爽やかに晴れた気持ちの良い昼下がり。とある神社の庭先では青い巫女服と赤い巫女服の二人の少女がいた。
「む〜…」
集中、集中。ここで油断すると失敗する。
「む〜〜……」
おっいい感じ、いい感じ!
「ふぅ…」
小さめの弾が俺の手のひらの上に浮かんでいた。少し前はこれだけでもかなり喜んでいたものだ。けど問題はこの先だ。10メートルくらい離れた場所にある木の板を見やる。
「ハァッ!」
気合一閃、全身に力を込めてまっすぐに弾を的へ撃つ。
俺が丹精込めて作り出したそれはまっすぐに的へ飛んで行き、パンッと乾いた音を立てて木の板を砕いた。
今のは俺や霊夢が生まれ持っていた力、霊力と言うらしいが、それを弾にして撃ちだす基本的な攻撃だ。
「・・・やったあ!!」
基本的な攻撃の練習。
だが、今まで失敗し続けていて今回初めて成功したのだ。
あまりの嬉しさにぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでしまった。
「やったあ!れんむ!」
「うわっとと」
隣で別の修行をしていた霊夢が自分のことのように喜び飛びついてきた。
・・・危ないぞ霊夢。封魔針を持ったまま飛びついたらいかん。
「れんむ!やったあ!」
「う、うん。ありがと。霊夢」
「霊夢、蓮夢。どうしたの?」
「「お母さん」」
二人で抱き合ってると霊歌さんがふわりと空から降りてきた。
「お母さん!れんむがね!できるようになったの!」
霊夢が満面の笑みで答える。それを聞いた霊歌さんが驚いた様子で俺に目線を移す。
「本当?」
俺はもう一度霊力弾を作り出して的を射抜いた。・・・よーし、またできた。
「よくやったー!蓮夢!」
「ぐっ!?」
霊歌さんも霊夢と同じように勢いよく抱きしめてきた。
似たもの親子だなこの二人。
「さすがはウチの子!」
髪の毛をわしゃわしゃと乱暴に撫でられる。喜ばれるのは嬉しいけど、やっぱり霊夢と比べると…。
「でも、霊夢は一日でできるようになったのをオレ・・・じゃない私は三ヶ月もかかったのにいいの?」
オレと言うと霊歌さんは少し顔を顰める。
こればかりは直らない。そりゃあ自分の娘が男言葉ばかり使ってたら直したくなるのは当然だ。
ただ、男だった記憶を持っている俺はつい使ってしまいよく注意される。
「…本当に、そんなこと思っているの?」
髪の毛を撫でていた手が今度は腰周りに来て強く俺を抱き寄せた。
少しびっくりして見上げると悲しげな顔をした今世の母。
「だって…」
「だってじゃないわよ。それでもあなたもできるようになった。それでいいじゃない、蓮夢が気にすることじゃないわ」
そう言ってまた強く抱き寄せられる。息苦しくてもがいていたら今度は後ろからドン、と何かが背中にのしかかった。
顔だけ振り返ると今世のもう一人の家族。非凡な才を持ちながら才能を持たない俺のことを慕ってくれる姉妹の片割れ。
「蓮夢とお母さんばかりずるいー!わたしも混ざる!」
「あらあら、霊夢も甘えん坊ね。母さん嬉しい!」
「ふふっ、霊夢、こっちに来て」
年相応な少女の姿にくすりと笑って母の腕の中で少しスペースを空けるとすぐさまそこに飛び込んで来た。
俺はこの前世の記憶のせいでこの二人を家族として受け入れられないと思っていた。
むしろどうにかして前世に戻ろうと考えていた。それは今だって考えてる。
でも、それでも。
ふと空を見上げたら日が傾き空が金色に染まっていた。
博麗神社は少し高い場所にあるらしい。
それは前から分かっていた。けれども今日三人で見た夕焼けは、俺にはいつもより眩しく映った気がした。