東方家族録   作:さまりと

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第45話【賢者の夢】

敗れた少年は地面に寝そべり、勝利を勝ち取った賢者はそれを見下ろす形になっていた。

 

「……いってぇ。」

「痛いじゃ普通すまないと思うのだけど。」

 

刃の舞によって切り裂かれ、夢幻泡影による衝撃からなのか肌がところどころ変色している。

 

「だったら最後に手加減してくれてもいいんじゃないか?」

「そんなことしたらあなたあの状況でも切り抜けちゃうでしょ?……それに全力でやっても大丈夫だって信じてたから。」

「で、どうするんだ?俺には勝ったし霊夢達の所にいくんじゃないのか?」

「もうスッカラカンよ。あなたに放ったスペルが本当の最後の力。……悔しいけれどあなたの思い通りになっちゃったわね。」

「全然悔しそうじゃないぞ?」

「うるさいわよ。」

 

照れ隠しに軽く蹴る。

 

「いでっ!…てか俺は勝つつもりでやってたんだ。全然思い通りじゃなくて悔しいよ。」

「全然悔しそうな最後じゃなかったわよ?」

「あれは…その……勢いってやつで……。」

「フフッ、なによそれ。……幽々子負けてしまったみたいね。おめでとう、異変解決よ。」

「そりゃどうも。ちょっと立つの手伝ってくれないか?身体中が痛くてしかたない。」

「分かったわよ。……はい。」

 

中腰の状態で紫は信に手をのばした。

 

『魔鬼、ちょっと力借りるぞ?

『えっ?あっ、おう。』

 

妖力を体に流して身体能力を強化する。

そして紫の手を力強く引っ張った。

 

「キャッ!」

 

予想以上の力で引っ張られた紫はバランスを崩してそのまま倒れこんだ。

 

「なにするn「人間ってさあ」」

 

文句を言おうとした紫だったが信に遮られてしまった。

 

「人間って、いつ自分を抑え込むことを覚えるんだろうな。」

「妖怪の私に聞いても意味ないんじゃない?」

「感情を持ってれば妖怪とか人間とかあんまり変わりないだろ。で、いつだと思う?」

「……知らないわよ。あなたは知ってるの?」

「俺もわかんねえ。ずっと自分の思ってることを隠し続けてる奴もいれば、思ったことを全部正直に話しちゃう奴もいる。本当、知能をもった生物ってのは分かんないことばっかりだ。」

「……何が言いたいの?」

「なに、ただの小僧の戯言だと思ってくれてもいい。俺が言いたいのは溜め込み過ぎたら誰もがなにもできなくなるってことだ。」

「・・・・・。」

「全部自分だけで抱えようとすると、結構簡単に壊れるもんだ。肉体的にも、精神的にも。」

「・・・・・。」

「たまには全部吐き出してもいいんじゃないか?」

 

信の手が紫の頭と背中を優しく包み込んだ。

 

「……ぐすっ。」

「さすがに藍とかの前じゃあ気がひけるだろうからな。泣きたくなったらいつでも来いよ。」

「……うん。」

「なんなら今吐き出してもいいんだぞ?」

「………辛かったわよ。」

「ああ。」

「幽々子がまたいなくなる……それに今度は永久に。そんなの嫌だったわよ!」

「ああ。」

「本当は西行妖を咲かせることなんて手伝いたくなかった!!彼女に消えてなんてほしくなかったわよっ!!」

「ああ。」

「誰かに止めてほしかった!でも……出来なかった。彼女を裏切ってしまうような気がして。」

「ああ。」

「どうすればいいのか分からなかった。誰にも相談できなくて、誰にも知られたくなくて。」

「ああ。」

「……ありがとう、信。私を止めてくれて。」

「よく頑張ったな。お疲れ様。」

「ありがとう、本当に。……ぐすっ。」

『コト、そっちは平気か?』

『はい。そちらの方は……。』

『ああ、負けちまったよ。』

『そうですか……。』

『藍は一緒か?』

『ええ。』

『それじゃあ紫のところにはしばらく来ないでって伝えてくれ。』

『……はい。』

『悪いな。』

『あまり女性を泣かせてはいけませんよ。できれば泣き顔なんて見せたくはないんですから。』

『お、おう。それじゃあ頼むぞ。』

「ぐすっ……。」

 

泣き続けている紫は本当に女の子のようだった。その頭を優しく撫でながら落ち着かせる。

この状況で初めて2人に会う人物ならば100%信が年上だと思ってしまうだろう。

言っておくが歳の差約1000である。

 

『で、どうするんだ信。』

 

魔鬼が訪ねる。信の胸に顔を押し付けて泣き始めた紫のことを指しているのだろう。

 

『まあ、ゆかりんが落ち着くまでこのままだな』

『どれくらいかかりそうだ?』

『分かんないな。相当悩み続けてたみたいだから短くすむことはないと思うけど』

『約1000歳上の女性を泣かせる高校生の図』

『やめてくれ』

 

フェリーチェにからかわれながらも泣き続けている少女の頭を撫で、落ち着くのをゆっくり待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スゥー……。」

 

溜め込んだものを吐き出していくように泣き続けた紫は、そのまま泣き疲れたのか寝てしまった。

 

「こうしてみるとうちの妹たちと何ら変わらないな。」

『コト。』

『なんでしょうか。』

『藍は今どこにいる?』

『準備があるとかで住みかに戻っていきました。』

『そうか。なら好都合だな。』

 

起こさないようにゆっくりと立ち上がりながら紫を抱き抱える。

 

(藍との座標を共有する。)

 

「藍。」

「やっぱり来てくれたか信……ってそんなに傷だらk」

「しー。(紫が起きちまう。)」

「(す、すまない。)」

「(布団を用意してくれるか?)」

「(もう用意してある。)」

「(用意って布団のことか?)」

「(まあな。)」

 

そのまま寝室に紫を運び、布団に寝かせた。

 

「紫様のこんなに安心しきった寝顔は久しぶりだ。」

「ああ。本当、体を張った甲斐があるよ。」

「では傷の手当てを……。」

「いや、コトが治してくれるからいいよ。ってか殺してでも治そうとするだろうし。」

『聞いてますよ。分かってるなら早く戻ってきてください。』

『悪い悪い。』

「じゃ、そういうわけだから失礼するよ。」

「信!」

「ん?」

「紫様が世話になった。君には感謝してもしきれないくらいだ。後日改めてお礼を。」

「そんなの気にすんなよ。」

「だが、それでは気が済まない。」

「ん~。それなら頼みがある。」

「本当か!何でも言ってくれ。」

「ん?今なんでもって言ったよね。」

「あ、ああ。」

「あんまりそういうことを言うもんじゃないぞ?」

「なんだ?信は私になにかいかがわしい事でもさせるのか?」

「……藍は美人だからそれもありかもな。」

「なっ!?」

『主っ!!』

「もちろん冗談だ。」

「そ、そうか。」

「それで頼みなんだけど………………てほしいんだ。」

「それでいいのか?」

「ああ。」

「分かった。必ず遂行しよう。」

「じゃあ頼むぞ?またな。」

 

「……本当に彼は人間なのか?神狼を従え、紫様と互角にやりあい、あの重症でもピンピンしている……。ただの人間とは到底思えんな」

「…ら……ん。」

「っ!!」

「もう……食べられないわよ。」

「フッ、本当に幸せそうなお顔をなさって。」

「………幽々子…。」

「一体、どんな夢を見なさっているんだか。」

「……し………ん。」

「っ!……本当に、どんな夢を見なさっているんだか。……さて、遅くなってしまったが夕飯の支度をしなくてはな。今日は紫様の好物にしよう。……紫様、お疲れ様でした。」

「…えへへ。」

 

 

その日紫がどんな夢を見たのかは紫にしかわからない。だが、幸福な夢であるということはその寝顔を見たものなら誰でも分かるだろう。

 

 

疲れきった心を癒すかのように、幻想郷の賢者はゆっくりと眠った。

 

 




まだ続きます。

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