博麗転生譚   作:ヒフカ

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第六話

「はぁ?八卦炉をなくしたあ!?」

 

「頼む!この通りなんだぜ!!」

 

 ある日のこといつも通りに寺子屋が終わり、帰ろうとしていたところ珍しく不意打ちによる魔力弾ではなく魔理沙自身に呼び止められた。

 珍しいと思って話を聞くとこの通りだ。魔理沙の八卦炉を落としてしまったから拾うのについてきてくれと。

 多分今の俺は呆れた顔をしているんだろうなあ。魔理沙がバツの悪そうな顔をしていた。

 

「まず、なんで私に頼るの?えーと、森近さんだっけ?森近さんに頼んだ方がいいんじゃないの」

 

 前に魔理沙から聞いたが八卦炉は森近さんという人が作ったらしい。俺は会ったことないが魔理沙の口ぶりからすると頼りになる人そうだし、提案してみる。

 だが、魔理沙は慌てた様子で首を横に振る。

 

「それはダメなんだ!」

「なんで?」

 

「あれは…あれは香霖から貰った大事な物なんだ。それなのに無くした、なんてどんな顔で言えばいい?」

 

 うーむ、そう言われると一理ある。大事な人から貰った大事な物。それを「無くしました。」なんて言えるわけないな。

 

「頼む!香霖に頼めない今、蓮夢が頼りなんだ!」

 

 魔理沙がそう言って頭を下げた。

 …ここまで頼られて断るってのは俺にはできないな。仕方がない。魔理沙の顔を上げさせて優しく言う。

 

「…わかったよ。一緒に行ってあげる」

「本当か!?サンキュー蓮夢!!」

 

 魔理沙は嬉しさと驚きが混じったような顔で俺に抱きついてきた。そんな魔理沙をはがしてさらに続ける。

 

「ただし!行く前に準備しに帰るからここにもう一回集合ね!」

 

「準備って…何を準備するんだ?」

 

「まさか人里で無くしたわけじゃないでしょ?外に出るなら妖怪とかに襲われるかもしれないし…私、妖怪と戦ったことないし」

 

 俺の懸念に魔理沙は軽く笑った。

 

「大丈夫だって!蓮夢は私より強いんだから楽勝だぜ!」

 

「魔理沙はいま八卦炉持ってないでしょー?何かしらの身を守る手段を準備して」

 

「え?私も準備すんのか?」

 

「むしろあんたがしなきゃだめでしょうがっ!」

 

 魔理沙に一喝してとりあえず俺は神社へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っとと、着地成功」

 今日は着地を成功できた。やっぱりまだ着地する時が怖いな。

 

「ただいまー」

「蓮夢!」

「あれ?霊夢?」

 玄関の戸を開けると紫さんの家にいるはずの霊夢が慌てた様子で飛び込んできた。どうにか受け止めると霊夢は強く抱きついてきた。

 

「よかった…蓮夢」

「ちょっ、霊夢、くるし…」

「あ、ごめん」

 

 霊夢に離れてもらって俺は疑問を口にする。

 

「霊夢、どうしたの?なんか変だよ?」

 

 そうなのだ。今日の霊夢はどこかおかしい。やけに不安そうな顔だったし、俺を見つけただけで飛び込んでくるのもなかなかないことだ。

 

「それは私が説明するわ」

「紫さん」

 奥の部屋から紫さんがやってきた。俺が紫さんと呼ぶと不満気な顔をして俺の額を指で小突いた。

 

「もう、蓮夢、さん付けはやめてって言ってるでしょ。そんな他人行儀にしないで」

 

「う、ごめんなさい」

 なんか紫さんにはさん付けをしたくなる雰囲気を感じるからさん付けしないのは気が引けるんだけどな。

 

「それで紫さ…紫までここにいるのはなんで?」

 

「霊夢がね、なんか嫌な予感がするって言って今日は全然修行に身が入らなかったのよ。それでどうしようかと思ったら蓮夢に会いたいって言うから今日はここにいたのよ」

 

「どうにかできない?」と言いたげな紫さんの表情が向けられるが生憎、今は用事がある。

 

「じゃあ霊夢、今日は一日中一緒にいようか…と言いたい所だけど、私、今用事があるからそれが終わってからでいい?紫、霊夢」

 

「用事って何するの?」

 紫さんの質問に俺はこう答えた。

「ちょっと友達の落し物を探すだけだよ。すぐ終わる」

 

 しかし、霊夢が俺を離さない。

「行っちゃだめ!蓮夢!!」

 

 今にも泣きだしそうな霊夢を俺は抱きしめ返した。そして俺と同じ高さにある頭を撫でながら出来るだけ優しい口調を心がけて言う。

「大丈夫、霊夢。私は必ず帰ってくるから。だから霊夢も安心して?」

 そう言うと霊夢の抱きしめが少し緩んだ。その隙にスルリと抜け出した。

 

「紫、霊夢をお願いね!」

 

 

 そう言って近くに置いてあったお札を数枚懐に入れて俺は神社を飛び出した。

…なんか本当に死にに行くみたいな言い方だったな。ただ魔理沙の八卦炉探すだけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔理沙ーー!」

「おー遅かったな、蓮夢ー」

 待ち合わせ場所へ行くと、すでに魔理沙はそこにいた。

 俺を見た彼女は箒にまたがり同じ高さまで浮いてきた。

 

「それで、だいたいの場所の目安とかはあるの?」

 

「ああ、魔法の森の奥さ」

 

「まだ場所がわかってて良かったね」

 

「そうだな、んじゃ行こうぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく空を進むと、眼下に鬱蒼とした森が広がってきた。

 魔法の森。普通の人は滅多に近寄らない森だが、この隣にいる魔法使いはここに住んでいるらしい。

 

 さらに森を見下ろしつつ進むと魔理沙が下を指差した。

 

「あの辺のはずだ」

 

「そう、じゃあ降りましょうか」

 

 

 俺たちは降りるのにはおあつらえ向きの木々がないスペースに降りて捜索を開始した。

 

「じゃあ私はこっち、蓮夢はあっちを頼む」

「ちょっと待った」

「何だ?」

「何のために私を連れて来たの?魔理沙の護衛もするから、一緒に探しましょう」

「そ、そうか、ならよろしく頼むぜ」

 

 

 そうして、二人で獣道すらないような森を進む。辺りを注意深く確認して、妖怪の気配にも気を配り。

 

 

 

 

 …にしても変なキノコとかいっぱいあるなあ。

 あれとか完全に毒キノコじゃないか。魔法の森を見た印象としてはかなり住むのに適さない場所だと思った。

 もはや八卦炉よりもそこらに生えている不気味な植物たちの鑑賞に集中しだしていたら隣で魔理沙が叫んだ。

 

「あっ!あれだ!」

 

「えっ見つかった?」

 

 魔理沙の指差す方を見るとそこには木々の隙間を縫って入ってくる夕陽の光を反射して光っている八角形の物体があった。

 

「あった、見つかったぜ蓮夢ー!」

 すでに魔理沙は八卦炉のもとまで走っていてそれを拾い上げていた。

 

「おー、よかったじゃない、…っ!?」

 

 ガサリ、俺のすぐ後ろで何かが動いた。ここにきて妖怪か!?

 途端に鼓動が早くなる。魔理沙はまだ遠くにいて気付いていない。大丈夫だ、もう八卦炉は見つかったから最悪逃げるだけ。焦る自分に言い聞かせて、少し呼吸を整えて俺は後ろに振り返った。

「…なにこれ?」

 

 真っ黒な球体がそこにはあった。何もかも吸い込まれそうなくらい黒いそれは何か言葉を発している。

 急いで魔理沙に知らせて逃げようとしたら、そいつは確かにこう言ったんだ。

 

 

「あなたは食べてもいい人類?」ってさ。


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