食戟のソーマ 十席番外 第零席に座る者   作:北方守護

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第11話 甘い味と…

武昭が遠月に来て少し経った頃……

 

「さてと、今日は何をしようかな………ん?」

敷地内を歩いていた武昭は誰かに気付いた。

 

「茜ヶ久保先輩、何してるんですか?」

 

「誰かと思えば武昭じゃない……ももは今買い物帰りなの……」

 

「それは見れば分かりますけど……どう見ても無理してる様にしか……」

武昭が見たももは両手に多量の買い物袋を持っていた。

 

「本当なら配達してくれるはずだったけど、ちょっとした事情で私が運ぶ事になったの……」

 

「はぁ……先輩、少し渡して下さい……よいしょっと」

武昭はももの手から幾つかの買い物袋をとって自分が持った。

 

「武昭………何してるの?」

 

「何してるのって、荷物を持ってるんですけどダメでしたか?」

 

「それは分かるけど、なんでそんな事をするの?」

 

「うーん……俺がしたかったからですね……

両親からも女性には優しくしろって()()()()()()()()()

 

「そうなんだ……ん?今、()()()()()()()って言ってたけど……」

 

「あぁーっ、茜ヶ久保先輩、これは何処に持ってくんですか?」

 

「あっ、私についてきて………(何か隠し事をしてるみたい……)」

ももは後ろを歩く武昭の事を考えながら目的地に向かった。

 

 

目的の調理棟に着いた2人は調理服に着替えると下拵えをしていた。

 

「じゃあ、俺はこの果物を皮を剥いて一口大に切れば良いんですね」

 

「うん、私はその間に漬け込むシロップの用意をするから」

2人はフルーツタルトを作ろうとしていた。

 

「そうだ先輩、この切った皮は貰っても良いですか?」

 

「ん?別に捨てるだけだから構わないけど、どうするの?」

 

「俺もちょっとしたスイーツを作ろうと思ったんです」

 

「そうなんだ……言っておくけど私はスイーツにはキビシイからね」

 

「分かりました、それよりも果物の処理終わりました」

 

「(いつの間に……)じゃあ次は生地の方をお願い………

レシピはコレに書いてるから」

 

「分かりました……えっと卵に小麦粉と……」

 

「武昭の調理してる姿を初めて見たけど、あんなに早いなんて……」

 

「先輩、生地の仕込みは終わったから俺の方のスイーツをやっても良いですか?」

 

「うん、あとは私だけで大丈夫だから」

 

「分かりました、すみませんけど向こうの厨房を借りますから」

武昭はもう一つの厨房に向かった。

 

 

暫くして………

 

「フルーツタルトが完成したよ……武昭の方は?」

 

「俺の方はもうちょっと冷やさないとダメです」

 

「そっか、なら先にコッチを食べよう…はい召し上がれ」

 

「数種類のフルーツをのせたフルーツタルトですね

じゃあいただきます……おぉ……」

フルーツタルトを食べた武昭は体が果物になる幻を感じていた。

 

「凄い一体感ですね……多分ですけどフルーツを漬け込むシロップに秘密がありますね」

 

「へぇ、よく分かったね、どんな秘密か分かる?」

ももに問い掛けられた武昭はもう一口食べた。

 

「うん……シロップに香り付けする為に入れた物がありますね……

それは、それぞれの果物に関係したお酒じゃないですか?

サクランボならキルシュワッサー リンゴはカルヴァドス、ブドウならワイン……

食材と原料が同じ……そんな工夫をしてますね」

 

「凄いね……お酒の種類まで分かるなんて……」

 

「まぁ、それなりに腕はあると思いますから……

そろそろ俺の方も出来たと思うんで持ってきます」

武昭は自分が作業した厨房に向かった。

 

 

少しして……

 

「はい先輩、これが俺の作ったスイーツです」

 

「ねぇ武昭……私にはどう見ても只の果物にしか見えないんだけど……」

武昭がももの前に置いたのは飾り付けた皿に乗った幾つかの果物だった。

 

「ただ冷やしただけの果物をスイーツって言うなら私は怒るよ……」

 

「ただ冷やしただけ……そう思う前に()()()()()()を開けて下さい」

 

「リンゴのフタって……これって!」

ももが指示通りにリンゴのヘタを持ち上げると皮一枚だけ残して中身がアイスクリームになっていた。

 

「まさか皮一枚だけ残して中身をアイスクリームにするなんて……もしかして!」

ももが他のフルーツのヘタを持ち上げると中身が全てアイスクリームだった。

 

「まぁ関心してる間に食べてみてください、アイスが溶けますから」

 

「うん分かったよ、まずはこのイチゴの奴から……んっ!?」

アイスを口に入れたももは驚きの表情を見せた。

 

(イチゴのアイスなのは分かるけど、食べた感じがとてもサッパリしてる!

そのサッパリも、ちゃんとイチゴの味も風味をいかしてる……コレは!?)

 

「気付きましたか先輩、そうですよアイスの中心部に練乳を入れておいたんですよ」

 

「確かに大体の人達はイチゴに練乳を掛けて食べてる………

けど、言うのは容易いけど行うのは難しい筈………」

 

「何故なら練乳が凍れるからですよね?」

武昭の言葉にももはうなづいた。

 

「俺は練乳を入れる時に軽く熱を通しておいたんですよ ちょうどよく口の中で溶ける様に」

 

「けど、そんな事をしたらアイスが先に溶ける筈だよ………」

 

「だからこそ、微妙な温度測定をしたんですよ………

それこそ0.1度に至るまで……

それよりも他のアイスも食べてくださいよ」

 

「う、うん……ん!コッチのリンゴにはリンゴのジャム!ブドウにはジュースを凍らせた奴が

そして、このメロンの奴には……ん?何だろ、ちょっとアルコールの匂いがするけど……」

 

「メロンアイスの中には()()を仕込んどいたんですよ」

武昭は台の上に一本の瓶を置いた。

 

「コレって…凄い緑色の綺麗な色をしてるけど……まさか?!」

 

「はい、こいつはメロンを使ったリキュールなんです」

 

「そんな物、私も初めて聞いたよ………」

 

「それは、そうですよコイツはよっぽどの酒好きじゃないと知らない奴ですから

先輩、そろそろ後片付けをして帰りませんか?」

 

「うん、分かったよ……(まさか武昭の腕前がこれ程だったなんて……)」

ももは後片付けをしてる武昭の背中を見ていた。

 

その後、武昭はももを送っていた。

 

「別に送ってもらわなくしても良いのに……」

 

「良いじゃないですか途中までは同じなんですから、それに……

可愛らしい先輩を放って帰るなんて出来ませんよ」

 

「んっ!?か、か、可愛らしいって……私の事……かな?」

 

「え?そうですけど……先輩、どうかしたんですか?顔が赤いですけど」

 

「ふえっ!?な、何でも無いよ!もうここまでで大丈夫だから、それじゃ!!」

 

「えぇ、また時間があったら一緒に料理しましょう」

武昭が言うがももは後ろを向きながら手を振って、その場から駆け出していった。

 

「先輩は大丈夫だとは言ってたけど……〔あぁ、急にすみません実は……〕」

武昭はももを見ながら誰かに電話をしていた。

 

 

次の日……

 

「ふぅ……この書類は……」

 

「仕事中にすいません先輩……」

ももが十傑の仕事をしてると寧々が声をかけてきた。

 

「今は大丈夫……それで何か私に用?」

 

「えぇ……昨日の事なんですが……武昭君に何を言われたんですか?」

 

「武昭にって……えっと、その……な、何の事かな?

 

「先輩、ごまかそうとしても無駄ですよ………

昨日の夕方ごろに武昭から連絡があって

〔さっきまで茜ヶ久保先輩と一緒にいて今別れたんだけど………

顔が赤かったから、どうかしたのかなって………〕って言われたんです……

それで詳しい話を聞こうと思ったんですけど……」

寧々にそう言われたももは迫られて照れていた。

 


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