釣りを始めて数時間、俺は飽きてスマホゲーをしていた。榛名さんも、俺の隣で代わりに釣りをしている。
「釣れました!これはなんて魚ですか?」
「鯛ですね」
「鯛!すごいですね!」
何故、こんな浅瀬に鯛が……というか、さっきから榛名さんが釣りまくってる。どういうわけかマグロとか何食わぬ顔で釣り上げている。
「もう帰るか……」
「ええっ⁉︎もう終わりにするんですか?」
「ええ。たくさん釣りすぎても食べきれないでしょう?魚は鮮度が命ですよ。今日はこの魚捌きますからね」
「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」
「お礼言うのはこっちですよ。………俺じゃまったく釣れなかったでしょうから」
そんな話をしながら、魚を持って鎮守府の中に退却した。
1
晩飯。榛名さんが釣ってきてくれた魚を間宮さんと二人がかりで捌いた。
とりあえず、刺身という形で全部料理に出し、一航戦がアホみたいに食い荒らしている。
「あー……疲れた……」
「福島さん!福島さん!」
元気よく俺の袖を引っ張るのは、隣に座ってる皐月だ。
「どした?」
「これ、榛名さんが釣ったんだよね?」
「おう。俺が三時間粘っても釣れなかったのに榛名さんは10分でこれ全部釣ったんだよ」
「すごいね!」
「ほんとすごいよな」
「福島さんのヘタクソさがすごいね!」
「ストレートにズバズバ言える皐月もすごいな。怖いモンなしだな」
あっはっはっー、もう死んじゃおうかな。
「福島さん、醤油とって」
「あいよ」
醤油をとって、皐月に渡した。まぁ、こうして隣に座って懐いてくれるのはいいが、このクソガキは俺の心の経絡秘孔を的確に突いてくる。俺の心が「あべしっ!」と破裂するのも時間の問題だ。
「さて、ご馳走様」
「あれ?もう行っちゃうの?」
「福島さんには洗い物とか色々あるんだよ。食い終わったらちゃんと流しに出しに来いよ、皐月」
「はぁーい」
そう言うと、流しに向かった。自分の分の食器を洗って、他の艦娘達が食べ終えるのを待つ。その間はスマホのゲームでもやってよう。パズドラは最近、やってる人を見なくなったが、俺はしつこくやってる。理由は特にないけど。なんだかんだ、パズドラと白猫は消せないよな。長くやってると。
ちなみにモンストはやってない。128回のリセマラの末、何も当たらずにやってられなくなった。
「ご馳走様でした〜」
挨拶とともに食器を流しに置く音がした。この声は島風かな。
「お粗末」
食戟のソーマのような返事をして、俺は洗い物を始める。かなり面倒な作業だが、手を抜けば衛生的によくない。料理人として、体に悪いものは出せないからな。
「ねーねー、福島さんっ」
「んー?」
島風が声を掛けてきた。
「お手伝いしようか?」
「あ?」
「ほら、いいでしょ?」
「いいけど、ちゃんと洗えよ?洗い残しがあったら、明日の朝飯で下手したら誰かが腹下すなり食中毒起こすなりくたばるなりするんだからな?」
「へっ?そ、そうなの……?」
「ああ。料理ってのは、栄養面と衛生面で人の命を預かることだからな。下手な事をすれば人の死に繋がるんだよ」
「じ、じゃあ……やめとこう、かな……」
「大げさなこと言って幼気な少女を怖がらせないでください」
別の声が割り込んできた。間宮さんだ。
「気楽にやればいいのよ、島風ちゃん。一緒に洗いましょうか」
「うんっ♪」
間宮さんがそう優しく言うと、素直に返事をする島風。こいつら親子かよ。
2
洗い物が終わり、俺は深夜のコンビニへお出掛けタイム。季節は夏に差し掛かろうとしていて、若干蒸し暑さすら感じる。
「実は、真夏の夜中に半袖短パンで海岸を通ってコンビニ行くのって少し憧れてたんだよねー」
今は真夏じゃないけど。ぶっちゃけ、暑い日は全部真夏だ。
今は真夜中だし、古鷹さんの時のように見られるなんて失態もないだろう。だから、俺ははっちゃける。
「イェ〜〜〜ヤァッ‼︎ヘェイッ、カモッ‼︎」
下手くそなヒップホップを刻みながら、妙な振り付けで廊下を進む。さぁて、今日は氷結の梅でも………、
「……………」
「……………」
羽黒さんが立っていた。
「……………」
「……………」←怯えた目
「あのっ、違うんですよ。羽黒さん。今のはですね?」
「ご、ごめんなさい!」
羽黒さんは謝りながら逃げてしまった。
「ちょっ、待ってええええ‼︎」
「ごめんなさああああい‼︎」
「逃げないで!お願いだから謝りながら逃げないで!」
結局、口止料にまたコンビニに行くことになった。