東方家族録   作:さまりと

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第29話【解決】

「『終ノ符』〈無双乱武〉」

 

信が唱えた瞬間、そのスペルカードは優しい光を放ち、姿を変えていく。

 

『今回はそれか?』

(ああ。こいつが適任だ。)

 

そして、変化したスペルカードを改めて唱える。

 

 

「『意志(いし)』〈ぬのぼこの(けん)〉」

 

 

そのスペルカードは1つの剣に姿を変えた。

 

 

side change

 

 

「なにっ!あの光。」

「豪華絢爛かしら。」

「いや、違うぜ。」

 

信が取り出したスペルカードが急に輝きだした。

だがそれだけだ。優しい光が修まり観察してみるがこれといった変化が見当たらない

 

「なにも起こらないわね。」

「よく見てっ!スペルカードが変化してる!」

「一体信は何するつもりなんだぜ?」

 

その瞬間、そのスペルカードが姿を変えていった。

 

「なんなんだぜ...あの剣は...。」

 

月明かりに照らされたそれは、身の丈ほどの大きさのある、闇に溶け込んでしまいそうな漆黒の直剣だった。

その場にいたみんなはその剣に不気味さを覚える。だが反対に、美しく、安心してしまう。

 

「あいつ...まさか...」

 

信はその剣を振りかざし、そのまま斬りかかった。

 

「やめてくれええええ!!!」

 

自分のボスに斬りかかろうとする信を、止めようとするのは必然である。

 

「待ちなさい!」「待つんだぜ!」

 

その妖怪を魔理沙とアリスが引き止める。

 

「離してくれっ!!あいつボスをっ!!」

「大丈夫。信はあいつを助けるって言ったんだぜ?」

「彼は絶対に嘘はつかない。」

「でもっ...」

 

そうしている間に信はその刃を化け物に深々と斬り込ませた。

 

「ぐっ!」

 

とっさに妖怪は目を離してしまう。

 

「よく見なさい。やっぱり信はあいつを殺す気なんて無いみたいよ。」

「えっ?」

 

恐る恐る目を向ける。今も尚、信はその剣で化け物を切りつけ続けている。だが、その切られたところには一切の傷が見当たらない。

 

「どういうことだ?」

 

 

その答えを知るものは、信だけである。

 

 

side change

 

 

「はあっ!!ぜあっ!!!」

 

召喚した漆黒の剣で何度も何度も斬りつける。

必然に、その間も化け物は攻撃を続けている。

 

「負けるかよ」

 

だが、その猛攻は信の体にかすることもなく空を切った。

巨大な鉤爪の凪ぎを受け流し、必殺の拳をゆらりとかわす。

その動作のなかに剣撃を混ぜながら間を開けることなく更に斬りつけ続ける。

何度も。 何度も。

 

「あ...が...。」

「おいっ!!大丈夫か!!!」

 

すると、妖怪のボスが自我を取り戻した。だが依然として体は信を攻撃し続けている。

 

「どうい..うこと...だ?」

「お前の子分の依頼でな、お前のことを助けさせてもらう。」

「他...のやつ...ら..は?」

「全員無事だ。」

「よ...かった。」

「今は安心して寝てろ。必ず助ける!!」

「ウギャオオオオオオオオオオ!!」

「早いなw。でもまあゆっくり休め。お前はもう十分頑張った。」

 

これだけの巨体で暴れまわり、至るところに倒れている妖怪を1人も殺していないということを、偶然と言うには余りにできすぎている。本能に飲まれながらも必死に抵抗し続けていたのだろう。

 

「ますます助けたくなっちまうな。」

『だんだんこいつの攻撃が正確じゃ無くなってきたぞ。もう少しだ。』

「あぁ。ラストスパートだ!!」

 

 

 

 

「ウ..ギャ...ウウ。」

 

化け物の咆哮も弱々しくなってきた。

 

「はああああああああっ!!」

 

更に力を込め剣撃をあびせる。そして化け物の姿はゆっくりと、前回の姿へと戻り始めている。

 

「これで..おわりだっ!!!」

「ウ...ギャ...ア...」

 

渾身の一振りを食らった化け物は、その姿をもとの姿へと変えていき、その場に倒れ込んだ。

 

「お疲れさま。ゆっくりおやすみ。」

 

倒れた妖怪の顔は、とても安らかだった。

 

 

 

 

「ボスっ!!」

 

勝負がついた瞬間に、妖怪は自分のボスの元へ飛んできた。

 

「大丈夫、寝てるだけだよ。今はゆっくり休ましてやれ。」

「明渡 信。ありがとう。本当にありがとう。うぅ。」

 

その妖怪は涙を流しながら喜んでいる。

 

「しーーんっ!!」

「終わったぞ。」

「うん、流石ね。」

「フフン♪もっと誉めるがいい。」

「どこか怪我とかしてないの?」

「ピンピンしてる。」

「それよりも信、」

「それよりもって...」

「細かいことは気にしないんだぜ。で、あの剣はなんなんだぜ?」

「あれは『ぬのぼこの剣』。思いによってその強さや性質を変える剣だ。それでこいつの本能ってやつを切り刻んだ。細かくな。」

「でもそんなことが可能なの?」

「あれには俺の霊力のほとんどをつぎ込むんだ。だからできるけど、その後は霊力はほぼすっからかんだな。」

「だから最初から使わなかったのね。」

 

みんなの疑問に答えつつ今後のことを話す。

 

「なあ、これももしかして異変に含まれるのか?」

「そうね。」

「霊夢、今回の異変の名前はなんなんだぜ?」

 

異変が起こる度に名前は博麗の巫女がつけているらしい。

 

「...『本能異変』ね。」

「実に分かりやすい。」

「じゃあ宴会もするのか?」

「もちろんよ。」

「ボス...」

 

3人と話していると、多くの視線を感じた。

 

「お前たち...目が覚めたのか。」

「それよりもボスはっ!?」

「今は眠ってるだけだ。明渡信が助けてくれたんだ!!」

「あんたが...。」

「おう、感謝してくれ..て..も!」

 

瞬間、その場にいた妖怪たちが全員跪いた。

 

「明渡 信!ボスを救ってくれたこと、深く感謝する。」

「...お前たちのボスは本当に人望があるな。」

「あぁ、ボスは俺たち全員の命の恩人だからな。」

 

ぐうううううううううう

 

「ん?今度はなんの音だ?」

 

その瞬間跪いていた妖怪たちは全員その場に倒れ込んだ。

 

「どうしたお前らっ!!」

「は...腹が...」

「腹がどうしたんだ!!」

「腹...減った。」

「へ?」

 

どうやら緊張の糸が切れて空腹に襲われたようだ。

 

「はっはっは!ちょうどよかった。異変解決の宴会を開くんだ。霊夢、いつやる?」

「そうね...準備を手伝ってくれれば明日の昼頃にはできるわ。」

「だそうだ。お前たちも来い。」

「でも大丈夫なのぜ?」

「50人位いるけど...」

「確かに材料集めるのがちょっと厳しいかも...。」

「大丈夫だよ。霊夢、『アレ』があるだろ?」

「ん?ぁあ、『アレ』ね。どれくらい残ってるの?」

「30キロちょい。」

「そんなにあれば大丈夫ね。」

「なんの話よ。」

「さっきからアレアレってなんのことだぜ?」

「まあそれは明日の楽しみだな。ちゃんと今回は準備手伝えよ?」

「うっ!わ、わかったんだぜ。」

「アリスもな。」

「分かってるわよ。」

「それじゃあ、お前たちは明日の昼頃に博麗神社に来てくれ。ボスも連れてな。今日は解散だ。」

 

 

こうして本能異変は無事、犠牲者0で解決された。

 

 

 

 

 

 




私の場合は原作のすべての異変が終わった後も書く気なので1つの異変を3~6話で納めるつもりです。
次回も色々進みます。

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