博麗転生譚   作:ヒフカ

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第二十一話

『じゃあいってきます』

 そう言って彼女は今朝、雪のちらつく寒空の中、頭につけた青いリボンを風にたなびかせ外に出て行った。藍がついてるし妖怪に襲われることはないだろうとは聞いているけど少しばかり心配だ。

 まあ、心配ばかりするのもあれだし私は今日も昨日と同じ。やることも無いしだらだらとしてようかしら。

 そう思考を打ち切って人数と色が半分になったこの部屋でコタツを一人独占することにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社の周りにある森の中。

 例年通りならばもうすでに春風は駆け抜けて新緑猛々しく葉が生い茂り、しかしところどころには木漏れ日を見せる。そんなこの森は未だ雪に、静寂に包まれて、白化粧を落とせずにいる。

 

「ふうー、寒い…」

 ……不意に、静寂は破られた。

 

 

 

 

 

 

 

 雪が降っている。前を見ても、後ろを見ても。くるりと一回首を回して雪が見えないことなどない。

 今朝も早くから降っていた雪は今も視界の中で賑やかに舞っていた。どこを見ても白銀に囲まれて外にいるというのになんだかとても狭く感じる。

 雪の降る外は驚くほど静かで足音ひとつ出すのも躊躇いがちになるほどだ。すでに冷たくなってきた手を袖の中に入れて藍さんと二人で足を運ぶ。

 

 

 

「で?具体的に何するの?管理って」

 博麗神社を出てしばらく。神社周辺の森の中で雪に跡をつけながら俺は隣を歩く藍さんに声をかけると、藍さんは待っていたように話し出してくれた。

「ん、そうだな。じゃあそろそろちゃんと説明しようか」

 

 そう言いながら彼女は小さい子供に教えるように人差し指を立てる。

「じゃあまず、博麗大結界のことについてだ。蓮夢はどのくらい結界について知っている?」

 

「知ってるって言われても……うーん、簡単に言えば幻想郷と外の世界とを隔ててるっていうくらいしか知らないわ」

 

 とりあえず俺は慧音先生の寺子屋に通ってた頃の授業内容から結界について知った知識を適当に話すと藍さんはふむ、と頷いた。

 

「まあ大方あっているな」

「昔、授業で習ったからねえ」

 そう言っておどけて見せると藍さんは思い出すように口を開いた。

 

「そういえば蓮夢は寺子屋の成績はかなり良かったなあ」

 

 俺の隣を歩く彼女はそう言うが字の読み書きも、計算も、すでにわかってたしなあ。それ以外だと歴史の勉強ぐらいしかする必要なかったし。というかあれだ、他の子どもに負けるのはさすがに恥ずかしい。俺的に。

 

「あれくらいなら簡単だよ」

「そうか、流石だな」

「いやあ、それほどでも」

「お前は小さい頃から物分かりがすごく良い子だったしな。それに…」

「あ〜待って藍。とりあえず結界についての話を聞かせて?」

 

 寺子屋に通っていた頃の話題からいろいろと脱線しそうになったので藍さんにこれからやる結界の管理について教えてもらおうと一旦話を切った。

 

「…ああ、すまない。先代の巫女や紫様の代わりに蓮夢の面倒を見てた頃を少し懐かしく思ってね」

 

 そう言ったあとにコホンと咳払いを一つして彼女は口を開いた。

「博麗大結界は論理的な結界である。蓮夢に昔教えた物理的な結界ではないんだ。目に見えるような壁というわけではなくここと外とを分ける境目、境界線のようなもの。…ここまではいいな?」

「ん、大丈夫」

 

「うん。これをしっかりと管理しないと幻想郷にも、外の世界にも良くない影響が起きる。そして結界の管理は博麗の巫女がやるはずなんだが、」

「霊夢はやっていないと」

 困ったように笑って藍さんは俺の言葉に頷いた。俺も多分同じような表情をしているんだろうな…。

 

「でもさ、今更だけど博麗の巫女ではない私がそんな大事そうな仕事していいのかな?」

 

 博麗神社に住んではいるけれど別に俺は博麗の巫女でもなんでもない。そんな俺が幻想郷を包んでいる大事な結界に関与して大丈夫なんだろうか。少し不安だ。

 

「ん?ああ、そのことは別に気にしなくていい。わからないかもしれないが蓮夢もな、充分に巫女としてやっていける力はあるんだ。霊夢が優秀すぎるだけであってね」

 

 

 言い聞かせるような、諭すような優しい口調で言われた。露出しているせいか寒さで冷えて痛み出した肩を抱いて俺はただ頷いた。

「さあ、行こう。結界の北東が少し薄くなっている。今回はそこを修繕するぞ」

 

 時折吹く風に身を震わせながら二人並んで雪の上を歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お……い」

 音が聞こえた。ここは深い闇の中。聞こえるはずなき自分以外の声がする。

「おき……い」

 また、聞こえた。心地よい暗闇、自分一人の温もりの世界のなかに。今度は声だけじゃなくて体を押されている。誰なんだろう。

「おき…さい」「おーい……ろー」

 うん?声が二つに増えた気がした。声を無視しているとさらに私を呼ぶ声はだんだん大きくなっていって体の揺れも強くなる。でも返事をしたらこの温もりから引き出されてしまいそうで、それが嫌で私はもう一度一人になろうとした。

 

「…おーい、起きろって!」

「いたっ」

 ぴちっと額に鋭い痛みが走る。反射的に開けてしまった目には見慣れた金が映った。

 

「…何よ、魔理沙」

「何よ、じゃない。まだ寝ぼけてるのか?」

「なんのことよー」

「このいつまでも続く冬のことだよ!何か知らないのか?」

「知らないわよ」

「そう、残念ね、異変解決の巫女に聞けば手っ取り早いと思ったのに。意外と使えないのね」

 

 私の言葉にもう一つの声が返事をした。こたつに埋めていた上体を起こすと部屋の入り口には紅魔館のメイドがそこに立っていた。

 

「……メイドはどうしたの?」

「ご心配なく、お嬢様からお暇をいただいたから」

「いや、そうじゃなくて。あんたはなんでここに?」

「ああ、そのことならそこの白黒と同じよ。長引く冬の手がかりを探りに」

「私が知るわけないじゃないの」

 

 そう言うと二人とも呆れたようにため息を吐いた。失礼な。ため息を吐く二人を見つめていると魔理沙が何かを探すように部屋を見回した後、口を開いた。

 

「そういえば、蓮夢はどうしたんだ?」

「蓮夢?巫女の仕事をしに行ったわよ」

 そう返すと魔理沙は苦笑して頭をかいた。

「…博麗の巫女って霊夢だよな?よっぽど蓮夢の方が巫女らしいぜ」

「失礼ね、私は、その…あれよ!このいつまでも続く冬の異変を解決しに行くからいいのよ!」

「嘘つけ今まで寝てたくせに」

「ちょうど今から行くところだったのよ」

「じゃあ何か知ってるのね?」

 

 私と魔理沙の会話に咲夜が口を挟んだ。もちろん知らないがそう言うのは癪なので私は虚勢をはることにした。

 

「知ってるわよもちろん」

「そう、じゃああなたについていけばこの異変の黒幕に会えるのね」

「ええそうよ」

「おっ、なら私も霊夢についていくぜ」

 

 私について来る気の二人を尻目に私は準備に取り掛かる。まあかんに任せて適当にいけば犯人にあたるでしょ。立ち上がって伸びをしたら背中がぽきりと音を立てた。その音にほんの少しの心地よさを覚えながら私は御札を袖に入れる。

 





ようやく諸事情その他もろもろが落ち着いたので執筆ペースは早くなると思います。ただ、期間が空いたので少し書き方思い出しながら書いていますが、何ヶ月も空くようなことはないかと…。
多分。

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