提督LOVEな艦娘たちの短編集   作:あーふぁ

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56.初月&五十鈴『ボクたちだけの提督 』

 

 

 ―――ボクの隣に提督がいない世界なんて滅んでしまえばいい。

 

 

 駆逐の艦娘である初月、つまりはボクがそんなことを思ったのは桜が咲きそうな春の季節になって初恋をしたとわかった瞬間からだ。

 それは秘書の仕事が終わり、服と少ない家具しかない部屋でパジャマに着替え、ベッドに入ってしばらくしてから強い恋心がやってきた。

 明かりを消して暗くなった寮の部屋は周囲から聞こえる音が小さいからこそ、考えてしまう隙間ができてしまったんだと思う。

 

 その心の隙間にやってきたのは提督だ。

 あいつとの付き合いは提督となったばかりの20歳の時から一緒に4年間を過ごしてきた。

 ボクと一緒に頑張ってきた男のアイツが、ベッドの上で寝ようとしている時に好きだと気づいた。

 

 別にキッカケがあったわけじゃない。特別にかっこいいとか、仕事ができるというわけでもない。ただ毎日を淡々と過ごし、幸せも苦労も味わって一緒に過ごしてきた相手だ。

 強く惚れる要素があるわけでもないのに、今のボクはもう提督と両想いになれなきゃ人生に価値はないという過激な心を持っている。

 提督のことを考えるだけで、心臓がバクバクとマラソンをしたかのように強い鼓動を感じる。それと同時に、提督の姿を思い浮べ、色々と一緒にやりたいことを考えると幸せな気持ちになってくる。

 

 明日会ったらなんて話そうとワクワクするも、ボクと提督の関係は秘書と提督だ。

 秘書は提督の仕事を補助するのと、何か間違ったことをしたら説教、場合によっては軍に伝えることだ。

 今まで軍の規範通りに働いてきたボクは提督の信頼も厚いと自信がある。

 だからこそ。だからこそだ。恋愛という感情ひとつで提督に対し、特別な目で見てはいけない。見てしまうと、仕事のチェックや説教が甘くなってしまう

 

 ……考えてみれば、恋心とはある種のアイドルや芸能人やスポーツ選手に憧れるのと同じじゃないかと気づく。それらと提督との違いは、ふれることができるほどの距離と毎日顔を合わせることがあるという点だけだ。

 恋愛とはなんて面倒な、と思いつつ秘書にとって大事なことは何かを考えながらベッドの上でごろごろ転がっていたボクはいつの間にか眠ってしまっていた。

 

 翌朝の午前5時。興奮して寝るのが遅くなったため、少しの睡眠不足を感じるものそのそとベッドから起きてカーテンを開ける。

 まだ太陽はのぼっていなく暗い。手探りで明かりのスイッチを押してつけたあと、あくびが出ながらもボクは洗面台で顔を洗ってから支給された制服へと着替えていく。

 全身を包む黒インナーを着て、その上から白と黒を基調とした上下のセーラー服を着る。

 靴を履き、最後には『第六十一駆逐隊』と金色の文字で書かれた黒のペンネントをハチマキのように頭へと身に着けた。

 あとは鏡を見ながら薄い化粧をしたあと、鏡越しに自分を見つめる。

 156㎝ほどの小さめの背とバストサイズAという小さな胸。

 中学生ぐらいの幼さがある顔つきは提督の好みだろうか? と自分のスタイルがよくないことに少し悲しくなりながらも身だしなみを整えたボクは部屋を出て、人が少ない食堂で一人静かに朝ごはんを食べた。

 

 そのあとは提督が仕事をする3階執務室の前で待ち、来るのを待つ。

 ドアの横にまっすぐと背筋を伸ばして立ち、廊下の壁を眺めながら考えてしまうのは恋愛のことだ。

 恋愛とは、ただ一緒にいたいという想いだけではダメだ。それだとそのうち、相手の悪いところに気が強く行ってしまいダメになる。

 だからお互いの利害関係を愛情に混ぜておくと長続きする。そんなことを加賀さんと付き合っている赤城さんが言っていたことを思い出す。

 

 ……ではボクと提督が恋人になった時の利害とは?

 お互い相手の仕事がわかっているため、突然予定をキャンセルしても理解できる。

 仕事の都合で出張して、仕事内容が説明できなくとも納得できる。

 職場でずっと一緒に入れる。国から軍人と艦娘が結婚、または恋人同士になると補助金がくる。

 艦娘は人間と違い、生活に制約がかかっているため遠出の旅行に行けないから浮気を心配する必要がない。そもそもする気はないが。

 他に問題としては、提督がボクに優遇して他の艦娘と差が出るかもしれないし、ボクが提督に対して仕事で甘くなるかもということがある。

 そんなことを延々と考えていたけれど、そういうのは付き合ってから考えていけばいいと気づく。

 まったく、恋というのは恐ろしい。いつもは落ち着いているけれど、今はふとした瞬間に提督のことを考えてしまい、緊張と嬉しさが同時に来て精神が辛い。

 この感情に早く慣れないと仕事でミスが多発しそうだ。

 

 そうしてボクは深呼吸を何度もし、気分を落ち着かせ始めた。

 そんなときに提督がやってくる足音が聞こえ、顔を向ける。

 黒いカバンを持った提督は上下紺色の軍服を身にまとい、短く切りそろえた髪の上には軍服と同じ紺色の帽子がある。

 服の上からでも引き締まった肉体、ボクよりも20cmほどは高い身長。

 少し怖く見えるも、でもボクに浮かべる笑顔は優しくて、どこか軍人らしくない雰囲気を出している。

 

「おはよう、初月」

「あぁ、おはよう、提督」

 

 挨拶をされただけで嬉しくなってしまうが、そこは深呼吸して返事をした。

 そのボクが取った行動に少し不思議そうにしていたが、提督は執務室のドアの鍵を開けると中に入っていき、ボクもその後に続く。

 16畳ほどの広さがある部屋の中には提督とボクの執務机がひとつずつ。部屋の中央にはテーブルと3人掛けのソファー。それらを囲むように、本がいっぱいある本棚が壁沿いに隙間なく置かれている。

 ボクは提督より早足でカーテンを開けて部屋に朝日の光を取り入れると、帽子を脱いで椅子に座り机に向かった提督の隣に行く。

 

「今日の仕事はなんだい?」

「新人の尻ぬぐいさ。前線での戦闘に影響が出ない範囲でミスった予算配分をバランスよく策定しとけってよ」

 

 提督がいつものように書類を差し出してきて、ボクはいつものように受け取ろうとした。

 だけれども、だけれどもだ。普段と何も変わらないのにこのドキドキ感はいったいなんだ!? 

 提督の顔を正面から見ることができず、顔をそむけながら受け取ると、早足で自分の机に行き深呼吸して精神に少しの落ち着きを取り戻してから書類を見て行く。

 

 書類の内容は予算配分に関係するものだ。一枚目は老齢で入院した提督の代理として仕事についた人に関する物。

 他の書類に書かれていた文章は、新人の提督は艦娘へのストレス軽減や防衛設備投資を重視したものの、高い維持費や予備費ゼロ状態で予算のやりくりがうまくいっていないとのことだ。

 数字が書かれた資料の他には、その鎮守府を視察した軍人と艦娘による報告書と、以前より戦果が減った統計。

 

「その資料を見て、何が問題で改善方法を考えてくれ。もちろん俺も考えるさ」

 

 と、提督もボクと同じ資料を机に並べて穏やかな笑みを浮かべる。

 ……なんてことだ。特別なことをされているわけでもないのに、提督の笑顔がまぶしい。

 これが恋というものなのか。恋をすると人生が変わる、と秋雲が趣味で描いている漫画のキャラによく喋らせていたが、今ならキャラクターの気持ちに強く同意する。

 恋をしただけで、いつもと変わらない日常が光り輝くように感じる。提督と会話をしているだけで、幸せがいっぱいだということも。

 だからといって、ボクはそれを表には出さないよう気をつける。恋という感情に振り回されず、優秀な秘書としてやっていかなければいけない。

 昔はお互いにダメなところもあったけれど、4年も経てばボクも一人前の秘書だそれゆえにダメなところを出してしまえば秘書を替えられるかもしれない。

 

 ボクはそれが怖い。

 書類を見ながら、問題点を見つけては机の引き出しから取り出したノートに書いていくも、頭の大部分を占めるのは恋愛のことばかり。ほら、今だって『提督大好き』なんて文字を書いてはぐしゃぐしゃと線を引いては消すほどに。

 ……こんなことを考えれる今は幸せだけれど、このボクの恋愛は必ず振られるとわかっている。

 

 なぜなら提督には好きな艦娘がいるから。だから、この想いは隠したままでいい。

 そう思っただけで胸がぎゅっと締め付けられるかのように痛むけど、これは一時的なもの。一時的なものなんだ。慣れれば、どうってことはない。

 でも慣れるまでが辛い。そもそも慣れるかがわからないけど。ボクが恋をしたことは秘密にしたいため、誰かに相談することができない。

 かといって、急に恋愛指南的な本を読み始めるのも怪しい。

 恋愛について考えながら書類を読み進めていくと、ふと名案が思い浮かぶ。想いは隠したまま、でも提督と今までよりも近くいることができる方法を。

 だからボクは今まで提案したことがなかった、提督のためになるリラックス方法を言う。

 

「提督、最近は疲れがたまりやすくなってないか?」

「ん、あぁ。年度末や春は色々あったからな。それが今も続くが、なにかあったか?」

「…………ボクが性処理をしようか?」

 

 机で書類を眺めながら返事をする提督にボクははずかしさを抑え、なんでもないかのように提案をした。

 提督はたっぷり10秒ほど硬直したあと、非常にゆっくりとボクの方へと振り向いた。

 その表情は真顔に近い、困惑した表情だった。

 

 突然こんなことを言ったからか、反応に困っているらしい。だから発言をわかりやすよう、ボクは机から右手をあげると、棒状の物を握るような仕草も付け加える。

 恋人になれなくても、こういう関係ならずっと一緒にいられるはずだ。提督が好きなときに使ってくれれば、ボクと提督はずっと一緒に入ることができる。

 多くの素敵な女性に囲まれている提督なら、日頃から我慢しているからボクがした提案は魅力的なはずだ。

 自分から言っておいてあれだけど、性行為や男性とお付き合いの経験がないから恥ずかしくてたまらない。……あぁ! 提督も変な顔をして黙っていないで早くなんとか言ってくれ!

 

「……いや、必要ない」

「どうしてだ?」

 

 断られるのは意外だった。自慢ではあるけれど、提督との仲はよく、遠慮なく物事を言える間柄だ。でも断られた。

 たしかに胸が小さいことは女性としての魅力が低いかもしれない。でも顔は良いほうと思う。なのに、あまり戸惑ってくれないボクのことを女性としては見れてくれない? 仕事だけの関係?

 様々な暗い感情が心いっぱいに広がっていく。

 落ち込んだボクを見た提督は素早く立ち上がると、すぐ隣にやってきて両手で頭をわしゃわしゃと優しく撫でてくる。

 

「俺は初月とこうすることができれば幸せだ。そこまでしてもらうと今の関係が崩れて、俺は初月に甘えまくって溺れてしまう。今まで黙っていたが、実は初月を妹のように思っているんだぜ?」

 

 そんな言葉をもらい、すぐに心は幸せになる。でももっと甘えて欲しいんだ。妹じゃなく一人の女性としてボクに溺れて欲しいんだ。ボクしか見えなくなるぐらいに。ボクも提督しか見ないから。

 

「ごめん。変なことを言って」

「なに、気にするな。初月は妹みたいにかわいいからな。何を言っても大抵は問題ない」

 

 提督は少し恥ずかしそうに言ってボクの頭を存分に撫でまわしたあと、手で髪を整えてくれてから机へと戻っていった。

 ボクは断られたことなんて頭の片隅にいき、今はぽーっとする感情を心地よく思いながら提督をじっと見る。

 

 妹みたいだと言ってくれた。

 それは初めてのことで嬉しい。けれど同時に、妹という認識かと落ち込んでしまう。

 一人の女性として見てもらえなかった。

 それも仕方ない。提督の心には好きな艦娘である五十鈴がいるから。

 

 だから仕方ない。

 ……まったく、恋とはやっかいなものだ。人はよくこんな感情を持って生きていけるものだと尊敬してしまう。

 まぁひとまず、これで気持ちにはちょっとだけ整理がつけられた。あとは恋愛感情に振り回されて見捨てられないように過ごしていけばいい。

 気持ちが落ち着いたあとは、提督と軽い雑談をしながら仕事を続けていく。

 それが1時間と少し経った頃に、疲れたのか提督が両腕をぐるぐると回したあと、私へと顔を向けてくる。

 仕事をしている、ひとつひとつの仕草を見ているだけで気持ちいい気分になっていたボクに、仕事が一段落して安心した顔を見せられると嬉しくなってしまう。

 

「休もうか、初月」

「そうだな、ボクも同じことを思っていた。おいしいコーヒーを持ってこようか?」

「ありがとう」

 

 休みたくなるほど疲れてはいないけれど、仕事以外でも提督と話をしたいボクはその意見に従う。そして立ち上がると、毎日のようにいれているコーヒーを持ってくるために執務室を出ていく。

 執務室と同じ建物にある、1階の給湯室にやってきたボクはコーヒー豆を挽くところから始める。

 今日の豆はインドネシアのマンデリンだ。

 高級品である豆を電動ミルで細かくしてからマグカップを用意し、ペーパードリップに豆を入れると沸かして豆に最適な95度のお湯を注いでいく。

 3分かけてコーヒーを抽出し、それを2人分。

 元々コーヒーには興味はなかったけれど、提督が大のコーヒー好きだからボクも好きになった。

 好きな人に染まっていく、というのはこういうことなのだろうか?

 

 そう意識してしまうと、笑みが出てしまう。鏡で見たら、きっとだらしないほどにゆるんでいる笑顔に違いない。

 できあがったコーヒーが入った、マグカップ2つを左右の手で持って執務室へ戻るまでに表情を整えておかないと。

 でもボクのコーヒーを『おいしいよ』と言ってくれるのを想像しただけで顔がゆるんでしまう。

 表情を整えるのに苦労しながらも執務室の前にたどりつくと、マグカップを持ったままの手でドアを開けると、部屋には提督の想い人がいた。執務机に座り、椅子に座った提督と楽しそうに話している五十鈴の姿が。

 五十鈴は巫女服のようなデザインでミニスカな制服を着ていている。

 ボクとは違い、腰まで伸びる柔らかく美しい黒髪を白いリボンで結ってツインテールの髪型をしている。つい注目してしまう、とても大きく胸は曲線のラインが美しく、うらやましく思うほどだ。

 そんな五十鈴は見た目もボクより大人びていて女子高生のようにも見える。

 ボクのように子供っぽくない。大人の魅力が見える。3年のあいだ、彼女は提督と一緒にいてお互いの良いところも悪いところもわかっている。

 そんな女性として魅力的な五十鈴に対し、提督はボクには向けない、愛しさと優しさがこもった笑みを浮かべていた。

 

 見たくない。

 そんな目で五十鈴を見る提督なんて見たくない。ボクだけを見てくれないというのが、こんなにも辛いだなんて。

 恋愛感情を覚えるまでは、こんなふうに思ったことはなかった。

 

 ボク以外の人と仕事以外で話をしないで欲しい。

 ボク以外の人と仲良くしないで欲しい。

 ボク以外の人にそんな優しい笑顔を見せないで欲しい。

 五十鈴なんかよりもボクを見て欲しい。

 ボクはいつだって提督のために尽くしてきたし、なんだってできる。ボクの体を好きにしてもいいと思うほどに。

 

 そんな嫉妬しかない感情は歯をくいしばって抑える。恋愛がこんな苦しいだなんて思わなった。大好きな提督や親友の五十鈴に対して、こんなにも醜い感情を出すなんて。

 ボクは深呼吸し、落ち着きを強く意識してふたりの前へと行く。

 

「やぁ、五十鈴来ていたのか」

「お仕事おつかれさま、初月!」

「五十鈴こそ遠征お疲れさま」

 

 ボクと仲がいい五十鈴に、作った笑顔で挨拶をしてボクは提督にコーヒーを手渡す。

 その時に提督が「ありがとう」という言葉と共にくれた微笑みでさきほどまでのひどい感情は、魔法のように一瞬にしてなくなってしまう。

 すっきりした感情を持てたボクは、先ほどよりは穏やかな気持ちでふたりを見ながら自分の机へと戻りコーヒーを飲む。

 静かにコーヒーを味わいながら、楽しそうに話を続けるふたりを見る。

 

 話の内容は特別なことではない。でもふたりが会うのは4日ぶりだから、話がとても弾んでいる。

 五十鈴がイルカの群れやクジラ、土砂降りの雨のあとの美しい虹が見られたのは生きていてよかったと思えるほど美しかったと心底嬉しそうに言っている。

 他にも楽しいこと、素敵なことを五十鈴が言い、提督も自分のことのように喜んでいる姿は見ていてボクも嬉しくなる。でもそんな笑顔にさせているのがボクでないというのが、ちょっとだけ心に痛みが走るけれど。

 

 ……落ち着くんだ、ボク。これぐらい、いつものことじゃないか。提督をいつでも自分を見させていたいだなんて、ボクはそんなに提督が好きなのか。

 もしくは独占欲が強すぎるということか……? でもそれはおかしい。ボクは普段から物に執着を見せていないんだ。鈴谷のように服やぬいぐるみで部屋をいっぱいにしてないし。シンプルな部屋じゃないか。

 ボクの感情はやはり恋愛感情の一種なのかと深いため息をつきながら飲む。

 飲みながら提督もコーヒーを安心した様子で飲むのは嬉しく思う。そして、そのコーヒーを五十鈴も飲んだのはうらやましい。同じコーヒーを分け合って飲むのはボクもやりたかったと。

 あぁ、ダメだ、ダメだ! 恋愛感情はなんて恐ろしいものなんだ!

 上司と部下という、今まで築いてきた親密な関係で満足してきたのに。それよりももっと仲良くなりたいだなんて、強欲だ。 

 

 …………仕事だ、仕事をしよう。そうすれば、イライラする光景を見なくて済む。

 強い決意をし、飲みかけのコーヒーを置いてボクはふたりの声を忘れるように仕事へと没頭する。

 

 ――それから10分が経った頃だろうか。提督に声をかけられたのは。

 

「初月、コーヒーは飲み終わったか? 洗ってこようかと思ったんだが」

 

 提督に声をかけられたのが嬉しく、不自然な硬直で仕事の手を止め、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。

 

「別にボクが洗ってきてもいいけど」

「いつも助けてもらっているから、たまには洗い物でもやろうかと思ってな」

「そういうことならお願いするよ」

 

 提督は立ち上がると、ボクの前へやってきて空になったマグカップを手に取ると執務室から出ていく。

 部屋に残されたボクは五十鈴がじっと見つめてくるのを気にせず、気を緩めるといちゃいちゃしすぎだと文句を言ってしまいそうなのを我慢して仕事を再開しようとする。

 けれども、五十鈴は机越しにボクの前へとやってきた。

 

「あのね、初月。あなたと話したいことがあるのだけど」

 

 そう恥ずかしそうに顔を赤らめて言ってくる姿に、話題が想像できずに言葉を待つ。

 五十鈴はボクに視線を合わせたかと思うと、すぐに目をそらし、それを6回ほどやったところでやっと話を始めてくれる。

 

「いつも提督と一緒にいるあなたに恋愛相談をしたいの」

「恋愛相談」

 

 "恋愛相談"という言葉に反応し、即座にその言葉だけを繰り返してしまう。ああ、こんなことを恥ずかしそうに言う五十鈴はかわいいなと思うものの、むしろボクが恋愛相談したいところだ。

 低い声で恨み言を言いそうになるのと幸せそうな顔をする五十鈴に対するいらだちを抑え、仕事の書類を机の脇へと移動する。

 

「ボクにわかることなら」

「えっとね、艦娘と提督の恋愛ってしても問題ないのよね? ほら、表ではよくても暗黙の了解がや秘書でしか知らないこととか」

「仕事に悪い影響が出なければいいと大本営からは文書として指示が出ている」

 

 机の引き出しを開け、機密事項でない1枚の紙を五十鈴へと渡す。

 それは艦娘との職場恋愛を推奨するものだ。恋愛に興味がなかった頃のボクは、なぜ推奨するのかと不思議に思って調べたことがあった。

 理由は外部からのハニートラップを防ぐこと、艦娘との仲を良くすることで仕事の信頼性をあげることの2点が重要視されている。

 

「それなら安心だわ! でも悪い影響というとどういうものかしら?」

「恋愛が理由で仕事の効率が下がるとか、他の艦娘と差別をする、優遇しすぎる、愛する艦娘に構ってばかりで仕事を放棄する、愛した艦娘が増長して提督を理由に権力を振りかざすとか」

 

 そう自分で言っている途中に気づいたが、もしボクが提督と仮に相思相愛だったとしたら物凄く悪い影響にしかならない。付き合ったら束縛してたまらないだろう。精神的、物理的に。

 自分の望みが恐ろしいものだったことに心が一瞬にして冷え、五十鈴へのいらだちもなくなっていく。

 恋愛に気づいたのが昨日でよかった。これがもっと前だったら、ボクは提督や他の艦娘たちに悪い影響を出していたに違いない。だから、もうすぐ付き合ってしまいそうな五十鈴を応援しよう。

 提督と五十鈴が付き合っても、今までの関係性なら悪くならないだろうとボクは無理矢理にでも納得する。

 ふたりが付き合えば、ボクの恋心も静かになる。秘書として近くにいれるのなら幸せなんだと思って。

 

「でも五十鈴なら大丈夫だ。ボクが保証しよう。それにふたりは相思相愛に見えるから」

「そう? そう言ってくれるのなら安心だわ! 私の片想いだと思っていたけれど、ずっと近くで見ていた初月が相思相愛なんて言ってくれるのな安心よ!」

 

 とても嬉しそうに笑顔を浮かべる五十鈴に、素直な感情を出せてうらやましく思う。

 それが苦しい。素直に感情を出せ誰かに相談できる五十鈴と自分を比べて。

 同性のボクから見ても五十鈴は見た目も性格もいい女性だと言える。そんな素敵な女性を好きにならないわけがない。特に事あるごとに五十鈴の大きい胸に目を奪われている提督の姿を見てきていたから。

 

 まぁ、見続けるのが悪いとわかっているから、すぐに目をそらすのはさすがボクが好きになった提督だと思う。配慮できるのは素晴らしいことだ。

 

「でも五十鈴。相思相愛でも、まだ提督には自分の恋心に気づいていないか、心構えができてないと思うから、提督から言ってくるまで待ったほうがいいと思う」

「そうかしら? 気づかない人はいつまで気づかないわよ。それに心構えがなければ、作ってもらうだけよ!」

 

 と、自信に満ちた笑みを浮かべ、やる気溢れる姿に苦笑してしまう。そんな勢いがあるなら、すぐに落とせてしまうだろうなと。

 妹と思われているボクが同じことをしても、きっと困惑するだけだろうから羨ましく思う。

 

 ……いや、何を考えているんだ。ボクはふたりが幸せで、そのそばにちょこんといることができればいい。欲が強すぎると手に入る幸せすら逃してしまう。

 話が一段落したと同時に、洗い物を終えた提督が部屋へと戻ってくる。

 でも部屋には入らず、ドアを開けて入り口で立ったまま明るい笑顔をボクたちに向けている。

 

「少し昼飯には早いが、席を立ったついでに食堂へ飯を食いに行かないか?」

「そういえば、遠征から戻ってきたままだったから、お腹がぺこぺこだわ。でも食堂でなく、ここでゆっくり食べたいからお弁当がいいわ。初月はどう?」

「ボクも五十鈴の意見に賛成する」

「じゃあ3人で弁当を買いに行くか。今日は俺のおごりだ」

 

 部屋の外へ出て行くボクと五十鈴に、提督はそんな気前のいいことを言ってくれる。

 それにボクたちは喜ぶけど、何も食費が浮くという理由ではなく、買ってくれるという行為が嬉しいのは言うまでもないことだ。

 だからこそ、それが嬉しく思い、心がときめいてしまう。

 

 ……ときめいてどうするボク。嬉しくなるだけで抑えておくんだ。そうしなければ、提督と五十鈴が恋人関係になったときに深い傷を得るだけだ。今なら、仲のいい上司と部下を維持すれば、それほど傷つくことはない。

 にやけた笑みを、自分の顔を両手で強めに叩く。その行為をびっくりした目で見られたけど、ボクはなんでもないというふうに何も反応せずに部屋を出て提督が執務室の扉を閉めるのを待つ。

 そして提督が戸締りをしたところで歩きはじめ、すぐその横に五十鈴がぴったりと肩を並べていく。

 幸せそうなふたり。けれど、ボクの心はとても痛く感じてしまう。その仲がいい光景はボクが一緒にいてはいけないよう思え、ふたりが恋人同士になってしまったらボクはいらない子になってしまうんじゃないかって。

 

 たとえばボクの代わりに五十鈴が秘書を務める、提督が転属するときに五十鈴だけを連れていくとか。

 別にボクの知らないところでふたりがエッチをしてもいい。でも置いていかれるのだけは嫌だ。

 そんな光景を、食堂へ歩いていく後ろ姿に見てしまう。ボクを、ボクを置いていかないでくれ。

 そう思ってしまった途端、ボクは無意識で提督の服のすそを強く掴んでしまう。

 感情を抑えるはずが、感情に身を任せて動かしてしまった。そのことに気づき、体が硬直する。すぐに手を離そうとするよりも早く、提督が足を止めてボクへと振り向く。

 

「どうした? 部屋に忘れ物でもあったか?」

「ああ、いや、そう思ったけれど、ボクの勘違いだった。すまない」

「別に構わないさ。なにか心残りがあるってのはよくないからな」

 

 怒るでもなく、むしろよかったというように笑みを浮かべ言ってくれた。

 その気遣ってくれる言葉に心が暖かくなるも、提督の隣にいる五十鈴がボク不思議そうに見ていたけれど、目を合わせて少ししたら何かを理解したようで納得したように笑顔を見せてくれる。

 そっと手を離したボクはふたたび歩き出したふたりについていく。

 

 食堂に着くまでボクは思った。黒インナーの布越しに触れた提督の服を掴んだとき、言葉に表現できない嬉しさと安心感がやってきたのを。

 それは今までは感じてなかったこと。いや、恋愛感情を持つ前からこういう感覚はあったのだと思う。今はそれが敏感に感じ取れるというだけだ。

 

 ボクはさっきまで掴んでいた手を自分の目の前まで持って来て、少し見てはすぐに手を戻しておとなしく歩いていく。

 三人で食堂に着いたあとは高級幕ノ内弁当とお茶のペットボトルを買ってもらい、提督が三人分の弁当を持つと執務室へと戻る。行きとは違い、帰りではもう精神は落ち着いており、これ以上の失態は見せる心配がないだろうと思う。

 恋愛感情に気づいてから半日も経てば、ある程度は制御できるとういものだ。

 執務室に戻ってからは五十鈴が提督をソファーのまんなかに座らせ、右に五十鈴、左にボクという位置に。テーブルに弁当を置くと、ボクたちはいただきますと手を合わせて挨拶をしてから食べ始める。

 普段食べることのないお弁当の味はおいしい、と思う。思う、というのは味がわかりづらいからだ。それは肩が時々ふれあうほどの近さで提督が隣にいるから。

 いつも食堂で食べるときは向かい合って食べるから。だから、隣でこんなに近いのはドキドキしてしまう。もう服越しに体温がわかるんじゃないかって錯覚するほどにボクの心はいっぱいいっぱいだ。

 さっきまでは恋愛感情を制御できると思っていたけど、無理。こんなのは無理だ。恋をする人は、こんなにも苦しくて嬉しい思いを感じながら恋を続けているんだろうか? 舞い上がってしまうのを抑えて食事をするだけで、もう理性が辛い。

 提督と五十鈴が楽しそうに話をしながら、ボクはそれを聞き、見るだけしかできない。

 

 胸の鼓動が提督に聞こえやしないかと心配で声すら出したくない。今ボクが会話してしまったら、変に思われる。それは嫌だ。ボクはいつだって信頼され、かわいい妹のような存在だと思われていたい。

 女性としてではなく、妹。妹なんだ。その立ち位置ならずっといられる。

 そういう考えごとで頭をぐるぐるさせていると、ふと二人の雰囲気が変わった気がして、そちらを見る。

 

「ね、提督。私が食べさせてあげるから、あーんして、あーん!」

「いらん。食べ終わるのが遅くなる」

「えー、そんなこと言わないでよ。ほら、あーん!!」

 

 提督越しに見る五十鈴は上目遣いで提督を見上げ、とてもかわいらしい仕草でお願いをしている。最初は嫌そうに断っていた提督だが、3度繰り返されると諦めて五十鈴の箸から厚焼き玉子を食べる。

 

「どう、おいしい?」

「恥ずかしくてわからん」

 

 直接食べさせたことで喜ぶ五十鈴と恥ずかしがる提督の姿は恋人のようにふれあっていて、すごくうらやましい。

 そんなボクの視線に気づいたのか、五十鈴はボクに目を合わせて微笑みを返してくれる。

 

「ね、提督。初月もあなたにあーんをしてあげたいらしいわよ?」

「五十鈴!? ボクは別にそういうことは! ……でも、提督があーんをされて嬉しいのなら、ボクもしてあげていいけど」

 

 来た。ボクにも正々堂々と提督にあーんをする機会が! 別にこれは恋愛的意味じゃなく、提督に喜んであげてもらいたいという奉仕の心なだけで秘書として当然のことだ。

 だから、今日何度も思っている恋愛感情に踊らされないというのにはまったく関係がないんだ。それに提督と恋人になりたいからするわけでなく、ただしてあげたい。

 

 そう、やましい気持ちなんて何もない。これをキッカケにこれからも『あーん』ができえるかな、と思ったぐらいだ。

 提督に断られないか、ドキドキして待っていると、提督はボクを見て頷いてくれた。

 

「おう、初月にもしてもらいたいぞ」

「そうか、そうか! それは仕方がないな、うん」

 

 隠しきれない嬉しさが出てしまいながらも、ボクは箸で半分に割られた煮卵を取ると提督の開いた口元へと運んでいき、食べさせてあげる。

 ボクの箸から食べてもらった瞬間の幸せはとても気分がいいものだ。言葉にするなら、僕がしてあげるという行為が幸せだ。

 食べさせてあげただけでこんな幸せな気持ちだなんて。しかも恥ずかしがる提督の顔は新鮮で実にいい!

 そうやって小さな幸せを感じていると、五十鈴から温かい笑顔を向けられて冷静な気分に戻っていく。

 そのあとは三人でなんでもない雑談をしながらご飯を食べていき、最後にはお茶を飲んで会話もない静かな時間が始まる。

 でもそれは五分も持たなかった。なぜなら五十鈴がびっくりすることを言ったから。

 

「ねぇ、提督」

「なんだ、五十鈴」

「私たち、恋人にならない?」

 

 話の脈絡も何もなく、突然そんなことを五十鈴言った。今日の夕ご飯は何を食べる的な気楽さで。

 あまりにも軽い、いや言ったことは軽くはないのだけど提督とボクは五十鈴が言った意味を理解するまでたっぷり10秒ほどの時間を要した。

 

「俺は五十鈴が好きだけど。女性として。だけれど、恋人になるには―――」

 

 戸惑う表情を浮かべる提督は、ボクを見て助けを求めるような目をしていた。

 ボクは考える。提督と五十鈴。軍人と艦娘が付き合ったらどうなるかを。それは五十鈴とふたりっきりで話していたこと。今になって思えば、今日告白するためにボクに確認を取っていたんだなと納得する。

 

「以前に機会があって調べたけど、提督としての仕事をきちんとやっていれば艦娘との恋愛は問題ない。軍の規則だと艦娘との恋愛は推奨しているから安心するといい。それになにか問題あってもボクがいるだろう?」

 

 安心するように満面の笑みを浮かべる。提督が自分の気持ちに素直になり、ボクの大好きな人たちが恋人になるんだから嬉しくないはずがない。

 だけど、心が痛い。心臓を力強く握りしめられたかのような。

 言葉を終える頃には引きつった笑みになってしまっていたけれど、提督は目をつむり何かを考えていたから助かった。

 深呼吸をし、目を開けた提督は緊張した様子で五十鈴に体を向ける。

 

「五十鈴が恋人になってくれると嬉しい」

「はじめからなるって言ってるじゃない!!」

 

 きらきらとした笑みで五十鈴は提督に抱き着き、両腕を首に強く回す。そのあまりの強さに提督は苦しんでいるようだけど、助けない。それは幸せの苦しみだから、よくよく味わうといい。

 目の前の光景を見ていると、ボクの感情に後悔というものがやってくる。

 ボクにもっと女性らしい綺麗さや、五十鈴のように胸が大きければボクも同じことをできただろうか?

 いや、できない。きっとできない。たとえボクに魅力があったとしても、関係性を壊したくなくて積極的になれないだろう。恋人になろうとするのは怖く、現状維持をするに違いない。だから、だからこそボクは五十鈴をうらやましく思い、まぶしく感じる。

 

 悲しんでいる場合じゃない。これからボクと提督が一緒にいる時間は確実に減るだろう。でもあまり減ることがなく、密度が高い時間を過ごしたい。

 仕事の上司として、頼れる秘書として、一人の艦娘として女性として。

 大きく複雑な感情で二人を眺めていると、提督のほっぺたにキスしていた五十鈴と目が合う。

 その時の五十鈴の顔は、申し訳なさそうな、悪いことをしたような顔をしてから提督の耳元に向けて言葉をささやく。

 

「ね、提督。初月のことも恋人にしない?」

「いきなり浮気を薦められているのか、俺は」

「初月もあなたのことを好きだし、提督も好きでしょう? それに恋人が複数いてもいいじゃない。もしかしたら私は死ぬかもしれないんだし、初月がいれば悲しみが減るでしょう?」

 

 五十鈴が甘い言葉で言うも、提督は五十鈴を力強く引き離す。

 

「悲しいことを言うなよ。俺は五十鈴を、艦娘たちが死なないように一生懸命努力しているんだ。五十鈴の代わりなんてのはいないし、初月に気持ちを押し付けるのなんて失礼すぎる」

「……あぁ! そんなふうに言ってくれるあなたが大好きよ。私も、初月も!!」

 

 五十鈴はさきほどよりも強く提督に抱き着き、提督は苦しそうになっていて、五十鈴の肩を掴んで離そうとするも離れない状態だ。

 そんなふたりを見ながら、ボクは今の会話を冷静に考える。

 五十鈴は本気でボクを提督の恋人になってもいいと考えていて、提督のほうも否定はしていない。

 

 つまりもしかしたら。あきらめていたけど、ボクは提督を好きになってもいい……? 恋人として愛することができるということか?

 意識してしまうと一瞬にして顔が真っ赤になり、心臓が過去最大級の強さで音を上げ始める。

 今までにこれほど緊張したのは4年前の初陣以来だ。だからといって緊張しているだけじゃいられない。

 きっと最初で最後のチャンス。これを無駄にしたくはない。

 

「提督の一番でなくていいから、ボクを恋人にしてくれないだろうか? 提督がボクを妹と見ているのは知っている。だけれど男性として提督のことが好きなんだ。今まで普通に付き合えていた。でも昨日、寝る前にふとボクの持つ感情が恋心だって気づいたんだ」

 

 五十鈴に抱き着かれたまま、体の向きを変えてボクの目を見つめ、すぐに目をそらす提督。

 振られるんじゃないか、と思ってしまうとストレスで胃がとても痛くなってくる。頑張れ、ボク。まだ提督は答えを言っていない。ボクの良さをアピールするなら今ここしかない。

 

「提督はボクのことを好きか? それとも嫌いか?」

「……好きだが、恋人がふたりというのはダメだろう。俺はふたりを同時に愛するなんて―――」

「はい、そこで止めて。提督の問題はそれだけでしょう? 世間体を気にしてないなら問題ないじゃない。ねぇ、初月?」

「ボクは提督のそばに入れるなら、なんだっていい」

「や、初月も恋人でちゃんと愛してもらうのよ。私、不平等なんて嫌よ? ねぇ、提督。初月も恋人でいいわよね?」

 

 ボクは力強く3度首を上下に振ると五十鈴は満面の笑みを浮かべたあと、提督を抱きしめていた手を離すと提督の体をボクの方へと押し出してくる。

 その結果、お互いの吐息をすぐ近くで感じ取れるほどに急接近してしまい、頭が沸騰して倒れてしまいそうだ。興奮しすぎによって意識がぼんやりとするなか、五十鈴の声が聞こえた。それは「キスしていいわよ」とのささやきが。

 してもいいのか?

 ボクが? キスを?

 ……しよう。今すぐしよう!!

 

 と、もう自分の感情を我慢する必要がなくなったボクは、五十鈴がキスをした反対側のほっぺたに口づけをする。

 キスをしたがる勢いの割には、それはちょんと唇にふれるだけのキス。それを4回やったあとに離れ、顔を赤くする提督に向かってボクは言う。

 

「提督、ボクとも恋人として付き合ってくれ」

 

 提督の目を見て、堂々と告白をするもすぐに自信がなくなり、物凄く後悔し始める。でも提督の返事を聞き、すぐにその後悔は消えてなくなった。

 

「俺はふたりが好きだから、一緒に入れる時間が増えるのは嬉しい。だが、だがな初月。俺はお前だけを見ることができない」

「それでいいさ。ボクの隣に提督がいる世界ならなんだって」

 

 話がまとまり、今この瞬間からボクたちは三人で付き合うことになる。

 

「私たち三人で幸せになるわよ!」

 

 五十鈴は元気いっぱいに声を出すと、ボクと提督をまとめて力強く抱きしめてくる。

 幸せいっぱいな笑顔の五十鈴、嬉しくて恥ずかしそうな提督。一緒にいることができて安心するボク。

 こんな今の時間が、ずっとずっと続くことをボクは願う。

 

 これがボクの幸せ。ボクの望み。ボクの求める世界。

 

 ずっとずっと、新しい今の関係を続けていきたいと強く願う。

 


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