鎮守府の食堂で働く   作:アルティメットサンダー信雄

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二輪白露

 

昼過ぎになった。俺は晩飯の時間までボーッとすることにした。厨房には俺と大鯨さんの二人きり。だからといって何かラブコメ展開があるわけでもない。俺はスマホをいじり、大鯨さんは暇そうにぼんやりしている。

 

「………腹減ったな」

 

軽くなんか作る……のは面倒だ。間宮さんとこ行こう。

 

「ちょっと出掛けて来ます」

 

短く大鯨さんにそう言うと、「はぁい」と返事が返ってきた。

廊下を大きな欠伸をしながら進む。パフェ食べようパフェ。腹減ったわマジで。

 

「あ、福島くん」

 

声を掛けられた。振り返ると、提督が加賀さんと二人で歩いていた。おそらく、間宮にでも行くのだろう。

 

「提督、どうも。間宮?」

 

「ああ。糖分が俺を呼んでるんだよ」

 

「何言ってんのあんた、糖分が呼んでるのは俺だから」

 

「は?」

 

「あ?」

 

「やめなさい、糖分バカ二人」

 

加賀さんが冷たく俺たちに言った。

 

「で、なんで二人で間宮に?デート?鎮守府デート?」

 

「んなっ……!ち、違います!」

 

顔を赤くして否定する加賀さん。うわっ、わかりやすっ。

 

「なわけねーだろ。加賀と昨日の出撃で賭けしたんだよ。次のMVPは誰か。加賀さんは自分に賭けて俺は瑞鶴に賭けたら負けて、それでパフェ奢るハメになったんだよ」

 

「…………」

 

「いだっ!なんで蹴るの加賀⁉︎」

 

「うるさいです」

 

………うわあ、まさか「鈍感主人公がヒロインと実質デートしてて、そこに友達が遭遇してデート否定したらヒロインが怒る」というテンプレを目の前で見せつけられるとは……。

 

「けっ、爆発しろ」

 

「な、なんだよ」

 

「うるせーバーカ。死んじゃえ」

 

「言い過ぎだろお前!」

 

「ちなみに提督、過去に彼女ができたことは?」

 

「ないよ?」

 

「学校の成績は?」

 

「かなり悪かったなぁ」

 

「女の子が不良五人に囲まれてたら?」

 

「助けるに決まってんだろ」

 

「ホンット死ねば?」

 

「おい、いくらなんでもキレるぞお前」

 

「こっちの台詞だこの野郎オオオオ‼︎」

 

なんだこのラノベ主人公男!殺したい!超しばき回したい!加賀さんもこめかみ人差し指で抑えている。

 

「加賀さん」

 

「はい?」

 

「頑張ってね」

 

「はい」

 

そう言うと、俺は二人から離れた。うん、あの二人の邪魔はしたかないし、間宮は諦めよう。

しかし、こうなると糖分の補充ができない。仕方ない、街までいくしかないか。

 

「いっちばーんキィーーーック‼︎」

 

間抜けで、犯人が断定できそうな台詞と共に俺の背中に蹴りが入った。腰が裂けるかと思った。

 

「テメェ……何しやがんだこの野郎……」

 

「ほう、私の一番キックを受けて立ち上がれるとは、中々良い鍛え方を痛たたたた‼︎」

 

俺は無言で白露にアイアンクローをかました。

 

「テメェ……このまま円盤投してやろうか」

 

「待って待って待ってってばー!この後ファミチキ奢ってあげようと思ってたのにー!」

 

「え?マジ?」

 

なんだよ、早く言えよ。俺は手を離した。ドシャっとその場に落ちる白露。

 

「っつぅ〜……」

 

涙目でお尻を撫でながら白露は、俺を恨みがましい目で見た。自分のお尻を撫でる女の子って少しエロいな。

 

「それより、こんな所で何してたの?」

 

「間宮に行こうとしたんだけど、空気を読んだんだよ。出来る男は空気は読めるからな」

 

「? できる男なんてどこにいるの?」

 

「おい真顔で言うな」

 

え?俺できる男だよね?運動は得意だし、料理もできるし、勉強はできないし、できる男だよね?ね?

 

「ま、とにかく色々あったから糖分は外で取ることにしたんだよ」

 

「ふぅーん……。ね、私も一緒に行ってもいい?」

 

「奢らねーぞ」

 

「福島さんは私の事なんだと思ってるの⁉︎……まぁ、少し狙ってたけど」

 

「ならあってんじゃん。アホの子ビッチだな」

 

それなんて由比ヶ浜さん?

 

「ビッチじゃないし!」

 

「つーかお前出撃はねーのかよ」

 

「うん。でも白露型のみんなは出撃なり演習なり遠征なり行ってるから暇なんだー」

 

それ、提督にお前ハブられてんじゃねぇの?いやいやいや、確定もしてないのに滅多なこと考えるモンじゃないな。あれっ、そう考えるとなんか悲しくなってきたぞ。

 

「……いいよ、やっぱ奢ってやるからついて来い」

 

「へっ⁉︎いいの⁉︎」

 

「ああ。今日1日、2000円分ならなんでも買ってやる」

 

「ひゃっほおう!太っ腹じゃーん!」

 

「じゃあ行くか」

 

 

1

 

 

鎮守府を出て、俺はバイクを引っ張り出した。

 

「……バイクで行くの?」

 

「後ろ乗るか?」

 

「うん」

 

「じゃあこれ」

 

ほいっとバイクのハンドルに掛かってるヘルメットを投げ渡した。

 

「ちゃんと顎も止めろよ」

 

「はーい」

 

そう言うと、俺もヘルメット(エゥーゴパイロットスーツ仕様)を被った。これ、日光防いでくれるから便利なんすよね。

乗れよ、という意味を込めて白露を見ると、素直に後ろに乗って、俺の脇腹の服をキュッと掴んだ。

 

「後ろから抱き付いて、胸を当てるみたいな事はしないからね?」

 

「感触を感じられるくらいの胸になってから言えクソガキ」

 

「………一々、むかつくなぁ」

 

こっちのセリフだ。

そんなわけで、バイクのエンジン始動。まぁ、バイクというより原チャリ何ですけどね。

頭の中でアナタMAGICを流しながら走ってると、後ろからギュッと抱き締められた。おぅふっ!柔らかっ!

 

「ひゃあああ!」

 

後ろから悲鳴が聞こえる。

……ああ、初めてのバイクの2ケツでびびってんのか。なんだよ、さっきまで強がってた癖に可愛いとこあるじゃん。……あと、可愛いおっぱいとか思ってて悪かった。柔らかおっぱいでしたね。

 

「………福島さん」

 

「あ?」

 

「謝っとく、ちゃんとしがみ付いておくね」

 

「ああ、俺もガキの体とかバカにして悪かったな」

 

何故か、お互いに親密度が上がった気がした。

 

 


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