ある日、食堂で暇そうに携帯を弄ってると、飛龍さんが一人ポツンと座ってるのが見えた。なんかすごい集中してるように見える。出撃前なのかな?
しかし、出撃前にあまり気入れしすぎるのは良くないと思う。中学のときの剣道もそうだった。試合前にやる気満々で素振りしてたら一回戦目でミスを連発して負けた。
どうしたものか悩んだが、一応声を掛けてみることにした。
「こ、こんいちは!」
盛大に噛んだ。女性と話すのは慣れてきたつもりだったが、まだまだか。
俺に気付いた飛龍さんは、微笑みながら会釈した。
「こんにちは、福島さん」
「随分と気合い入ってますね、どうしたんですか?」
「いやー、実は次行く海域に蒼龍っていう子が出るみたいで。その子、私の友達なんです」
「………会ったことないのに友達なんすか?」
「私達は艦娘ですから。軍艦だった時代の記憶があるんですよ」
「なるほど……。じゃあ艦娘になった今って同窓会みたいな感じなんすね」
「随分と斜め下な捉え方なんですね……」
ふふ、同窓会か……。誘われた事ねぇや。
「でも、あまり気合入れすぎて無理しないでくださいよ」
「わかってますって」
「そういう人って大抵分かってないんですけどね」
「むっ、わかってますって!」
この人もこういうところあるんだなぁ……。ムッとした顔可愛い。
「そんなに蒼龍って人に会いたいんすか?」
「それはもう、同じ二航戦の仲間ですから」
ふーん……なるほど。俺にはその感覚はわからん。何せ友達が少ないからね、うん。……あれ、俺最近あいつらと連絡取ってないな……。もしかして、友達いない?
「どうしました?なんか暗い顔して……」
「何でもないですよ」
心配されてしまった……。しかし、そうか。艦娘は俺たちと違って、同窓会で昔の仲間と会える可能性は運なのか。
………うしっ、決めた。
「あの、飛龍さん。まだ時間ありますか?」
「はい?ありますけど……」
「少し、待ってて下さい」
俺は一度厨房に戻った。そして、冷蔵庫やら何やらからいくつか材料を取り出して、簡単に料理したあと、食堂に戻った。
「どうぞ、ジャスミンミルクです」
「? なんですか?それ」
「ジャスミンの葉を簡単に使って作ったミルクですよ。ジャスミン葉は出会い運が上がるみたいですから、作ってみました」
カッコつけて気取った料理を出したとは言えない。
「お代は結構ですから、どうぞ」
「い、いいんですか?」
「はい。俺が勝手に作ったものですから」
「………じゃあ、すいません。いただきます」
飛龍さんはジャスミンミルクを飲んだ。
ちなみに、クックパッドから探したとは言えない。
「どうですか?」
「美味しいです」
「運気の方は?」
「そんなのわかるわけないじゃないですか」
「ですよね」
「でも、なんとなく上がった気もします」
えっ、マジ?と、思ったがこの人は大人だ。話を合わせてくれてるだけだろう。
「だといいですね」
「あ、そろそろ時間!じゃあ、失礼します」
「無理しないようにね」
「はい」
元気よく飛龍さんは食堂を出た。それを俺は見送りながら、我ながららしくないことをしたなぁと思った。
1
夜。食堂。ほぼ全員分の晩飯を捌き、俺は椅子に座り込んだ。残りは第1艦隊と提督のみか。
「ふぅ……お疲れ様です。福島さん」
「ああ、お疲れ様です。大鯨さん。慣れました?」
「はい。でも夜は大変ですね〜……」
「大鯨さんが食堂に入ってくれたから、俺も間宮さんも助かってますよ」
「ふふ、ありがとうございます」
「二人とも、お喋りしてる暇があるなら手伝って下さい」
「「はーい」」
間宮さんに怒られたので仕事再開。第1艦隊には加賀さんがいる。注文される前に始めないと。
「じゃ、やりますか」
そう言って俺も大鯨さんも料理を開始した。
2
70人前(内、10分の9は加賀さんの)の料理を作り終え、俺はヘトヘトの体を引きずりながらも、厨房から出て飲み物を飲んだ。あー……キッツイわー。赤城さんはたまたま入渠中だったからよかったものの、あの二人が重なると本気で死ぬ。
そんなことを思ってると、第1艦隊と提督が食堂に入ってきた。
「福島さぁーーーん!」
直後、飛龍さんが俺に抱きついてきた。えっ、ちょっ、おっぱい柔らかっ。
「な、なんですか?飛龍さん?人前ですよ?」
「やりましたよ!蒼龍が来ました!」
「さっきから柔らかいのが当たっ……マジで?」
「マジです!」
キャーキャーと言わんばかりに飛龍さんは俺を抱き締める。ああ……最高。
すると、ガンッと後ろから殴られた。
「いたっ⁉︎」
「あ、すいません。痛かったですか?」
「あっ……」
離れてしまった……。違うんです、飛龍さんの締め付けが痛かったんじゃなくて殴られたのが……いや、まぁいつまでも抱き締められてても困るんだけど。
で、俺を殴ったアホタレは誰だ?人によっては戦争起こしてやろうかと、半ギレ状態で後ろを見ると、古鷹さんが不愉快そうな顔をして俺を睨んでいた。
「ぁっ……」
何か声をかけようとした所で、飛龍さんは更に俺を抱き締めた。
「そんな残念そうな顔しないでくださいよ!蒼龍に会えたのは福島さんのおかげですから、たくさんサービスしますよ♪」
「ちょっ……いや俺のおかげってわけじゃ……」
ああ……古鷹さん完全に拗ねてる……。というかよく見たら大鯨さんも少しムッとしてる。なんだこの人たち。なんで怒ってんの?
「もう、飛龍。落ち着いてよ」
後ろから、見たことのないツインテールのオッパイが飛龍さんの肩を掴んだ。
飛龍さんもようやく落ち着いたのか、ツインテオッパイの横に戻った。
「あなたが福島さんですか?蒼龍です。宜しくお願いします」
「あ、ああ、どうも……」
頭を下げられ、俺も頭を下げた。ほんとに艦娘は美人さんばかりで困るわ。
「なぁ、『福島さんのお陰』ってどういう事?」
後ろの提督が俺たちに声をかけてきた。すると、飛龍さんが説明を始めた。
翌日から、ジャスミンミルクは大好評となり(特に提督に)、艦隊にはレア艦が次々に配属されていった。
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