東方家族録   作:さまりと

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第42話【始まった】

「「「え?」」」

 

今始まると思われた戦いが始まらなかった。その理由は信がその空間から姿を消したからだ。

そして今信がいる空間は……

 

「ここは……ゆかりんのスキマか?」

 

四方八方に目があるこの空間をそうそう忘れることはないだろう。

 

「どうしてここへ来たのかしら……」

「ゆかりん……なんのつもりだ?」

「自分の目的を邪魔する人物を妨害してなにかいけないことでも?」

「そうじゃないタイミングだっ!見てみろ妖夢の顔。決め台詞言ったのに向けた相手が急にいなくなって(゜ロ゜)としてるぞ!」

「え?……ぶふっ!」

 

別のスキマを即座に開けて確認する。せっかくシリアスな入りだったというのに思いっきり吹いていた。

それを治めるように何度も深呼吸をし、やっと落ち着いたところで真面目に切り出す。

 

「……で?俺を戻す気はないんだろ?」

「もちろんよ。」

「はあ……。やっぱりか……。」

 

ため息を漏らしながらイヤホン型の通信機を使うように耳に手を当てる。こんなことをしなくても能力は使えるがまあ、そこは気分の問題だ。

 

『咲夜。』

『信!よかった……。平気なの?』

『ああ、こっちは問題ない。』

『今どこにいるの?』

『今ゆかりんの妨害を受けてな。多分そっちに戻れない。』

『そう……、やっぱり私が残って正解だったでしょ?』

『ぐっ……なんか負けた気分だな。...そっちは任せたぞ?』

『ええ。』

『今は面白い顔をしてるけど相当の手練れだ。気を付けろよ?』

『ええ、そっちも気を付けて。……妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い!』

『うぐっ!』

『止めたげて。』

「もういいかしら。」

「ああ。それで?俺を倒すのか?」

「そういう訳じゃないわ。」

「なら、今回の異変のことについて教えてくれないか?」

「ええ、いいわよ。」

 

驚くほど素直に了承した。てっきり何もしないでここに色とでもいうと思っていたのだが……

 

「今回の首謀者は私の友人、西行寺幽々子。目的はこの西行妖を咲かせることよ。」

 

スキマには立派な桜の木が映っている。咲いたとしたらさぞ美しい桜だろう。

 

「この西行妖は咲くとどうなるんだ?」

「出来れば私口からは言いたくないわ。あなたの能力で知ってちょうだい。」

「?わかった。」

 

どうしてそんなにまどろっこしいことをするのかと疑問に思う。だが、その疑問もすぐに晴れた。

 

「……マジかよ。」

「マジよ。」

「もしこれが咲いたらゆかりんの友達は……」

「ええ、完全に消滅してしまうでしょうね。」

「……いいのか?」

「友のやりたいことを手伝ってなにかいけないの?」

「いいか悪いかじゃない!ゆかりんは本当にそうしたいのかって聞いてるんだ!」

「したいわよ!!」

「嘘だな。そんなこと誰でもわかる。」

「だって……。だって仕方ないじゃない!」

 

初めて見る紫の焦りと怒りの表情だった。

 

「あの子は……幽々子は私や妖夢が止めても自分だけでもそれを実行する。それは幽々子の最後の望みになる。だったら……だったら私が友として最後にできるのはそれを手伝うこと!自分の考えで、思いでそう決めたの!」

 

紫の顔は伏せられて見えない。そして彼女の手は力強く握られている。

 

「妖夢はこのことを知ってるのか?」

「……いいえ。教えられるわけ無いでしょ?教えたら彼女はどっちにしろ苦しんで、後悔することになる。そんなの……」

「……なら最後に1つ。どうして俺をここに移したんだ?目的のためだけだったら霊夢や魔理沙、咲夜でもよかったろ。」

「……簡単よ」

 

伏せていた顔をあげて、紫は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたがここの……幻想郷の住人じゃないからよ。」

 

 

美しいその顔は、涙によって赤く染められ、悔しさと悲しみがこもっていた。

 

 

 

 

「……私は霊夢達のことも止めなきゃいけない。あなたも邪魔をするなら全力で排除するわ。」

「……。」

 

言い残した紫は空間から出ていった。霊夢と魔理沙を止めに行ったのだろうか……。

 

「『俺がここの住人じゃないから』か。……そんなに寂しいこと言うなよ。」

『信、どうするんだ?』

『……決まってるさ。』

 

決まっている。あんな顔をされたら、あんな見え見えの嘘をつかれたら。

 

「あんな悲しい思いをしなきゃ叶わない願いなら、そんなの全力で邪魔してやるよ!」

『『『それでこそ信だ!』』』

(ゆかりんの座標と空間を共有するっ!!)

 

瞬間、信の体はその空間から消え、やるべきことがある場所へと移動した。

 

「……やっぱり来たのね。」

「あんな顔されたら来ずにはいられないだろ。」

「…藍。」

「ここに。」

「彼を足止めしてちょうだい。貴方なら問題ないはずよ。」

「御意。」

 

藍を残して紫は再びスキマへと入って行った。

 

「あんたはいいのか?」

「主人の言うことは絶対。私に意見する資格はない。」

「橙はあんたたちを止めてくれって言ってたぞ。」

「……私だってそうしたいさ。紫様のあんな表情は見たことがない。」

「なら、」

「でもダメなんだ!紫様は自信の意思で、確固たる決意で幽々子様を手伝おうとしておられる。私はそれを...止められない。」

「……だから俺はここにいるんだ。あいつを止めるために。」

『コトッ、来てくれ!』

「はいっ!」

「神狼か……」

「藍のことを止めててくれ。俺はゆかりんを止めにいく。」

「了解しました。」

「藍はこの幻想郷でも相当の力をもった妖怪だ。気を抜くなよ。」

「はい。」

 

コトが人型に変化し、戦闘態勢にはいる。

 

「信……紫様を頼む。」

「おうっ!!」

(ゆかりんの座標と空間を共有するっ!!!!)

「藍はどうしたのかしら。」

「俺の式神に足止めしてもらってる。あいつなら藍には引けをとらないさ。」

「そう。やっぱりあなたは私自身で潰さなきゃならないようねっ!」

「っ!」

『すごいな……。私たち以外にもこんな力をもった妖怪がいたなんて。』

『紫は本気で来るぞ。手加減なんかしてたら一瞬で終わるだろうな。』

『俺達の力も使え。そうしたら楽に勝てるはずだ。』

『……いや、使わない。』

『はあっ?どうしてだよ。』

『ゆかりんは俺に助けを求めてたんだ。だからおれ自身の力だけで止めてやりたい。』

『……はあ。こうなった信はてこでも動かないぞ。』

『ふっ、それくらいわかるさ。』

『なら、私たちが言えるのは1つだけだね。』

 

『『『頑張ってこい!!』』』

『おうっ!!頑張るっ!!!!』

 

「…あなたを全力で排除するわ。」

 

「あんたを全力で邪魔する。」

 

外界の異変解決者と幻想郷の賢者、2人の強者の己の意地をかけた戦いが今、始まった。

 

 

 

 


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