東方家族録   作:さまりと

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第56話【手にした者は】

「『運任』〈ドキドキわくわく抽選会〉!」

 

毎度お馴染みのドキドキわくわく抽選会。何枚ものカードが信を中心にして円を描く様にしてならび、そのうち1枚が燃え去り、1枚が赤い光を帯びた

 

「今回はこいつなのか」

「いいカードは引けたかしら?」

「まあな。そっちはいいのか?準備ができるまで待ってくれたみたいだが」

「相手の全力を受け止めるのが王たる者の務め。不意打ちでじゃないと勝てないなんて3流のやることよ」

「そうかい。なら、全力で行かせてもらうぞっ!!お前のデザートは俺のもんだっ!!!」

「貴方の全力を受け止めた上で貴方に勝ってみせるわ。私のプリンは絶対に渡さないっ!!!」

 

 

 

~~~~一方その頃~~~~

 

 

 

 

「はぁ~。生き返るわ。信ったら湯加減完璧じゃない」

 

疲れた体を癒すために湯船に浸かった霊夢はその湯加減の良さに感激していた

 

「それにしても今回の異変は一体なんなのかしら……。起こしたやつの意図も分からなければ何か起きるわけでもない。……何が狙いなの?」

(………ん~やめやめ。今考えたって何もわかりゃしないのに考えるなんて損だわ。今は信が用意してくれたこのお風呂を堪能しなきゃね)

 

ひとつ伸びをして頭の中を空っぽにする。今はこの静かな入浴を楽しむことにした

すると……

 

『ホントにいい女だと思ってな』

『しかも全員可愛いときた』

 

「ッ/////」

 

1年ほど前に信に言われた言葉が脳裏に蘇ってきた。この場には1人だけだというのに、恥ずかしさを隠そうと顔を真っ赤にしながら、バシャンッ という音をたてて霊夢は頭のてっぺんまで湯に浸からせた

 

『なんか夫婦みたいだな。』

 

最後に思い出したのがこの言葉。唯一、霊夢のみに向けられたこの言葉を何度も脳内で再生させ、ゆっくりと顔を湯船から浮かべた。それでも顔の半分はまだ水中だ

 

(夫婦か……。どんな感じなのかしら)

 

1人妄想を膨らませる霊夢の耳に、外の騒音が聞こえることはなかった

 

 

 

 

 

 

「『迷惑』〈刃の舞〉!!」

「鬱陶しいわね!最初からガツンッ!と来なさいガツンッと」

「鬱陶しいのもこのスペルの長所だよ。これくらいも受け止めれないのか?夜の王様さんよお」

「これくらい余裕よっ!!」

 

次々に増えていく手裏剣を無駄の無く最短の距離でかわしていく。しかもそれは恐ろしいスピードで行われており、流石は吸血鬼と言ったところだろう

 

「『紅符』〈スカーレットシュート〉!」

 

手裏剣の多くが自分の背後になったことを確認出来た瞬間レミリアは初めてスペルを唱えた

1つの大きな弾幕の後ろに小さく何十もある弾幕が追うように放たれる。そしてそれがいくつも連続して信にむけて同時に放たれる

 

「うは~」

「これくらいは対処できなきゃプリンへの道は程遠いわよ」

「じゃあ全部避けさせてもらうぞ」

 

大量に放たれた弾幕の僅かな隙間を信は掻い潜っていく。今回は弾幕に弾幕をぶつけるのではなく、回避することにしたらしい。どちらにするのかは信の気分次第である

 

「……やるじゃない」

「それほどでも」

「でもプリンは私の物よっ!!『神罰』〈幼きデーモンロード〉!」

 

再びレミリアがスペルを唱える。レーザーと弾幕が入り交じり、信に襲いかかってくる。

正確に。精密に。

しかしこれも信は完璧に回避しきってしまう。

 

「『神槍』〈スピア・ザ・グングニル〉!!」

 

深紅の巨大な槍を手にしたレミリアは凄まじい速度で距離を詰めた。常人なら反応するどころか目の前から消えたようにも思える速度で。

 

「『武刃』〈秋水〉」

 

静かに唱えた信は、高速で突っ込んでくるレミリアを当たり前のように受け止めた。両者は一歩も引かずにた互いに秋水とグングニルを ギリリ という鳴らしながら力を均衡させている

 

「あなた本当に人間なのかしら?吸血鬼の速度についてくるなんて」

「本当に人間だよ。そこだけは変わらない事実だ。でもまあ、最近妖力を使えるようになったりしたけど……」

「それはもう人間じゃないでしょ?」

「に、ににに人間だよ!!」

 

自分でいってて不安になったので、全力で反論しながらレミリアを押し返す。一瞬体制を崩したが、すぐさま立て直して再度信に突っ込んできた。

 

「『聖槍(せいそう)』〈ゲイボルグ〉」

「ッ!!」

 

秋水を消滅させたと同時に手にした物は槍。黒くの長い持ち手の先に赤い光の刃がついているだけのなんの味気の無い槍だ。何か違うとすればその槍全体が薄い金色のオーラに包まれているくらいで

 

「初公開のスペカだ!槍には槍で対抗させてもらう」

「面白いじゃない。私が身体能力だけだと思ったら大間違いよっ!」

 

信とレミリア。2人の槍がその身を交えさせた瞬間、絶大な衝撃波が地面を走った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごぽごぽごぽごぽ……。そろそろ上がろうかしら」

 

心を落ち着けて平常心を取り戻した霊夢は湯船からでると体についた水滴を拭き取ろうとした………が

 

「っ!!!!」

 

開けていた小窓から突風がなだれ込んできた。それは風呂場にある物を生きているかのように暴れさせ、気を抜いていた霊夢をよろめかす。

 

「魔力に妖力っ!まさか異変の元凶がっ!!」

 

慌てて体を拭き、新しい巫女服に体を通すと急いで玄関に向かった。そして誰よりも、何よりも最初に思い浮かんだことは……

 

(信っ!!)

 

心で叫びながら全速力で外に向かう。そこで霊夢が目にしたものは………

 

「はっはっはっはっはっはっは!!」

「うー☆」

「…………」

 

高笑いしている信と、頭を抱えているレミリアの姿だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだな」

「くっ。人間にまた負けてしまうなんてね。私も鈍ったのかしら」

「そうだとしても俺の勝ちは変わんないからな」

「ぐぐぐ……」

 

地面に寝そべり悔しそうししていたレミリアは、体についた土汚れを落としながら立ち上がった

 

「はぁ……ええ。今回は敗けを認めて大人しく引き下がるとしましょう。またやりましょうね、信。今度は弾幕ごっこなんかではなく本気のやつをね」

「ああ」

 

静かに次の約束を交わしてレミリアは信に背を向け、そこに生えた翼を広げた

 

「またね、信」

 

そう言い残し広げた翼をはばたかせレミリアは飛び立っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

「明日のプリン、楽しみにしてるぞ」

 

その言葉が発せられた瞬間、ピタッ とレミリアの動きが止まった。そしてゆっくりと振り返り、一瞬にして信の足に抱きついた

 

「お願い信っ!!それだけは。それだけは見逃してちょうだい」

「ちょっと何言ってるか分かんないな~」

 

レミリアと目を合わせようとせずとぼけようとする信。

そんな彼を動揺させたのはレミリアが放ったたった1言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お願い信お兄ちゃん。どうしても食べたいの」

「ぐっ!」

 

足に抱きついたままレミリアは信の顔を目だけ(・・・・・)で見る

するとどうだろうか。自分の愛する弟妹くらいの容姿の少女が上目遣いで懇願してくる

効果はバツグンだ(さまりとにも)

 

(やはり……信はこういう手に弱い。この姿を利用するのは少し癪だけど仕方ないわ)

「お願い。信お兄ちゃん」

「………分かったよ」

「本当っ!!」

「ああ。……お前のプリンは俺が責任をもって味わい尽くす」

「なっ!!」

 

現実は。もとい信は非情だった

 

「お願いよ。咲夜の作るプリンは1週間に1度の楽しみなの!」

「へえ~。そんなに美味いのか」

「美味いなんてもんじゃないわ。至福。いえ、希望よ!!!あの子のプリンは世界を救える。そう思えるほどの物なの!だから……」

「明日が待ち遠しいな」

「なっ!……じゃ、じゃあ咲夜にもうひとつ作らせるからそれで……」

「俺は情報の引き換えに何がほしいって言ったっけ?」

「ゆ、夕飯のデザート」

「ちょっと違う。俺はレミリアの(・・・・・・・・・)夕飯のデザートが欲しいって言ったんだ」

「し、信?」

「咲夜にもうひとつ作ってもらう。大いに結構」

 

 

 

 

 

「俺が二つ食べるがなっ!!!!」

 

とびっきりゲッッッスい顔をして信は宣言した

 

信の足に抱きついていたレミリアの腕から力が抜けていく。頭を抱えこみその場にしゃがみこんだ

 

「う、」

「ん?」

「うー☆」

「はっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

希望のプリンを食べる権利を手にいれた勝者の笑いは、静かな夜に響き続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに笑ってるのよ馬鹿っ!!」

止められた

「いだっ!!な、なにするんだよ霊夢!」

「何をですって……。周りを見たあとにもう一度同じことが言えるかしら?」

「周り?……あ」

 

それは悲惨。それ以外の言葉では表せなかった。

神社の障子はすべて破れいくつかは外れ、吹っ飛ばされている

更に神社内もちゃぶ台はひっくり返り、それ以外の家具も本来の場所とは全く別の所に移動してしまっている

それだけではない。敷地内には大きなクレーターがいくつも出来上がっており、桜の木は折れこそしていないものの根が見えてしまっている

これは酷い

 

「あ、えっと……これはですね」

「……そういえばさっきは何を笑っていたのかしら?」

「れ、レミリアに勝ったので明日のプリンは俺が食べれるってことに……」

「ふぅ~ん。プリンね~。ふぅ~ん」

「れ、霊夢さん?」

「これをやったことに責任は感じてる?」

「もちろんですっ!!」

「そう。なら、そのお詫びとしてはなんだけど……」

「れ、霊夢さん!?」

「貴方の明日のプリン、私が頂くわね」

「ど、どうかそれだけは……」

「問答無用っ!!」

「ぐっ!」

 

 

手にしたのは勝利

 

 

突きつけられたのは現実

 

 

奪われたのは希望

 

 

この3つが示す答えとは

 

 

 

「「うー☆」」

 

レミリア・スカーレットに次ぐ明渡 信のカリスマブレイクであった

 




書いてたらめっちゃプリンが食べたくなった

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