東方家族録   作:さまりと

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第43話【お人好し】

信「『運任』〈ドキドキわくわく抽選会〉!」

 

信の周りにカードが、円形に並ぶ。そしてその1枚が燃え、1枚が赤い光を纏った。

 

信「今回はこいつか...。よしっ。」

紫「なにかいいものを引き当てたのかしらっ!」

信「ああっ!これならゆかりんも相当手こずるんじゃないかなっ!!」

 

両者の弾幕が激しく衝突する。幻想郷でも上位の力をもったもの同士だ。その弾幕の量も計り知れない。

 

紫「『結界』〈夢と現の呪〉!」

信「っ!!」

 

いくつも放たれたその弾幕は分裂して信に襲いかかる。

 

信「『武刃』〈秋水〉!!」

 

避けきるのは神経を削ると判断した信は即座に秋水を用いてそれらを斬り落とした。

 

信「さすが幻想郷の管理者だな。」

紫「そう思うならひいてくれないかしら。」

信「そういうわけにはいかないなっ!!『迷走』〈亡霊達の歩〉!」

 

紫のスペルをブレイクしたと同時に唱える。

 

紫「ぐっ!」

 

不規則な動きの弾幕のためどうしても次の動作にワンテンポの遅れが出る。その瞬間を信は見逃さない。

 

信「はあっ!!」

 

正確に紫をとらえた弾幕が放たれる。だが……

 

紫「『結界』〈光と闇の網目〉!」

信「なっ!」

 

それを見越していたかのように紫が新たなスペルを唱えた。

そのスペルは信が放った弾幕もろとも亡霊達の歩も消し去っていく。

 

(やっぱりこの弱点はきついな。)

 

亡霊達の歩はその不規則な動きを作り出すために密度を薄くしている。その為他の弾幕と比べとても脆いのだ。

 

信「ヤバイっ!」

 

それがすべて消し去られても紫のスペルは無くならない。消滅しなかったものはもれなく信に襲いかかった。

 

信「『一刀』〈陰鉄〉!!」

 

もうひとつの装備型スペルも使いそれに対処する。だが紫の猛攻は止まらない。

 

紫「『罔両』〈ストレートとカーブの夢郷〉!」

(使うならここか。)

信「『迷惑』〈刃の舞〉!!」

紫「厄介なのが来たわね……。」

信「ところがどっこい。今回のこいつは今まで以上に厄介だぞ!」

 

放たれた手裏剣状の弾幕は紫の弾幕に衝突し、反射しながら分裂する。更にぶつかり合い量がどんどん増えていく。

 

信「強化された刃の舞は無限増殖。俺がやられるまでは消えないぞ?」

紫「ぐっ…。」

 

紫も自分に向かってきたそれに自分の弾幕をあて対処しようとする。だが、一部の刃の舞に対処してもすぐに別のものが紫を襲う。しかも信に向かっていったものは秋水と陰鉄によって、もれなく数を増やしながら正確に紫をとらえる。

そしていつのまにか空間は至るところに刃の舞が飛び交っている。

 

(俺もそろそろ危ないな。)

信「『舞踏』〈暗黒盆踊り〉!!」

紫「っ!!」

 

そして紫は異変に気づく。本来単純な動きをするはずの刃の舞のすべてが自分に向かってきているということを。

 

(これで終わってくれ!)

 

だが、終わるわけがない。今まで信が最も考えていなかったこと。いや、考えないようにしていたこと。それは紫が強大な力をもつ『境界を操る程度の能力』を使用してくること。

開かれたスキマに、正確に紫の元へと向かっていった刃の舞は吸い込まれるように消えていく。最後の1つがはいりこみ、紫はスキマを閉じた。

 

信「……それはずるくないか?」

紫「言ったでしょ?あなたと全力で排除するって!!『罔両』〈禅寺に棲む妖蝶〉!」

信「『束縛』〈黒棺〉!!」

 

紫のスペルに対抗するために唱えたそれは、信自身を囲んでいく。

 

(防御としても使うのは初めてだけど成功みたいだな。)

 

激しく叩きつける音が消え、黒棺はゆっくり消えた。

 

信「そろそろ諦めてくれないか?」

紫「それはこっちの台詞よ。『結界』〈動と静の均衡〉。」

(やっぱりそういうわけにはいかないか。)

 

辺りに魔方陣のようなものが現れ、それから弾幕が放たれる。

 

信「『花符』〈千本桜〉!!」

 

一瞬で現れた桜の木は、花びらへとかわり散っていく。その1枚1枚が魔方陣から放たれた弾幕と相殺し合う。辺りは桜の花びらが舞う美しい光景になっていたが、突っ込んでこようものならすぐさまその餌食になるだろう。

 

紫「『罔両』〈八雲紫の神隠し〉。」

 

だが、幻想郷の賢者にはそのような小細工は通用しない。

 

信「ッ!!」

紫「……おしまいよ。」

 

突然間近に現れた紫に反応できず、ゼロ距離で放たれたいくつもの弾幕を直に受ける。

砂が舞い上がり辺りを包み込む。

 

紫「・・・・・。」

 

信の姿は確認できないが確信はできる。あれほどの弾幕に耐えられる人間はいない。例えそれが霊夢や魔理沙であっても無事ではすまないだろう。

 

紫「……やっぱりあなたでも………。」

 

胸に大きな穴が空いたような感覚を感じながら勝利を確信してその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……するはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『終ノ符』〈無双乱武〉」

 

聞こえるはずのないその声と共に、優しい光が紫の背中を照らした。

 

紫「っ!!」

 

『耐えられるはずがない』。そう思っていた。だが背後から聞こえたその声は間違いなく彼の声。

 

紫「……どうして。」

 

疑問はいくらでもある。どうして立っていられるのか。どうやってあれを凌いだのか。どうしてそこまでして自分を止めようとするのか。だが、口からでた疑問はそのどれでもなかった。

 

紫「どうして……笑ってるの?」

 

肌は裂け、血が流れ出ている。服の至るところが破れてそこから生々しい傷が目に入る。とても立っていられるような状態ではない。

 

信「単純。ゆかりんが悲しい顔をしてるからさ。だから俺は笑ってゆかりんを止める」

 

力強く、優しいその笑みは他の誰でもない。自分に向けられている。

 

紫「どうして……あなたはそこまで……。」

信「1人の女の子が苦しんでるんだ。体はって限界ぐらい超えてやるさ。」

 

覚悟の言葉を発しながら信は構える。

 

 

信「『必中(ひっちゅう)』〈フェイルノート〉」

 

 

唱えた瞬間、そのカードはとても質素な1つの弓へと姿を変えた。

 

信「もう一度言おう。俺は全力でゆかりんを邪魔する。」

 

紫「……本当に、迷惑なくらいお人好しね。」

 

迷惑がっている紫の瞳は、何故かとても潤んでいた。

 

 

 


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