提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

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60.ネヴァダ『群青の空に写る赤毛の君』

 人がいなく、廃墟に近い港へ朝日が差し込む夏の朝。

 俺は港の防波堤、その先端部にある壊れた灯台の近くに立ち、青い沖の海を眺めている。

 

 5か月前に深海棲艦が襲撃し、この港を破壊して周辺の住民を殺戮してから人が戻ってきていない。

 そんなところへ飛ばされてきたのは、派閥争いに負けた影響で飛ばされてきた俺だ。

 このまま順調にいけば、南方で多数の艦娘を部下に仕事をする予定だった。

 だけど今はここでひとりさびしく監視と廃墟の片づけ、あとは近くにある砂浜のゴミ拾いが主な仕事。

 26歳という若さだが、もう未来は暗い。今の俺が出世をするにはとてつもなく大変になっている

 

 海軍をやめようとも考えたが、いまさら他の生き方なんて出来ない。親が殺されてかたき討ちができる仕事なんて海軍以外にないから。

 まぁ、それももうできなさそうだが。

 今の俺はのんびりと生きるしか道がない。それにくやしい想いはあるが、自分の感情よりも国益を優先して考えようと思っている。

 俺が足をひっぱろうとして、その影響で軍に悪い影響が出てら嫌だからだ。人を憎みはするが、元々は深海棲艦という敵のほうをもっと憎んでいる。

 

 もう艦娘と仕事をすることもないと思っていたが、俺の元へ艦娘が最初にやってきたのは3か月前。

 アメリカから派遣されてきたネヴァダという子だ。

 気が強くプライドが高くてフレンドリー。気安さがまさしくアメリカンといった感じのステレオタイプな子。

 その子の受け入れ準備が整う4日間ほど俺が世話をし、日本の一般常識や食生活を教え、ゴミ拾いを一緒にした。そのあとは鎮守府へ派遣だ。

 

 だが、それも2週間ほどですぐに戻ってきた。1回目に戻ってきたときはセクハラをされたから仕返しに提督の髪を燃やしたから、次の異動まで俺が預かった。

 今度は日本的な嫌がらせの例を教え、集団生活を大事にしろと教育してから送った

 

 2回目は1週間ほど経ってから。海外の艦娘だからということで戦艦である彼女の業務範囲外のことをさせつづけ、日本食を強要したからキレたネヴァダは執務室を全力砲撃。

 戻ってきたときは俺は梅干しや納豆といった日本の食事を教えた。なお、納豆を食べるくらいならパックのほうを食べると言うぐらいに日本食には馴染めなかった。

 そして次は教育艦娘として将来の提督候補たちのために異動。

 

 3回目は4日で戻ってきた。なんでも赤毛嫌いの人から罵倒されて腕の骨を折ってしまったとのこと。それも1人じゃなく6人。

 上層部は扱いづらいから、しばらくは俺に教育しろと言い、俺と同じところで暮らして今日で2日目。

 俺とは仲良くやっている。ただ、初めて会ったときから朝食に文句は言われているが。

 深海棲艦によって貿易ができていないから、食料品の不足には目をつむってほしい。

 

 そんな品不足のなか、3回目に戻ってきて初めての朝ということで奮発した。

 朝はかりかりのベーコン、新鮮な卵のスクランブルエッグ、厚切りの焼いた食パンと代用たんぽぽコーヒーだ。

 特にベーコンの値段は高くなっていたけど、友人のような関係のネヴァダのために自腹で頑張った。軍の予算は食事に最低限って感じだから。

 

 久々のアメリカンな食事で気分がいいのか、俺の隣にいるネヴァダはうきうきとした様子で何のへんてつもない海を眺めている。

 ネヴァダは赤茶色の髪で、腰にまで届くのを赤いリボンを編み込んでの三つ編みにしている。赤い目と白い肌に、顔の造形は黙っているとキツめなクール系美人だ。

 服は灰色と白を基調としていてい気品がある。

 なお、喋り始めると見た目に反して雑というかおおざっぱ。

 仲がいい俺に対しては距離感がやけに近い。近すぎた場合はデコピンをして追い払っているが、それでも近くに来るからあきらめつつある。

 

 今だって俺と肩をくっつけて隣にいる。俺と同じシャンプーを使っているのに、なんかいい匂いがしてくるんだが。

 見た目が子供の艦娘と違い、女子大生な雰囲気だから俺に恋愛感情があるんじゃないかと勘違いしそうだ。

 最初はドキドキしたが、今までの付き合いで俺に恋愛感情がないのはわかっている。

 美人な彼女に心がときめき、恋愛感情を持ちそうになるが手のかかる妹と思い込むことにして感情を乗り越えている。恋愛は自由でいいとは思うが、美人だからという見た目がいいだけの理由で恋はしたくない。

 

「提督、今日はなにか予定があるっけ?」

「ゴミ拾いと海の監視」

「いつものか。それじゃあ、アタシの反省文を手伝ってよ。400字原稿用紙で20枚という長さなの」

 

 気持ちのいい潮風に当たりながら気分すっきりで海を見ていると、上品な声を出してネヴァダ自身に与えられた罰を俺にやらせようとしてくる。

 身長がやや低いネヴァダは俺へ上目遣いをして、かわいさがあるがそれには負けない。

 

「自分でやれ。これから日本に住むなら覚えたほうがいいぞ。日本語はまだ慣れていないだろ?」

「提督のけちー! そんな心が狭い男だとアタシ以外に相手をされないよ、きっと!」

 

 べしべしと笑顔で肩を叩いてくるネヴァダ。そのお返しとして軽く足を蹴って返事を返す。

 余計なお世話だ。いつか俺を理解して好きになってくれる女性がいる。でもこのことを言うと、すぐにからかってくるから黙っておく。

 ネヴァダと一緒に海を見たあとは、ネヴァダに反省文を書かせるため家へと戻る。

 

 港のすぐ近くにある2階建ての和風な一軒家。 住人は避難していなくなったため、今は借り上げて俺とネヴァダが住む場所となっている。

 基本的には前に住んでいた人の家具がそのまま残っているが、リビングには俺が来てから自費で購入したソファがあって、そこに俺は座っている。ネヴァダは俺のすぐ目の前にあぐらで座っていて、床に座っている彼女の前にはちゃぶ台があり、原稿用紙とシャープペンが置いてある。

 まっしろな原稿用紙を前にうなりごえをあげ、少ししてペンを持って書き始めていく。

 日本語は猛勉強したのか、ひらがなとカタカナ、簡単な感じで文章を書いている。

 来たころは日本語を喋るのがやっとというだっただけに成長ぶりに感心する。

 

「問題ばかり起こしているから日本嫌いかと思ったが、よく勉強しているな」

「別にアタシは日本が嫌いじゃなくて上官が嫌いだっただけ。階級が上だからといって部下を気遣わないヤツは何をしたっていいと思うの」

「その結果がたらい回しにされ、俺のところへ戻ってきてしまったんだが?」

「No problem! あなたのところはストレスのたまらない職場だから最高よ!」

「仕事を優先しろよ、アメリカ艦娘」

 

 惚れ惚れとする素敵な笑顔を向けてくるネヴァダの頭を両手で掴むと、強引に書類へと目を向けさせる。

 俺と仕事をするのは嬉しいと言ってくれるが、こんなところではネヴァダの将来は明るくない。

 なんとかして俺が上司への敬意を持たせる教育をして、提督を燃やすとか執務室を破壊させないようにできればいいんだが。

 

 ネヴァダが溜息をつきながら書き始めたのを眺めつつ、ペンで紙に書いていく音を聞きながらぼぅっとする。

 今の仕事は平和過ぎて暇だから、なにかやることを増やしたい。

 仕事はやりがいがなく、かといってやらないわけにはいかない。この地域は重要度がとても低いものの、何かあった場合の監視は必要だ。

 本来は海軍で艦娘を指揮できる勉強をした俺がやることではないんだが、仕方がない。

 与えられた仕事をしていれば、そのうちに配置換えをしてくれるだろう。してくれると信じたい。ネヴァダの性格矯正がうまくいけば、その可能性もあるだろう。

 期待をしないで生きたほうが楽なため、明るい未来を欲しがりつつも気楽に生きていこうと考える。

 そんなことを考えながらネヴァダの三つ編みを眺めていると、ふいにネヴァダが俺へと振り向いた。

 

「なんか視線を感じているんだけど、なにか間違ってた?」

「あとでチェックするから好きに書いてくれ。提出してダメだったら、また書けばいいだろ」

「そんなの面倒! 早く終わらせられるなら、終わらせたい。何事も長く考えてやるよりは、すぐに結果を求めて行動したほうがいい!」

「短気なのは損をするぞ」

 

 この言葉のやりとりでネヴァダの問題点が簡単にわかる。

 ネヴァダは自分の感情に正直であり、誰かに相談するよりも自分で答えを出してすぐに行動をする。

 だから誰かに相談することはなく、時間をかけて物事を考えない。そのために上司へ感情をぶつけ、ダメなことをしてしまう。

 

「……わかった。はじっこにいけ、俺が隣に座るから」

「Thank you! 手伝ってくれるアンタのことがアタシは好きだよ!」

「俺も素直に生きるネヴァダが好きだよ」

「おぉ、これが相思相愛っていうものか」

 

 こういう軽いやりとりは実に心地いい。お互い、本気の発言じゃなく好きと言えるのは。

 実はこれが恋愛感情の告白という可能性もあるが、もしそうならまっすぐな感情を持つネヴァダのことだ。きちんと恋人になろうということを言うだろ。

 気分よく座る場所をずらしたネヴァダの隣に座って反省文を書く姿を見守る。

 

「それで具体的にアタシは何を反省すればいい?」

「悪いことをした自覚というのがあるか?」

「ないね!」

 

 そんな爽やかな笑みを向けて困るが、俺は溜息をつく。

 罪悪感が少しでもあれば、次に配属されたときは少し提督に不満を持っても耐えられそうなんだが。

 多少は上司のことを我慢しろというよりも、力でなくきちんとした手続きで上司に不満を訴えられるといったほうがいいだろうか。

 いや、それはそれですぐに苦情を言いまくって職場全体が悪くなるかもしれない。

 

「だってアタシは悪くないんだ。もしアタシが悪かったらもっと処罰は重くなるって。だから牢屋に入れられず、お前のところに来ているから悪くないのは証明されている!」

「そういう考えもあるな」

 

 単に扱いに困っているから俺に押し付けているとも思えるが。

 アメリカから来た艦娘だから下手な対応をすると、他の海外艦娘から苦情が来て問題が大きくなるかもしれないし。

 

「ネヴァダが素直に従う上官がいればいいんだけどなぁ。今の俺にお前を任せられるような知り合いがいないのが悲しいよ」

「だったらお前がいい。アタシのことは理解するし、心も広い。なにより規則に縛られすぎていないのがいい」

 

 心が広いというよりも俺を見張る人がいないから自由にやっているだけだ。

 ここで真面目にやっても出世にはつながらないから。ほどほどにやって気楽に生きていくのが1番いいから。

 その生活スタイルがネヴァダに合ったというだけだ。

 

「軍の内部で俺がいた派閥が負けたってのは前に言ったろ? どうにもならないんだ」

「それがどうにかなるんならいいんだな? だったらアタシに任せておけって。少し時間はかかるかもしれないけどな」

「適度に期待しておくよ」

「お前を必ずびっくりさせてやる!」

 

 俺の適当な返事に不満を持ったのか、俺のおでこへと勢いよく人差し指をを押し付けてくる。

 その勢いに驚いて目を丸くしていると、大きく深呼吸をしたネヴァダは真面目に反省文を書きなおし始める。

 新しい1ページ目から書かれたことは自身が気に障った点と行動に移した短絡的行動に反省をしている、と書いている。

 

「しかし、そんなに俺はお前に期待を持たせる人だろうか」

「もちろん。だってアタシが好きになった男だ。こんなところにいていい奴じゃない。将来は結婚するんだから、旦那には立派でいてほしいと思うのは嫁として当然だろ」

 

 真面目な顔のまま文字を書いていくネヴァダ。だが今の言葉はおかしい。

 いつ結婚すると言ったんだろうか。そもそも恋人関係にもないし、キスもしていない。愛の告白すら……いや、以前から好きだというやりとりはしているな。

 まさかあれが本気だったのか? 今、ここで冗談だったと言ったら俺はひどい男だ。

 だが、ネヴァダが俺と恋人関係と思っていたのなんか想像がつかなかった。

 いつものようなからかいや冗談でもないのは、あとから撤回する言葉もなく真面目な顔で言ったから嘘ではない。

 

 俺の何が気に入られたんだ。初めて会ったときからネヴァダからの距離感が近かったから、男友達のようなやりとりをしていただけなのに。

 布団を並べて同じ部屋で寝て、貯水タンクにある水の節約だと言って一緒にシャワーを浴びる、

 

 よし、まずは俺の気持ちを考えてみよう。今、ネヴァダの横顔を見ているが結構な美人だから恋人にした場合は嬉しい。

 性格もさっぱりして言いたいことを言うのも良い。声も髪も好みだし、気になるところは日本文化が弱いところだけ。

 

 ……1人の女性として考えてみれば、恋愛対象に入っているな。

 そのことに気づいたと同時に、愛情を持つ相手のすぐ隣にいると急に恥ずかしくなってきた。

 今まで多少の恋愛経験はあるが、恋心に気づくと同時に隣にいるのはドキドキする。

 あぁ、恥ずかしさで顔が赤くなる!!

 心を落ち着けるために、ちゃぶ台へと頭を押し付けるが勢いをつけすぎて大きな音が鳴る。

 

「どうしたんだ、急に恥ずかしがる反応を出して」

「気にしないでくれ。少ししたら収まる」

「あー、そういえば体の関係はまだなかった。性的な視線を向けてこなかったからプラトニックが希望だと思っていたんだけど」

「恋人ならキスはしたくなるだろ」

 

 顔を横に向けて言うとネヴァダはペンを置き、ごく自然な動きで俺の唇へとふれるだけの軽いキスをしてきた。

 その行動に驚き、固まってしまう。突然のことにどうすればいいかわからないのと、好きな人からキスをされたことが嬉しくて。

 ネヴァダはちょっと恥ずかしそうにしながら俺から目をそらすも、すぐににっこりと、でもいつもより色気がある笑みを浮かべた。

 

「続きは夜に」

 

 やっばい。もうネヴァダに心が落とされた。

 夜が楽しみになり、愛想をつかされないように頑張りたい。

 

「ネヴァダが俺のところへ来てくれてよかった」

「アタシも。これから配属されるところにお前が一緒に来てくれるならもっと嬉しい」

「今度報告を入れておく。ネヴァダからも頼むぞ」

「Yeah!! そうと決まったら、言うことを聞いてもらうために前いたとこの執務室を吹っ飛ばしてくる!!」

「ネヴァダ」

 

 テンション高く立ち上がるネヴァダの手を強く引っ張ると、バランスがくずれて俺へと転んでくる。

 そんなネヴァダを、俺は床へと背中から倒れながら優しく抱きしめる。

 初めて抱きしめたネヴァダは俺の腕の中で硬直し、段々と恥ずかしそうにし始めたのでさっきのキスのお返しとしておでこへと音が鳴るキスをした。

 驚きながら無言で俺の体をぎゅっと抱きしめてくる、そんなネヴァダの姿が愛らしい。

 今まで驚かされっぱなしだったが、初めて仕返しができた。

 いつも元気だが、今だけはしおらしくておとなしいのがとてもかわいい。

 そして俺たちは反省文をやるということも忘れ、暑い夏だというのに体温の熱さも気にせず抱きしめあい続けた。


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