東方家族録   作:さまりと

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第31話【喜びと現実と提案】

(俺は...何してたんだっけ...?)

 

目を覚ましてもまだ目は開けない。体が重く疲れきっている。

 

(もう少し寝よう。)

 

もう一度眠ろうとした時、不意にある映像が脳裏に浮かぶ。

 

(「お前のことを助けさせてもらう!!」)

(なんだっけ...これ...。)

 

そこに写っていたのは前にも会ったことのある明渡 信という人間だ。だが、どうやってその映像まで行き着いたのかが思い出せない。

 

(...これは...確か...。)

 

記憶の1つ1つを辿っていく。何があったのかを思い出すために。

そして1つの記憶が蘇った。

 

(...ボスッ!!)

(ッ!!!)

 

その記憶を引き金に思い出した。朦朧とする意識のなかで、自分の仲間を傷付けた事実を。

 

「あいつらはっ!!」

 

咄嗟に体を起こす。そしてそこには1つの光景が目に映った。

 

「ガフッガフッ!!」

「そんなに急いだら喉につまるぞ!」

「追加よ。」

「うめぇ...うめえよぉ。」

「肉ッ!」

「わはーっ!」

「...?」

 

そこには自分の仲間や、森で見かける妖精や妖怪、果てには人間達が一緒になにかを食べている情景がうつった。

 

「目が覚めたか?」

 

そう問い掛けてきたのは信だった。

 

「これは...一体?」

「異変解決のあとはその首謀者も含めて宴会を開くんだよ。ほらっ、お前も食え!」

「これは?」

「餅だよ。俺と俺の兄弟でついたんだ。味は保証するぞ。」

「...これはあいつらに喰わせてやってくれ。」

「馬鹿言え。さっきから腹ならし続けてるやつがなにいってるんだ。」

 

そう言われて強烈な空腹を自覚する。

 

「だが...俺はあいつらを...」

「そんなこと気にしてるとそれこそあいつらに失礼だぞ。」

「え?」

「お前が暴れてるときあいつらはお前の周りに倒れてたんだ。そんであいつらの背中には一切傷がなかった。誰もお前のことを見捨てて逃げようなんて奴はいなかったんだよ。それなのにお前が腹減らしてどうする?それにあいつらのことは殺してしまわないように本能と戦ってたんだろ?食いもんはたくさんあるんだ。今くらいたらふく食え。」

「だが...。」

「じれったい。おいお前らっ!!お前らのボスが目を覚ましたぞっ!!」

「本当かっ!?」

「ボスッ!!」

「ボス、これ食ってみてください!すげえ旨いんですよ!!」

「こっちも旨いですよ!」

「腹減ってるでしょう?いっぱい食ってください!!」

「お前たち...俺が憎くないのか?」

「何言ってるんですか?」

「ここにいる皆がそんな事思うわけ無いでしょう!」

「皆あんたに救われたんだ。そのあんたのためにならこれくらいの傷どうってこと無いですよ。」

「お前たち...。」

「さ、どうぞ。たくさん食べてください。」

「...あぁ、貰おう。」

 

子分の妖怪から餅を受け取り口に放り込む。

 

「...旨いなぁ。」

「こっちもどうぞ。」

「あぁ。...旨いなぁ...。」

「ボス、こっちも...ッ!!」

 

妖怪のボスがその大きな体で何人もの妖怪を抱きしめた。

 

「...無事でよかった...本当によかった。」

「へへっ、こっちのセリフですよ。戻ってきてくれてよかった。」

「ありがとう...。」

 

その妖怪たちは涙を流しながら互いの無事を喜んでいる。

信は空気を読んでその場から離れていた。

 

「良かったわね、助けられて。」

「あぁ、本当に。」

『今の心境はどうですか?魔鬼さん。』

『悪いことしたと思ってるよ。だからからかわないでくれ。』

『ごめんごめん。』

『でも向こうの俺はそう思ってないぞ?多分また暴れようと機会を探ってると思う。それに今回本気で暴れたからもっと力をつけて再生すると思うぞ?』

『だから朝に聞きに行ったんだよ。』

『なるほど...。でも合意するか?』

『それはあいつら次第だな。』

 

魔鬼達と話していると...

 

「信、お前も今回こそ飲むんだぜ!」

 

酒瓶と盃をもって魔理沙が押し寄せてきた。

 

「魔理沙、信は飲まないって言ってるんだから無理に飲ませる必要ないじゃないの。」

 

それをアリスが止める。だが顔を赤く染めてすでにもう出来上がっている酔っぱらい魔理沙にそんな事を言っても無駄なことだった。

 

「いやっ!今回こそ飲んでもらうんだぜ!主役が飲まないんじゃ盛り上がりに欠けるんだぜ!!」

「そんな理由で!?信、はっきり言ってあげなさいよ。」

「あぁ、貰うよ。」

「信もこう言ってるんだから魔理沙もやめな...え!?」

「本当なのぜ!?」

 

前回の発言とは180°真逆の反応をした信に対して金髪の少女2人は驚きを隠せなかった

 

「何驚いてるんだよ?」

「でもあなた前に酒は飲まないって...。」

「今回は特別なんだ。魔理沙、盃2個くれるか?」

「ああ、おう。」

 

いまだに驚きが隠せない様子で2つの盃と酒を渡してくる。

 

「ありがとな。じゃあちょっと行ってくる。」

「待つんだぜ信、やることってなんなんだぜ?」

「見てればわかるさ。」

 

はぐらかしていたがその表情は真剣だった。大事なこと、もしくは重要なことだと2人も感じ取ったのかなんとなく信の反応に納得した。

盃を受け取った信はそのまま妖怪達のもとへ向かった。

 

「やっと食ってるな。旨いか?」

「あぁ、旨いよ。それに全員でこんなにたくさん食えたのは久しぶりだ。感謝してもしたりないくらいだ」

「喜んでもらえたようで良かったよ。...そんで1つ話がある」

 

笑いながら話していた信の表情が真剣になる。それを見て妖怪達も気を引き締める。

 

「お前は恐らく、次の満月でも本能に飲み込まれる。」

「「えっ!?」」

 

驚いたのは妖怪の子分たち。

なぜそんな事になるのか。なぜそんな事がわかるのか。

 

「...ああ。」

 

2つの疑問がボスの肯定によって確信付けられた。

 

「随分聞き分けがいいな。」

「薄々気付いていたんだ。目が覚めてから俺の中で本能が暴れようとしてるのがわかる。何かのきっかけでより強くなったみたいだ。」

「そんな...。」

「まあ、手段がないわけでもないが...。」

「その方法って!?」

 

ボスの方ではなく子分の方が食い気味に聞いてくる。

 

「まず1つ目、本能と和解すること。」

「無理だな。まず本能がこちらの話を聞いてくれたことは無い。」

『話くらい聞いてやったらよかったろ。』

『あいつの中にいたときは力がすべてでそれに負けるやつの話なんか聞く必要なんて無いと思ってたんだよ。』

「2つ目は本能に負けないくらい強くなることだ。」

「それならっ!」

「それも無理だな。今まで抑えるために力をつけてきたがそれでも今回暴走してしまった。たった一ヶ月で更に強くなった本能を抑えられる程まで血からをつけられることはまず無理だろう。」

「そんな...」

「最後に前回までのように眠りにつくことだ。」

「それも無理だ。眠りにはいることで本能の力を弱めて抑えられていたが、ここまで力をつけているとそれも出来ないだろう。」

「それじゃあ、一体どうやって...。」

 

ボスは冷静に事態を受け止めているがそれでも絶望的な状況に顔を伏せている。

子分たちはそんなボスを見て動揺しまくっている。

 

「そこで1つ提案がある。」

 

妖怪達の視線が信に集まる。

そして信が放った言葉は...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前さん、俺の式にならないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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