、俺は部屋で寝転がる。
「あー……疲れた」
気だるい声が漏れた。てか実際ダルイ。疲れたぜ今日は。弓道場から食堂までの間とはいえ、あんなに走ったのは久し振り……でもないや、前に島風の相手したわ。
……どーしよ。喉乾いたな。コンビニに酒買いに行くか。この時間だとコンビニしか開いてないし。
「よっ、と……」
立ち上がって、靴を履いて部屋を出た。
みんな寝てるのか、静まり返った廊下を歩く。
うちの鎮守府も人数が増えて、段々と騒がしくなってきているのだが、夜は静かだ。いや、夜戦バカがいるから若干一名だけうるせーのだが、基本は静か。人混み的な騒がしさはない。
つまり、川内にさえ会わないようにすれば、誰もいないわけだ。そう思うと、変なテンションになって来るのが人という生き物だ。
「テッテッテッテッ、ZURA☆テッテッテッテッ、ZURA☆」
ノリノリで俺は歌い出した。
「やるなら今しかねー(ZURA☆)やるなら今しかねー(ZURA☆)」
腰を使って移動しながら踊り出した。
「攘夷がJOY☆JOYが攘夷☆」
手でフレミングの法則のような形を作って踊る。
「はい、そこで復しょ……」
振り返った所で、湯上りなのか、浴衣の古鷹さんが苦笑いで立っていた。
「…………」
「……あ、あはは、大丈夫ですよ?誰にも言いませんから……」
「…………」
俺はそう言っていた奴を信じたことがない。
「口止料は払うから許して下さい」
「へ?いやそんなの払わなくても……」
「いいから来て」
少し強引だが、俺は古鷹さんをコンビニに連れて行った。女子ってのは昔からそうだ。高校の時は「誰にも言わないから!」って言って次の日はクラスの常識になってたからな。
そんなわけで、夜中に古鷹さんとお出掛け。あまり女性との耐性のない俺だが、こう見えて中三の時は彼女いたし、大丈夫だろ。
何より、何か奢るだけだから話し掛ける必要はない。
「あの、福島さん」
「あ、はい。何でしょう」
そっちから話しかけて来るとは。
「あの、この前は、ごめんなさい……」
「はっ?な、何の話です?」
「この前、私が建造された日、名前間違えてしまってたみたいで……」
あー……思い出したわ。福山とか言われたな。そんな事気にしてたのかこの子。
「気にしないで良いですよ」
「で、でも……これからお世話になるのに間違えるなんて失礼なこと……」
「気にしなくて良いって。………高一の時は存在すら認識されてませんでしたから」
いや、一部の奴らには認識されてたけどね?リア充グループには認識されてなかった。
「それで、口止めって何を……?」
「あ、いや抹殺するとかそういうんじゃないですよ?」
「分かってます」
「何か奢りますよ」
「い、いやそんな悪いですよ!」
「いいからいいから」
コンビニに到着。ウィーンと自動ドアが開き、コンビニ店員のやる気のない挨拶が飛んでくる。
「うーん……氷結でいいか。あとはポテチと、イカと……何にしましょうか?」
「わ、私に聞かれても……」
「あ、好きなのどうぞ」
「い、いえですから私は……!」
「良いから良いから。酒でも良いですよ」
「………じゃあ、お言葉に甘えて」
古鷹さんもお好みの酒を選んだ。で、レジで買って、帰宅。
鎮守府に到着し、古鷹の部屋の前まで送った。
「すみません……おつまみまで」
「良いって。じゃ、おやすみ」
軽く挨拶して別れようとした。さて、今日は酒飲みながら朝までゲームだ。昼寝したから眠くない。
「あ、あのっ」
「えっ?」
まだ何か?
「よ、良かったら、私の部屋で飲みませんか……?」
「……えっ?」
3
ま、マジでか……。俺の人生で女の子の部屋で二人きりで酒を飲むことがあるとは……。
「すみません。まだ妹が着任してなくて、一人でお酒飲むのも寂しいですから……」
あ、やばい……古鷹さんがいつもの3倍可愛く見える。意識してるからか?いやいやいやいや、落ち着け、意識するな俺。ここで間違いを犯せばせっかく勝ち抜いた就活戦線がパァだぞコノヤロー。
「じゃあ、えーっと……」
「乾杯?」
カシュッと、心地良い音を立てて缶を開け、コツンと二人でぶつけた。
「ッ、ッ、ッ……ぷはぁ、うめぇ」
「ふぅ……。あ、意外と顔赤くなるんですね。福島さんて」
「そう?初めて飲んだ時にもそれ言われたけど……そんな赤い?」
「いえ、そこまでは……」
「ですよね?自分で見ても分からないんですよ」
「ちなみに私はどうですか?顔赤いですか?」
「ううん。古鷹さんはあんま変わってません」
「そうですか。良かった……。お酒飲むの初めてなんですよ」
「あーそりゃそうか」
………なんだ?酒のおかげか?割と話せてるぞ俺。
半ば感心しつつ、ポテチとイカの袋を開けた。コンビニでもらった割り箸で摘む。
「……美味しいですね。どれも初めて食べます」
「ああ、そっか。艦娘ですもんね。でも、これからは人として生きていけますから、いろんなもの食べられますよ」
「人として、ですか……」
言うと、何故か古鷹さんは複雑そうな表情を浮かべた。やっべ……なんか地雷踏んだかもしれない。
「最近知ったんですけど、中には私達艦娘を恐れてる人とかもいるみたいなんですよね」
「…………」
「それに、別の鎮守府では艦娘を道具として見ている人もいると聞きます。私は、人として生きていけるのでしょうか……」
あー……なるほど。そういや俺もそんな話を聞いたことがある。艦娘が怖いというのも分からなくはない。日本で拳銃の携帯は禁じられているが、艦娘の持つ艤装は拳銃どころの威力ではない。
艦娘を道具だ何だというのも聴いたことがある。普通の人間の俺には答えられる質問ではなかった。
「………さぁ?」
思いのままを答えたら、古鷹さんはポカンとした表情を浮かべた。
「俺には分かりませんけど、まぁ少なくともこの鎮守府にいる間は人なんじゃないですか?」
「……………」
「まぁ、人でいられる間は色々と楽しめますから、そんな世間の意見なんて気にしないで」
真面目なことを言ったつもりはないが、冗談を言ったつもりもない。
「………つまみ足んねぇや。なんか作るんで、キッチン借りて良いですか?」
「あ、どうぞ……」
………思いのままを言ったはずなのに妙に小っ恥ずかしかったので逃げようとした。
「あの、福島さん」
そんな俺に声が掛かった。
「ありがとうございます」
「……………」
ニコッと微笑まれた。
………あー。ダメだ。ダメだよこれ。何も返せない。恥ずかしい。
その後は、二人で一緒につまみ食ったり酒飲んだりしていた。