それは出会いにしては素っ気なかったかもしれない。たまたまお互い居合わせただけの、印象の薄い出会いだったと思う。
「こんにちはー。店主さーん。いるー?」
家を飛び出して間も無い頃、行く当てもない私は今日も香霖のところにも入り浸っていた。すると、珍しく私以外の来客だ。
それは親子かと思われる巫女服を着た女性と少女がいた。
香霖は開いていた本を閉じ、入り口に目を向けた。
「やあ、いらっしゃい。…これは珍しい。博麗の巫女だね」
・・・何が『これは珍しい。』だぜ。そもそも客なんて私ぐらいしか来ないじゃないか。
「そうね、随分と久しぶりに来た気がするわ」
「そうだね、確か五年前くらいに来たっきりだ」
「あれ?そんなに来てなかったっけ?」
「そうだよ。それに、その子はどうしたんだい?君の子かい?」
「ん、ああ、霊夢のことね。そう、私の子よ!」
「ふうん。ところでご用件は?」
世間話もそこそこに香霖が来店の理由を尋ねた。女性の方もああ、忘れてた、とか言って本題を話しだした。
「巫女服を新調して欲しいの。あー私のじゃなくてこの子のね」
そう言って女性の方が少女を指差す。少女の方はなぜか不機嫌そうな顔をしていた。
「一応、僕は呉服屋じゃなくて道具屋なんだけど…。まあ別にいいんだけどね。一週間後くらいになるけどいいかい?」
「あ!待って、この子とは別にもう一人いて、その子の分も繕って欲しいの大きさはこの子と同じくらいだから」
「はあ…わかったよ」
「よろしくお願いねー。さあ、帰るよ、霊夢」
「…ん」
そう言って二人は出て行った。店の中には再び私と香霖だけになっていつもと同じように時間が流れだした。
「なあ香霖、さっきのあの女の人って誰なんだ?前にも来てたらしいけど」
「あの人は博麗の巫女だ」
「それはさっき聞いたぜ、博麗の巫女ってなんなんだ?」
「博麗の巫女と言うのは…まあ簡単に言えば妖怪退治や異変解決の専門家みたいなもんかな」
「ふーん。じゃああのちっちゃい方は?」
確か霊夢って呼ばれてたな。
しかしこの質問には香霖も首を傾げた。
「うーん、巫女の子らしいし次の博麗の巫女になる子じゃないかな」
ほうほう。そういうことなら。
「…よし決めた!」
私の宣言に香霖は不思議そうな顔をした。
「決めたって何を?」
「私があいつの代わりに異変解決してやる!」
香霖は驚いた顔して私を見る。
「どうしたんだ、急に」
「異変解決は別に博麗の巫女しかできないなんて決まりは無いだろう?だからあいつより早く解決するようになって私の凄さを知らしめるんだぜ!」
「魔理沙には危険…「いいから!やるったらやるんだぜ!!」」
私はその日小さな決心をした。
人里の出入り口にて巫女服の少女と金髪の少女の二人の少女が撃ち合いをしていた。それは普通の人間にはできないようなものだった。
魔弾霊弾が飛びかい二人が常人ではないことを顕著に表している。
互いに避けては撃ち、避けては撃ち、と戦局は拮抗しているように思えた。
しかし、金髪の方の少女、魔理沙に疲れが見え始め徐々に撃たれる弾幕の量が目に見えて減っていく。
対して巫女服の方の少女、蓮夢はそれを見て好機と思ったのか一気に形成する弾幕の量を増やし勝負を決めにかかる。
「・・・いてっ!」
やがて躱しきれなくなったのか俺の撃ちだしたうちの一つの弾が魔理沙の額に当たった。
「ふぅー、勝った…」
ようやく今日の勝負が終わり肩の力を抜く。あー疲れた。
魔理沙の方を見ると額を抑えつつ悔しそうにこちらを見ていた。
「くっそー!また負けた!この体力おばけめ!」
「その体力おばけに撃ち合い挑んだのはどこのだれー?」
悔しそうな魔理沙を尻目に俺は得意げに応えた。
「でも今日は惜しいとこまでいってただろ?」
「さあ、どうだか?」
正直、実は危なかった。体力勝負に持ち込む以外に魔理沙に勝つのは難しい。こいつは日々の成長速度が凄まじい。今日も体力勝負にいく前に被弾しそうになった。
「じゃ、そろそろ帰るわね、魔理沙」
「ううー、明日こそは勝ってやる!」
「ふふっ、勝てるといいね」
そう言って魔理沙にバイバイと軽く手を振って俺はまた空へ飛び上がった。
神社への帰路の途中、俺はさっきの勝負を思い返していた。
正直、この魔理沙との勝負は疲れるが嫌いではない。実戦練習っぽくて面白いし。まあ、実戦練習なんて魔理沙としかやったことないが。ただ、勝負するならちゃんと場所とかを決めて欲しいと思う。毎度不意打ちで弾を当てられる身にもなってほしい。
確か始めて会ったときも、弾をぶつけられた。なんでも、俺のことを霊夢と勘違いして勝負を挑んだとか。
というかあれは出会いというより遭遇みたいなものだった。
霊夢は滅多に人里には来ないよ、と言っても「『だったら蓮夢と勝負だ!お前も博麗の巫女の子なんだろ?』とか言ってなし崩し的に勝負になったしな。
「はあ、それにしても体力おばけ、か…俺にはピッタリだな」
空中で誰もいないことを確認し、作っていた女言葉を崩し、一人呟いた。誰も聞いていないから別に俺とか使っても大丈夫だろう。我慢しすぎってのもストレスが溜まるのだ。
魔理沙も言っていたが俺はスタミナだけは人一倍あるらしい。紫さんや母さんに言わせると霊力弾を作るための霊力量は霊夢よりもあるってことらしい。逆に言うとそれしか取り柄が無いただの脳筋じゃないかと自己嫌悪に時折陥るけどね。
しばらく夕焼け空の中を飛んで行くと博麗神社が見えてきた。そして俺は着地へ向け覚悟を決める。
俺の飛び方の性質は自分でもわかるくらい変だ。飛ぶ方向は変えられるけどひたすら俺の体は加速し続けてしまって減速が難しいんだ。
時々、不時着のようにもなる。怖い。
境内に狙いをつけて体を向ける、俺の体はビュオッと風を貫く一つの弾丸になり速度を増していく。
だが俺は一つの人影に気づいた。藍さんだ。これは好機と見て彼女に助けを求めた。
「らーん!ごめん、受け止めてーー!!」
「おおっ!?またか蓮夢!?」
驚きながらも尻尾でクッションを作ってくれるのはさすがだと思う。俺は安心しきって尻尾クッションに突撃していった。
「ああ〜相変わらずやわらかーい…」
ぽふっと俺の体を受け止め、優しく包んでくれている尻尾のもふもふ感を堪能しているところを藍さんに声をかけられ現実世界に帰還する。
「蓮夢、まだ制御できないか?空を飛ぶのは」
「んーー、ん?なーに?」
「着地がどうにかできないかと聞いたんだ」
「ああ、ごめん。それはまだ無理かな。うまく減速ができないんだ」
「そうか…まあ、ゆっくり慣れるしかないのかもな」
「そうだねー。ところで藍、霊夢は元気?」
俺は一つ気がかりなことを藍さんに聞いた。霊夢は修行を本格的にするため、母さんと紫さんの家に連れられて行った。
時々帰ってくるがその時は常に俺の近くに来るから紫さんの考えは逆効果なんじゃないかと不安なのだ。
「ああ、蓮夢がいなくて少し機嫌が悪いが一応大丈夫だ」
「そう、それは良かった」
俺の返事を聞いて、藍さんは少し悲しそうな顔をして問いかけてくる。
「蓮夢は寂しくないのか?」
「え?」
「霊夢とあんなに仲がいいんだ。蓮夢だって寂しいだろう?」
それはそうだが、霊夢と俺は住む世界が違う。霊夢は博麗の巫女になるべき存在。俺は…自分の心もわからない、前世の記憶があるよくわからない存在。こうなるのは自然なことだと思う。
「寂しいよ。でも、霊夢は博麗の巫女にならなくちゃいけないんでしょ?だから仕方ないと思うんだ」
俺の解答に藍さんは驚いた顔をして何か呟いた。
「本当に物分りがいいな蓮夢は・・・・・」
「藍?」
「あ、ああいやこっちの話だ。気にしないでくれ」
「そう」
「蓮夢、話の続きは中でしようか。ご飯もすでに用意してあるし、橙もそろそろ待ちくたびれちゃうからな」
「そういえば橙は中にいたのね。じゃあ早く戻ろっか」
藍さんに手を引かれて、俺は藍さんの式である橙と今日の晩飯を楽しみに神社のなかへ入っていった。