東方家族録   作:さまりと

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第35話【弟子とウナギと】

信「よしっ、じゃあ早速始めるか。」

ケン「お願いします!」

妖怪「「「おねがいしますっ!!」」」

 

以前ケンに武術を教えて欲しいと言われそれを引き受けることにした。今日はその記念すべき最初の回なのだが...。

 

信「っていうかなんでお前たちまでいるんだ?」

ジン「ボスがあんたの式神になって強くなったし、俺たちもどうにかして強くならないといけないと思ってな。もう守られるだけってのは嫌なんだ。」

信「なるほどな。でも条件があるぞ?」

ジン「人間はもう食わないよ。俺たちもそんなに好きじゃないし。」

信「話が早いな。そういえばギンは?」

ジン「ボスは今本能と話してる。」

信「あいつも頑張ってるわけか。」

魔鬼『あいつなら問題なと思うぞ?』

信『ギンなら平気さ。心配なんてこれっぽっちもしてない。』

信「よしっ、じゃあまずお前たちがどこから始めればいいのかを調べる。股割できるか?」

ジン「股割って?」

信「これだよ。」

足をその場で横に広げ、そのまま地面についた。

信「武道をやる際に大事なのが体が柔らかいことだ。これがないと怪我するし、動きに無駄が多くなる。」

「いでででっ!」「無理無理無理!!」

 

妖怪の股は大体が90度以上開いていない。

 

「...先ずは柔軟からだな。」

ケン「あの、信さん。」

信「どうした...ケンッ!すごいじゃないか。」

 

ケンは完璧なまでの股割をしていた。

 

ケン「昔から体だけは柔らかかったんです。」

信「お前らもケンを見習えよ(笑)。」

ジン「ぐっ!今に見てろよケンっ!グニャングニャンになってやるからな!!」

信「じゃあまず軽くアップから。」

 

そう言うと信はあるものをを取り出した。

 

ケン「それは?」

信「ラジオカセットって言うんだ。必ず最初はこれを行うこと。」

 

ポチッ

ラジオ体操第1ーー

 

ケン「わっ!」

信「俺の動きを完璧に真似するように。」

ケン「は、はいっ!」

ジン「お、おう。」

 

 

 

信「先ずはこれで体を温める。これをちゃんとやれば効率がぐんとよくなる。それじゃあ次は柔軟だ。2人1組になってくれ。出来るだけ体の大きさが同じくらいのやつで。」

 

信「じゃあ俺たちが見本を見せるから真似してくれ。説明もするからちゃんと聞くように。」

 

「いででででっ!」

信「あんまり痛すぎないようにな。やり過ぎるとかえって固くなるぞー。」

「はい。」

 

信「息止めるなよー。ちゃんと呼吸しながらやるように。」

「うす。」

 

信「よし、柔軟終わり。これからは毎日ラジオ体操と柔軟をすること。特に柔軟は毎日やらないとなかなか効果がでないからな。」

「「はいっ!」」

信「次は選択してもらう。」

ケン「選択ですか?」

信「ああ。俺が教えられるのは空手、柔道、合気道、サバット、剣術、弓道、鎌術、槍術、そして護道の9つだ。でもいきなり色々やろうとすると混乱してなにもできなくなる。だから自分にあっていると思うものを1つ選んでもらう。」

ジン「でも何がどうなのかわからんぞ。」

信「今から説明するよ。そこのでかいやつ、ちょっとこっちに来てくれ。」

「俺?」

信「そう、お前だ。ちょっと俺に殴りかかってみろ。」

「え?でも。」

信「大丈夫だ。思いっきり来い。」

 

「じ、じゃあ。ふん!!...あれ?」

 

殴りかかった妖怪の体は宙に浮いていた。いや、浮かされた。

「いたっ!」

信「ちなみに今霊力とかは使ってないからな。これが合気道。体格や力に関係なく相手を制することができる。次はお前だ。」

「は、はい。」

信「お前はとにかく踏ん張ってろ。絶対転ばされないように。」

「ああ。」

信「ほいっと。」

「えっ!?」

 

妖怪は簡単に転ばされた。それも地面に背中をつけた状態で。

 

信「柔よく剛を制す。これが柔道、他にも絞め技とか投げ技とか色々ある。そんで次は、お前だ。」

「はいっ!」

信「どんどん攻撃してこい。遠慮はいらない。」

「はいっ!!」

 

妖怪は何度も殴り、蹴りつけようとするが1つもうまく決まらない。当たっても全く手応えがない。

 

信「これが護道。相手をも傷つけることの無い技だ。次はお前だ。悪いけど今度は俺が殴るから全力で抵抗してくれ。なんなら反撃してきても構わない。」

 

そうは言っても妖怪はなにもできない。信の流れるような連打をその体に打ち込まれていく。

 

信「これが空手。打撃を基本としたスタイルだ。そして最後にサバット。」

 

信は急にスタイルを変えた。

 

信「サバットは蹴り技が主体になる。本当は靴を履くんだけど妖怪のお前たちなら大丈夫だろ。」

「はあ、はあ。」

 

そう説明したところで連打をやめる。見本となった妖怪は割とボコボコだ。

 

信「剣術、鎌術、槍術はその名前の通り剣や刀、鎌や槍を使った武術だ。この中から選んでもらう。なんとなくでいいから自分に合いそうなのを、それか気に入ったやつでいい。なんなら仲のいいやつと同じのを選んでもいい。」

 

そう言うとガヤガヤ話始めた。

 

信「ケンは何にするか決めたのか?」

ケン「いいえ、まだ。...僕には何が合うと思いますか?」

信「ケンは素直だからどれでも出来ると思うんだよな。せいぜい武器を使わないやつを選んどいた方が良いってことくらいしか俺は言えない。まだ子供のケンに武器を持たせるのは周りが止めるだろうからな。」

ケン「そうですか...。」

信「まあ、あんまり考えすぎるな。案外直感に任せた方がいいこともあるもんだぞ?」

ケン「なるほど。...決めましたっ!空手をやろうと思います。」

信「そうか。俺は厳しいからな?」

ケン「のぞむところですっ!」

ジン「信っ!こっちのやつらは大体決まったぞ。」

信「そうか、今行く。」

 

 

 

 

信「なんか予想と大分ちがったな。」

 

妖怪達のやりたい武術を集計したところ、剣術が10人、柔道が8人、合気道がなんと32人と大人気だった。

 

ジン「ボスのあの姿を見た後だからみんな合気道をやりたがったんだ。」

信「そういうことか。」

 

そしてケンの習う空手を選んだ妖怪は、ジンただ1人だった。

 

信「これも何かの縁か?」

ジン「そうかもな。ケン、よろしく。」

ケン「稽古中にパクッと来ませんよね?」

ジン「いかねーよ。」

 

とても1ヶ月前に、喰うか喰われるかの関係にあったとは思えないほど仲がよかった

 

信「じゃあやることが決まったし、次は型と動きの技術を教えるぞ。」

ケン「型ですか?」

信「ああ。いきなり対人でやっても思ったような動きができないんだ。だから各々の武術の決まった動作や歩行技術なんかを完璧に体に覚えさせてもらう。グループ別に教えるからまずは合気道組来てくれ。」

 

 

 

 

信「これで最後か。」

 

最後はケンとジンの空手組だ。その前に教えた妖怪たちは頭の上に?を出しながら教わった動きを真似ていた。

 

信「最所は分からんだろうけど俺が言ったポイントを意識しながらやるんだ。体が窮屈に感じるかもしれないけど我慢してな。」

ケン「はいっ!」

ジン「おうっ!」

信「他のみんなも今日言ったことをちゃんとやるんだぞ。」

「「「押忍っ!師匠!!」」」

信「よしっ、今日は解散!」

 

ギンの子分達はそういわれるとそれぞれ森の中へと戻っていった。

 

信「ケン、俺たちも帰ろうか。」

ケン「はい。」

 

妖怪が大体いなくなった頃にケンを人里に送った。何だかんだで結構いい時間だ。

 

信「じゃあなケン。お前はまずちゃんと食って寝てでかくなるんだぞ。」

ケン「はい、ありがとうございました!」

(さて、晩飯はどうしようか。)

 

今日は武術を教えるということで遅くなりそうだったので夕飯は真達に任せ自分の分はいらないを言ってある。どこで食べるかを考えながら森の中へと入っていく。

 

「~~♪」

信「ん?なんだ?」

 

しばらく歩いていくとなにか聞こえてきた。どうやら誰かが歌っているようだ。

 

(こんな時間にこんなところで歌ってるやつなんているのか?)

 

不思議に思いながら声のもとへ近付いく。

 

(ミスチー?なんでこんなところで歌ってんだ?)

信『...魔鬼、お前の能力借りていいか?』

魔鬼『いいが、なにするんだ?』

信『もうちょっと近くで聞こうと思ってな。』

 

魔鬼の能力を共有し、自分の気配を完全に消す。その状態でミスティアのもとに近づくが、全く気付く様子はない。

 

 

ミス「夜の鳥ぃ、夜の歌ぁ♪ 人は暗夜に灯(てい)を消せぇ♪永い夜に謡う

夜の夢ぇ、夜の紅ぁ♪ 人は暗夜に礫を喰らえぇ♪

生水飲むと~おなかを壊す~♪ 湖飲むと~三途河~♪」

 

しばらくの間ミスティアは熱唱し、それを信は木の上で聞いていた。

 

信「いい声だな。」

ミス「えっ!?えっ!?」

信「後ろだ。」

ミス「キャッ!し、信さん!」

信「よう、ミスチー。なんでまたこんなところで歌ってんだ?」

ミス「い、いえ...特に理由は...。そうだっ!信さんお腹すいてませんか?」

信「ちょうど晩飯どこで食べるか考えてたところだ。」

ミス「なら私の屋台で食べていきませんか?今日はいい八目鰻が取れたんですよ。」

信「鰻か。そういえば今年はまだ食ってないな。...じゃあご馳走になろうかな。」

ミス「本当ですか?じゃあついてきてください、近くに屋台があるので。」

信「ミスチー、あんまり俺から離れないでくれ。」

ミス「えっ!?そ、それはどういう...」

信「さっきから目が暗さに慣れなくてな。全然視界が良くないんだ。」

ミス「あ、ああそういうことですか。なら丁度いいですね、八目鰻は目にいいんですよ。」

信「へえ、それはありがたい。」

 

~~~移動~~~

 

ミス「これが私の屋台です。」

信「おお、こういう屋台は初めてだな。」

ミス「さ、どうぞ座ってくださいな。」

信「ああ。」

 

そういった後ミスティアは準備にかかった。炭火はすでにおこしているようですぐに鰻を焼き始めた。その匂いが食欲をそ剃る。

 

ミス「信さん、お酒はどうしますか?」

信「遠慮するよ。本当は俺酒は飲んじゃいけない歳だからな。」

ミス「え?ちなみにおいくつで?」

信「17だ。」

ミス「17!?」

信「やっぱりそういう反応するか。鰻焦げるぞ。」

ミス「はっ!」

信「調理中は何があっても平常心だぞ。」

ミス「...はい。」

信「そういえばミスチーはなんで鰻なんだ?他にも色々あるだろうに。」

ミス「焼き鳥が許せないんです。」

信「鳥の妖怪だからか?」

ミス「はい、目標は焼き鳥屋の撲滅です!」

信「でもこれはいいのか?」

 

そういいんがら指を指した先にはおでんの卵があった。

 

信「その理屈だとこれは...。」

ミス「無精卵だから問題ないです。...さ、焼けました。召し上がってください。」

信「待ってました。」

 

出された鰻は湯気を昇らせ、まだ火に当てられているように脂を踊らせていた。それだけで口のなかが唾液で溢れる。

 

信「いただきます。」

 

焼きたて熱々を口に含む。

 

信「八目鰻は初めて食べるが変わった味だな。」

ミス「鰻って言っても全く鰻じゃないですからね。」

信「むぐむぐ...癖は強いけど好きな味だな。酒とも合いそうだ。」

ミス「追加で焼きますか?」

信「頼む。それとおでんもくれ。」

ミス「はいっ。」

 

 

信「ふぅ~食った食った。ごちそうさま。」

ミス「本当に食べましたね。まさか仕入れた鰻を全部食べるなんて。」

信「旨かったからな。さて、代金は置いとくよ。あんまり人を鳥目にしすぎるんじゃないぞ?」

ミス「ありがとうございました。...え、気付いてたんですか?」

信「まあな。それじゃあまた来るよ。」

 

そのまま信は消えてしまった。

 

ミス「...いっちゃった。………『また来る』か。」

 

信がいなくなりセミの声が響く森の中、ミスティアは1人呟いた。

 

「次はいつ来てくれるかな。」

 

いつも慣れない夜の暗闇も、今日はなんだか明るく感じた。




ジンは最初にケンに止めを刺そうとし、異変の時に博霊神社にケンと一緒に来た妖怪です。

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