鎮守府の食堂で働く   作:アルティメットサンダー信雄

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のみかい

 

夜中。二航戦の部屋。

 

「二航戦着任記念に!」

 

「「かんぱ〜い!」」

 

俺は何故か二人の飲み会に付き合わされていた。

 

「じゃねぇ。なんで俺ここにいるんすか」

 

「なんでって、福島さんのおかげで私達は出会えたんですから。当たり前ですよ」

 

飛龍が微笑みながら言った。

 

「いやいや、あんなんおまじないみたいなもんでしょ。俺のお陰って言われるほどのことじゃ……」

 

「そんな謙遜なさらないでください」

 

「してないってばよ」

 

「いいからいいから♪今日は飲みましょう」

 

蒼龍さんが俺のコップにサワーを注いだ。良かった、ビールとかじゃなくて。俺、未だにビールとかワインとかシャンパンは飲めねんだよな。

 

「……なんか摘みが欲しいわね」

 

そのくらい用意しとけよ。

 

「なんか適当に作りますよ。何がいいですか?」

 

「じゃあ、ビーフジャーキーとかでいいすか?」

 

「おお!流石料理人!」

 

うるせーよ。というか、そのために俺のこと呼んだんじゃないだろうな。

テキトーに作って、盛り付けて二人の前に置いた。

 

「おお!美味しい!意外と本格的!」

 

「蒼龍、意外となんて言っちゃダメよ?福島さんは割と本気でなんでも作れるんだから」

 

「なんでもは無理だ。というか、レシピがあれば誰だって作れるだろ」

 

「そんなことありませんよー。比叡なんてレシピがあっても……」

 

「飛龍、それ以上はいけない」

 

ああ、あの人のカレーはヤバイんだってな。俺は食わされたことはないけど、提督が死にかけたらしい。

 

「というか、今日着任したばかりなのに、比叡さんの料理がアレなことなんで知ってるんですか?」

 

「さっきまで一航戦の方々とも飲んでたんですよー。今は私達にとって二次会という奴です」

 

「どーでもいいけど、明日出撃とかないんですよね?二日酔いで死んでも知りませんよ」

 

「私はしばらく演習かなー。飛龍は?」

 

「今日、海域抜けたばかりだし、明日は出撃ないって提督言ってました」

 

そうですか。まぁ、大人だしそのくらいの自己管理は出来てて当たり前か。

 

「さて、ところで福島さん!」

 

蒼龍が俺の前にズイッと顔を近付けてくる。近いっつーの。

 

「好きな子はいますか?」

 

「は?何急に」

 

「もう三ヶ月この鎮守府にいるんですよね?誰かしらいないんですか?」

 

「好きな子、ねぇ……。可愛いなーこの子とか思う子はいますけど、恋愛対象は今の所いませんね」

 

「へぇ!どんな子がタイプなんですか?」

 

飛龍も興味津々で聞いてきた。

 

「………いや、言いませんけど」

 

「えー!なんでですかー!」

 

「少し前に青葉にバラされてるんですよ。それ以来は絶対そういうこと他人にバラさないと決めました」

 

「ぶー、青葉と一緒にしないで下さいよー」

 

「嫌だね、女はみんな獣だ」

 

「ずいぶんと女々しい意見ですね……」

 

うるせっ。

 

「じゃあ可愛いなって思った子は?」

 

「ほぼ全員」

 

「………うわあ、」

 

「おい待て引くなよ」

 

仕方ないだろ。みんな可愛いんだから。少なくとも外見は。

すると、飛龍さんがニヤニヤしながら聞いてきた。

 

「そういえば、昨日白露ちゃんとデート行ったんでしょ?」

 

「ブフッ!」

 

「ちょっ、汚いなぁ……」

 

「な、なんでそれを……」

 

「昨日、白露ちゃんが嬉しそうに言ってましたよ。ケーキバイキング行ったーって」

 

「うわー。福島さんってロリコン?」

 

「違うからね?白露が他の妹全員出撃でいないらしくて、あれ、もしかしてこいつハブられてんじゃね?って思ったから連れてっただけだ」

 

「いやいや、違うから」

 

「さっき私も聞きましたけど、この鎮守府だと『なるべくみんな仲良くなって欲しい』っていう提督の方針で、なるべく姉妹艦は別々の部隊で出撃するようにしてるみたいですよ」

 

「えっ」

 

二人にシレッと真実を告げられた。おいおいまじかよ、ってことはアレ俺の奢り損じゃねぇか。

 

「マジかよー!あんにゃろ2000円返せえええええ!」

 

「いやいや、それは福島さんの早とちりでしょ」

 

っ……!た、確かに……!でもなんだろう、この嵌められた感……!

 

「まぁ、そう落ち込まないでくださいよ。白露ちゃん喜んでましたし、良かったじゃないですか」

 

あの生意気なクソガキに喜ばれても俺は嬉しくもなんともねぇよ。その点、春雨ちゃんはあのバカの妹とは思えないくらい素直で優しそうな子だったなぁ。

 

「福島さん、顔のニヤつき具合がすこぶる気持ち悪いです」

 

「はっ、いっけね」

 

慌ててキリッとした表情に戻した。ふぅ、危なかった。もう少しで変な扉開くところだった。

 

「で、タイプの子は?」

 

「その話まだ諦めてなかったのかよ……。というか、むしろ二人のタイプはどうなんすか?」

 

「え?あー……」

 

「飛龍のタイプは聞いても無駄ですよー。どーせ、多聞丸ですから」

 

「ちょっ、蒼龍……!」

 

「多聞丸?誰?」

 

「私の艦長だった人です」

 

「ふーん……。有名な人なん?」

 

「それはもう!……というか、一応軍人なんですよね?多聞丸の事くらい知っておいてくださいよ」

 

「俺は過去は捨てて未来だけを見て生きるって決めてるんで」

 

「いや福島さんの過去じゃないでしょう」

 

バカにしたような顔で、飛龍さんと蒼龍さんは俺を見た。ほう、俺に頭脳戦で挑むと?

 

「なら、二人は織田信長って知ってますか?」

 

「知ってる」

 

「知らないわけないじゃん。鉄砲を日本で初めて上手く使った人ですよね?」

 

「……………」

 

「山本提督はご存知ですか?」

 

「……………」

 

この飲み会は俺のバカがバレる結果で終わった。

 

 


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