ハイスクール・フリート PRIVATEER(完結)   作:ファルメール

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VOYAGE:13 事件の真相

 

「……はい、はい。ええ……でもそこを何とか頼むよ、長い付き合いじゃないか……ええ、そう……スパシーバ(ありがとう)。次に会う時には、一緒に釣りでもしようじゃないか。あたしの腕は知ってるだろ? ライ麦の黒パンを焼いて、極上のキャビアを持って行くからさ……ああ、楽しみにしてるよ。ダスビダーニャ(また会う日まで)」

 

「そう……そう、そうなんだよ。是非お願いしたい。この前は無理を聞いてあげたじゃあないか。あなたの権限で是非……ええ、ええ。シェイシェイ(ありがとう)。では、また……その時はあんた好みの激辛の麻婆豆腐を持参するから、楽しみに待っていて……ツァイチェン(さようなら)」

 

「久し振りだねぇ……実は……そう、そう……勿論、タダでとは言わないよ。強力に後押しを……資金の提供も……そう、そう。約束するよ。では、よろしく。この前、良い茶葉を手に入れたんだ。スコーンを焼いていくから、一緒に食べながら007でも観ようよ。ええ、ええ……ではまた……グッバイ」

 

 新橋商店街船の救助者をブルーマーメイドへと引き渡した後、クリムゾンオルカへと戻ったビッグママは艦長室に入ると、彼女専用の通信機を使っていずこかへと連絡を取っていた。もう3時間もぶっ通しで行っている。

 

 通話を切って受話器を置くと、テーブルに置かれたリストに「○」印を付ける。○と×の比率は、3対7という所だ。

 

「ふうっ……」

 

 シートにもたれ掛かると大きく息を吐き、眉間を揉みほぐす。

 

「やはり急な話だからねぇ……中々上手くは行かないか」

 

 そう呟いた時、発令所からの通信を示すランプが点灯してベルが鳴る。ビッグママはすぐに受話器を取った。

 

「ナインか、あたしだ」

 

<ママ、ブルーマーメイド統括・宗谷真霜一等監察官から連絡が入ってます>

 

「来たか、シモちゃん!!」

 

 聞く前から朗報を確信して、喜色を思い切り顔に出すビッグママ。

 

<調査に目処が付いたので、報告と対策会議を行いたいとの事です>

 

「分かった。では10分後に通信を繋ぐ。晴風に連絡を入れて、ミケにも同席させるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「時間です、ママ。横女・東舞校・海上安全整備局安全監督室への通信を開きます」

 

 10分後、クリムゾンオルカの発令所ではキャプテンシートには勿論ビッグママが、その隣のゲストシートには明乃が腰掛けていた。呼び出しを受け、晴風の指揮権をましろに委譲してこちらに移ってきていたのだ。

 

 リケがコンソールを操作し、発令所の3つのモニターにそれぞれ宗谷真雪・永瀬鉄平・宗谷真霜。通信相手の姿がバストアップで表示された。

 

<一人も欠ける事のない参加を、感謝します>

 

 まず、この会議の開催を提案した真霜が発言した。

 

<挨拶はえぇよ、宗谷一等監察官。今は非常時、早速本題に入ってもらいたい>

 

 と、永瀬校長。真霜は気を悪くした様子も無く<それでは>と、視線を落として何か計器を操作しているような動きを見せる。

 

「ママ、宗谷一等監察官からメールが入っています。ファイルが添付されていますね。ウィルスチェック……問題なし。手元のタブレットに転送します」

 

 ナインが手元の画面を見ながらキーボードを叩き、ビッグママと明乃が手にしたタブレットに添付されていた画像データが送られてきた。

 

 開けてみると、まず黒い紙に金色の文字で「密閉環境における生命維持及び低酸素環境に適応するための遺伝子導入実験」と記入された表紙が目に入った。ページを進めると、まず潜水艦の写真が添付された報告書が表示された。

 

 同じ物を、遥か離れた横女や東舞校でも見ているのだろう。モニターの中の真雪と鉄平も視線が下へと向いている。

 

「実験艦は深度1500メートルまで沈降……制御不能、サルベージは不可能……」

 

「深度1500か……このクリムゾンオルカでも、可潜深度は圧壊覚悟でムリして1250が精一杯……そりゃあ引き上げは不可能だねぇ」

 

<しかし只の潜水艦ならそこまで手間を掛けてサルベージするものでもなかろう? 何か……そこまでしても回収したいデータでも積んどったのか?>

 

 ビッグママと永瀬校長がそれぞれコメントする。これを受けて画面の中の真霜が頷いて<では次のページを>と促してくる。

 

 そうして明乃とビッグママが手元のタブレットのページを先に進めて……二人の表情が強張った。

 

「これは……!!」

 

<そう、サルベージ不可能の筈が、海底火山の噴火によって押し上げられてしまったのです。その場所が……>

 

<西之島新島……今年の海洋実習の集合地点ね>

 

 更に次のページを見てみると、またしても明乃とビッグママの表情が厳しくなった。

 

 報告書に添付されていた写真に写っていたのは、ビッグママが海洋安全整備局から回収依頼を受けたネズミもどきであったのだ。

 

「ここまでは思った通りか……」

 

 急速に点と点が繋がっていく爽快感を、ビッグママは覚えていた。ぼそりと呟く。

 

「シモちゃん、続きを」

 

<はい、おばさま……海底プラントでの実験は文部科学省海洋科学技術機構・海上安全整備局装備技術部・国立海洋医科大学先端医療研究所の三者共同で行われており、その過程で偶然、この生物が生み出されたのです。コードネームは『RATt(ラット)』と呼称されていました。この生物が媒介するウィルスは生体電流に影響を及ぼし、感染した生物は一つの意思に従い行動するようになります>

 

<……先生、読めてきましたぞ。前に見せてもらった報告書によれば、海上安全整備局から派遣された海洋生物の研究調査チームが猿島に同乗していたとの事。そいつらはやはり、先生達が依頼を拒否されたから、代わりに実験艦からネズミと研究データを回収する対バイオハザードチームだったんでしょうな>

 

<その通りです、永瀬校長……付け加えるなら全てのデータを回収した後、実験艦を自沈させる事も彼等の任務には含まれていました>

 

 自沈させる。即ち証拠を消すという事。

 

 つまりネズミ及びウィルスの研究は海上安全整備局や文部科学省にとって、どうしても明るみには出したくない暗部だったのだろう。だからクリムゾンオルカに高い金を払ってでも依頼しようとした。そして晴風及び行方不明艦への撃沈許可を出したのも、ビッグママが考えた通り全ての証拠を艦ごと海に沈めるつもりだったからだ。

 

<……それにしても、この短期間でよくここまで調べられたわね>

 

 と、真雪。画面越しに、真霜はくすぐったそうに笑った。

 

<おばさまのアドバイスがあったからこそですよ。この計画には通販会社「Abyss」の一部も絡んでいます。ネズミを含めた海底プラントでの実験の産物を、本土に持ち帰る為のカムフラージュとしてね。私は逆にそこから事件を辿って、真相に辿り着く事が出来たんです>

 

<成る程ォ……>

 

「そ、それじゃあ猿島が合流地点でいきなり撃ってきたのも、そのウィルスやネズミの仕業だったんですか?」

 

<その通りよ。私は先日意識を取り戻した古庄先輩と話をしたけど、彼女は晴風に先制攻撃を行った事それ自体は覚えていたけど、何故遅刻程度で先制攻撃に及んだのかは何度質問しても思い出せないとしか答えなかった。しかも彼女だけではなく、猿島の乗員全員が攻撃時の記憶を失っていたの。これもウィルスの影響よ。感染源であるネズミの命令により動かされていたから、行動の理由が説明できなかったの>

 

「一つの意思によって統率される、か……まるで群体だね。昆虫のような」

 

 顎に手をやって、ビッグママは何か考えるような仕草を見せた。画面の中の真霜は、更に説明を続けていく。

 

<周辺の電子機器が狂うのも、その生体電流の影響です>

 

「……そうか、だからあの時、東舞校教員艦からの噴進魚雷がクリムゾンオルカに向かってきたのね」

 

 ロックがそうコメントした。

 

<先の新橋商店街船避難民を受け入れた際、晴風で開発されたウィルスの抗体が送られてきています>

 

 悪いニュースばかりだったが、ここで朗報が舞い込んできた。

 

「みなみさん……!!」

 

<では、その抗体を増産すれば……ネズミの被害を食い止める事が出来る?>

 

<その通りです。つまり量産体制が整うまでの間、行方不明艦が本土や海上都市に帰港する事を防げばこの事態を収束できます>

 

 漸くこの事件を解決する糸口が見えてきてほっとした空気が漂うが……

 

 しかしこの中で、苦虫を噛み潰したような顔の者が一人。ビッグママだ。

 

 気に入らない。まだ、これだけではパズルのピースが足りない。歴戦の艦長のカンが、そう告げていた。それに、まだ解いていない謎が残っている。全ての秘密を解明しない限り、この事件を完全に解決する事は出来ない。カンはそう言っている。

 

「……シモちゃん、ネズミの親玉について何か記録は残っていなかったかい?」

 

「……ママさん?」

 

<親玉、ですか?>

 

「一つの意思によって全体が動くようになるってデータがあるって事は、少なくとも一度はそれを証明する為の実験が行われた筈だ。それに関するデータは、残っていなかったかい?」

 

<…………>

 

 この問いを受け、真霜が目を丸くする。

 

<……おばさま、ご存じだったのですか?>

 

「……只の推理だよ。確証は無かったがね」

 

<……では、最後のページを参照して下さい>

 

 タブレットを操作して画像ファイルを進めていくと、一体のネズミの写真が添付された報告書が表示された。

 

「これは……」

 

<RATtの中で、ウィルスによる命令系統の最上位として確認された個体……『ボルジャーノン』と呼称されたこのRATtは、異常な知能を発揮して他のRATt達を完璧に統率したと記録が残されています……>

 

「ママ……!!」「これは……!!」「やはり推理通りで……」

 

 クリムゾンオルカのクルー達がそれぞれ反応を見せる。明乃と、そして画面に映る3名はそれぞれビッグママへと視線を集めた。

 

 この老婆は、自分達よりも更に先の領域へと思考を進めている。

 

<……教官、何かご存じなのですか?>

 

「あぁ、ユキちゃん。今までは確たる事ではなかったので話さなかったが、シモちゃんからの報告を受けて確信できた」

 

<……と、言うと……>

 

「ずばり、この事件の発端についてだよ」

 

「<<<!!>>>」

 

 明乃と、画面の中の全員の表情が厳しくなった。

 

 確かにこれまでの報告で事件の原因については分かったが、そもそも何が原因でこの事件が起こったのかは分からなかった。ビッグママは、そこに思い至っているらしい。

 

「そもそも、皆は不思議に思わなかったかい? 晴風が拾ったAbyssの箱に入っていたネズミ……入れられていた箱の中には何日か分の食糧や水があった。つまり海に流されたのは何かの偶然や事故の類ではなく、明らかに作為的に行われた事、少なくともそうなるのを想定していたという事だ。だが、そんな事をして誰が得をする?」

 

<誰が……か。確かにそれはぱっと思い付きませんなぁ>

 

 モニターの向こうで、永瀬校長が首を捻っている。

 

 晴風へと発砲した猿島。もしこれを個人対個人のレベルへと落とし込んだらどうなるか。

 

 砲弾の代わりが、刃物や銃であったなら……? そんな事が、世界中で起こったのなら?

 

 RATtウィルスによるパンデミックが起これば、国はおろか世界が終わる。

 

 そんな危険生物を海に流して、誰が得をする?

 

 政治家や役人、実業家の類ではあり得ない。世界が終わったら、金や地位や名誉など何の役にも立たない。北斗の拳やマッドマックスのように、札束がトイレットペーパーの代わりにもならない世界がやってくる。

 

<では、自滅覚悟のテロリストか……それかウィルスの力に魅せられたマッドサイエンティスト……?>

 

<何か、違う気がしますね……>

 

 大体してRATtウィルスは美波が作るまでは、抗体すらない欠陥持ちの(良く言って未完成の)生物兵器だったのだ。テロリストだろうがマッドサイエンティストだろうがそんなのを世界中にバラ撒いては、全ての破滅しかない。勿論、実行犯が正気を失っていたとしたらその行動が理屈では説明できないのも道理ではあるが……

 

 しかしそれだけで片付けるのは、あまりに短絡的である。

 

 ならば誰がいる? ネズミを海に放して、利益を得る者は……?

 

「居るんだ。得するヤツはね」

 

<……おばさま、それは?>

 

「ネズミ自身さ」

 

<なっ……?>

 

 あまりに突拍子もないビッグママの言葉に、全員が固まったようになる。思わず彼女の顔を見るが、冗談でも何でもなく本気の目をしていた。

 

「あたしがこの事について考えている時、ロックがこう言ったんだ。『死んだら金は使えない』ってね。その言葉で、ピーンときたんだよ」

 

 『死んだら金は使えない』つまりネズミを海へ流した者は、利益を目的とはしていなかったのだ。

 

 今まではネズミを海に流して何の利益があるかとばかり考えていたが、それでは答えがでないのは当然だった。そもそも発想の出発点からしてズレていたのだ。

 

 目的は、生き延びる事。あるいはそれこそが最大の利益であると言って良いかも知れない。

 

<ネズミが……生き延びる為にこの事件を起こしたと?>

 

「そう。無論、徹頭徹尾計画通りという訳ではないのだろう……偶然も、多分に絡んでいた筈だ」

 

 ガチン、とビッグママが義手を鳴らす。

 

「恐らく……海底プラントの沈降と海底火山による浮上……ここまでは偶然だったろうね。そしてこれはあたしの想像によるが……猿島や横女の学生艦が西之島新島沖へと到着するよりも更に早く、実験艦に接触した者が居たんだ。恐らくはたまたま近くを通り掛かってね。それが漁師か、ダイバーやサーファーみたいな観光客かは分からないが……好奇心猫を殺すと言うけど……そいつらが、実験艦に立ち入ったんだ」

 

<まるでホラー映画ですな>

 

 永瀬校長がぼそりと一言。

 

 確かにこれは、ホラー映画で良くあるシチュエーションだ。

 

 発掘チームや冒険者が古代の遺跡に立ち入って、そこで厳重に封印された棺や箱を見付ける。何かの宝物が入っているかと思って開けたそこには、実は怪物が眠っていて……!!

 

「RATtの親玉……ボルジャーノンは実験艦に入ってきたそいつにウィルスを感染させて操り、用意されていたAbyssの箱に自分達を詰め込ませて海に流させたんだ。西之島新島に到着していないシュペーや武蔵にウィルスの感染が広まったのはこれが理由だろう。晴風と同じで、流されていたAbyssの箱を誰かが拾ったんだ。そしてそれを開けてしまって、ウィルスが艦内に蔓延した。一方で西之島新島の実験艦にもRATtは残っていて、そいつらが猿島や学生艦へとウィルスを感染させた……」

 

<確かに辻褄は合いますが……人間を操るとか、そんな事をネズミがやるでしょうか?>

 

「ユキちゃん、出来ないと考えるのは早計だよ。少なくとも、ウィルスに感染させた対象を凶暴化させて自分に近付く者を攻撃させる所までは可能だという事は、既に実証されている。ならば生体電流ネットワークの親玉に高い知能があればそこから更に進んで、対象を思いのままにコントロールする事が出来ても不思議はない」

 

<……むう>

 

「それに、これはそこまで特別な能力と言えないのかも知れないよ。自然界ではエメラルドゴキブリバチといって、ゴキブリの中枢神経を毒で破壊しゾンビのような状態にして巣穴に連れ帰り、卵を産み付け、生きたまま幼虫の餌にしてしまう蜂や、冬虫夏草のように寄生した蟻を自分の生存に適した場所へ移動させ、その後で死ぬように行動をコントロールするキノコの存在が既に報告されている。天然物の進化ですら、そんな奇妙奇天烈な能力を持った生物が生まれるんだ。ましてや人間の手が入った歪な進化なら、そんな能力が発現しても不思議はない……寧ろ必然とさえ言えるかも」

 

 ビッグママのレッスン4にこうあった。『先入観を捨てろ。ありえないなんて事はありえない。実戦では何が起こっても不思議じゃない。そして何でも後から意味が付けられる』。今の状況はまさにその通りである。他の生物を操る天才ネズミなど、恐らくは人類史上最初の敵であろう。

 

<……つまり、その親玉ネズミ……ボルジャーノンを仕留めない限りこの事件は解決できないって事ですな。先生……>

 

<しかし、難しいですよ。海に流されたネズミは何十匹いるのかは分かりませんし、ましてやその中のたった一匹を見付けるとなると……>

 

「いや、ボルジャーノンがどこに居るかは既に分かっている」

 

<えっ!!><何と……>

 

「ママさん、それはどこですか!?」

 

「武蔵だ。ネズミの親玉は、間違いなく武蔵に居る」

 

「!!」

 

 武蔵。親友の乗っている艦の名前が出て、明乃がばっと顔を上げた。

 

 これは曖昧な推測ではない。ビッグママの声色には、確信の響きがあった。

 

<教官……根拠をお聞かせ願えますか?>

 

 ならば、その裏付けは何なのか? 当然、真雪が質問する。

 

「武蔵だけ、猿島やシュペーとは明らかに様子が違ったからさ」

 

 事も無げに、ビッグママが答える。

 

<あ……>

 

 確かに、晴風が接触した猿島やシュペーは、砲撃の精度は低く連射速度も遅かった。対して武蔵は、東舞校の教員艦に対して初弾を命中させてくるなど恐るべき射撃能力を見せ、しかもほぼカタログスペック通りの連射性能も発揮していた。確かに、前者2艦とは何かが違っていた。

 

 その秘密が明らかになった。何の事はない、操っている者が特別製だったのだ。

 

「つまり……他の行方不明艦を捜すのは勿論大切だが、武蔵を見付ける事は更に重要になる。ユキちゃん、シモちゃん、テッちゃん!!」

 

<ハッ、教官!!>

 

<動ける全てのブルーマーメイドを動員し、不明艦の捜索及び海上都市・本土への上陸を阻止します!!>

 

<ワシの権限でホワイトドルフィンに大動員を掛け、海上の警戒網を強化しましょう。もしかしたらウィルスに感染した生徒にスキッパーに操らせて、それで脱出するというケースも考えられますからな。ボートの一隻も見逃さないよう、監視を徹底させますけぇ>

 

 次々に、対策が打ち出されていく。

 

「ママさん、私達は……」

 

 明乃がそう言い掛けた時、計器をチェックしていたリケが声を上げた。

 

「ママ、広域通信でアドミラルティ諸島近海に大型艦の目撃情報が多数寄せられています……識別体は白と黒……ドイッチュラント級装甲艦3番艦「アドミラルシュペー」です!!」

 

「!!」

 

「ミーちゃんの船……」

 

 見れば、モニターの3名も手元や後ろを振り返っている。恐らくは、同じ報告が入っているのだろう。

 

「……リケ、確認するが目撃されているのはシュペーだけだね? 他の駆逐艦や武蔵の姿は見当たらないのだね?」

 

「はい、ママ。確認されているのはシュペーだけです」

 

「分かった。聞いたね? みんな……」

 

 ビッグママが、正面のモニターへと向き直る。ブルーマーメイド・ホワイトドルフィンのトップ達は、それぞれ厳しい顔で頷いた。

 

「アドミラルティ諸島はここから目と鼻の先……そしてシュペーが単艦で動いているなら、今は絶好の好機と言っていいだろう。僚艦の居ない戦艦なら、潜水艦であるクリムゾンオルカが圧倒的に有利。RATt達にはまだまだ未知の部分が多い……しかもあたし等が持っているあらゆる戦術は、人間が動かす艦を相手とする事を前提として構築されたものだ。奴等にそのまま通用するかどうかは疑わしい。これはRATtの攻撃パターンを分析し、ブルーマーメイドやホワイトドルフィンが奴等に操られた艦に遭遇した際にどのように対応すべきか、その為のデータを採る事が出来るまたとない機会、大チャンスだ。逃す手は無い。あたしらクリムゾンオルカで対応する」

 

 そう言うと、ビッグママは明乃を振り返った。

 

「ミケ、晴風にはデータ取りと、シュペーの射程ギリギリの位置での陽動を頼みたいが。無論、クルーのみんなの承諾が取れた上でね」

 

「分かりました、ママさん。あ……」

 

 そこまで言って、明乃はモニターに映る真雪へと視線を移した。

 

 晴風はあくまで学生艦。学校長である真雪の許可無しで動く事は出来ない。画面の中の真雪は苦笑して、明乃を見た。

 

<……分かりました。乗員の皆とよく相談した上で、作戦への参加を許可します。教官、晴風の事、引き続きよろしくお願いします>

 

「あぁ、分かっているとも、ユキちゃん。あんたから受けた依頼はまだ有効だ。晴風のメンバーは一人も欠けさせず、必ず陸に返すよ」

 

 ビッグママは真雪へと頷いて返し、そしてすぐ傍の明乃にも、同じように頷いてみせた。

 

 大丈夫、きっと大丈夫だ。

 

 真雪にも明乃にも、言葉で説明は出来ないがそんな確信が持てた。

 

 そうしてビッグママは、膝を叩くとキャプテンシートから立ち上がった。

 

「よし!! クリムゾンオルカ及び晴風、発進準備にかかれ!!」

 


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