東方家族録   作:さまりと

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第44話【決着】

(全身が熱い。こりゃあまたコトに怒られるな...。)

 

1度はやられかけたものの、意地と精神力のみで今信は立っている。

 

(……絶対に止めてやる。)

 

だが、そんなことは関係ない。

どうしてボロボロになってまでそうするのか。

簡単。今、目の前に苦しんでいる女の子がいる。ただそれだけで彼にとって体をはるのに十分すぎる理由なのだ。

 

「いくぞ、ゆかりん。」

「……ええ。」

 

最初の構えはゆっくりとしたものだった。弓を左手に持ち、その弦に右手を添えるようにしながら頭上に運び、それをゆっくりと弦を引きながら下ろしていく。その動作には一切のブレが見られず、幾度となる反復練習の産物であることがわかった

そして突如、弦をつまんでいた指に青い発光体の矢のようなものが出現した。

 

(あれは……魔力っ!!)

「『睡魔(すいま)』〈ディープショット〉。」

 

そして放たれた。その速度は普通の弓矢のそれとは全く違った。普通の人間ならば射たれたことも気づかずに受けているだろう。

 

(はやいっ!!)

 

だが、相手は大妖怪の紫だ。その速度に驚きながら間一髪でそれを回避する。

 

「ッ!!」

 

そして突如、睡魔に襲われた。こんな状況で、こんなタイミングで。そしてもうひとつ、

 

「……確かに避けたはず」

 

自分の肩に先程放たれた矢が刺さっている。ギリギリだが完璧に避けきったはずの矢が、今自分の肩に。だが痛みは全く感じない。

 

「避けられないよ、この矢は。」

「どういうことかしら。」

 

頭を振り眠気を覚ましながら疑問を投げつける。

 

「『フェイルノート』神話にも登場する弓に名前だ。その別名は『無駄なしの弓』。詰まるところ回避不可能の弓だ。」

「っ!」

 

疑問はいくらかある。だが今すぐにわかり実行しなければならないことはわかる。

 

(あの矢をくらい続けたらまずい!)

「『睡魔』〈ディープショット〉。」

(弱点が割れる前に決めなきゃな。)

 

先程のゆっくりとした構えとはうってかわり、その弓を射つ早さと連射性はは凄まじかった。具体的に言うと0.5秒に3発である。

 

「くっ」

 

この時紫は観察することのした。避けたはずの矢がどうやって自分の体に当たるのか。それを解明できれば回避できるかもしれないという可能性を感じて。

 

「っ!!」

 

ほぼ同時と思える速度の3本の矢を的確に回避していく。そして見る。ここからどうやって当たるのかを。

 

「なっ…!!」

 

しれっと、当たり前のように全て当たっている。気づいたら当たっていたというのが生ぬるく思え、既に当たっていたかのように錯覚してしまう。

 

「くっ!」

 

そして覚悟していたこと。さっきの3倍の睡魔だ。落ちかける意識のなかで紫が見たものは……

 

 

「おやすみ、ゆかりん。」

 

 

優しく微笑む信だった。

そして持っている弓から最後となる矢を放った。

 

「っ...」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「あっ!!」

「はっ!」

 

目の前の光景によって紫は目を覚ました。自分に新たな睡魔が襲ってくることもなかった。

紫が最後の悪足掻きとしてやったことは1つ。たった1発の弾幕を信に向けて放った。そしてそのあとの光景によって目が冴えた。

 

「……なるほどね。」

「ちょっとバレるのが早いと思うんだけど……。」

「わかったわ。その弓の弱点。」

「っ!」

 

急いで次の矢を放つ。だがそれは紫に確信を得させてしまう悪手だ。

 

「・・・・・。」

紫は避けようとせず、ただ1つの弾幕をその矢の射線上に放った。

 

相殺。放たれた矢と弾幕は相殺して消え去った。

 

「ご名答。フェイルノートの強みは回避不可能なこと。そして弱点は、『防げる』こと。」

「だけど、そう簡単にいかせてくれないのでしょう?」

「もちろんだ。」

「〈人間と妖怪の境界〉!」

「ぐっ!」

 

紫の反撃はスペルカードで始まった。それを回避しようとするも全身に激痛が走る。

 

「っらあ゛!!」

 

重い体を無理矢理動かしスペルによる弾幕を避け続けていく。

 

「『睡魔』〈ディープショット〉!!」

 

反撃と言わんばかりに矢を放つ。動きながらも全くブレない技術はさすがである。だが、その矢は簡単に防がれてしまった。

 

「くっ……。」

「『魍魎』〈二重黒死蝶〉。」

 

そしてダメ出しのように新たなスペルを紫は使用した。

 

「はあ、はあ 、ぐっ!」

 

防戦一方。このスペルの最中も避けきれずにいくつか受けてしまっている。先程の発言ははったりで信に逆転のための手段は最早残されていない。

 

「『紫奥義』〈弾幕結界〉!」

 

そう判断した紫は仕留めにかかる。

自分のために自らをかけてくれた信に敬意をはらいながら、ねぎらいの意味も込めてその弾幕を放った。

 

(ありがとう、ここまで戦ってくれて。)

 

これで終わる。

 

これで決心がつけられる。

 

これで迷わずに霊夢たちと戦える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が並大抵の精神の持ち主だったなら、その攻撃が最後だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「『多望(たぼう)』〈ミリオンレイン〉!!」

 

 

 

最後かに思われたその弾幕は、一瞬で放たれた数多の矢によって全て相殺された。

 

「なっ!」

「はあ…はあ、……まだまだだ。言ったろ?限界ぐらい超えてやるって。」

「『結界』〈生と死の境界〉!」

 

すかさずスペルを唱える。この時紫は焦っていた。自分のスペルカードの中でも強力な部類にはいる弾幕結界が一瞬で破られたのだ。

そして信は新たに唱えられたスペルを今までにない速さで回避していく。

 

(ここだ!)

 

突然振り向くと弦のみを持ちフェイルノートを素早く回転させた。

そして強く握りなおすとそのまま大きく弦を引いた。

 

「『貫通(かんつう)』〈スパイラルアロー〉!!」

 

放たれた矢は1本。だがその矢は紫の弾幕全てを撃ち落としていく。そして全ての弾幕を貫いたところでその矢は消滅した。

そして構える。今までの比ではない程の力を込めて。

 

(これで…決めるッ!!)

「『一閃(いっせん)』〈(ひかり)()〉」

 

矢は美しい光を纏い、正確に紫をとらえ放たれた。

 

「『境界』〈永夜四重結界〉!!」

「なっ!」

 

フェイルノートの中で最高の速度と貫通力をもつ光の矢。殺傷力は現在なくしているが、何者をも貫き、何者にも捉えられない筈の矢。それが目の前で完璧に防がれ驚きを隠せなかった。

 

「予測してたのか!!」

 

すぐさま次の矢を構え直す。そして狙いを定める。体を走る激痛によってその動作1つ1つに遅れが生じ、信の視界にあるものがはいった。

 

 

「……………ありがとう、信。でも勝たせてもらうわ。」

 

 

それは笑顔

不敵でもなく、ふざけているわけでもない。

ただひたすら、まっすぐで優しい微笑みだった。

 

「っ!!……へへっ。」

「『深弾幕結界 』〈-夢幻泡影-〉。」

 

優しく唱えられたそれはすぐさま信に襲いかかった。

 

「俺も、ここまで来てそう簡単にはやられねえよ!」

「分かってたわよ。あなたがこれでも仕留めきれないってことぐらい。」

 

そして紫が最後にスキマを開いた。少し大きめのものを。

 

「げっ!!」

 

思い出してみよう。このスキマに入ったものはなんだったか。そしてそれがどんな性質を持っていたかを。

 

「……本当に、我ながら『迷惑』なスペルだ。」

 

 

覚悟を決める。理由は簡単。それはとても痛いだろうから。

 

 

「YOU WINNER!!」

 

 

目の前のスキマから出てきた兆を超える刃の舞と、信とスキマを囲むように襲ってきた紫の最高の弾幕によって、その勝負は終わりを迎えた。

 




congratulation


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