東方家族録   作:さまりと

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おはこんばんにちわ。さまりとです。
どうしても会話以外が単調になってしまいます。
小説って難しいですね。
それでは、ゆっくりどうぞ。


第3話 【幻想郷の少女たち】

 なぜか戻れないことが発覚した後、そのまま外にいるのもなんだからということで一旦先程のちゃぶ台を囲み直していた。

 

「なんで帰れないんだ……」

「なんででしょうね?」

「ちくせう」

「大丈夫ですって。きっと帰れますよ」

「励ましありがとう。じゃあ戻れないってわかったんならもうここにいる意味は無いし、お暇させて貰うよ。世話になったな霊夢」

 

 そう言って立ち上がると、ケンの方を見て一緒に行くことを視線で促した。その意図が読めたようで、立ち上がり礼をする。

 

「そういえば、今日どこに寝泊まりするの?」

「ケンを送っていくし、人里の宿屋に泊まろうかなって。ケン、宿屋のところだけ教えてくれるか?」

「ああ、えっと……その……」

「宿屋ないのよ。一番近くの人里」

 

 なんとも歯切れの悪い返事をされたことに、信はなんとなく嫌な予感がしていた。そしてその嫌な予感は理不尽なほど早く肯定された。

 

「マジか。それなら野宿かな」

「それならここに泊まっていけばいいわ」

「は!?いいのか?一応俺も年頃の男だぞ」

「あなたは何かするの?」

「そういう訳じゃないが……まぁいいか。お世話になります」

「それで、人里に彼を送っていくのよね?私もついていくわ。夕飯の買い物もしないとだしね。準備してくるわ」

 

 二人が玄関で待っていると、出かける準備のできた霊夢が荷物を持ち合流する。ケンを信が背負い、周囲に警戒はするも楽しそうに話しながら人里に進んでいた。

 

「そういえば、ケンは妖怪の群れに襲われたんでしょう?よく無事だったわね」

「信さんが妖怪達を殆ど倒してくれたんです」

「え?数は?」

「大体4、50くらいかな?」

「嘘……ほんとにただの人間?」

「正真正銘ただの人間だよ」

 

 そう聞いた霊夢はまだ信じられないような顔をしていた。先程ケンが襲われていた場所も軽く見てみると、残っていたのは足跡だけで他に血液も何も残っていない事から信じることにした。

 そうこう話している内にどうやら人里の入り口らしき場所が視界に映る。門番らしき二人の人物が見慣れない服装と顔の信に警戒するお薄を見せるが、隣に霊夢がいることでその警戒はすぐに解かれた。

 

「信さんは僕のことを助けてくれたんですよ」

 

背負われているケンがひょっこり顔を出しながらそう言った。彼の顔を見て門番の二人はまず驚き、次に安心し、最後に顔の真っ赤にして怒っていた。

 

「ケン!!お母さんも慧音さんも心配してたぞ!!何処にいってたんだ!?」

 

 同時に背中でびくりと反応した。彼自身周りに迷惑をかけるような子ではないため、叱られなれていないのだと予想が出来る。

 

「ケンにはちゃんと俺から話しましたし、自分でもちゃんとわかってるからそれ位にしておいてあげてくれませんか?」

「ぬん……確かにその子は頭がいいし、慧音さんにも怒られるだろうしな。ケンを助けてくれてありがとう」

「では、中へどうぞ。ケンも早く顔を見せてやれ」

 

 門番さんに促され、三人は前へと進む。そして人里に一歩踏み出すと、信は自分の視界に映った物に思わず息をのむ。

 その光景にまるで時代劇のセットの中にいるような感覚を彼は覚えた。視界の中に何度も出入りする人間の多くは和服を身にまとっており、建造物も現代ではなかなか目にすることが出来ないものばかりだった。

 

「私は買い出しにいってくるから」

「りょ、了解。俺はケンを家まで送るよ」

「うん。じゃあまた後で」

「じゃあ、行くか」

「はい!」

 

 霊夢と別れた二人はケンの案内で彼の家までまっすぐ移動した。近づくにつれて肩に掛けられている手に力が入っていくのが彼には分かった。

 

「ここです」

 

 ひとつの家の前でケンはそう言った。ひねった足に負担がかからないように静かにおろし、なかなか一歩を踏み出せないケンの背中をポンと叩く。それによって覚悟が決まったのかゆっくりと引き戸に手をかけて一歩を踏み出した。

 

「ただいmッ!!」

 

 それと同時に女性がケンに抱きついてきた。体重がかかりそのまま倒れてしまいそうになっていたが何とかこらえて抱きしめかえす。

 

「ケン……よかった……おかえりなさい!」

「……ただいま、母さん」

「慧音さんに話を聞いて1人で博麗神社に向かったかもしれないって。お願いだから……もうこんな危ないことはしないでちょうだい」

「ごめんなさい」

 

 母親につられ泣きそうになっていたが、涙をこらえている。その目が信を視界の端に映らせた事でここに自分たち以外がこの場にいることを思い出したようだ。

 

「あ、母さん!この人は信さん。危なかった所を助けてくれたんだ」

 

 その声で気づき、一度しっかりと向き直し深々と頭を下げて礼を言った。

 

「息子を助けてくれてありがとうございます」

「いえいえ。困ったときはお互い様ですよ」

「本当に、なんとお礼をいえばいいか」

「いえ、本当に結構ですから。それじゃケン、慧音って言う人のところにもいかないとな」

「あ、はい!母さん、先生のところに行ってくるね」

「ええ、気を付けて」

「母さんも無理しちゃだめだからね」

 

 二人が少し遠くまで離れるのを見送り、ケンの母親はゆったりとした足取りで家の中に戻る。それを見届けた信は歩きながらケンの頭に手を乗せ割りと強い力を入れてグシグシとなでた。

 

「お前、愛されてるな」 

「……はい」

 

 うれしさと恥ずかしさを混ぜ合わせたような表情を浮かべ、小さいがはっきりと答えた。信は本当にケンはいい子であり、周りの人間から愛されているのだと事実に裏付けして実感していた。

 

「で、先生は何処にいるんだ?」

「多分、この時間はまだ寺子屋にいると思うのでそっちに行ってみようと思います」

 

 ケンの言うとおり寺子屋に向かってしばらく歩くと、それらしき建物が目に入った。誰かいないかと見渡してみると、窓越しに教室の中に人影を見つける。その人影を二人は同時に見つけたようで、ケンはその人物を知っていたのだ。

 

「先生!」

「ケン!あ、あっと……ちょっと待ってろ!」

 

 その呼び声にその人はすぐさま反応し窓から身を乗り出して彼に駆け寄ろうとするが、それはまずいといったん戻り、ちゃんとした通路を通って駆け寄ってきた。

 

「ケン!大丈夫か!?どこか怪我は……もう手当は出来てるか。私もお母さんも心配してたんだぞ!……いや、それはお前ならちゃんとわかってるか。それに私にも非はあるし……もっと迷惑をかけてもいいんだぞ?お前はまだ子供なんだから」

「はい!」

 

 しっかりと彼女を見据えてそう答えた。その様子に慧音と呼ばれていた女性は少し驚いていたが、改めてもう一度頷いた。

 

「いい返事だ。ただ、やってはいけないことをしたのは分かっているよな?」

「え?は、はい」

「なら、私は教師として罰を与えないとな」

「あ……」

 

 何かを感づいたようにケンは声を漏らした。その瞬間彼の頬を汗が伝う。そんな彼ににこやかな笑みを向け、彼女はこういった。

 

「歯を食いしばれ」

 

 瞬間、ガァン!!と硬い物同士がぶつかり合った音がその場に響く。彼女は一瞬大きくのけ反ったかと思うとその反りを利用して頭突きを繰り出した。

 その光景を見ていた信は「うわぁ」と言葉を漏らした。そこで彼女は今一度しっかり彼に向き直しあなし始める。

 

「失礼。こちらにも積もる話が色々あって置いてきぼりにしてしまって。君が明渡 信だな。霊夢から話を聞いたよ。ケンが世話になった」

「あなたが慧音さんですか。俺もケンからは色々と教えてもらったのでお互い様ですよ」

「そうか。君は出来た人間だな。ただ私のことは呼び捨てでも構わないし、そんな畏まらなくてもいい」

「了解」

「今回は本当に世話になった。霊夢から話は聞いたが、君は外来人らしいな。色々大変なことがあると思うが、何か困ったことがあったら出来る範囲で力になるから頼ってほしい」

「ああ。けど俺も帰れないからには何かできるかもしれないから何かあったら頼ってくれ」

 

 そんな会話を交わしながら二人は握手を交わす。頭を押さえていたケンがその間にようやく復活し、そろそろ帰らなければという雰囲気が夕焼けによって示される。

 

「ああ、そういえば霊夢が入口で待ってるといっていたぞ」

「わかった。それじゃあ、またの機会にでも」

「信さん、さようなら」

「あぁ。ケンももう無茶するなよ」

 

 ケンの送りは慧音に任せ、信は人里の入口に向かった。そこにはいくらかの食材を盛った霊夢が壁にもたれかかり待っており、信に気が付くとそちらに向き直す。

 

「もういいの?」

「あぁ。待たせて悪かった。荷物持つよ」

「それじゃよろしく」

 

 と、霊夢は持っていた荷物を全て信に持たせる。

 

「遠慮がないな」

「文句も問題もないでしょ?」

「いい性格してらっしゃる」

 

 そのまま二人は神社に向かった。その間も何か話はしていたが、信に気を使ってか外の世界の話はあまり振らなかった。

 

 

 

 

 

「私は夕飯の支度始めるわね。信は適当に時間潰してて」

「いや、泊めてもらう身だし俺が作るよ。何を作ればいい?」

「あなた料理できるの?」

「家族に作ってたからな。結構腕には自信がある」

「ならお願いするけど……」

「心配っちゃあ心配だけど、あいつらなら大丈夫だろ」

 

 何かを言いたげにするが自分からは言えないと口を紡ぐ。その態度が分かりやすかったのか、彼女の気遣いを彼は察し、話題にしても大丈夫だということをさりげなく提示した。

 

「そう。ちなみに何人兄弟なの?」

「弟が7人、妹が6人の14人兄弟だ」

「!?」

 

 わかりやすく驚く霊夢を少し笑いながらそのまま続ける。何度もされた反応で、そのあとどんな風に返すのかがもう決まっているらしい。

 

「その反応を期待してた」

「失礼かもしれないけど……再婚?」

「いや、両親は全員同じだ」

「すごいわね」

「で、親達は料理とかできないから俺が作ってたんだ。量が量だから勝手に上達した」

「なら安心ね。じゃあ、味噌汁と煮物、焼き魚でお願い。台所の床下に漬物があるからそれも一緒に出して」

「出汁は何を使えばいい?」

「任せるわ」

「合点」

「それと4人分作っておいて」

「……食いしん坊な女の子は俺はいいと思う」

 

 この場には二人しかおらず、ましてやタッパーなど料理を小分けにしておくことが出来るような便利グッツはここにはない。

 

「違うわよ。食べに来るやつがいるのよ。しかもいきなり」

「でもしっかり準備してやるんだな。やさC♪」

「あなた急に距離縮めてきたはね」

「堅苦しいよりマシだろ?」

「そうね。それじゃよろしく」

 

cooking

 

「出来たぞー」

「早いわね。私ならもう少しかかるのに」

「ドヤァ。で、まだ来てないのか?例の奴は」

「多分もうそろs「霊夢!食べに来たぜー!」」

 

 どこからか声がする。声の主はもうそう遠くはないはずなのになかなか見つけることが出来ない。それもそのはずだ。彼はずっと、自分の頭上を探そうとはしていなかったのだから。

 

「おっと……妖怪にも驚いたが、人もかなり変わってるっぽいな」

「幻想郷じゃ外の常識は通用しないわよ。覚えときなさい」

「へーい」

 

 二人の少女がゆっくりと地面に着地する。夕焼けが背後にあることもあり、二人の金髪が風に吹かれてキラキラと美しくたなびいていた。

 

「やっぱり来たわね。魔理沙、アリス」

「おう!勿論だぜ」

「今日もお邪魔するわね」

(白黒は魔理沙。青と白の服の方がアリスか)

「霊夢、そいつは?」

「彼は今日迷い混んで来た外来人よ。何故か戻れないからしばらくここに住ませるつもりよ」

「明渡 信だ。信でいい。以後お見知り置きを」

「私は霧雨 魔理沙。私も魔理沙でいいぜ。よろしくな、信。でかいな」

「私はアリス・マーガトロイド。アリスでいいわ。それでこの子が上海」

「シャンハーイ!」

 

 彼女が指し示す小さめの人形は両手を上げアピールをする。当たり前のように人形が動いているが、もうあまり驚いてはいない。

 

「それじゃあ、食べましょうか。ちょうど支度が終わったところなの」

「おっ、ラッキー。腹ペコなんだぜ」

 

 四人は囲むように食卓を囲み、

「「「「いただきます」」」」

の号令の後それぞれ食べ始める、

 

「相変わらず霊夢のご飯はうまいな。しかも今日はいつもより旨いんだぜ。また腕をあげたんじゃないか?」

「今日のは私が作ったんじゃないのよ」

「えっ?じゃあ、これは」

「俺が作ったんだ」

「そうなのか。霊夢よりうまく作るなんて相当だぜ」

「そうね、本当に美味しい。普段から作ってるの?」

「ああ。弟妹が多いから基本毎日作ってるよ。そしたら勝手に上達してた」

「これならしばらくは信に任せようかしら」

「おk。任された」

「こんなのが毎日待ってるだけで出てくるなんて、羨ましいんだぜ!」

「宿主の特権よ」

 

 霊夢が得意げにし、魔理沙が悔しそうに食べ進める。そしてその二人のやり取りを見ながら別の二人は笑い、四人の食卓は和気あいあいとした雰囲気で進んでいく。

 そしてもうすぐ皆食べ終わるといったところで、魔理沙があることを思いついたようで、それをそのまま口に出した。

 

「そういえば霊夢。信にあれのことはもう話したのか?」

「ああ、そういえばまだだったわね」

 

 そう聞きニヤリと笑ったかと思うとすぐさま話の相手を信に変更する。

 

「じゃあ信!飯が終わったら私が幻想郷についての重要事項を説明してやるぜ」

「ほんとか?助かるよ」

「ああ、だから今はしっかり腹ごしらえしておくんだぜ!」

 

 そう言った彼女はご機嫌そうに残りの夕食を掻き込んでいく。彼女と対愛の長い二人は何を企んでいるのかおおよそ見当がつくようで、他二人には聞こえない小さな声でひそひそとし始める。

 

「霊夢いいの?このままだと魔理沙始めちゃうわよ」

「多分大丈夫よ」

 

 何がとは言わないが、霊夢は確信に満ちた表情でそう話す。ただ、その言葉だけでアリスは安心したようで最後に一つだけ、確認した。

 

「その根拠は……もしかしていつもの?」

「そう。勘よ」

 

 




読んでいただきありがとうございます。
次回はいよいよアレです。皆さんならもうお分かりですよね

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