東方家族録   作:さまりと

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おはこんばんにちは。さまりとです。
今回は少し長めとなっとります。
ゆっくりどうぞ。


第12話 【スカーレット姉妹】

 

 

「出来ればレミリアさんのところに案内してくれると助かるんだけど」

 

 咲夜に勝利したは良いが、レミリアがいるという場所が分からない。先程美鈴の知識を共有したところ、どうやら咲夜の能力を用いてこの館の構造を弄っているそうなのだ。その為彼女が知っている確実な場所は食堂と自室だけだった。

 

「するとおもってる?」

「そこをなんとか」

「無理」

 

 勿論聞いてくれるわけがなかった。当然のことだ。自分の主の邪魔立てをしようとする人物を案内するわけがない。本来ならばその筈なのだが、今回は事情が少し違う。

 

(咲夜。案内してあげなさい)

(お嬢様!?いったいこれは……)

(今パチェに魔法であなたにテレパシーが送れるようにしてもらってるの。そんなことよりそこの彼を私のところまで案内しなさい)

(ですが彼は!)

(これは命令よ)

(……かしこまりました)

「お嬢様から直々に許可が降りたわ。あなたをお嬢様のところまで案内します」

「本当か?助かるよ」

「ではこちらに……」

「おっと、大丈夫か?」

 

 立ち上がった瞬間、ふらりとその場に倒れかけた。すでに全体重を信にかけてしまっており、自力で歩けるかどうかは誰絵が見ても明白だろう。

 

「これくらい大丈夫よ」

「無理はよくないなっと」

「ちょっと!!」

 

 意時でも自力で歩こうとする彼女を、信は軽々と持ち上げる。少しでも急ぎたい為相手のプライドまで尊重する余裕が無いのだ。

 

「大丈夫だって言ってるでしょ!早く下ろしなさい!!」

「この方が速い。それともレミリアさんの前でそんなフラフラでいるのか?」

「それはそうだけど……」

「なら甘えとけ」

「わかったわよ……お願いするわ」

「こっちとしても、美人のメイドをお姫様抱っこする機会なんて中々無いだろうしな」

「……やっぱり下ろしなさい」

「するとおもってる?」

「……丁重に扱いなさい」

「仰せのままに」

 

 咲夜の顔は赤く染まっていた。だが信は急がなければいけないという使命感と、レミリアがどのような人物なのかとそのようなことばかり考え、銀髪の少女の様子に気付くことはない。

 

「ここよ、降ろして」

 

 咲夜の案内で館を進んでいくと、ある扉の前でそれは終わる。また転んでしまわないようにとゆっくり降ろし、服の汚れやシワを簡単に落とした。

 

「くれぐれも!失礼の無いように」

「善処する」

「……お嬢様。連れてきました」

「入りなさい」

 

 咲夜が扉を開けるとやはり真っ赤な部屋が広がっていた。3人の人物がいた。1人は頭と背中からコウモリのような翼を生やした女性。1人はパジャマのようなものをまとっている女性。そして最後の1人が紅い目をした銀髪の幼女だった。

 

「ようこそ、明渡 信。私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ。そしてこっちが私の友人、パチュリー・ノーレッジ。そのとなりがパチェの使い魔の小悪魔よ」

「ひとつ質問いいですか?」

「なにかしら?」

「君は本当にレミリア・スカーレットか?」

「どういう意味かしら」

「紅魔館の主という割には幼すぎると思ったんだが……」

「まあ、そう思うのも仕方ないわね。私は正真正銘レミリア・スカーレットよ。それとこれでも500年以上生きているのだけど……そんな事を聞くために貴方はここに来たのかしら?」

「なら単刀直入に言わせてもらうが、外に出てる紅い霧を止めてほしい」

「えぇ、いいわよ」

「やっぱり駄目か。なら実力行使で……ん?今なんて言った?」

「いいって言ったのよ」

「え、いいの!?」

「ただし条件があるわ」

「やっぱりか。で、なにがお望みだ?」

「私の妹の遊び相手になってほしいの。妹が満足できたら霧は消してもいいわ」

「そんなことでいいのか?『てっきり私を倒せたらね』とか言ってくると思ってたんだけど」

「わざわざあげてから落とすような悪趣味なことはしないわよ。それじゃあ小悪魔、案内してあげなさい」

「はい。どうぞこちらです」

 

 小悪魔という女性に案内されて信は部屋から出ていった。

 二人が出ていくと、やはり疑問が残っている咲夜は自分の主人にその疑問を投げかける。

 

「一体、何をお考えなのですか?」

「気になるの?」

「……はい」

「運命が見えたのよ」

「運命ですか?どのような……」

「彼があの子と、フランと一緒に笑っている運命がね。」

「本当ですか!?」

「えぇ、しかもまったく濁りのない純粋な笑顔だったわ。彼なら、あの子を救えるかもしれない。初対面の人間に妹を任せるなんて、不甲斐ないわね」

 

 悲しそうな顔を隠すように紅茶を口に運んだ。

 

 

side change

 

 

「こちらが妹様のお部屋です」

「地下じゃん!本当に妹か?実はそこらでとらえた化け物とかじゃないよな?」

「ちゃんと妹様のお部屋ですよ」

「ならいいが。まあ、案内ありがとう」

「それでは」

 

 そういって小悪魔は立ち去ってしまった。しかしなぜ部屋が地下なんかにあるのだろうか。

 

「考えてもわかんないか。お邪魔しまーす」

 

 部屋の扉を開けるとやはり真っ赤な部屋が広がっている。ぬいぐるみや子供用のおもちゃ等が置いてある。赤いことを除いたら子供部屋のようだ。

 

(そういえば妹は何歳位なんだろう?)

「だれ?」

 

 声を発したのはベットに腰を掛けていた幼女だった。金髪に紅い目、そして羽のようなものが生えている。レミリアと違ってコウモリみたいな羽根ではなく、枯れ木に色鮮やかな結晶がついているような羽だ。おそらくこの子が妹だろう。

 

「俺明渡 信。信って呼んでほしい。君の名前は?」

「フランドール・スカーレット。皆はフランって呼んでる……なにしにきたの?」

「お前の姉さんに頼まれてな。遊びに来た」

「遊んでくれるの?」

「あぁ、遊ぼう。なにする?」

「それじゃあ、おままごと!!」

 

 どうしてレミリアがフランドールのことを自分に任せたのか正直わからなかった。あの紅い霧はレミリア達にとっては重要なものなのだろう。それがただの女の子と遊ぶだけで無くすなんて都合がよすぎる。

 

(考えれば考えるほどわからないな……ま、いいや。今はこの事全力で遊ぼう。)

 

 それから色々やって遊んだ。おままごとの後は人形を使って遊んだり、お馬さんごっこをしたりと、本当にただ幼い子供と遊んでるようだった。しばらくするとフランが外の話を聞きたいといってきた。

 

「そんなことが外にあるんだ」

「もしかしてこの部屋から出たことがないのか?」

「……うん」

「どのくらいいるんだ?」

「495年」

「へー……は!?」

 

 てっきりフランは本当に幼いのかと思っていた。

 

「495年、一度も外に出てないのか?」

「うん。お姉さまがダメだって。咲夜がよくぬいぐるみとか持ってきてくれるけどお姉さまはほとんど来ないの」

「ちょっとレミリアに文句いってくる!!」

「待って信!私が悪いの」

「どういうことだ?」

「私、狂気にとりつかれ易くて、それで何でも壊しちゃうから」

「……」

「なんでお姉さまが出ちゃいけないって言うのも分かってる。私が外に出たら色んな物を壊して皆に迷惑をかけちゃうから」

「……」

「でも、それだけじゃなくて……お姉さまは私のことが嫌いなんじゃないかって、邪魔とかいなくなればいいって思ってるんじゃないかって」

「落ち着け」

「私なんか産まれてこなきゃ良かったんじゃないかって……」

「落ち着け。大丈夫だから」

 

 そういってフランを抱き締めた。少し混乱した子供を落ち着かせるにはこれが一番だ。

 

 

「落ち着いたか?」

「うん。ごめんなさい」

 

 どうやらこれが俺に妹であるフランを任せた理由か。多分、レミリアもフランが自分のことを嫌ってるんじゃないかと思ってるんだろうな。すれ違いって怖い。

 

「でも私、さっきみたいなことを考えると怖くて……」

「多分だけどそれはないと思うぞ」

「え?」

「レミリアが俺にお前のことを頼んだ時な、少なくとも迷惑な感じじゃなかったんだよ。今なんとなく合点がいったが、多分お前のことを誰よりも気にかけてると思うぞ」

「どうして分かるの?」

「俺にも弟や妹がいるからさ。姉であるあいつの気持ちがよく分かる。多分レミリアも、お前とどう接すればいいのかわからないんじゃないか?」

「……ホントに?」

「あぁ、ほんとだ。だから安心しろ」

「良かった」

「じゃあその事をレミリアに言わないとな。あいつもそれで苦しんでるだろうから」

「うん」

「先に行ってるぞ。心の準備ができたらこい」

「うん!」

 

 そういって信はフランの部屋の出口に向かった。

 

(良かった。お姉さまは私のことが嫌いじゃないんだ)

 

 フランは信に感謝しながら彼の背中を見ていた。

 だが、現実は時に非常だ。心から感謝しているはずの恩人を『壊したい』と思い始めてしまう。

 

(ッ!!ダメ!!今狂気にとりつかれたら信を壊しちゃう!)

 

 狂気。それは狂った感情。いつもならやるはずのないことを笑顔でやってしまう。フランの場合は『何でも壊してしまう』。それが例え、自分のことを本気で心配してくれ、安心させてくれた恩人であっても。

 

「フフンッ♪」

 

 信に悪寒がはしる。危険だと本能が知らせている。その危険を確認するため、彼はゆっくりと振り向いた。

 

「カンタンニ壊レナイデネ♪」

 

 明らかに別人の雰囲気を纏い、不気味な笑顔を浮かべたフランがいた。

 

 


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